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会場:Anaheim Hilton
大阪イベントではじっくり話を伺う時間が取れなかったため、11月16日と17日の両日、米国カリフォルニア州アナハイムで実施された「FINAL FANTASY XI Fan Festival 2007」の会期中に運営チームトップのSage Sundi氏率いるスペシャルタスクチームへのインタビューを行なった。
質問内容としては、STTの1年間の活動の軌跡、「RMT根絶」の根拠、そして近年、RMTと絡んで大きな問題となりつつあるアカウントハッキング問題、ウィンドウモードに絡めた形での各種ツール利用の是非、RMT活動のトレンドなどなど。例によってロングインタビューとなっているが、STTの活動が最終的に次世代MMORPGへと繋がっていくことなど、非常に興味深い話を聞くことができたのでぜひ最後まで一読いただきたい。 ■ スペシャルタスクチーム1周年。この1年間の取り組みと手応え 編集部: 「ファイナルファンタジー XI」でのRMTへの取り締まりを目的に設立されたスペシャルタスクチーム(STT)が、昨年10月に設立されてから早くも1年が経過しました。まずはこの1年間の取り組みと手応えを聞かせてください。
その時に立てた目標は、今のところほぼ9割近く達成できたかなと思っています。ただ、そこで見えていなかったいろんな問題が、より多く出てきたという面もあります。そういう1年だったと思います。 田中弘道氏: 5年前に「FF XI」をスタートした頃は、今ほど業者的な、集団による意図的な操作はなかったのですが、この5年間で爆発的に増大し、それがこの1年で一気に排除できたというのは大きかった。1年前の状況はこのまま放置して行くと、いろいろなユーザーさんにとって不利益になって行く瀬戸際の部分だったと思っています。かなり満足できる結果になりました。すでに発表していますが、9割のハンターが「FF XI」から去ったのでだいぶ浄化されたかなと。RMTが減ったから戻ってきてくれるユーザーさんというのもけっこう見受けられますね。 Sundi氏: イベントなどでユーザーの方と直接お話しする機会があるたびに、「RMTどうにかしないんですか?」とずっと言われ続けてきましたのですが、最近では「ありがとう」や「期待しているよ」などの優しい言葉を頂けることが多く、評価されてる部分もあるのかもしれないと実感できるようになりました。 編: 室内さんは過去にロンドンやロサンゼルスで取材させていただいて、海外担当というイメージが強かったのですが、いつのまにかSSTの責任者になられていて驚きました(笑)。実際、SSTでは業務レベルでどういったことをやられていったのですか? 室内俊夫氏: ちょうど1年前に始めた頃、「まずは目標をしっかり立てましょう」となったので、どこから手をつけるかを考えました。「RMTを何とかしてください」という声がユーザーからのわかりやすい声としてありますが、最終的に排除しなければいけないのは何か。例えば、RMTサイトを潰すなんてことはウチが頑張ってどうにかできることではないのです。 「では本質はなんだろうか?」という部分をかなりディスカッションしました。その結果、狩場からギルを稼ぐために乱獲や占領をする人たちが居なくなれば、みんなが楽しく遊べるんじゃないのか? というのが見えてきたんです。「じゃあ、まずはハンターからだね」となって、まずはハンターから手をつけたというのがあります。 Sundi氏: いつも言う“捜査会議”だよね。 田中氏: 結局、その大本のところを根絶やしにすると、たとえばRMTサイトで「FF XI」のギルを商品として載っていたりするんですけど、実際そこで注文を出しても買えないんですよね。在庫が無いということで、今では形骸化しているんですよ、あるように見えて実はもうない。 Sundi氏: 他社タイトルの通貨を売っているので、まだ一応「FF XI」という看板を掲げているんだと思いますが、実際には買えないはずですよ。 編: 確かにこの1年間で、目に見える形で結果をしっかり出しました。これはユーザーの立場から見て、世界でもっとも模範的なことをやっていると評価できる部分だと思います。 Sundi氏: すごい痛い思いをして、費用をかけてやっている部分ではあります。MMOをやっていない人から見たMMO業界は「RMTを肯定してもいいんじゃないの?」という流れもあるように見えるらしいのですが、ユーザー側はそんなことを欠片も思っていなくて、そういった思いをちゃんと受け止めていればできることだと思うんですよね。 