インタビュー

サウンドの再現&新たな2曲の制作エピソード、そして次回作は……? 「3D アウトラン」インタビュー Part2

エムツーの堀井社長(左)とセガの奥成プロデューサー(右)
4月23日 配信

価格:762円(税別)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

アーケード版の環境音収録の模様。コクピットには並木氏、傍らで環境音をマイクで拾っているのがChibi-Techさん

 ニンテンドー3DS向けにリリースされてきた「セガ 3D復刻プロジェクト」第2期の第2弾「3D アウトラン」が配信された。価格は762円(税別)。

 Part1に引き続き、開発を担当したエムツー(M2)さんにおいて、セガのプロデューサーである奥成洋輔氏と、エムツーの堀井直樹氏のお2人のインタビューをお届けする。しかし、Part2の主役となるのは、エムツーの並木学氏によるサウンド周りの制作エピソードだ。さらに、Jane-Evelyn NisperosことChibi-Techさんにもコメントを寄せていただいた。

 プレイする前、プレイした後に読んでいただきたい内容となっているので、ぜひごらんいただきたい。

サウンドの再現にあたっても一筋縄ではいかない事情が!?

BGMを選択して走行できるという点が「アウトラン」の特徴の1つ

――それでは、ここからは並木さんにも参加していただき、「3D アウトラン」のサウンド周りについてお話をお伺いさせていただきます。

並木氏:昨年、「アフターバーナーII」の環境音収録の際、「アウトラン」に関しても、セガさんの倉庫でまとめて収録させていただいたんですよ。それを持ち帰って編集して、実際の作業のためにスタンバイしていたわけです。「3D アウトラン」のサウンドに本格的に着手したのは、2013年の10月ぐらいですね。

 「アウトラン」のサウンド再現に関してはいくつかエピソードがありまして……まず1つ目は、アーケード版として出荷されたPCMのROMのうち、1本分、工場で量産される際に波形データのビットが1つ立ちっぱなしになったまま、世の中に出回っていたというトラブルがあったようで……要は、製品として世に出ていた「アウトラン」の波形データはROM1本分壊れたものになっていたんですよね。

堀井氏:そうなんですよ。いろいろ調べている方にはご存知の話だとは思いますが。セガサターン版などでも修復作業が行なわれていたとのことです。

――そうなんですねー。

奥成氏:過去にウェーブマスターで「アウトラン」の「20周年記念BOX」のサントラを作る際にもこれが問題になって、スタッフが基板から音源を収録して、コンポーザーであるHiro師匠にデータを検証していただいた結果、やっぱり「おかしい」という話になりまして。「基板から録音しているのにおかしいっていうのはおかしい」という話になって。とにかく、「基板で録音したものが間違っているから、録り直さなきゃだめだ」という話になって、サウンドデータを改めてROMに焼いて、それを録り直した、という経緯があって。なので、あのサントラも直っているはずです。

並木氏:つまり「20周年記念BOX」の際には、セガさんのほうで例によって(3D アフターバーナーIIのインタビューを参照いただきたい)8inchフロッピーからソースファイルを発掘して、それをROMに焼き直すことで、製品版で量産時に破壊されていたPCMの波形データを、量産前のマスターの波形データに修復した状態、つまり作曲者が望んだ本来の形で録音されたと。その時に発掘された波形データを、今回の「3D アウトラン」で使用しています。(※)

――(笑)。なるほど。

並木氏:もう1つが「SPLASH WAVE」ですね。この曲の終盤で、メロディがほかのパートからずれるという現象が起こっていまして。これは「20周年記念BOX」に収録されているものでもずれたままになっていますが、本モードにおいてはこれもあえて修復させていただきました。「3D GFII」の「DEFEAT」の譜面データを修復した時と同じ手法(「3D GFII」のインタビューはこちら)です。

 まず、メロディのパートがずれる、ということは「『SPLASH WAVE』の楽曲の譜面データのどこかに、音の長さを指定する箇所でずれを生じさせているデータがあるのでは?」とアタリを付けまして、録音されたデータを実際に聞いて、曲のどの辺でずれが生じているのか、というところを目星を付けていきまして。デジタルデータとして目に見える状態ではなかったので、自分の耳で聞いて確認することでしぼりこんでいきました。同時に、Z80で書かれている演奏プログラムと譜面データの解析を進めて、確証を得つつ修正するために音符を追いかけていったわけです。

 16進数の羅列の譜面データから、まずはイントロのパートを見つけて、「ふむふむ、確かにこういう音符で構成されているなあ」という感じで読み進めていく作業なんですが……。「SPLASH WAVE」がサウンドプログラムの中のリクエスト番号で何番目で、その番号が引っ張ってきている曲データのエントリーテーブル、つまり曲データの格納されているアドレスを調べて、そこに書かれているデータを頭から読んでいって。各トラックのデータの中からメロディのパートを見つけて、そのデータ群を頭から追いかけていったところ、どうやら曲の終盤部分のデータにそれが含まれているようだと。……そうして見つけていったんですね。

堀井氏:特定のチャンネルが1クロックずれているという感じなんですか?

