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「3D ギャラクシーフォースII」インタビュー

もうひとつの並木氏が発見した事実とは?

もうひとつの並木氏が発見した事実とは?

 そして、もう1つが僕の中では1番重要な理由ですが、シーンBの「DEFEAT」という曲。この曲の中で、これまでサウンドトラック化されてきたサイトロンさんのCDや、ウェーブマスターさんのCD「ギャラクシーフォースII&サンダーブレード オリジナルサウンドトラック」に収録されているものも、後から検証してみると同じ現象が起こっていたんですが、この曲のサビの展開である部分を過ぎると、音の定位の左側で、爆発音のような低い音が「ゴォォー」と鳴って、それっきり……それまでドラムのリズムを鳴らしているトラックなんですが……それ以降、バスドラムが完全に鳴らなくなってしまうという現象がありまして……。

――えー! そんなことが……。

並木氏:これは、僕も今回、「3D GFII」の仕事に加わって初めて聴いて気付いたことなんですが、それまで、ファンの方からも1度も聞いたことがなかった話なんですね。

堀井氏:俺も知らなかったっす。

奥成氏:普通、1ループだからね……。聴いてるとしても。

並木氏:最初に気付いたのは、改めて録音したデータをプレイバックしている時だったんですが、これは「改めて録音した基板の固体の問題かな?」と思って、過去のサウンドトラックの同じ曲を聴き直してみたところ、どれもそれぞれ生じていたと……「これは直さなアカン」と(一同笑)。

堀井氏:気が付いちゃったものはねー。

並木氏:「3D GFII」がリリースされるということであれば、この「DEFEAT」の問題の部分を修正して、バスドラムが途中で鳴り止まず、ループしても鳴り続けるよう修復して世に出せれば、これは初の試みというか、世界初のことですよね。

 それで、Yボードのサウンド制御用に使われていたZ80のサウンドプログラムとデータを解析しまして、「DEFEAT」で爆発音のような音が鳴るデータの箇所を特定、修正して、その修正したデータをEP-ROMに焼き直して、基板に載せて録音し直しました。これはなかなか意義があることかなと。まさに「復刻」のお仕事かなと。

堀井氏:まるでキュレーター(絵画などの修復士)ですよね。並木は昔からゲーム音楽に親しみつつ、Z80も割とわかっていて、ゲームボーイを手がけている時は自分でサウンドドライバも書いていたので、やるときはやるんですよね。

――データ解析から譜面データの修復まで行なわれていたとは……並木さんならではのお仕事ですね。

並木氏:つまり、「GFII」を3Dで今、25年の時を経て世に出すに当たって、サウンド担当としてやるべきことというのは、地味な解析作業と、調整作業だったかなと。ベストな形で出すための仕事を行ないました。

「ストリーミングでの再現の道を選んだというのは、逆にプラスの部分もあった」

――ここまでお話を伺っていると、開発初期段階から、ストリーミングを想定して作業されていたことを前向きに活用して、いろいろと手を尽くされていたわけですね。

並木氏:そうですね。「3D GFII」では、CPUは描画の方を回すのに精一杯で、BGMのエミュレーションによる再現を最初から断念して、ストリーミングでBGMを再現する必要があるという方針がディレクターの松岡の方からありまして……。なおかつ、効果音(SE)に関してはエミュレーションで再現するという話だったんですね。つまり、BGMはストリーミング、効果音はエミュレーションで、その2つがMIXされた状態が、「3D GFII」になります。

 MIXするためには、BGMとSEのバランスを取ることが必要になります。加えて、FM音源とPCMという「GFII」のサウンドデバイスそれぞれが、基板のバランスと3DS版のバランスが完全に統一されなければならない。そうすると、そのバランスを測定しなければならない。測定するには、基板でFM音源の特定の音の音量と、PCMの特定の音の音量を録音して、FM対PCMの比率と、ストリーミングとエミュレーションの比率を同じにする、という作業が必須でした。

 これ、他の会社さんだとたぶん、「大体似ていればいいよね」とか、「だいたいこれぐらいのバランスだったらいいよね」というところで落ち着くんじゃないかと思うんですが、僕が担当する以上、dB(デシベル)単位の数値できっちりあわせたかった。デシベル単位といっても、もちろん周波数帯域による音の聴こえ方とか、3DSのスピーカーだと高域が目立って低音がなかなか聴き取りづらい、といった物理的なものはある程度仕方がないという部分はあるんですが、LINEやヘッドフォン越しに聞いた場合に、ほぼ基板と同じ、限りなく可能な限り同じバランスというものを求めて、かなり苦労しました。

 ゲームのオプションで、BGMとSEの音量バランスの項目でいろいろプレーヤーが任意の音量で遊んでもらうことができるんですが、その音量バランスというものを、それぞれの値に変更した場合でも、必ずエミュレーションによる再現と、ストリーミングによる再現のバランスが基板の場合と変わらないような音量カーブを描きつつ音量を変更できるようにするために、プログラマと一緒に丸2日かけて(笑)作業しました。そういう地味な苦労もあったんですよ。