田中氏: ともすれば、一部だけとはいえ需要があって供給があって、法律的にも違反していないというところで、どこから手をつければいいのか、違法行為でない以上警察は取り締まってくれないし、じゃどこまでできるのかというのがあって……。 Sundi氏: 法務との長い長い話し合い……。 室内氏: 話し合いというか戦いですよね(笑)。 田中氏: どこまでだったらできるのか。 Sundi氏: 運営側から見ても、法的にも何も違反していない人をいきなり強制退会というわけにはいかないので、そこがまず最初の問題でしたね。 編: 他社さんの対応に比べると、刑事事件にまで一気に持って行かないあたりが違いなのかなと見ています。他パブリッシャーさんの場合だと、最初のアウトプットが逮捕のニュースだったりしますが、そういうケースはないですよね。 田中氏: もちろん、IDやパスワードを盗まれたという盗難届けによって警察が動くことはあります。 Sundi氏: 国によっては対応内容が異なりますが、STTには警察当局との交渉を行なう専門のメンバーが居て、不正行為などではもちろん直接の対応を行なっています。 田中氏: ただ、警察も所轄によって解釈が微妙に違ったりするので、ユーザーさんが被害者ということもある一方で、電算機を持ってるメーカーが被害者だというのもあって、ユーザーさんが訴えた場合、ウチが被害届を出さなければいけないという……。 編: 大きな費用をかけてという話ですが、実際どのぐらいの予算や規模でやっているのですか? Sundi氏: いや、ほとんど人件費ですけどね。人の頭数という部分がほとんどです。他社さんの牽制のためにも詳しくは秘密にしておきたいですけどね(笑)。 編: 少なくとも国内で最大規模の対策チームがあるというのは想像できますが、そのイメージどおりでいいですか? Sundi氏: 作業量としては世界一だと思っています。規模というより作業量で図ったほうがわかりやすいとは思います。 編: GMの作業の延長線上ではなく、あくまで独立したものと? Sundi氏: そうです。ただ、プレーヤーの行動や通貨の流れのデータなどの記録ログの細かいチェックになるので、STTメンバーの多くが仕事内容の近いGM出身者ということになります。ただ、GMの仕事は完全に抜いた状態で移籍させてやっています。
■ “RMT業者”とは何者なのか? 彼らの実態に迫る
Sundi氏: 累積処罰数で言えば、87,000~88,000アカウントですね。 編: しかし、それはさすがにユニークの人数とはかけ離れた数字ですよね、再犯者も多いでしょうし。 Sundi氏: そうですね。RMT業者に関しては、小さいチームでは5アカウントぐらいのものから、大きいものは200アカウントぐらいの大きい組織もありました。そういう組織は、ハンター、金庫、運び屋さんという風に分業化されていて、200アカウント規模で構成されています。そういうのを全部含めてRMT業者の数は、100居るか居ないかぐらいですね。 編: 200アカウントとなると、もう一種のマフィアみたいなものですよね。 Sundi氏: いやいや、単なる労働集団(笑)。 田中氏: 会社なんでしょうねきっと(笑)。普通に出てきてタイムカードを押して、こつこつ働くみたいな、以前どこかのテレビで見たような風景なんだと思うんですよね。 編: TVで中国のRMT業者の状況が放送されたりしましたが、ああいうイメージですか。 Sundi氏: 結局、集団というより業界なんですよ。業界同士の繋がりもあるので、労働力は共有されていたりするわけです。で、1グループで200人と思っていたところ、「あれ、このグループとあっちは同じ労働集団使ってない?」という風に繋がったりとかで、資金源って大きく分けると3~4種類しかなかったりするんですよ。ちっちゃいところは別としてね。 編: それは共通のオーナーのもとでビジネスをしているということですか? Sundi氏: オーナーではなく、共通の巨大金庫を使っています。巨大労働者集団が持つ巨大金庫を、いろいろなRMT業者が資金源として使っているという構図です。 室内氏: RMTを行なっているサイトで、そのギルをどこから仕入れているのかをたどって行くと、実はどこも同じだったという。 Sundi氏: 日本の業者もアメリカの業者も、中国の業者も実は金庫が一緒でした。というのがあったんです。 編: はあ、なるほど。汎用のプロダクションというのが存在し、そこが一手に“ギルの生産”を引き受けていたというシナリオですか。 