並木氏:今、ちょっと見てみます。

――(笑)。

堀井氏:X68000の頃、アマチュアで好き勝手にサウンドドライバーやエディタを作っていた頃だったら、コンパイルするときにチャンネルごとにクロック数のトータルデータを見たりとかできて、「あれ? このチャンネルだけ多いな?」とかすぐにわかったんですけれどね。

並木氏:それはコンパイラがステップ数を数えていたからできていたわけで。実際、そんな親切な機能は今回の作業にはなかったわけですし。

――並木さん自身がバイナリデータをダンプして見ていってるわけなんですよね。すごいなー。

並木氏:16進数の羅列に僕が1つ1つ「これがイントロ」とかコメントを入れていって見つけました。本当に、はたから見たら「アホの所業」ですよ。

一同:(笑)。

堀井氏:「アホの所業」って言ってるけれど、僕たちから見たら美術館のキュレーターみたいな感じですよ。

奥成氏:これに関しては、ゲームとして移植作業をしない限り、なかなか触れたり見つけたりすることはないことですよね。

堀井氏:遊んでいるだけではなかなか出てこない間違いの部分ですよね。

奥成氏:サントラを作ったりする作業の中では、なかなかここまで掘り起こすことはないでしょうしね。

並木氏:そうですね。ズレ自体もわりと微妙なので、「メロディーを追いかけてちゃんと聴いていないとさらっと聴けてしまうかも?」というレベルのものですね……っと、作業データを見つけました! 音符の長さを指定するカウント数が、6カウント……48ミリセカンド多かったんですよ。途中まではジャストで進行していたんですが、最後の部分だけずれているものを特定して、正常な演奏ができるように修正しました。これもHiro師匠が意図した状態に戻せたのかな、と思います。この修復は初めてのことですよね?

奥成氏:私には違いのわからないレベルなんですが、セガサターン版と「20周年記念BOX」でやっていなければ初めてですね。ちなみに、オリジナル版で聴きたい場合は、「アーケード」モードにすれば、すべてオリジナル通りに鳴ります。

並木氏:実はもう1つありまして……。同じく「SPLASH WAVE」ですが、イントロの部分でリズムのPCMの音色のうち、「ライドシンバル」が、BGMのために予約しているPCMのチャンネルをどんどん食いつぶしていって、他の「スネアドラム」や「バスドラム」といった楽器の発声を上書きしていってしまうという現象を発見しまして……。これもやっぱり「20周年記念BOX」のイントロ部分でも、音がブツブツ途切れてしまっているんですよ。

 今まで世に出ていたもののほとんどはこの状態になっていたと推測できますし、客観的に1リスナーとして聴いている分には、「そういうものかな?」とあまり違和感などはなかったんですが……自分が幸か不幸かこのプロジェクトに関わってしまったことで、この部分を見つけてしまったことで、すごく気になってしまって……。

――(笑)。

並木氏:いろいろ試して検証していたところ、通常、「アウトラン」のPCMは、BGMに対して6chまでPCMのチャンネルを予約しているんですね。残りの10chは効果音に使われているんです。その6chをライドシンバルが食いつぶしていくわけですが、イントロの部分は実際のゲーム中でいうとスタート前からスタートして間もないタイミングなので、発進時のスキール音など効果音で使われるチャンネルとなると、ある程度数が絞られるわけです。そこで、効果音用に予約されているPCMチャンネルの中で、使われないものがあるのが「もったいない」ということで、一時的に「効果音用に予約されているチャンネルをBGM用に予約し直す」という荒業をプログラマーの齊藤君と一緒に検討しまして。

――なんと!

堀井氏:その話は聞いていたんですが、これってROMを焼いたらアーケード版でもそういう形でPCMを修復できるってことなの?

並木氏:それは無理ですね。直接Z80のコードを修正しているわけではないので。

堀井氏:エミュレーションした後のデータに修正を加えていると。

並木氏:(Z80のコードを直接改造することは)やってやれないことはないですが、他の効果音に影響が出てしまうと思います。「3D アウトラン」では、他の効果音に影響が出ないように、時系列に合わせて予約チャンネルを変更しているので……。これもマニアックというか……。

 一時的にBGM用のPCMチャンネル数を変更するというのは、齊藤君のアイデアなんですよ。僕は「物理的に増やしてよ」と提案したんですが、齊藤君は「時間軸で予約数を管理する」という方法を提案してきまして。ああ、さすがは齊藤君だなと。本当にもう、あきれかえるやら感心するやら……。

堀井氏:たぶん、このインタビューを読んでいる方の中でも、並木さんですら周りから見ればあきれかえる対象なんですよ。五十歩百歩の五十歩さんが並木さんで、百歩さんが齊藤君だと思うんですけれども、その差は社内では大きいという。

