インタビュー
さらば、セガ3D復刻プロジェクト!
並木学氏、再登場! 古代サウンドをエミュレートする難しさとは!?
(2013/8/21 00:00)
並木学氏、再登場! 古代サウンドをエミュレートする難しさとは!?
堀井氏:「ベア・ナックル」といえば音楽なので、ここでもう1度並木さんにも登場してもらいましょう。
並木氏:よろしくお願いします。
奥成氏:以前、「3D 獣王記」の時、「ソニック」よりも「獣王記」の方が、サウンドに関して再現が難しい、という話を並木さんがされていたと堀井さんに伺ったことがありまして……。僕もびっくりしました。
並木氏:ギガドライブに関しても、語ると止まらないんですが(一同笑)。実は、ギガドライブタイトルも、作を追うごとにサウンドの再現性が上がっているという、異常な事態になっています。本当は、ギガドライブは1つのプラットフォームだから、ソフトウェアごとにサウンドのクオリティが上がっちゃまずいんですよね(一同笑)。
――確かに(笑)。
並木氏:本当は、ある一定の再現性をキープしつつ、その上に乗ることが正しいと思うんですけれども、タイトルによっては再現の難しい音色が次々と現われたりするので、現在進行形でガンガン向上させているんですよ。というのは、ギガドライブにも3D復刻プロジェクトにも言えることですが、開発中の初期タイトルの音を実際に聴くまでは、どの程度オリジナルの音を再現できているのか知らなかった……つまり、聴くことで知ってしまったんです、いろいろと。で、フタを開けてしまった以上、サウンド監修の役割というのは明確で、知識や方法についてスタッフとキャッチボールしつつ、とにかく再現性向上のために行動すること。まずは、「サウンドの再現レベル、これでいいんですかね?」と……社内で物議を醸して、弊社ディレクターやプログラマーからいかにもメンドくさそうな視線を浴びるところから(笑)。
でもディレクターも、ギガドライブの「サウンド設定」の「バランスサンプル」で、メガドライブとメガドライブ2それぞれの音の違いを再現で試みる、というマニアック極まりない仕様で、僕を悩ませた張本人だったりと……まあ、カオスな状況で(苦笑)。話を戻しますが、まずはそんな中でスタートを切りつつ、FM音源、DAC(PCM)、DCSG(PSG)といった当時メガドライブが誇った高性能なサウンドスペックをニンテンドー3DS上で再現したギガドライブにおいて、先にお話したようにまだまだ向上の余地のあるサウンド演奏の再現性について、スタッフの力を借りつつタイトルを重ねるごとに、あらゆる手段を講じて向上を目指してきた感じです。
堀井氏:毎回本当に時間との戦いで「音の再現度以前にまず全体の仕様ができてない!」と慌てる日常で時間を取るのも死に物狂いなんですが、並木さんに入ってもらってから、ネット上においては、「サウンドの再現性が……」という話を見かけなくなりましたね。本当によかったです。
奥成氏:「ベア・ナックル」に関しては、実は私が1番最初に納得してなかったんですよ。最初に手がけたWiiのバーチャルコンソールで、次にプレイステーション 3やXbox 360の「SEGA AGES ONLINE」でもサウンドの再現性では一部再現度に難のある曲があって。3回やって実現できなかったので、「もう、古代さんの音楽をエミュレーションでは再現できないんだろうな」と僕は思っていました。具体的には特に3面なんですけれども。何度ダメ出しをしても、一向にあの音だけは再現度が上がらなくて……。
並木氏:リズムパーカッションのコンガの音色ですか?