室内氏: どこまでが汎用と意識されているかは、私たちにはわかりませんけど、たどって行くと「ああ、実はいっしょなんじゃん」という事実があったりします。よくRMTサイトの言い分として、自分たちが売っているギルは「真面目に稼いだもので、決して汚いカネじゃないんです」っていう(笑)。でも「いやいや、それ出所は一緒なんで」っていう話ですよ。 Sundi氏: 大きく見ると、中国系とアメリカ系という2つの大きいところがあるように見えるんですけど、そこも完全にかぶってますよね。 編: やはり日本人のハンターというのは少数派ですか? Sundi氏: 日本人のハンターって少ないですよね。小売や仲介ばかりで。一部はいますけどね。 田中氏: IPから見るとプロクシとか常用しているので見かけ上はありとあらゆる国からだし、アカウント自体は北米なんですよね。実際の労働集団がいる国はわからないようになっている。 編: 検挙率9割とはいえ、再犯率もかなり高そうですが、どれぐらいだと見ていますか? Sundi氏: パーセンテージでは見てないですけど、感覚的に言うと「みんな帰って来てんじゃね?」って思うぐらい帰ってきてますね(笑)。 田中氏: 毎月減るんですよ。でも毎月帰ってくるという(笑)。ただ、それを繰り返してるとキャラクタのレベルはどんどん低くなるし、だんだんあきらめて戻ってこなくなるんですよ。 室内氏: 狩場のハンターの場合は、活動するにはそれなりにキャラクタが育っていないといけないわけですからね。向こうの成長を追い越すぐらいの勢いでやっていかないと負けちゃいますから。今はそれが9割まで押さえ込めた状態で続けているという状況です。 Sundi氏: ただ、普通にレベリング、PLしている分にはいいと思っているんですよ。プレイしているだけなんで。でも、やっと育ってRMT活動を始めたとたんにパチンと強制退会されちゃうんで、さすがにやっているほうも辛くなってくるんじゃないかと思いますね。その反動で、今度は低レベルでできることで稼ごうとしてみたりとか。 田中氏: 一時期、低レベルでもできる釣りによる資金稼ぎがバッと増えましたよね。 編: 釣りに関しても、たとえば寿司の値段が処理前と処理後でだいぶ値段が変わったり、彼らが与えた影響はいまだに残り続けているという印象があるのですが。 田中氏: ありますよね。一時的なものといいながらも残っているのはあると思います。ただ、もともとが異常な状態であったわけで、そのときから見れば確かに影響はありますが、ある意味正常な状態に戻りつつあるとも取れます。ただ、あまりにひどくなればいつでも調整を入れますよとは開発スタッフも言っていますし、そろそろやんなきゃねとも思っています。 編: エンドユーザーのレベルで見ると、わかりやすい例だと街中でのシャウトがありますよね、露骨なやつ(笑)。あれがなくなったことで、ずいぶんRMTが減った感覚があります。 田中氏: あれはユーザーからの声を直接メールフォームで取るようにしたので、そのときに結構多かった。わかりやすくするためにSTTを作ったんで、わかりやすい対応をしたほうがいいよねということで、ピンポイントでシャウトをたどりました。そのままハンターにつながるんですよね、結果としてごっそりと捕まえることができました(笑)。 編: あと、最近見かけたのが、まったく同じ装備をした黒魔道士のタルタルが集団でバトルフィールド戦の連戦を繰り返すという。これもやはりRMTに繋がっているのではないですか? Sundi氏: それ自体はいいんですよ。誰にも迷惑をかけていないし、規約違反にも掛からないならよろしいんじゃないんですかと思うんです。 田中氏: 見分けがつかないところがありますからね。一般ユーザーと。 Sundi氏: ただ、一般ユーザーが気持ち悪がり始めると、いっぱいクレームが来てしまうので、そうなって初めて「じゃ、見てみようか」となります。迷惑をかけなければ問題ないレベルです。 編: その際の報酬は両手武器つけるアタッチメントでした。あれがバトルフィールドに追加された直後にものすごい量の黒タル集団が出てきて、シャウトはなくなったけどまだやっぱり居るんだなぁと思いました。 Sundi氏: 居ましたね(笑)。何かトレンドが発生したら調査する期間が欲しいんですよ。その間はどうしても目立ってしまうのはあります。ただ、毎月対処をしているので、早くて1カ月、遅くとも3カ月ぐらいで対処できてきているとは思います。
■ STTと開発チームの協力体制について、「RMT根絶」とは何を意味するのか
