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「セガ 3D復刻アーカイブス2」インタビュー Part2

鈴木裕氏の2D最高峰タイトルを細かく再構成することで移植

「パワードリフト」- 鈴木裕氏の2D最高峰タイトルを細かく再構成しての移植

――「パワードリフト」といえば、通信対戦バージョンである「ツイン筐体バージョン」がありますが、どのようにされたのでしょう?

堀井氏:1番豪華なデラックス筐体を移植しており、「ツイン」は今回は収録してないです。「ツイン」を入れようとすると、当然3DSに通信させなければならず……。そうなると相当きつくなっちゃうんですよね。

奥成氏:そもそも、「パワードリフト」のツイン筐体版って、ただ筐体を変えただけじゃなくて、ゲームそのものを作り直しているんですよね。

 当時の開発経緯を当事者に聞いたわけではないですけど、想像すると、「パワードリフト」というゲームがリリースされた時代には、「ファイナルラップ」(1987年)から始まるツイン筐体ブームが起こっていて。そこで「セガでもツイン筐体を出そう!」と白羽の矢が立ったのが「パワードリフト」だったのではないかな、と。

 でも、「パワードリフト」はもともと対戦を前提には作られていなかったので。「このスピードでは対戦に不向き」とか、「このコースだと対戦できません」といった、制限が逆に出てきてしまったのではないかなと。そのため「ツイン」はゲームのスピードがかなりスローになって、コースも破天荒なコースはカットされ、平坦なコースになったのではないでしょうか。

 そういう「ツイン」でしたから「パワードリフト」として1本で選ぶのは「ん?」っとなるんですよね。

堀井氏:もちろん好きな人もいるでしょうし、アーカイブという意味では入れられるなら両方入れたいところではあるのですが。それをやるなら、スケジュールも見直して、通信のための余力を作って……容量も大きくなりますよね。いろいろ考えると厳しいんですよね。

――そもそもゲームにだいぶ異なるところがあって、内部的にも別物であり、作り直しになると。

堀井氏:1番大きい理由は、コードからして別物なゲームだ、ということですね。全部ではないんですが、同じゲームとは言えないぐらいに違っています。「ツイン」の移植はいずれはやりたいけども今回は無理ですね。先ほどの話のとおり、9月にあの状況だったんだから(苦笑)。

――元のソースコードのお話が出ましたが、「ギャラクシーフォースII」は後のAM1研にあたる部署による制作で、「パワードリフト」は後のAM2研によるもので、鈴木裕さんの作品なんですよね。同じYボードとは言っても、その動かし方などに違いがあったのでは?

堀井氏:うーん、どうでしょう。どちらにしろコードを解析し、解体して、再構成するという流れにはなるのですが。

奥成氏:そもそも「パワードリフト」は、ソースをエムツーさんに渡してないんですよね。「サンダーブレード」のときはソースを渡せたんですけど……。

 あ!思い出した。「3D アウトラン」を作ったときに、「アウトラン」のソースや素材を探していて、ドリームキャストの「鈴木裕ゲームワークス」のソースが見つかったんですよ。で、その中に「鈴木裕ゲームワークス」版の「パワードリフト」も入ってまして。

堀井氏:あー!SH-4版はあったと思います!!

奥成氏:それを堀井さんに渡して、「これがあれば『アウトラン』を移植できる?」って尋ねたら、「……『パワードリフト』が動く可能性ができたかも」って言ってたのを思い出しました(笑)。

――「パワードリフト」に心を奪われている(笑)。

堀井氏:そんなこともあったなー!


※「鈴木裕ゲームワークス Vol.1」……2001年発売。ゲームクリエーター鈴木裕氏の作品資料などをまとめた書籍で、付属ディスクにはドリームキャストでプレイできる「ハングオン」、「スペースハリアー」、「アウトラン」、「アフターバーナーII」、「パワードリフト」の、氏が手がけた体感筐体作品の移植が5本収録されていた。収録作はドリームキャストのメインCPUであるSH-4版とも言える。

奥成氏:「鈴木裕ゲームワークス」の「パワードリフト」は、「シェンムー」にも収録されていた他のゲームと作りが違っていて。サウンドはストリーム収録ですし、その部分だけ移植しているスタッフも違っていたんだと思います。「アウトラン」はおそらくセガサターン版からの延長で作られていて、「パワードリフト」は新規で作っているのではないかと。作る上で、ドリームキャストで動くようにいろいろと工夫されていると思うんですけど、それが齊藤さんの血となり肉となったのかなぁと。

堀井氏:SH-4版だとこういうやり方をしているよね、といった部分は刺激になっていたのではと思いますね。

奥成氏:ただ、渡したあのソースもファイナル版じゃなかったんでしたっけね(笑)。

堀井氏:毎回、出てくるソースがファイナル版じゃないんですよね。マスター手前だったり、もしくはファイナルより進んでいたりなんてことも。ファイナルより進んでいるソースは見ていて気持ちが良くて、「ここが心残りだったんだな」とか、「そこ直すかー!」といろいろ勉強になりましたね。

――何かタイミングがあったら、より完成度の高いビルドと差し替えちゃおう的な。

堀井氏:よくある話ですよね。

――「ギャラクシーフォースII」の時は、YボードそのもののサウンドのL/Rチャンネルが逆になっていて、「SEGA AGES 2500」シリーズのストリームデータ収録の際に直したというお話がありましたが、「パワードリフト」の基板もそこは同じだったのでしょうか?

