インタビュー
「セガ3D復刻アーカイブス2」インタビュー Part1
マークIII版「ファンタジーゾーン」にFMサウンドユニットのON/OFFが付いた!?
(2015/11/25 10:00)
マークIII版「ファンタジーゾーン」にFMサウンドユニットのON/OFFが付いた!?
奥成氏:さて、そろそろ堀井さんが喋りたくてウズウズしていると思うので、「ファンタジーゾーン」おまけ最大の追加要素である「FMサウンドユニット」の話をしていただきましょうか!
――先ほど少しプレイさせてもらった時も驚いたのですが、マークIII版「ファンタジーゾーン」に「FMサウンドユニット」のオプション項目があるのは……本来はおかしな話ですよね?
奥成氏:そうなんです! マークIII版「ファンタジーゾーン」が発売されたのは1986年で、「FMサウンドユニット」が発売されたのは1987年の秋です。なので、「FMサウンドユニット」発売以前のタイトルが対応しているはずがない。実機のマークIII版「ファンタジーゾーン」は当然非対応です。
……ですが、今回の「アーカイブス2」では、マークIII版「ファンタジーゾーン」も「FMサウンドユニット」のオン/オフができてしまう、と(笑)。
――パッと聞いただけだと「何を言っているんだこの人たちは?」となる。いつもの話ですよね(笑)。
堀井氏:これにもやはり経緯がありまして。おまけでマークIII版「ファンタジーゾーン」を入れるときに「そのまま3D立体視をつけるだけじゃ、つまらない!」って言い出す奴が社内にいるんです。いちゃうんです! ここまでお話したように、それだけでもかなり手間がかかっているのに、つまらないって言うのはどうなんだって思いますけど(笑)。
で、「ファンタジーゾーン」のFM音源版な曲というのは実は、「オパオパ」(※)という別タイトルの中で鳴っていたんですよね。なのでサウンド担当の並木(学氏)に「それを持って来られないだろうか?」と打診したんです。でも並木からは「ちょっと待て!」と。
並木は、「『ファンタジーゾーン』と『オパオパ』の曲のテンポは全然違うし、持っていったところで美味く食べられる料理になるわけがない!」みたいなことを言いだしたんですよ。そもそもボス戦とかの曲も足りないし、と拒否されて。
……でもなぜかそこから、「FM音源やりたいよねー」という話に結局はなったんですよねー。どこでどうなったのか、もうわからないけど(笑)。
――(笑)。
※マークIII「オパオパ」は1987年末頃に発売された、ドットイートジャンルの派生タイトル
堀井氏:並木と一緒にサウンド周りの仕事をしている春日(達彦氏)という者がいて、彼は「タッピー」という名前でチップチューン系のDJもやっていますので、そちらでご存じな人もいるかも。
奥成氏:エムツーさんの新戦力ですよね。
堀井氏:そうです。そんな彼に並木から「Z80」の教本がポンと渡されまして。「まぁ読め」と。「読めばわかるさ!」といった感じで(笑)。そして彼は気がつくと、「ファンタジーゾーンII」のサウンドドライバを引っ張り出して、データを置き換えて鳴らすことに成功し。これで「オパオパ」からだけだと曲が足りなくても補完できるよねーというところまで技術を習得して……まぁ並木は「そんな曲じゃダメだ!」っと言うんですけど。
そうして1曲差し替わったらもう、もうあれよあれよという間に全部の曲が出来上がりました。春日曰く「マークIII『ファンタジーゾーンII』のサウンドドライバの範囲で音符を並べているんだけど、どうも初期のドライバ特有のバグが多いので、バグをフィックスしたうえで、こっち(『ファンタジーゾーン』)に組み込みます」という話をしてきて。2~3カ月もすると大体の曲が揃ってましたね。
奥成氏:僕は会社で、新しいROMが届くとプレイしていたんですが、マークIII「ファンタジーゾーン」のメニューに「FMサウンドユニット」という項目がついているので、バグレポートのメールに「FMサウンドユニットに対応してないんだから、さっさと消しましょう」と書いて伝えていたんです。でも、いつまで経っても消えないんですよ(笑)。
堀井氏:言わずに進めてましたからねー。
奥成氏:下村も「知らん!」って言うし。でも次第に「おかしいなー?でもこれだけ言っても消えないっていうことは……“きっと、そういう事なんだな!!”」と思って(笑)。
堀井氏:そう思ってもらえるあたりが、ありがたいですね(笑)。
奥成氏:期待していたら案の定、完成してくれて。できあがったのは最後の最後でしたけどね。
それで、でき上がったFMサウンドユニット対応なんですけど。そもそもマスターシステム(マークIII)のFMサウンドユニットって、簡易的な対応をしているソフトが多いんです。PSG音源向けに作った曲に、「それをFM音源で慣らす」という命令を加えるだけで、一応プリセットでFMサウンドユニットから鳴ってくれます……みたいな。そういうセットで作られたソフトが当時は多いのですが。