一同:(笑)。

奥成氏:相変わらずの梁山泊ぶりを発揮しているエムツーさんでした。という。

並木氏:そうですね。梁山泊の同志だからこその、こうしたコラボだなという。

堀井氏:普通は言語が通じないよね。「お前は何を言っているんだ?」という。

並木氏:普通なら「お前は何を言っているんだ?」で終わりの話ですよ。

――(笑)。すごい話だなー。

並木氏:「約束の地」エムツーのスタッフなので……。

堀井氏:「約束の地」とか言うなー。

――(笑)。

奥成氏:並木さんは紆余曲折を経て、その「約束の地」へたどり着いた1人ですからね(笑)。

――そうですね(笑)。

並木氏:いやー、修正してみると、PCMが途切れなくてビートの刻みが気持ちいいんですよ。イントロのリズム隊が。ちなみに、「アーケード」モードでは、オリジナルの仕組みのままに戻りますので、音の途切れが復活します。

堀井氏:「アウトラン」のファンはそういうところにもこだわると思うので……。

――そういえば最初に少しお話されていましたが、今回、環境音に関してもちゃんと入っていますよね。

奥成氏:もはや入っていて当たり前になってしまっているので、触れませんでしたが、「ムービング筐体」と「環境音」は今回も実装しています。

堀井氏:デラックス、スタンダードと、オマケでアップライト筐体も入っています。

「ムービング筐体」モードと「環境音」は本プロジェクトタイトルのウリの1つ

奥成氏:ただ、今回は、アーケード筐体の挙動を完全再現してはいないので、ある意味オマケです。

――というと?

「アウトラン」の「デラックス」版は前方がほとんど動かない

奥成氏:「アウトラン」のムービングって、筐体の座席部分が左右に動くようになっているんですが、逆に、モニタのある前方側は軸になっていてほとんどまったく動かないんですね。だからこれをそのまま再現すると、3DSの画面上だと全然動いているのがわからないんですよ。

堀井氏:社内でもいろいろ検討した結果、せっかく収録するのに、全く動かないのではつまらないので、もう少し「心の目」で見た動きにしようということにして、動きは手心を加えています。

奥成氏:なので少し「スペースハリアー」筐体っぽい挙動が混じっています。

堀井氏:ちなみに背景は「3D GFII」に出てきたゲームセンターです。あのゲーセンで次のゲームを遊んだような感じになっています。

奥成氏:今回は隠しで千葉の風景は入れておりませんので探さないで下さい。

堀井氏:ホント、もうギリギリで入ったものなので、写真を撮りに行く時間がまったく無かったんです。

――(笑)。では話を戻して、環境音についてもう少し詳しく聞かせて下さい。収録に際して何かエピソードはありましたか?

並木氏:環境音に関しては、収録した素材をいつもどおりに組み込みましたが、「アウトラン」では調整でひと工夫させていただきました。デラックスやスタンダードでのアクセルやブレーキを踏み込んだペダルの「バコン」という音の感覚をなんとか再現したいなと思いまして。

堀井氏:またしても「お前は何を言っているんだ」感が……(笑)。

並木氏:ハンドルが操舵角いっぱいになったときに出る「カコン」という音とか、ギアをチェンジしたときの「ガチャッ」という音と比べて、ペダルの踏み込み音にサウンド的にお化粧を施して、それなりに「バコン」と「下から鳴っているように聞こえなくもないかな?」というような調整にしましたので、ただそのまま組み込んだ時とはちょっと違いますね。これも「セガ3D復刻プロジェクト」の体感物の中でも初めての試みですね。ペダルが装備されているものは今回が初めてだったので。

奥成氏:そうですね。車のドライブゲームは初めてですし、「3D スパハン」はペダルがないのと、環境音を収録しませんでしたし。

並木氏:足元のペダルを踏み込んでいる感じが「アウトラン」のプレイでの特徴的な記憶でしたので……、実際3DSでペダルを踏み込むということはできませんが、環境音をONにしてプレイしたときに、筐体に実際に乗り込んで聴いているような感じが出るといいな、とがんばって調整してみました。ブレーキとアクセルをバコンバコンとやってもらえると、当時の筐体でプレイされた方の記憶を呼び起こしてもらえるのではないかなと思います。ぜひ遊んでいただきたいなと思います。

奥成氏:それともう1つサウンド関連で付け加えるとすれば、これももう当たり前のようになっていますが、オプションのボリューム設定で今回もBGMと効果音、環境音それぞれの音量を設定できるようにしてあります。エミュレーションの内蔵音源なのに(笑)。

 さらに、ボリューム設定から飛び出させてしまいましたが、エンジン音量も3段階で切り替えられるようにしました。これは、過去の移植版でエンジン音よりBGMや効果音の再生に発音数を割いていたものが多かったので、「移植版をプレイしてこられた方はアーケード版のエンジン音になじみがないのでは?」という配慮からです。エンジン音を完全にOFFにするのも寂しいので、3段階に分ける形にしましたが、気になる方は設定を変更してもらえれば、と思います。

――(笑)。細かい!

環境音収録の様子その2。筐体のパネルを開放し、できるかぎりのファンを停止させるなどして環境を整えてから収録されている

※【4月24日追記とお詫び】初出時、アーケードバージョンでは修復前のPCMデータが使われているという内容になっていましたが、実際はアーケードバージョンでもPCMデータの修正が反映されていることがわかりましたので、該当箇所を修正させていただきました。

(佐伯憲司)