田中氏: ほかのゲームも上級装備っていうのはそうなんじゃないかと思いますけどね。でも、付け入るところがあると必ず発生するのがRMTだと思います。 Sundi氏: どういう風に防いでもあの人たちは来るんだと思うんですよ。だからシステム的に締めていかなきゃいけないのですが、システム的な改良で取り締まろうと思うと、人がいないと無理なんですよね。「開発のほうでここを変えてくれないかな? そうすると一気に減るんですよ」という相談はしています。STTと開発、どちらでやったほうが早いか、SSTでやったほうが早いのか、開発でゴブリンを出しましょうかとか、そういう部分は分けて上手く協力し合いながらですね。もちろん捜査会議はSTTのほうでやりますけど、それとは別に開発の話し合いは結構な量やっています。 編: 大阪の発表の中で「STTの活動はログとの戦いだ」とおっしゃっていましたが、実際ずーっと追っかけているんですか? Sundi氏: もちろん目だけじゃないですよ。プログラムを使ってパースしたりもしています。ログを見ながら「今、何が流行りそうになっているのか」というトレンドを探しているんです。そのためにはアイテムやギルの流れのログを見るということが重要になってきますね。 田中氏: そのときどきで新しい手法が生み出されるので、それに対するログは取れないわけですよ。だから何か怪しいことがあればすぐにプログラムに新しく検出機能を追加して調べましょうという形で手を広げています。 Sundi氏: 会話ログを見ながら、何が起きているんだろう? というわけじゃなくいわゆる行動のログですよね。今度は「あれ、これは仕様上絶対にありえないログじゃない?」というのも出てくるわけですよ。で、「これはチートなんじゃないか?」という疑いが出てきて調べてみたりとか。たとえば、釣りを通報するときのログが「なぜ、必ずこの秒数単位で来るんだろう?」とそういう意味ですよね。 編: 大阪のイベントでは「来年には根絶する」と言われてましたが、その発言の根拠は何ですか? Sundi氏: 根拠はありません(笑)。あるのは決意だと思うんですよ。1年前と同じで。 田中氏: ただ、今の調子でやって行けば、今の問題は根絶できるねと思うんです。しかし、そうなると彼らはまた違うことをやってくる。 Sundi氏: 「いたちごっこになりますよ田中さん。でも、これはやるしかないんです!」って最初に言ってあったんですよ。しょうがないと思ってますよ。 田中氏: NMのときも何か問題があって手を入れた場合、それがどう分散して行くかというのは、僕らも不安だったんですよ。案の定、ほかに問題が発生してそれが飛び火したりして、今まで顕在化していなかったことがいろいろ出てくると。で、今度はそれを潰すと、彼らはまた違うところで、新しい商売を始めようとする。もう根比べですよね。 Sundi氏: 夏ぐらいまではいろんな手法が出てきたんですけど、最近出てこないんです。出てくるのは新しいチートなんですよね。さすがに手詰まりになってきたのかなという印象があります。 編: チートというと、昔はスピードハックみたいな露骨なものがありましたが、最近ではどういうものがあるんでしょう? Sundi氏: 一発勝負が多いですね。完全チート、ログに出るのがわかってるんですけど、「それさえ取れれば」っていう一発を狙ってくるのが多いですね。 編: それは何を狙ってやるわけですか? Sundi氏: たとえば、ワープしまくって繰り返しクエストをこなすとか。 編: それは、確実につかまりますよね? Sundi氏: そうです。だから、どんどん金を流すわけです。 室内氏: 向こうからすれば、うちらに捕まるまでが勝負なので、とにかくやりまくって、どこかに送金して、一気に売ってしまおうというスピード勝負ですよね。 田中氏: でも、私たちは送った先も全部把握できるので、根こそぎいけると(笑)。 編: 1日足らずで生産から販売まで全部やっちゃえという勢いなんですね(笑)。焦りが感じられるエピソードですね。 Sundi氏: 破れかぶれというか。そうなると一般ユーザーに対する迷惑度合いが深刻になる可能性もありますが、確実に捕まえられます。そういう意味では末期の状態に入ってきているのかなと。 編: なるほど。RMT対策はもう最後の大詰めを迎えていると? Sundi氏: そうですね、あとはあきらめてくれるのを待つというのが最終的になると思うんです。「もう、『FF XI』やっていても儲からない」というのを理解して欲しいなと。 編: 昔はRMTで食ってる人間っていうのは、結構居たように思いますが、「FF XI」に限っては無理になってますよね。 Sundi氏: 規約の下をくぐって儲ける方法はもうないでしょう。あとは、不正行為に逃げるか、ほんとに安い人件費を使って人海戦術で強制退会されるまでに、ちょっとだけ稼ぐ程度でしょう。 