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「作りたいものを作る、作れる!」SIE・吉田修平氏がインディーゲームの意義を語る

“日本のインディー開発者が世界へ羽ばたく” これまでの取り組みを紹介

【CEDEC2021】

開催期間:8月24日~8月26日

 開催中の「CEDEC 2021」も2日目を迎えた。本稿では、8月25日に行なわれたセッション「PlayStation(R)INDIES の取り組み」の講演内容をお届けする。

 本セッションでは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)インディーズ イニシアチブ代表・吉田修平氏が登壇。PlayStationにおけるインディーゲームへのサポートの取り組みと、プレイステーション 5が提供するインディーディベロッパーが活用できるプラットフォームの機能や開発環境などが説明されると共に、大のインディーゲーム好きとして知られる吉田氏のインディーゲームへの思いも語られた。

吉田修平氏は、PS4用ソフト「Ghost of Tsushima」といったタイトルを最後にゲーム制作の立場を離れ、2019年にインディーズ イニシアチブ代表に就任。拡大するインディーコミュニティをサポートする活動に取り組んでいる

「自分の作りたいものを作る」= インディーゲームの意義

 まず吉田氏は、PlayStationが考える「インディーゲーム」の意義について、インディーゲームの制作者の立場として、あるいはゲーム業界としての意味合いを語った。

【インディーゲームの意義】

 インディーゲームの意義において、やはり「自分の作りたいものを作る」というところが1番の意義だと考える吉田氏。パブリッシャーや投資家・クライアントがいてゲームを開発する場合とは異なり、“自分が作りたい”、“自分が面白い”と思うところを信じて作ることができるのが重要であると語った。また、そうやって作られたものが必ずしも最初、周囲からの理解を得られなかったとしても、完成したときには画期的なタイトルになるケースが多々あるとした。

 これに加えて、ディベロッパーとしては作ったゲームのIP(著作権)の所有が可能になる場合が多いことを挙げる。これは非常に重要として、権利者はどのようにタイトル・IPが今後発展していくのか、あるいはタイトルの完成に関して、自分たちが責任をもって決めることができる、自分たちがそのIPの行く末を決めることができるのは非常に大きなことだとした。これはクリエイティブな部分だけでなく、IPを所有しているディベロッパーの価値そのものを大きく上げることに繋がるものと説明した。

 さらに自社発売することによって、ユーザーとのダイレクトなコミュニケーションを取ることができるのも強みであるとする。パブリッシャーがサポートしている場合とは異なり、開発中のタイトルをテストしてもらい内容改善を行なったりと、将来のタイトルへのインプットをもらう、自分たちのタイトルの1番のファンとして他のユーザーにプロモーションしてもらうなど、ディベロッパーが自ら重要なコミュニティを育てることができるというのもよい点とした。

 その一方、ゲーム業界から見て、インディーゲームというのは「新しいゲームジャンル」の発明。「新しいイノベーション」が起こる。そのようなことがインディーゲームのシーンから多く出てきていると指摘する。

 その例として「Minecraft(マインクラフト)」や「PlayerUnknown's Battlegrounds(PUBG)」などのタイトルを挙げ、いまやビッグタイトルとして知られているタイトルも、1番最初はインディーゲームとしてスタートしたケースが多いと紹介。これまでになかったものだからこそ、インディーゲームとして今までにない表現、これまでのゲームジャンルではなかったテーマに挑み、“自分たちが信じるタイトル”を完成させたことは、いま大人気のゲームジャンルの雛型を業界に示したくれたと述べた。

【インディーゲームからビッグタイトルへ】
「Minecraft(マインクラフト)」。ゲームクリエーションのコミュニティのジャンルを提示した
「PlayerUnknown's Battlegrounds(PUBG)」。いまやお馴染みのバトルロイヤルというゲームジャンルの雛型を示した
「No Man's Sky」では「アルゴリズムで全てを作る」という壮大なプロジェクトを実現。クリエイターのビジョンがそのままゲームになった素晴らしいもの、と吉田氏は評価した
「Fall Guys: Ultimate Knockout」はバトルロイヤルとアクションプラットフォームを掛け合わせたような、誰でも楽しめるゲームジャンルを作り出した