――そんなことまで……。

並木氏:当たり前のことを、当たり前の形に実現するために、白鳥が優雅に泳いでいるように見えても、実は水面下では足をバタバタしているというのと同じような感じで、「できているのが当たり前だよね」という、ともすれば開発工数にあまり見積もりとして入らないような部分に、かなり個人的にはパワーをかけて作業しました。

堀井氏:いろいろやってましたよね。松岡ディレクターの方は、とっとと「ストリーミングにする」という話をして、描画を高速化する方は、「これならエミュレーションでもいけるかもしれない」という話を両建てでしていて、結果、無駄がすごく……単なる無駄ではないんですが、やれることは全部やる、といった感じで作業してましたね。

並木氏:「3D スペハリ」のサウンドエミュレーションによる再現の水準は、お客さんによっては「ああ、そっくりだね」とおっしゃっていただけることもあれば、「ここの音が違うんじゃないか」という声もあったわけですよね。そういった反省を踏まえて、いろいろ再現性を上げる努力をしているんですが、サウンドの再現性を上げるということは、いかんせん3DSというハードウェアの持つポテンシャルというか、単純に言うとCPUのパワーとのトレードオフ、ある一線でのそれを成立させるのが僕らの仕事で、トレードオフにしても、ディレクターの松岡やプログラマの齊藤と僕とで、ケンカみたいな感じでトレードオフするわけですよ(笑)。

堀井氏:ケンカだね。あれは本当にね。

並木氏:「サウンドこんなんじゃ世に出せないよ」って僕が言うんですけれども、ディレクターは「プログラマが他にやるべきことはたくさんあるから、サウンドだけにそこまでパワーを割くことはできん。それは許せん」というわけです。それは当然、お互いの立場を考えれば、それぞれの立場を理解はできるんですけれども、それでも各自の譲れない領分があるわけなんで、ケンカになっちゃうんですよね(笑)。

堀井氏:大体ケンカだよね。打ち合わせのとき、すごく雰囲気悪いもん(笑)。「どうすんだこれ?」っていう。

並木氏:プライベートではこれまでも松岡とは仲が良かったんですけれども、仕事を一緒にやるようになってから、かなり仲が悪くなった(一同笑)。

堀井氏:16時に飲み屋に入って、0時まで飲んでたりしてたんですよ。そういう人たちが今ケンカしてるからね。やりながら。

並木氏:僕はクリエイティブなものに関するケンカはウェルカムなんで、問題ないんですがね……。ただ、そうやってトレードオフの中にあっても、とにかくベストな形で、リミットまでギリギリのしのぎを削りあって、再現性を上げているのが「3D復刻プロジェクト」の1つのエムツーの役割だと思うんですよね。

 ですから、「3D スペハリ」でご指摘があった部分はかなり難題で。それから「3D スーパーハングオン」では「スペハリ」と音源チップが違って、「GFII」と同じサウンドスペックなんですけれども、こちらはサウンドのデータ的な……FM音源に関して言えば、音色といったものはそんなに再現性が難しくない音が多かったんですよ。つまり、エムツーのエミュレーション技術の再現性においても、問題のないクオリティだな、と僕も判断できたんですよ。

 ところが、「GFII」になるとまた、再現的に難度の高い音色というものがちらほら見受けられたので、はなからトレードオフ以前に、CPUパワーで立体視の実現とゲームを1/60フレームで描画をキープするためにも、サウンドはエミュレーションによる再現をあきらめなければならない、という話になった段階で、サウンド部門としては、それと同時に、再現性というものも追いかける余地がまったくない、ということに行きあたったものですから、逆に言えば、「ストリーミングでいろいろ工夫できることを、再現性とは別の角度でチャレンジしていこう」と考えました。結果、今回はエミュレーションとは違う角度のプラスの方向の作業ができたのかな、と思います。

 たぶん、今回は限られたCPUパワーの中で、エミュレーションの再現度とCPUパワーのトレードオフをやりながらなんてやっていたら、仕事はとてもできなかったと思います。ある意味そこをバスッと割りきってストリーミングでの再現の道を選んだというのは、逆にプラスの部分もあったな、と振り返って今、思います。だからこそ、「DEFEAT」の修正なんてできたわけですし(笑)。

――CPUパワーの余裕のあるなしに関わらず、サウンド環境の再現性を上げられるという意味では、ストリーミング再生という手段は良かったということですね。

並木氏:「3D 復刻プロジェクト」では、同じような基板スペックのゲームが出ているので、サウンドの再現についてもそれぞれも同じようなものだ、とお客さんからは見えているのかもしれませんが、本当に各タイトルごとにピーキーな部分で再現性と戦っているということを、このインタビューでお伝えできれば、サウンド担当としては、うれしいかなと。

――いやー。25年も経って、まだ新たな発見があったことですし、本当にただ遊んでいるだけではわからないことはまだまだあるんですね。ありがとうございました。

(佐伯憲司)