室内氏: ログを追っかけていたら一回変なのがあったんですよ。注文が入ると、金庫に取りにいくんじゃなくて、その場で釣りをやってお金を作り始めたっていうのが(笑)。まさしく、自転車操業状態ですよね。 編: 実は冬眠しているだけということはないんですか? 「STTの活動が縮小するまで5年ぐらい眠らせるか」みたいな(笑)。 室内氏: 1年前はほんとに月1回対処をしていた時期があって、もう読み合いが始まるんですよ。あ、第三週か第四週に手入れをするのかな? と読まれるとその前に膨大な量のギルが動くという(笑)。こちらにはその動きが全部見えてるので意味ないんですけど、手の込んだことをしているなぁと。 Sundi氏: 最初のころは、バンバン隠し金庫が出てきたよね。この金庫を潰して、終わったと思ったらまた大きい金庫が出てくるという。「まだ持ってたんだ」だって。最近は出てこなくなりましたけどね。 田中氏: 私たちとしては、逆にお金を送ってもらうと全部分かってありがたいという(笑)。 編: 仮に来年ほとんど根絶に近いところまでいくとします。その後の活動というのはどうなりますか? Sundi氏: 本当に根絶したらSTTは解散しようと思います。それはもともと田中さんと約束していたことであり、次世代のMMORPGを考える上でもコミュニティはきれいにしておきたいという田中さんの考えもありますしね。逆に言うと、早く解散したいんです(笑) 室内氏: STTが居ないですむなら、それに越したことはないですからね。 Sundi氏: GMも同じで、GMが居なくてすむならそれはいいコミュニティなわけですよ。それが一番いいんだと思います。 編: 根絶したと判断する基準は何ですか? システム的な防御策の整備? 業者のRMT活動の完全停止? Sundi氏: 両方とも含めてですよね。どちらも必要なく、だれもRMTをしようと思わなくなる世界であればね。無いに越したことはないチームなんですよ。 田中氏: 大きいところでは、過去に釣りに関しても自動化ツールが出ましたが、システム自体を変えました。実は裏ではいろいろ変えている部分はあります。 Sundi氏: 実際のところ、システムで取り締まらなきゃいけないという状況があるならば、きっとSTTも必要なんだと思います。その仕組みを編み出すよりはユーザーの拾って伝えて行くという仕事はどうしても残りますからね。
■ アカウントハックの防ぎ方と救済プランについて
Sundi氏: STTと不正アクセスに対するチームって実は同じなんですよ。なので、被害者に対するサポートというのは、最初カスタマーサポートからですけど、それ以降の部分はSTTで考えてます。 でも、現実問題としてできることは少ないんですよ、やられてしまったら最後と。不正アクセスで被害を受けたアイテムはログが引ける限りは返すというのはやっていますけど、やはり自衛をしていただきたいというのは根っこにあります。 田中氏: 銀行の暗証番号と一緒で、パスワードを他人には教えないとか、生年月日を使うなとか、ほんとに基本的な部分ですよね。 編: わかりやすい被害例としては、アカウントハックされて、勝手にログインされて、持っていたギルやアイテムを売られてひどい有様になっていたと。この被害は、救済はないのですか? Sundi氏: アイテムが消されている場合、あるいは渡ったアカウントがバンされている場合というのは、救済ができます。それをせずに盗られたものを全部返すということになると、それは本来そのワールドに存在しなかったものを作り出すことになります。それをやるとゲームバランスがおかしくなってきちゃう。それはさすがにできない。取り戻して、本来の持ち主に返すことはできるという考え方です。 編: クレジットカードが代表的ですが、現実世界では盗難にあったときのためにいくつかのセイフティネットがありますよね。オンラインゲームもまたそういう時代に入りつつあるのかなと感じましたが。 Sundi氏: そうですね、ただ、家に泥棒が入ってテレビを取られたとしてもメーカーは返してくれないですよね。保険屋さんが返してくれる。 編: ええ、ですから、オンラインゲームにおける保険業というのが、現実味を帯びてきたというか、すでにニーズがあると思うんですよね。 田中氏: ウチも保険屋さんをそろそろ……。 Sundi氏: じゃあ子会社作りますか! 田中氏: サンディ・インシュアランス?(笑)。 編: たとえば1カ月50円、100円で、トラブルが発生した際に救済が可能になるなら、その安心を買う人は多いと思うんですよね。 