ニュース

「ゲームセンターCX」から「EIKO!GO!!」まで! ゲーム実況の歴史を紐解く

ゲーム実況がもたらす効果や影響とは?

【CEDEC2021】

開催期間:8月24日~26日

中田朋成氏

 友達の家でゲームをしているところを眺めているような感覚を楽しめる「ゲーム実況」。かつては著作権の問題などで議論が交わされるような法的にグレーなコンテンツでもあったが、今ではゲーム会社のほうからゲーム実況のガイドラインを設けたり、テレビで見るような有名人もゲーム実況をしていたりと、ゲーム業界の中で一大コンテンツのひとつとなっている。

 「CEDEC2021」では、そんなゲーム実況の業界の「過去・現在・未来」を中田朋成氏が解説した。中田朋成氏は、「東京ゲームショウ」への出展経験や、ゲーム実況イベントの企画運営に携わった経験がある人物だ。ゲーム実況をいち視聴者として楽しむ中で、ニコニコゲーム実況チャンネル「NGC」との出会いを機にゲーム実況業界を分析的に見るようになった。

ゲーム実況の歴史。「ゲームセンターCX」から「EIKO!GO!!」チャンネルまで

 中田朋成氏は、ゲーム実況の“大きな雛形”として「ゲームセンターCX」の存在を挙げた。「ゲームセンターCX」は、お笑い芸人よゐこの有野晋哉さんがゲームをプレイするバラエティ番組だ。もちろん「ゲームセンターCX」がゲーム実況のすべての始まりだというわけではない。しかし、「ゲームセンターCX」がゲーム実況に与えた影響を考えれば、語らないわけにはいかない。

 その理由として、「ゲームセンターCX」のメインパーソナリティである有野さんが、“ゲームが上手いわけではない”という点がある。これが、ゲームが上手くなくとも面白いゲーム実況が可能であるという証明になり、いい意味でゲーム実況の敷居が低くなったことが、自分もやってみようかなと思う人が出てくることに繋がった。

 そして、芸能人ではない、いわゆる一般の人々のゲーム実況が広まっていくことになった。そこから人気ゲーム実況者が生まれ、実況者に対して“価値”が発生するようになる。今でこそネットから有名人が生まれることは一般的なことなので、その影響力は想像しやすい。ゲーム実況は法的にグレーな存在であったが、公式に呼ばれてゲーム実況するケースも増えていくことになった。

 そういった中で、プロとしてゲーム実況を行なう団体も誕生する。当時は「スタジオえどふみ(現:スタジオNGC)」がゲーム実況のプロとして活動を開始した。今ではYouTuberの事務所であったり、VTuberの団体も増えてきている。

 そこから権利者側がガイドラインを作成するようになり、「ほぼ違法」から「適時適法」の時代へと突入した。また、プレイステーション 4などの家庭用ゲーム機にもシェア機能が追加されたことで、誰もがお手軽かつ合法的に実況できるようになる。プラットフォームも多様化が進み、日本ではニコニコ動画やニコニコ生放送がメインであったが、YouTubeやTwitch、OPENREC、Mildom、ツイキャス、Mirrativなど、今では多くのプラットフォームが存在する。ゲーム実況はより身近な存在になっていった。

 さらに、ゲーム実況者の多様化も進んだ。ゲーム実況が一般化するにつれ、芸能界・芸能人の参入したほか、eスポーツの発展により大会配信やプロゲーマーによるゲーム実況、VTuberの参入がみられた。中でもVTuberの参入は大きく、VTuber同士の「ファミリー化」が成功したことで、VTuber同士のゲーム大会が活発になり、対象となったゲームが大きく注目されるような状況となった。最近では、バトルロイヤルゲーム「Apex Legends」を使ったストリーマーによる大規模大会が頻繁に開催され、大きな視聴者数を叩き出している。

 芸能人のゲーム実況では、配信が1種の「セルフブランディング」として機能している。お笑い芸人の狩野英孝さんが配信者としてもブレイクしており、YouTubeチャンネルの「EIKO!GO!!」はチャンネル登録者数が116万人(執筆現在)で、ゲーム実況配信ではひとりでeスポーツ大会規模の視聴者数になっているほどだ。また、芸能事務所ぐるみでの活動も多く、Mildomでは著名タレントを起用した「吉本興業自宅ゲーム部」という帯番組も配信されている。

ゲーム実況におけるメリットとデメリットとは。やり方次第で影響は大きく変わる

 そもそもゲーム実況は、販売に有益なのだろうか。それは結局のところ「やり方次第」であり、どちらの可能性も存在する。ゲーム実況はやり方次第で購入意欲が湧く可能性もあれば、逆に購入意欲がそがれる可能性もあるコンテンツだ。リスクはあるものの、うまくやれれば有益な影響が多く、かつ長期的に生み出せる可能性もある。