でも今回のマークIII「ファンタジーゾーン」はそうではないんです。PSG音源の曲をそのままFM音源で鳴らすのではなく、曲中のコード進行とテンポ感だけを守りつつも、アーケード版に基づいたものになっています。
もともとのマークIII「ファンタジーゾーン」の曲って、かなりアレンジされているんですよね。僕はそのアレンジも好きなんですけど、メロディーラインもかなり変更されています。当時の移植担当の人の味が加わっているんですよね。でも、今回はFMサウンドユニットをオンにすると、あくまでアーケード版に近く、でもコード進行だけマークIIIアレンジからという。曲の再現度をアーケード版に寄せたというものになっています。
堀井氏:ボスを倒してコインを集めるときの音とかはFMサウンドユニットをオンにするとアーケード版そのものの流れになっていて。遊んで頂くと「えぇっ!?」ってなってもらえると思います。
サウンドドライバーはマークIII版「ファンタジーゾーン」準拠ですが、鳴っている音符はアーケード版に近づけるという方向でFMサウンドユニットを使っています。
FMサウンドユニットが発売された当時、「『アウトラン』や『ファンタジーゾーンII』が対応するらしい!」、「セガのFM音源が家庭用に来る!」と期待した人がいると思うのですが……あくまであれは初期対応的なもので。実際に聴いてみると「あぁ、確かに来てくれたし、音も良くなったけど……期待していたほどではないなぁ……」と感じた人がいたと思います。
今回のマークIII「ファンタジーゾーン」は、そういう人達が当時に期待していたものに“どこまで近づけるか”を狙ってみました。僕はそれを越える音が鳴っていると思います。
――当時の夢の実現……というわけですね。
堀井氏:当時の「ガラッと変わってくれるんじゃないか、すごくなるんじゃないか!」という期待を今やっと実現できたと思いますね。
奥成氏:大人になった今だとわかるのは、アーケードで使われているFM音源チップと、このマークIII用として6千円ぐらいで買えるFMサウンドユニットのチップには、やはり雲泥の差があるんですよね。性能的にも、価格的にも。どんなに膨大なプログラムや技術力があっても“同じ音は鳴らない”という事実を……大人になると知るんですけど。
アーケード「ファンタジーゾーン」に使われているシステム16という基板に載っているFM音源は「YM2151」で、OPMという4オペレータのサウンドチップなんです。でも、FMサウンドユニットに載っているのは、OPLLという2オペレータのチップです。どうしたって同じにはならない。単調になるんですよね。
堀井氏:オペレータ数だけで言うと、8音が4オペレータあって32音鳴るOPMに対して、OPLLは9チャンネル2オペレーターで18音。音の厚みから何から何まで、やれることが違って来ちゃうんですよね。
当時、1990年代に僕がこの業界に籍を置き始めた頃に聞いた価格だと、OPMはチップ2個セットで売られ、単体でも原価5千円ぐらいだったそうです。それなのに、「FMサウンドユニット」が6,500円なんですから。OPMチップが載っているわけがないんですよね!
その大人の事情と言いますか……それを知ると「もしOPMチップが載ったFMサウンドユニットが発売されていたら、当時の俺は買えないような値段になっちゃうんだ……」と、納得するところはありましたね。
奥成氏:ちなみにもうひとつ両者の違いとして、OPLLというのはプリセットされた音を再生するだけなんですよね。凝った音を作れない。
そういうものを諸々全部知っていき、今44歳になりましたが(笑)。そうして現在、今回のマークIII版「ファンタジーゾーン」のFMサウンドユニットをオンにして遊ぶと、かなりアーケードライクな音が鳴っていて。これは「OPLLをマスターした人が上手くやったんだなー」と思っていたんですが……教本からがんばっていたのですか、みたいな(笑)。
堀井氏:春日もOPLLはある程度は知っていたと思うですけど、「Z80」は初めてですよね(笑)。エムツーに入ってまだ1、,2カ月ぐらいの新人の机に「Z80」の教本が置かれていた光景にはびびりました。どんだけスパルタなんだって(笑)。
――新人さんすらも恐ろしい人材へ……
奥成氏:エムツーさんはほんっと虎の穴です。
堀井氏:ちなみに、マークIII「ファンタジーゾーン」と「ファンタジーゾーンII」はFMサウンドユニットをオンにすると、処理落ちがよりかかりやすくなります。FM音源の操作に時間がかかるんですよね。それは本物同様ですね。
ですが、今では春日が「『Z80』がわかってきました。FM音源のドライバも、もっともっと軽くできるんですよ」と言っています(笑)。
――それは今の話なので「アーカイブス2」には入らないですよね?