田中氏: まぁ、トラブルの種類が日々移り変わっているので、何が起こるかわからないんですよ。ゲーム内の事だったらなんとかなると思うんですけどね。この間、規約を変えて1回までは綺麗に回復させましょうということになりましたね。 Sundi氏: でも、それも複製をしない範囲でというものだけなんですね。複製を繰り返すと、もともとのゲームがおかしくなるのでそれだけは無しですね。 編: あまりないケースだと思うんですけど、今まで不正利用をしていた人やRMTをどんどん利用していた人が、一種の改心をして新たなコミュニティリーダーになったという例はないんですか? 田中氏: まぁ、改心するときはアカウントごと作り変えちゃっているので、その辺は正直わからないですね。 室内氏: ゲーム的には“別人”ですね、完全に。 Sundi氏: まぁ、犯罪を犯しているわけじゃないので、改心というのも変だと思いますが(笑)。 編: 表現が難しいですが、RMTを利用する人たちって、フレンドとのコミュニケーションをはじめとする、オンラインゲームの楽しさの部分をまともに味わえていないと思うんです。ギルを売ってお金を稼ぐ、お金で買ったギルを使う作業ばかり続けていて、ゲームとして楽しいはずがないと思うんですよ。 Sundi氏: そうですね。レベル75のアカウントを買ってきてほんとうに楽しめるのかな? という部分ですよね。そういう風な設計はしてないですから、あんまり本人は面白くないでしょうね。
■ 各種ツール利用の是非を聞く、PS2のサポートは永続させる方針
Sundi氏: 対策というか、別にウィンドウモードだからチートツールがあるわけではなく、フルスクリーンでもあるわけで、私はそんなに差は感じませんね。ユーザーはツールをダウンロードしてきて、書いてあるとおりのことを実行するだけなんで、不正はウィンドウモードに限らずだとおもいます。 田中氏: やる人はどんな状態でもやってくるんで、そういう意味ではいまさらという感はありますよね(笑)。ウィンドウモードはユーザーからの希望も多かったですし、Windowsで動くアプリケーションである以上、ウィンドウ表示にできなきゃいけないとも思いますしね。 編: ウィンドウ表示化ツールは、欧米ではもともと結構ポピュラーな存在だったと思うんですが、あれは黙認していたのですか? Sundi氏: 厳密に言えば処罰対象です。規約的には使ってもらっては困るものです。 田中氏: あれは非常に危険なツールに成りうるので、ユーザー保護の観点から使って欲しくないという側面が大きいですね。要はアプリケーションの挙動を無視してOSレベルでハックしているので、そこにキーロガーやトロイの木馬を仕込んでみたりということが非常にやりやすいツールなんです。そうすると、「FF XI」に限らず、銀行の暗証番号を盗まれたりと危険性が高い。現実にそういうツールが出回っている可能性が高いので使わないに越したことは無いと。 Sundi氏: それだったら、ウチで用意しますよというのが今回のウィンドウ表示モードということです。 編: あと、これも欧米で多いですが、明らかにデータをハックしたような高機能のGUI改良ツールがありますよね。たとえばアライアンスメンバーのMPを表示するみたいな。こちらに関しては規制対象になるのではないですか? Sundi氏: いえ。それはあくまでも使っている人のアドバンテージですよね。それが周りに迷惑をかけるならば対処する必要はあるんですが、迷惑が掛からないものであれば、そこに力を注ぐより、RMTのような迷惑をかけるようなものの対処が先だと思うんです。 田中氏: 規約違反者を処分する目的としては、ほかのユーザーに迷惑をかける行為を取り締まるっていうことがメインで、僕らとしてはユーザー保護の観点から使わないほうがいいですよというスタンスです。 Sundi氏: メーカーとしては、仮に便利であってもどうぞとは言いにくいですよね。 田中氏: ええ。みんなが善意のツールを作ってくれてるわけではない。中には怪しいものや、もとは綺麗なものだったツールを改造して、同じものとして配布しているケースもある。そこにはいろんな危険があるということは理解して欲しいです。 編: 今回、ウィンドウ表示モードが実現して、今後もっといろいろ期待できるのかなという欲が出てきたのですが、先ほどのGUIまわりの改良は今後ありえますか? Sundi氏: アドバンテージになること事態はそんなに問題では無い気がするんですが、それを多用したりハックして、RMT業者が増えるという部分もあると思うんですね。むしろ私はそういうところが怖いですね。 