インタビュー

「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」インタビュー

「3Dに対応した仮想メガドライブ」=「ギガドライブ」構想

「3Dに対応した仮想メガドライブ」=「ギガドライブ」構想

――3DSでメガドライブのソフトを動かすことが処理速度的にきつい、という話で気になったのは、PS2で作るときと比べると、フレーム描画的に倍(60fps→120fps)の速度を稼ぎつつ、入力遅延をさせないとなると、さらにハードルが上がっているように聞こえるんですが? そこがすごいな、と思うんですね。

堀井氏:「スーパーハングオン」の「SEGA AGES ONLINE」版を作っている頃、「なんでも3Dにする」と言って、奥成さんにいろんなソフトを作って見せたことがあったんですが(「3D スーパーハングオン」インタビューを参照)、あの頃、すでにかなり低コストに3D立体視化して見せられるところまでの環境を作ったんですね。それをそのまま3DSで動かせばいいだろう、と思って3DSに持っていったんですが、そのままでは立体視にした際に描画が破綻している(BGやスプライトの深度調整がそのままでは破綻している)ものを、1つ1つ手作業で潰すことが非常に大変だということがわかりました。

 例えば、視差をつける(立体視用に右目、左目用の視差のある画像を生成する)際に右や左の端が欠けることがあって、もともとない絵をつけることはできないですから……。それをいちいち修正することは厳しい、ということになって。

 そこで今回のラスター処理に深度をつけるという話になった際に、いっそ、「3Dに対応したメガドライブ」のアーキテクチャーを設計して……セガのニューハードということで仮想設計したものを我々は勝手に「ギガドライブ」と呼んでいるのですが……それをエミュレーター的な手法で3DS上で作ることで、それに対応した「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を作れば万事解決……メガドライブのソフトにパッチを当てていくよりは、スマートかつ自由度の高い立体視が可能になるんじゃないかと。これはこれで、ギガドライブ向けのパッチと言えなくもないんですが、自由度は一気に高まりました。

――それはそれまでの方針が変更されたということなんですか?

堀井氏:そうです。その時は全然動く目処は立ってなかったけれども(一同笑)。

 「ギガドライブ」のハードの中に、BG面を4枚増やして、1枚ごとにZ値(深度情報)を持つ、そしてライン単位でZ値を持つことができるようにしているので、湖を奥行き方向に倒したりすることができるようになりました。ついさっき、「メガドライブにはBGが2枚あって移植が大変」と言っていたのはどこに行ったんだという話もあるんですけど(一同笑)。

M2制作による「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のレイヤー解説画像。メガドライブ版「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」に深度情報をこのように加え、立体感を生み出している

――そういうことなんですね。

堀井氏:だから、メガドライブのゲームにパッチを当てている、というよりは、もう(3DSの上で動いている)別のハードに移植しよう、というぐらいのノリで作りましたね。

――いわゆるグラフィック周りのデータはそのままもっていける?

堀井氏:持っていけますし、ゲームのメインルーチン周りも持っていけてますし。

――その下にある根本的なところで計算コストを稼いでいるという感じですね。

この空の雲も奥行きが付いた。なお空がラスタースクロールするのは日本版だけなので、ラスタースクロールしない海外版では、空は1枚背景として奥に表示されるのみ

奥成氏:私が無責任にリクエストしたところでこういう苦労が散々あったわけですが、とにかくしばらくしたら、空と海のラスター処理している部分に奥行きがついたんです。そうしたら、「あ、ちょっと良くなったぞ?」という感じになってきて、2面のマーブルゾーン以降もラスター処理されている部分がけっこうあったので、そこにも奥行きをつけてもらったところ、「これはいけるんじゃないか?」と。このプロジェクトにようやく光明が射したんです。

 でも、このバージョンから、スピードが100%出なくなってしまって(笑)。

堀井氏:常時2フレーム(処理を)食ってたかな。

奥成氏:ただ、僕がその時頼んでいなかった立体処理も1つ増えていたんですね。それが、「グリーンヒルゾーン」の「ソニック」と木の立体感の部分です。これまでメガドライブ版をプレイしている時は特に気に留めてなかったんですが、実は「ソニック」の背景の木には、後ろにある木と手前にある木の2種類があるんですよ。そこにM2さんが奥行きを付けてくれたんですね。そうしたら、「ソニック」の走っている場所に俄然立体感が生まれて見えたんです。「これはすごくいいね。これをやろう」と言ったら、堀井さんが「全部の面に?」ってすごく渋い顔をして……(一同笑)。

堀井氏:だって、全部の面じゃん(笑)!