 まず、ゲーム実況のメリットとして、「作品を知るきっかけが増える」ことが挙げられた。コンテンツがテレビからネットへと移り変わる時代の中で、ゲーム系コンテンツの多いネットでは様々なゲームを知れる機会が多くなる。ゲーム実況者のファンになれば、その人の動画で新たなゲームを知りうることにもなる。人は自分の“守備範囲”から外に出たがらない傾向があるが、他者のゲーム実況を見ることが想定外の作品に出会うキッカケになっているのだ。

 また、新たなゲームを知ること以外にも、ゲーム実況は「ゲーム離れ」の抑止効果を生むというメリットもある。生活環境の変化などでゲームに触れる機会が減ってしまうと、そのままゲームをプレイしなくなる「ゲーム離れ」を起こす原因となるが、ネットメディア/ゲーム実況という存在によりゲーム情報との遭遇率が上がり、“ゲーム”という存在が日常に溶け込みやすくなっている。

 さらには、「ユーザーコミュニティ」の形成に役立つこともメリットとなる。中田氏は事例として、スタジオNGCにおける「VR」関連の活動を挙げた。スタジオNGCでは、VR関連ゲームを多数取り扱い、視聴者もゲームに参加することが多くあったという。その結果、視聴者間でゲームおよびVR機器の所有者が増え、コミュニティが形成された。ユーザー同士で遊んだり、VRに興味はあるけど手を出しづらいという人からの質問に対応する場として発展していき、VRコミュニティの盛り上がりに繋がったのだという。

 最近では「Discord」を使って低コストかつ簡単にコミュニティ運営が始められるようになってきている。視聴者同士での交流が活発になると、そのコミュニティに対する「居場所化」が進み、ゲーム実況者やゲームの寿命が延びることに繋がる。配信が終了しても視聴者の中にユーザーがいれば交流は続くため、「実況されているときだけ盛り上がる」という状況も回避できるのだ。

 ただし、ゲーム実況で逆に購入意欲をそいでしまうという危険性もある。事例として、そのゲームを初めてプレイするアイドルたちに事前の操作説明もせず、かつチュートリアル部分もスキップした状態でプレイさせてしまった結果、「よくわからないゲームだった」という視聴者のコメントが出てしまったことがあったという。同ゲームを実況した別のチャンネルでは視聴者がゲームに興味を持つという真逆の結果になったということもあり、ゲームの見せ方次第で大きく結果が変わってしまうことがわかる。

プロレスゲームでも同じような事例が

 こういったトラブルを回避するには、操作方法などの仕様把握や世界観の理解など、ある程度事前に把握しておくことが必要となる。プレゼンとしてゲーム実況をするのであれば尚更、ゲーム実況における“ロケハン”が重要だ。ただ、発生条件が確定ていないエラーや、ネット環境関連などのトラブルを回避するのは難しい。そういったトラブルの発生も考え、事前に対応策を用意しておくことも必要となる。

 なお、中田氏は、ゲーム実況で誰かをキャスティングする場合、大前提として「ゲームを面白く見せられるか」が大切であると語った。知名度が高い人をキャスティングし閲覧数が多くなったとしても、ちゃんとゲームを面白く見せられなければ意味がないどころか、ネガティブな印象を与えてしまったときのダメージも大きくなってしまう。ゲームの魅力を伝えるために、ゲームに詳しい人を側に置くのも有効だ。新規IPであれば詳しいユーザーは少なくなるので、なおさら“サポート役”が重要になる。

 また、ゲーム実況にデベロッパーやパブリッシャーなどの“中の人”はどう関わるべきだろうか。人に愛着をもってもらえれば、ゲームが変わっても興味が継続することがある。小島秀夫氏といった著名クリエイターもそれにあたるが、必ずしもディレクターやプロデューサーが出る必要はない。広報であったり、ローカライズ担当者なども多数出演することでファンを獲得することは可能である。

 インターネットという世界である以上、ゲーム実況の世界でも炎上問題や攻撃的な発言も多く、ネガティブな印象もある。しかしながら、それ以上にポジティブな効果もある。筆者の体感になってしまうが、ここのところストリーマーの視聴者数が伸びてきているように感じる。それにより、「Apex Legends」や「VALORANT」など、一部のタイトルはストリーマーのゲーム実況によりコミュニティが大きく盛り上がった印象だ。もちろんゲームをプレイすることを忘れはいけないが、“ゲームを楽しむ”という大きな枠の中で、ゲーム実況界隈が進化し続けることを期待したい。