編: Sundiさんは、「EverQuest II」日本語版のプロデューサーをやられていたのでよくご存知と思うんですが、最近の欧米産MMORPGのGUIは非常にカスタマイズ性が高いものが多いですよね。「FF XI」で今後GUIの強化が図られる可能性はありますか? 田中氏: 「FF XI」の場合はPS2がもともとあったので、ウィンドウに関しても極力カスタマイズなどでユーザーの難易度を上げたくない、コンシューマーの観点からするとあまりやりたくないというのがありましたね。Windows版のMMORPGとしては物足りない部分があるのは確かですが、「FF XI」としてはあまり手を入れるつもりはありません。 編: それでは、PS2のサポートって言うのは「FF XI」が続く限りやっていくと。 田中氏: そうですね、実際ユーザーさんも凄く多いんです。さっきコミュニティサイトの人に合いましたが、2人ともPS2で遊んでいると言っていました。アメリカでも多いみたいですからね。
■ 最近の不正行為活動の傾向と対策について
Sundi氏: やっぱり不正行為ですかね、RMTそのものじゃないですけど、RMTがらみっぽい不正アクセスが増えている気がします。 編: RMT以外の不正アクセスがあるのですか、その目的は何です? 田中氏: 以外というのはないですね、やはり最終的にはお金が目的。 Sundi氏: “のっとり”っていうのも結構ありますね。完全にアカウントをかっぱらうというものです。アカウントハックして全アカウント情報を盗み、全部自分の情報に書き換えるという。もともと欧米で多いんですけど、日本でも増えてきています。 編: それを防ぐために注意すべきことは何ですか? Sundi氏: やっぱり、簡単なパスワードにしないとかのハックされない対策を取ることです。インターネットセキュリティをしっかりして欲しいですね。おそらく乗っ取られる人はなんかしちゃったんですよ。何かをダブルクリックしちゃったとか、変なサイトへ行っちゃったとか。普通と変わらないですよね、自衛手段は。 室内氏: そういう意味で言えば、パスワードを変えるとか、長めにするなどの対策をやるべきじゃないかと。 田中氏: マメなウィルススキャンとOSのアップデートは欠かさないでくださいという感じですね。普通にちゃんとしたウィルス対策ソフトを入れてOSを最新の状態にしてあるんならまず大丈夫だと思うんですよ。その場ですぐにアラートも出るはずですしね。 Sundi氏: あと多いのは「IDとパスワードを教えちゃった」っていうのですかね。友達だと思っていたのでというような。 編: その辺はネットカフェで特に多い被害ですよね。たぶん「XI」も今後そういった被害が増えて行くんじゃないかと思いますが。 Sundi氏: ネットカフェでは、ツールを配って対処しています。 田中氏: 店側のオペレーションとして、ユーザーが遊んだ後はそのツールで情報を全部消してくださいと。ユーザーさんには必ずGuestでログインしてくださいということをお願いしています。 編: この秋から「FF XI」でネットカフェ向けのサービスを開始しましたけど、それがRMTを助長することにならないかという懸念があります。実際、この点はいかがですか? Sundi氏: ネットカフェは日本だけの話ですし、単価的にはネットカフェのほうが掛かるんじゃないんですか? 編: メリットとして捨てアカウントでできるというのがあると思いますが。 Sundi氏: でも、普通にパッケージ買ってきてもそれはできるわけで、あんまり変わらないと思います。 田中氏: 商売としてやろうと思ったら固定の自分のアカウントでやったほうが、元手は安いですよね。 Sundi氏: もう、うちも商売始められるぐらいノウハウは溜まりましたんで(笑)。そういう意味ではネットカフェでRMTはきついと思いますよ。
■ 今後の目標は個人取引の撲滅と、次世代MMORPGに向けたコミュニティの浄化
Sundi氏: うーん、これは言いにくいな(笑)。ヒントを言うならRMTの亜種ですね。あとは業者ではなく仲介者。ユーザー間の取引、CtoCの部分ですね。eBayやYahoo!だったり、あとはもう少し小さいタイプの仲介業者。これらは個人ベースで売ろうとしている人たちを仲介してしまうので、それに集団活動をしていないので私たちとしてもやりにくい。捕まえる相手が業者ではなく一般ユーザーになってしまうので、CtoCの部分はやりにくいなという印象はありますね。 編: ということは逆に言うと、ホームページで販売を行なっているようなRMT専門の業者はもはや怖くはないと? Sundi氏: そうです。