堀井氏:ほぼ同じで、L/Rチャンネルも「ギャラクシーフォースII」と同じように逆になっていたと思います。ただ、当時は筐体ごとYボードも製造されていたと思うので、最後の方のロットではL/Rチャンネルが直されていた可能性もありますけれど。

奥成氏:アーケードの「パワードリフト」と「ギャラクシーフォースII」は時期的にもほぼ同時開発だったでしょうしね。

堀井氏:そういえばこの前、鈴木裕さんとお会いする機会があって。この「パワードリフト」の話もしつつ、「当時のセガは基板を毎回作り、それの元を取って。すごい時代ですよね」と話したら、「無茶でしょ?でも、俺のゲーム1本で元は取っていたと思うよ?」ってさらっと言っていて。かっこよかったです(笑)。

大量のスプライト表示と60フレーム動作、2Dグラフィックス時代のセガ体感ゲームの最高峰の1つと言っていいタイトルだ

――移植作業の流れですが、「パワードリフト」では先に2D状態できちんと動くようになってから3D立体視化を進めていったのか、それとも並行して進めたのか。どのような順序だったのでしょう?

堀井氏:移植と立体視化は並行して進めていたと思います。「パワードリフト」ってスタートボタンでカメラ変更もできたりしますし、とりあえず少々の破綻はありつつも3Dでの奥行きは早い段階からつけていました。「アウトラン」や「アフターバーナーII」、「スペースハリアー」のときにワイド画面対応のために左右を広げる苦労なども話してきましたが、今回ももちろんそれはありつつ……ですね。

――なるほど、そういえばYボードはスプライトもZ軸(奥行き)の数値を持っているんですよね?

堀井氏:鈴木裕さんのタイトルはそうなっているんですよね。もとからZ軸を見ているんです。それを基本的に活かしつつ、3D立体視をつけていっています。

奥成氏:あとは、3DSでの奥行きのセンターをどのあたりに持ってくるかとか、奥行きの1番奥をどこまでにするかとかを決めて。そのへんはノウハウが貯まっているので、今回はそれほどタイムラグなく3D立体視化がされていましたね。

堀井氏:3D立体視化の作業はかなりこなれてきたので、新しいチャレンジもしたいんですけどね。例えば、「ギャラクシーフォースII」のときにもやろうとして失敗しているんですが、前方へと進んでいくゲームだからオブジェクトが遠くの奥から沸いてくるじゃないですか。それの限界数を倍にできたら、さらに見応えがありそうだなと思うんですけどね。将来的にそういうこともやれたらいいな、と。

――なるほど、確かに見え方が変化するところが3D立体視化のポイントのひとつですし、それは印象がかなり変わりそうです。

 ちなみに「パワードリフト」は、プレーヤーの車が上下に移動したり、コーナーでは左右に激しくコースやクルマが振られたりするので、描画負荷が激しく変動するゲームなのでは? と思うのですが、そのあたりは大丈夫だったのでしょうか?

堀井氏:1番負荷の高いところを乗り切れるようにするわけですが……「パワードリフト」のピーク時はきついですねー!! 余裕は全然ないです。先ほどのようにNew3DSと3DSとで動作フレームを変えたくなったぐらい。

 それに、今回の作業できつかったのは、素材そのものがなかったことが大きかったですね。大元のアーケードの開発ソースはないので、イメージから抜いて、分解して……という繰り返しでソースイメージを用意していきました。それは、「ギャラクシーフォースII」のときも同じだったのかな。

――「ギャラクシーフォースII」はPS2に1度移植したときにソースを作り直したものがあったので3DSにも役だったというお話でした。ですが、「パワードリフト」はそれもなかったわけですよね。

堀井氏:そうですね、「ギャラクシーフォースII」はそれがあったから。「パワードリフト」はそういう意味では、我々にとって完全に新規の移植ですね。

奥成氏:あれ?「ギャラクシーフォースII」はソース渡しましたよね?ただ、8インチフロッピーだったから、そもそもそれを読めるのかというのがあったりしましたけど。

堀井氏:そこから読み出せはしたんだけど……結局それは使えなくて。手で解析していくことになったんですよ。あれも大変だったんですよ(笑)。

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(山村智美)