堀井氏:ですです。でも、処理落ちすることは大事なんですよ。今回の「アーカイブス2」に収録されたマークIII版の「ファンタジーゾーンII」を、FMサウンドユニットをオンにして遊ぶと、7WAYショットを撃ったらめちゃくちゃ処理落ちするんです。それを見て、「あ、マークIIIの『ファンタジーゾーンII』らしくなった!! 」って思ったんです。「なるほど、やっぱり処理落ちするんだ!」という感動があって。まずはそれを味わってもらいたいです。めちゃめちゃリアルなんですよ。まぁ、軽くなったものも見てみたいとは思いますけどね。
奥成氏:発売までまだ1カ月ほどありますが、そこも楽しみにお待ち頂きたいですね。
――もう、ここまでの話って全然おまけレベルの話じゃないですよね。おそらく読んでいる人もどん引きだと思います。良い意味で。
堀井氏:このインタビューと一緒に公開されている動画でFMサウンドユニットの音を少し聴けるとは思うんですが、それ以外の曲も、特にボスの曲はかなり禍々しくなっていますので。ぜひプレイして聴いてみてください!!
【エムツーの新戦力、FMサウンドユニット対応を手がけた春日氏にメールインタビュー!!】
エムツー サウンドエンジニア 春日達彦氏
本作ではセガ・マークIII 版「ファンタジーゾーン」、マスターシステム版「ファンタジーゾーンII」のOPLL化部分を担当。
――マークIII版「ファンタジーゾーン」のFMサウンドユニット対応は、いつ頃から、どのくらいの期間で開発されたのでしょう?
春日氏:開発を始めたのが2015年の8月初旬で、終えたのが9月の終わり頃ですね。丁度ミンミンゼミの声が聞こえ始めてから、鳴き止むくらいの間でした。
――開発はどのように進めていったのでしょうか?苦労されたポイントなどあればお教えください。
春日氏:まずは、マスターシステムのハードウェア仕様を調べることから始め、次いでマスターシステム版「ファンタジーゾーンII」のサウンドドライバの解析、サウンドドライバの「ファンタジーゾーンII」への移植、サウンドデータの作成、そしてマスターシステム実機による検証をひたすら繰り返しました。
苦労ではないんですが、音色作りはもちろん、マスターシステムとニンテンドー3DS実機での音の鳴り方の調整は最後まで気が抜けませんでした。凝った音を作れば作るほど、後でニンテンドー3DS上での音との差を検証しなければならなかったのが面白かったですね。
――アーケードのFM音源チップであるOPMと、FMサウンドユニットのOPLLとでは、あまりにも大きな差があったかと存じますが、開発作業はいかがでしたでしょうか?難しかった点、工夫した点、読者に気にして欲しい点など、お教えいただけますでしょうか?
春日氏:アーケード版とマスターシステム版の最大の違いは、OPMが自由に音色を作成してそれを自由に鳴らすことが出来るのに対して、OPLLも音色を作ることは出来るんですが、作った音色を同時に一種類までしか鳴らせないことですね。あとは元々入っているプリセット音色を使うことになります。用意された音色を、アーケード版になるべく近くなるように様々な工夫をして演奏させるわけですが、音の厚みや音量バランスなど、試行錯誤の連続でした。
OPLL版ならではの味わい、FMユニットの新たな切り口として楽しんでいただければと思います。少し詳しい人なら、どこでユーザ音色を使っているか等も聞きながら考えてみると面白いと思います。
――エムツーサウンドチームの新戦力とお伺いしましたが、ご入社直後の様子はいかがでしたか?
春日氏:入社して程なく、ディレクターの松岡から「OPLL好きかい?」みたいなことを聞かれまして、反射的に飛びついたらこのようなことに(笑)。
「Z80」の教本はその頃自分で購入したんですよ。何故かと言うと、とにかく右も左も分からない状態で初歩的な質問をしたりしてたので、自分でも調べないといかんなーと。あとは僕が細かくサウンドチェックをするもんで、斎藤(「セガ3D復刻プロジェクト」のサウンドエミュレータ作成担当)を困惑させたり、ってのがありましたね。僕が斎藤の席に近づくたびに彼がビクッとしているのが手に取るように分かりました(半分嘘)。
あとは習うより慣れろというか、エムツーにはそれこそ生き字引のような先輩方が大勢いまして、入ってすぐに実践的な事から学ばせていただき、非常に充実した時間を過ごすことができました。
――DJ活動もされているとお伺いしましたが、どのようなことをされているのでしょう?
春日氏:僕がやっているのはDJというよりはCHIPTUNEと呼ばれていまして、社内でもCHIBI-TECHちゃんがその第一人者かと思います。音源にPSGやFM音源などが載っていた時代のPCやゲーム機を楽器として演奏するスタイルですね。フロッピーディスクも使ったりするんで、Dの部分はあってるかもしれません(笑)。今の時代にそういった音源がそこかしこで使われていたら皆こういう風に使うんじゃないか、と想像したりして音を作っています。
――「セガ3D復刻アーカイブス2」の発売を心待ちにしている皆さんへ、見どころ、メッセージをお願いします。
春日氏:それは、今回新たに追加されたOPLLサウンドではないでしょうか。ゲーム本編はもちろんですが、実はメニュー画面で流れる曲も、「おまけ」を選んだ時にOPLL版に切り替わっているんですが、これはマスターシステム実機で録音したものを使用しています。それ以外にも、各収録タイトルのサウンドもそれぞれバージョンアップしていますので楽しみにしていてくださいね。
――ありがとうございました!
©SEGA