 さらに業界として、最近ますます注目される取り組みである「ダイバーシティ」。ダイバーシティには色々な意味があるが、吉田氏は女性の視点で作られるゲームなど、日本・アメリカ・ヨーロッパといった、これまでゲーム業界を牽引してきた地域でないところのディベロッパーがその地域の文化やメッセージを、世界中にゲームを通じて発信していくことが可能になっていると考えており、これは大きなスタジオよりも、まず真っ先に小さなスタジオ(インディー)が色々な視点でゲームを開発して、世の中に発信してくれているとした。

「コーヒートーク(Coffee Talk)」。インドネシアのゲームスタジオ・Toge Productionsが開発

 もちろん新しいゲームクリエイターの育成も、インディーディベロッパーでは行なわれているとする。やはりAAAの大きなスタジオでも学べることは多いが、今だと数百名で何年もかけて開発するタイトルにおいては、クリエイターはある一部分だけを担当することになる。しかし、少人数のスタジオでゲームを作るとなると、ゲームのコンセプト作りから発売までの様々なプロセスを自ら体験できる。

 吉田氏は、学生時代にNintendo Switch向けに「BATTLLOON」を発表し、現在は「ElecHead」の開発を手掛けているインディーゲームクリエイター・生高橋さんの「好きなものを作りたい」というインディーの強み・思いが語られたコメント動画を紹介した。

【asobu meets indies #1: 生高橋さん/NamaTakahashi (ElecHead)】

「プレイステーション」とクリエイター

 続いて、吉田氏は初代「プレイステーション」の立ち上げの時から新しいクリエイター、新しいコンセプトを求めてサポートしており、これまでに無かったようなコンセプトのタイトルがプレイステーションで生み出されたと強調した。

 PlayStationでは、家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機、PlayStation VRといった様々なプラットフォームを展開。その時々において新しい技術を導入し、それを活用した新しいゲームをクリエイターが作ってきたとする。吉田氏は、1996年に発売されたPS向けソフト「パラッパラッパー」をその生みの親である松浦雅也氏がゲームと呼んでいいのかなと語ったエピソードを挙げて、当時では珍しいジャンルであった音楽ゲームが、今や重要なゲームジャンルの1つとなっていることを指摘。画期的なコンセプトのゲーム、これまでにはいなかった新しいゲームクリエイターがPlayStationに参入する上で、そのフレッシュなアイデアをサポートしてきたと述べた。さらに、日本では「ゲームやろうぜ!」や「プレイステーション・キャンプ!」のようなインキュベーションの取り組みを行なったこともある、と例に挙げた。

 また吉田氏も、ワールドワイド・スタジオにて自社発売タイトルの開発責任者ではあったが、インディーゲームが本当に好きで、色々なイベントに出かけていっては面白そうなゲームをプレイして、そこにいるゲームクリエイターの話を聞いていたとのこと。さらに、そこで撮影した写真を自身のTwitterに投稿し、気になるゲームをプロモーションしていたそうだ。それが趣味というか、仕事の一部だった語る吉田氏。今となってはインディーズ イニシアチブ代表としてまさに仕事そのものになっており、毎日が楽しいと述べた。

インディーゲームの展示のいいところは「クリエイターが立っている!」ことと強調
JAPAN STUDIOでの配信番組。“勝手に”自社タイトルとは関係のないインディーゲームを紹介・解説したり、ゲームメディアと共にインディーディベロッパーへのインタビュー取材を行なったそうだ

「プレイステーション 5」でディベロッパーとユーザーはより密接な関係になる!

 セッションの後半、吉田氏は新型家庭用ゲーム機「プレイステーション 5」に関する話題を取り上げた。昨年2020年11月12日に発売された「プレイステーション 5」はどのような開発環境なのか、またPS5で初めて導入された新しい機能で、開発者にぜひ使ってほしい機能を紹介した。

 PS5は、今までのプレイステーションのゲーム開発用SDK(ソフトウェア開発キット)で培ってきた経験から、さらにゲームが作りやすいように開発機と開発PCとの連携など使いやすいものになっているとのこと。またSDKは、現世代のPCライクな制作スタイルを採用することにより、プレイステーション専用で独特な開発スタイルで苦労することなく、過去のプレイステーションの開発環境よりも比較的容易に開発ができるようになった。