奥成氏:イントロ全体ですね。やっぱり。スネアの音からですね。
並木氏:なるほど。今回「3D ベア・ナックル」でサウンドの再現性を高めるにあたっては、その前に再現の難しかった「3D 獣王記」、「3D ザ・スーパー忍II」や「3D エコー」があって、ステップを経て1タイトルずつ、ギガドライブのFM音源としてのクオリティを追求してこれたから、その集大成として「3D ベア・ナックル」を向上できるのではないか……というのが開発中の思惑だったんですけれども、古代さんはやはりさすがで、「ベア・ナックル」ではFM音源をかなりピーキーな使い方をされていて……先ほどのコンガや、エレキギターのカッティング、そして何よりハウスビートの要となる、リズムマシン調のバスドラムやハイハットやスネアドラムといった打楽器類。そういった楽器群を制約のあるFM音源上で表現するといったピーキーな使い方というのは、ある意味、「ソニック」のようにシンプルな再現性で済んでいたタイトルと比べると、音色として、全然再現レベルの違う結果になったんですね。
実際、「3D ソニック」ではFM音源とPCMとPSGの出力バランスをメガドライブ実機から何度も測定して再現を試みたり、「3D 獣王記」ではFM音源の効果音モードの再現の抜本的な向上や、フィルタを実装してメガドライブ(とメガドライブ2)っぽい音質に調整したりと、本当にコツコツ試行錯誤しつつやってきた実績もあった分、またしても壁にぶつかってしまったのは、なかなかにショックでした。
そこで、「3D ベア・ナックル」においても引き続き、プログラマーの齊藤と一緒にピンポイントで追い込むということを沢山やりまして。再現性を高めるには、具体的にどの音色がどんな理由で音が似ないのか、というのを指摘できたり追及できたりという人材が必要なんですよね。でも、そんな人は中々いないので、自分がひと肌脱ぐしかない、という形なんですが、ただ、実際にFM音源部分のコア(プログラム)を書いている斎藤と意思疎通をしながら、すごく抽象的な表現でしかコミュニケーションしずらい「音色」というものに対して、再現性を高めていくというのは、いまだに至難の仕事ではありますね。
「このキューンっていう音色の高音部分がとんがっているのは、もうちょっと丸くならない?」とか、逆に「この効果音の音色は丸すぎるんだけど、とんがらせられない?」といった言葉だけでプログラマーと会話をするだけでは、再現性を高めるという意味ではあまりに漠然とし過ぎていて限界があるので、そのうち、FM音源のレジスタのパラメーターや録音した波形などを、まるでどこかのゲームのように証拠として突きつけていくんですよ(笑)。そうすると、やっとプログラマーも重い腰を上げてレジスタのパラメーターが最終的に波形として出力される時に、どういうプロセスを通って演算された結果、その音色に相違が生じるか、という部分を追求してもらえるんですね。
――話はそこまで行っちゃうんですね。
並木氏:例えば、会社で僕がオシロスコープで測定したものを見ながら、「ここの位相がずれているのが原因じゃないか」というような形までやれれば理想的なのかもしれませんが、そこまでの領域は環境的にも許されない状況なので、なんとかプログラマーとのコミュニケーション技術を磨きながら、僕のほうでひたすら測定・検証してデータを集めて証拠を突きつける……そしてお互いキャッチボールをし続ける、といった泥くさいやり方でギガドライブタイトルの再現性は高まっていると。
実はCPU的に余力のあったWiiやPS3、Xbox 360より、ガッチガチに「これ以上(CPUパワーを)使ったら処理落ちする」ぐらいの状況になっている3DSにおいて、「ベア・ナックル」のサウンドの再現性が最高に高まったというのが、かなり皮肉めいていて(笑)面白かったなー、と振り返ります。
堀井氏:そうだねー。
並木氏:つまり、やればできるんですよ。
堀井氏:それだ!(一同笑)
並木氏:だけど、3DSで今、あの「ベア・ナックル」のサウンドが鳴っているのはかなり奇跡的な状況である、ということはいろんな意味で言えますね。そこは、「3D ギャラクシーフォースII」のメインプログラムやその他もろもろを抱えた困難な状況においても根気よくFM音源コアや僕と向き合ってくれたプログラマーの齊藤と、そういった苦しい状況を察しつつもサウンド再現向上のための時間確保を認めてくれたディレクターの松岡といった、弊社スタッフの協力のおかげです。ぜひ、その成果を「3D ベア・ナックル」を遊んでいただきつつ、プレーヤーの皆さんの耳で確認してほしいですね。
堀井氏:本当に、「やればできる」なんですよね。わけもわからず放置しているところはすべて掘り返す。掘り返すと、何かしらの理由とか、意図が出てくるという。
――なるほど! それでは並木さん、ありがとうございました。