奥成氏:それをやると、重くなる。しかも、それをやるのはギガドライブであってももちろん手作業。


ただ並んでいるだけの並木もソニックの手前に来る木と奥にあるものがある。写真は手前の木と奥の花に重なったところ。この場合、3DSでは奥の花は奥に咲いているように見える
同じ位置の別の木。これは奥にあるのでソニックよりも奥に表示される

――もともとのデータ上は同一面上に載っているスプライトの優先順位を切り替えて表現していたものでしかない。それに深度情報を持たせると、また別のものになるということですよね?

堀井氏:なりますね。

――(笑)。それをまた1つずつ設定していくということ……なんですよね(笑)?

堀井氏:1つずつ。ステージが変わればまた別のものですし。

――なるほど……。

奥成氏:最後に追加した3D表現が、「スターライトゾーン」の電灯や工事の標識。明るく描かれているものと暗いものがあるんですが、この奥行きは、絵として奥行きを持っているので……。

堀井氏:そうしたい、というデザイナーさんの意図はくみ取りたいですよね。……ということを皆が指摘してくれるからやるんですよね。

街灯はよく見ると、奥に立っているものは色が暗く描かれている。当然3D立体視では奥に表示されるようになっている。また、画面右にある鉄柱は手前に表示されるため、最前面のレイヤーで立体表示される
工事の看板もよく見ると位置が異なる
ソニックの前のオブジェクトは奥、後ろのオブジェクトは手前に表示されている
赤いポールもよく見ると明るさにより位置が異なって配置されているのがわかる

――奥行きを感じさせるものがあるから、そこに深度情報を持たせて再現しないと、気持ち悪いというか……。同じものを明るいものと暗いものを用意しているということは、メガドライブ版ではこれで奥行きを再現しようとしていたと。それを立体視に対応させるには、それに深度情報を持たせてあげないとおかしいと。

奥成氏:というところを喧々諤々しながら増やしつつ、スピードを維持しつつといいうか……。

――(笑)。深度をつけることでBGが増えていくということなんですね?

堀井氏:BGが4枚増えてるんで、それが重たいんですが、さらに深度情報を変えます、という処理が増えて、重くなります。最初は維持も何も、処理速度的に足りてなかったですからね。だから速度を上げつつ増やしていくということをやってましたね。

――処理的に重くなるものが追加される一方で、軽くする努力もしながら……今回もデッドヒートだったんですね。

奥成氏:「スペースハリアー」や「スーパーハングオン」は、最初からゲーム自体が3Dなので、それをプログラムの通り3Dとして深度を与えてあげればよかったんですが、「ソニック」の場合は、3D情報がないので、絵を見ながらそこに深度を付けていく。しかも、3Dを切ったらメガドライブ版のまま、という。そのギャップを楽しむのが醍醐味です。

堀井氏:単純に「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を遊ぶ時に、「スペースハリアー」のように、今なら空間に奥行きのあるものを遊ぶ「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は楽しいよね、というレベルになったと思うんですよね。

奥成氏:こうして「ソニック」を作りながら、M2さんのメガドライブを3DSで動かすための技術がパワーアップしていくという感じだったんですよね。

堀井氏:本当にね、見た目あまり苦労しているように見えないかもしれませんが、本当に苦労しているものばかりだなと思いますね。文章で言っても1行ですからね。「同じ絵でも奥行きのあるものにプライオリティ(優先順)をつけましょう」って。

奥成氏:それはアニメ制作で「5秒のカットに何日かけた」、という話と同じですね(笑)。相変わらず、打てば響くというM2さんということで(笑)。こうして3D立体視に対応できていったわけです。

(佐伯憲司)