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「ワンダと巨像」& 「人喰いの大鷲トリコ」アニメーターが教える、“巨大生物らしい動き”の作り方
2021年8月24日 21:56
- 【CEDEC2021】
- 開催期間:8月24日~26日
「ワンダと巨像」、「人喰いの大鷲トリコ」両作品に共通するもののひとつに、巨大キャラクターの登場がある。「ワンダと巨像」では巨像、「人喰いの大鷲トリコ」ではトリコがそうだが、いずれのキャラクターもプレーヤーの心に印象的に残る、どこか不思議な実在感がある。
CEDEC 2021では、「ワンダと巨像」、「人喰いの大鷲トリコ」で巨大キャラクターのアニメーションを作ってきたジェン・デザイン CTOの田中政伸氏がそのノウハウを公開する講演「実在感溢れるキャラクターを目指して ~ワンダ、トリコで培った巨大キャラクターアニメーション5つの法則~」を行なった。
その冒頭で田中氏は、「アニメーションはキャラクターデザインの大切な要素」と述べた。もし狙ったキャラクターデザインと実際のアニメーションが一致していなかったら、そこに違和感が生まれて、世界観への没頭を阻害してしまう。とくにゲームはインタラクティブなメディアであり、カメラアングルを自由に変えることもできれば、処理計算の問題もある。いかに一分の隙もなく実在感のあるアニメーションを実装できるかが、「没頭できるゲーム」を作る上では欠かせない。
では、田中氏は巨大キャラクターのアニメーションをどのように組み立てているのか。田中氏は「質量」、「重力と重さ」、「筋肉」、「アニメーションの解像度」、「実装の設計」の5項目によって解説していった。
動きの軌跡で「質量」を表現する
まず田中氏は、通常サイズの人間が走るアニメーションを作り、これを身長27mの巨人に当てはめ、アニメーションの時間を引き伸ばしたデモ映像を見せた。
一見成立したアニメーションのようにも見えるのだが、よく見ると巨人の体重が軽く感じられたり、巨人なのに跳躍力がありすぎたり、情報量が足りないようにも感じる。つまり「何かがおかしい」アニメーションになってるのだが、これは「巨人アニメーションの押さえるべきポイントを押さえていないから」という。
そのポイントとなるのが、先に挙げた「質量」、「重力と重さ」、「筋肉」、「アニメーションの解像度」、「実装の設計」の5項目だ。質量や重さというとまるで物理の授業のようだが、これはアニメーションの基本的な考え方として、物理法則が大前提となっているから。物理法則を守った上で、次に骨格や筋肉の反応などの「生物学的構造」に従っていく。心情や内面を表現する「演技」は、これらの前提の上に乗せていくようなイメージだ。
田中氏は、5項目を順を追って説明していった。まず「質量」は、「今の速度を維持する度合い」と定義した。イメージとしては、「トラックは急発進、急停止しようとしても慣性が働いて難しいが、小さな虫なら急発進も急停止もできる」というもの。
ポイントは、物体が動いた軌跡を示す「運動曲線」を意識すること。トラックのように質量が重ければ運動曲線はなめらかにカーブしていき、小さな虫のように質量が小さければちょこまかと細かく折れ曲がりやすくなる。これを逆手に取れば、アニメーション上で運動曲線をなめらかにすると質量が大きいものが、急発進や急停止を入れると質量が小さいもの表現できることとなる。これを意識し、巨人の運動曲線をよりなめらかなものにした。
常にある「重力」と現実的「重さ」を考慮する
続く「重力と重さ」は、重力が影響する動き(重力加速度)と、現実で捉えたときの重さを考慮することだ。重力はどの物体でも同じように働くため、どんなアニメーションでも重力加速度は意識せざるを得ない。
人がジャンプした際にも人が倒れる際にも、動きは違うように見えても重力加速度が裏では隠れている。「すべてのアニメーションには重力加速度が関わっている。アニメーターは重力加速の感覚を養っておく必要がある」とした。
その上で、実際の重みがどれくらいかも考えておくことがアニメーション作りでは役立つ。たとえば身長27mの巨人の体重は、恐竜を参考にするとだいたい40tほど。さらに足は体重の15%の重さと言われているので、片足が6tだと割り出せる。ここでの計算は正確である必要はなく、「6tの物体が上がり下がりしている運動なんだ」とイメージできることがポイントだ。
「重力と重さ」を考慮した巨人アニメーションの修正版では、「足が重たいので、足を上げるのに全身の筋肉を使う」と変化。足を上げている時間が短くなり、巨人の重みを感じるものとなった。
運動の激しさは筋肉のこわばりと関係する
「筋肉」の項目では、「人や動物はつねに最適なエネルギー効率で動いている」と田中氏は話した。「これは、エネルギーを無駄にする動物は生き残れなかったからと言われている。動物の動きを観察していると、足を着く先がちょっと前でも、ちょっと後ろでもなく、その動きこそが最適だとわかる。最適なエネルギー効率の動きを感覚で見抜く練習にもなるので、動物の観察はオススメ」とした。
また筋肉の役割には「運動曲線を破壊すること」がある。たとえば走る行為は、本来の運動曲線を大きく変え続け、それだけ速く前進できる。そのため使うエネルギーも膨大で、だからこそ疲れてしまうのだが、裏を返せば、運動曲線を破壊する運動になるほど「筋肉に力を込めている」こととなる。筋肉の固さも意識することで、動きに自然さが生まれるとした。
細かな変化を捉えて動きの密度=「解像度」を上げる
田中氏いわく、アニメーションにも「解像度」のようなものがあるという。スローモーション映像とコマ送り映像では大事な情報が抜け落ちていることが明らかなように、アニメーション作りでも細やかに情報を盛り込むことで説得力が増す。
「解像度」を意識した修正では、巨人の足が設定する瞬間に足の周りの筋肉に振動を加えた。同時にお腹の肉がプルプルと震えるようにすることで、巨人の動きと肉体が連動するような仕上がりとなった。
アニメーターが「実装の設計」に関わって質を上げる
最後の「実装の設計」では、巨大キャラクターの制御の難しさが語られた。たとえばダメージ表現ひとつをとっても、ゆったりとした動きのなかでは大きなポーズの変化は付けられないほか、人間サイズでは気にならないような足の接地のズレなどが大きく目立ってしまう。
「その先の、解決方法はさまざまにある」と例を挙げながら、「ひとつはプログラマーと協力することだが、たとえばプログラマーの方が自分で重心のズレを見抜いて対応してくれる、といったことは難しいと思う。アニメーター自身がゲームエンジンの仕組みを理解し、アニメーションの設計に関わることで仕事の質を上げられるはず。巨大キャラクターはごまかしが効かない分、アニメーターから歩み寄ることが大事ではないか」とした。
田中氏は修正完了版の巨人アニメーションを流しながら、「修正前よりも、修正後のアニメーションの方がいいと感じる方が多いのではないでしょうか。今回の話が、重さと密度感をたっぷり感じられるアニメーション作りの手助けになれば幸いです」と講演を締めくくった。