 もちろんPS5は「Unity」や「Unreal Engine」などのゲームエンジンとの親和性も高く、たくさんのゲームタイトルが開発されている。また、リモートワークのしやすさにもチャレンジしているとして、「まずはプレイステーション 5での開発をスタートしてみてほしい」と開発者に向けて呼び掛けた。その上で、PS5がサポートしている様々な機能を紹介。全く新しい企画を考えてもらえるようなインディーディベロッパーがいれば“密に”サポートしたいという技術開発チームの考えを明らかにした。

キーワードは“直接”!「プレイステーション 5」の新しい機能を紹介

 吉田氏は、PS5におけるディベロッパーとゲームユーザーをダイレクトにつなぐ機能をいくつか紹介した。

 その一例である「Game Hub」はゲームのホームぺージのようなもので、ゲームの発売前に紹介ページを制作してSNS等からそのページに誘導すると、ユーザーはPS5上で気になるタイトルをフォローしたり、ウィッシュリストに追加できる。フォローしたユーザーに対して、ディベロッパーは“直接”新しいタイトルの情報、あるいは開発者からのメッセージを届けることができる。普段ユーザーが公式サイトやSNSを通じて入手していた情報を、PS5を立ち上げるだけでニュース情報を“直接”ゲームディベロッパーあるいはパブリッシャーから得ることが可能になった。

【Game Hub】
「ASTRO's PLAYROOM」配信後のページ。配信前であれば「ダウンロード」が「フォロー」になる
【Official News】
フォローしたユーザーに対して「Official News」が表示される
「Official News」はモバイルアプリ上でも確認できる

 また「Activity」では、ゲームユーザーそれぞれの進捗に応じた情報をPS5上で提供することができる。コントローラーのPSボタンを押すと、ゲームの表示をバックグラウンドにして、フォアグラウンドには「Activity」のカードが表示される。カードの重要な機能の1つとして、ゲームとシームレス、かつダイレクトにつながること。ユーザーそれぞれのゲームの達成率や1プレイ単位のシナリオの内容、そのクリアまで想定時間なども表示することができるので、プレイする前にユーザーに様々な遊び・ゲームの選択肢を提示することが可能となっている。

 吉田氏は、遊びの入り口をユーザーに向けてたくさん提示できるデザインを使って、インディーズスピリットで面白い活用方法を考えて頂きたい、と大きな期待感を表わした。

【Activity】
コントロールセンターのカード
「Activity」はシングルプレイでもマルチプレイでも表示可能。スタート画面に戻ることなく、ダイレクトにプレイスタイルを選ぶことができる
タイムアタックの例。ユーザーの競争意識、ゲームプレイへのモチベーションを高める工夫に
フレンド内のランキング

 さらに「Game Help」は、開発者がプレイテスト等で得たゲームのつまづきやすいポイントに対して、PS5上で開発者から“直接”サポートやヘルプを得ることができる機能。ゲームの攻略情報をスマートフォン等で検索することなく、ディベロッパーが録画したヒント映像などを見ることができる。また「Game Help」のカードは、ゲーム内にピクチャーインピクチャーのような形で並べて置くことができ、ゲームプレイをしながら参考にできる。

 こうしたPS5の機能について、吉田氏はゲームデザインの工夫として開発者に色々活用して頂きたいと改めて訴えた。

【Game Help】
「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」の隠しアイテム“ゴールデンボルト”を取得する際の例
一見行けないようなところに「Game Help」ビデオが用意されている

日本にもインディーブーム到来!「インディーズ イニシアチブ」の取り組み

 続いて吉田氏は、昨年2020年より取り組んでいる「PlayStation INDIES」の「インディーズ イニシアチブ」の取り組み例を紹介。プレイステーション上でも毎週多くのインディーゲームが発売されているが、ユーザーにとってインディーゲームは名前も知らないようなディベロッパーだったり、全く聞いたことのないタイトル名であったりと、どのゲームを選べばよいのかよくわからないことが多い。

 そうした中で、PlayStationでは今後発売されるタイトルの中で「これはすごく面白い」、「これはぜひユーザーさんに遊んで頂きたい」というタイトルを選び、「PlayStation INDIES」という名前のもと、最高のインディーゲームをユーザーに紹介する取り組みを行なっており、吉田氏は「PlayStation INDIES」にアクセスすれば、そこに紹介されているタイトルが面白いオススメタイトルということで、ユーザーが安心して選ぶことができるようになってほしいという願いを込めているとした。

【「インディーズ イニシアチブ」取り組み例】

 PlayStationでは、定期的に開催している配信番組にて、ほぼ毎回インディーゲームのオススメタイトルを紹介するなど、インディーゲーム好きに対してだけにではなく、世界中の誰にでも遊んでほしいタイトルに関しては「インディーゲーム」と敢えて言わずに、AAAのビッグタイトルと同じように取り上げているとする。その一方で、もちろんインディーゲーム好きのユーザーに向けて、定期的に「インディーズ ショーケース」と称し、ソーシャルメディアを通じて多くの最新インディーゲームを、開発秘話やニュース性のある内容を含めて紹介している。

 また、日本独自の取り組みとして「絶対ハマる! 最新やみつきインディーズガイド」を公式ブログにて掲載。こちらは日本のスタッフが選んで月に1度、発売後のオススメタイトルを紹介している。そのほか、公式サイトやPlayStation Storeにある「PlayStation INDIES」の常設コーナーにて、オススメタイトルを定期的に追加。有料サービスのPlayStation Plus、PlayStation Nowにもインディーゲームが登場するなど、面白いインディーゲームを広めていく取り組みが紹介された。

 吉田氏は、新型コロナウイルス感染症の影響についても触れ、昨年2020年に新型コロナで影響を受けた開発者に対して、日本円にして約1億円の救済基金を作りサポートしたことを明かした。この他にも、目に見えないところでディベロッパー及びパブリッシャー向けのシステム・ツール類の改善を常に行なっており、また開発ツールの貸し出しプログラムも実施しているとする。吉田氏は「まだプレイステーションで登録していないディベロッパーさんは、まずパートナー登録からスタートして頂きたい」とした上で、質問や要望を直接やり取りできる仕組みを用意していると述べた。

 最後に吉田氏は、2000年代から欧米で起こった「インディーブーム」が、遂に日本でも起きていることを指摘した。日本ではなかなかインディーゲームの知名度が上がらなかったが、ここ1、2年でグッと環境が変わってきているとして、非常にうれしい感覚を持っているとした。

 その理由は様々あるが、吉田氏は6つのポイントを指摘。例えば、昨年の「天穂のサクナヒメ」のような、日本のインディーディベロッパーによるグローバルヒット作が生まれたり、ゲーム制作の経験が非常に長い開発者たちが、日本でも独立して自分たちのスタジオを立ち上げ、ファンディングを得て「インディー」として活動を開始するケースが増えている。また新しい世代のクリエイターが必ずしも大きな会社に就職するという選択肢ではなくて、自分で作って自分でデジタルディストリビューションでやってみようとする方が増えていると、吉田氏は感じているとのこと。

 そしてゲームをプレイするユーザーについても、過去に大ヒットしたシリーズ作品だけでなく、海外のタイトルやインディータイトルも楽しむユーザー世代がいま増えているとしている。それにはユーザーが情報を得るソースに既存のゲームメディアのほか、YouTubeなどで活動するインフルエンサーが加わったことが大きく、その実況配信の影響からインディーゲームであってもゲームをプレイしてみようとする世代に変わりつつあるとする吉田氏。マーケティングの部署がなかったり、マーケティングの予算がなかったりするインディーディベロッパーにとっては、インフルエンサーの存在が大きな力になっているとする。

 また、コロナ禍において「INDIE Live Expo」といった発表の場が増えてきており、新しいインディーゲーム向けのファンドであったり、インキュベーションやゲームコミュニティなど、日本の会社による、日本のインディーディベロッパー向けのサポートが様々なところからスタートしているのが、ここ1年の動きであると指摘した。吉田氏は「我々PlayStationもこういった会社と歩調を合わせながら、今後も日本のインディーディベロッパーが世界に羽ばたいていけるサポートを続けていきたい」と述べ、セッションを締めくくった。