eBayは彼ら自身がRMTの売買をやめますという宣言をしているので、やりやすいですね。また、アメリカのYahoo!にしても私たちが依頼すれば出品を取り消せるんですね。でも、日本はオークションサイトはぜんぜんやってくれないですね。いくら言っても彼らの規約違反じゃないのでという理由でね。 編: 日本でRMTを認めているオンラインゲームというのはほとんど無いと思うんですが、実際のRMT利用率というのはまさに千差万別で、「FF XI」のように厳しいものもあれば、やったもん勝ちの無法状態のものもあります。来年のRMT業界はどうなっていると見ていますか? Sundi氏: RMTは減らないんじゃないんですかね。ほかのゲームに行くだけで。うちはうちだけちゃんとしてくれれば……とは言いませんけど(笑)。とりあえずSTTは「FF XI」を守りたいと。 編: たとえば、韓国はアイテム課金がビジネスモデルとして定着していて、わざわざRMTをやる必要が無いんですよね。お金の支払先がRMT業者から、メーカーに変わっているだけだという。そうなるとRMT業者は商売を諦めざるを得ない。 田中氏: アイテム課金は顧客単価は凄く上がるんですが、短期間でユーザー数がドーッと減って行くという諸刃の剣ですね。作品の寿命も短くなる。 編: それもあって、韓国でもそうですが、月額制のタイトルがいよいよ「RMTの聖地」になっているわけです。「FF XI」は月額制のメジャータイトルですから今後も継続して狙われるということになりそうですよね。 Sundi氏: そうなんですよね。まぁ、「World of Warcraft」がありますから、そちらにどうぞと(笑)。彼らもたまに「何千アカウント停止しました」ってやってますよね。たまにですけど。 田中氏: まぁ、Blizzardが本気を出したらどうなるかというのは見てみたいですね。 編: そういった大手メーカー同士の情報交換というのは? Sundi氏: ありますよ。情報交換会みたいなのをメーカー同士でやってますね。話し合いというレベルまで突っ込んでないですけど、MMORPGを持ってる日本のメーカー同士で話し合ってというのはあります。 田中氏: まぁ、知り合いが多いというのもありますね。もともとウチでやっていた人がVivendiでやっていたりするんで、情報交換する機会はあります。たとえばある業者さんが「うちは、Blizzardからお墨付きをもらったんで、『FF XI』もやらせてくれないか」というオファーを受けたことはあるんですが、彼に「ホントなの?」って聞いたら、「そんなことあるわけが無い」と(笑)。 編: やっぱり、大手業者っていうのは「World of Warcraft」でもやるし、「XI」でもやるしと全タイトルを扱うことが基本なんですよね。 Sundi氏: そうですね。「FF XI」で多少の損をしてでも品揃えを持ってることのほうが重要なのかもしれませんね。 編: そこのRMTサイトのポートフォリオ的に「『FF XI』を扱っている」というのが大事なわけですね。 室内氏: 一度インタビューしてみてくださいよ。GDCに行くと、どうも業者さんがいっぱいいらっしゃるみたいなので(笑)。 編: 本当の意味でRMT業者を根絶やしにするためには全タイトルで一斉に根絶させないと、業者は生き延びてしまいますよね。 田中氏: 安い労働力を使った手っ取り早い金儲けの手段としてはMMORPGは常に狙われていますからね。 編: STTが蓄積しているRMT対策のノウハウが業界全体で共有できればその効果は絶大だと思います。RMT対策をCEDECやGDCで披露するようなことは考えていないんですか? Sundi氏: この前のオースティンのAGDCでやったんですが、タイトルに「RMT」を入れてなかったんでお客さんがあんまり来なかったんですね。入れたら入れたで業者さんがいっぱい来そうですけど(笑)。でも情報共有したいのは確かですね。悪いことじゃないと思います。ただ、これって開発の協力がかなり無いと実現できないので、ほかのMMORPGタイトルでそこまでの開発余力があるのかな? という疑問はあります。 編: 今後は国内大手と協力してRMTや不正に対処するというシナリオもありえるわけですか? Sundi氏: すでに話し合いも直接してますしね。たとえば「あの業者最近どうです?」みたいな事はしないですけど、「こういうパターンの場合どうする?」といったことは話しています。ただ、一方的に情報を出すというのは、私たちもどうかと思っているんです。だから、お互いに情報共有ができるレベルであればいいと思っています。 田中氏: 意外とアプローチが無いんですよね。ゲーム関連の団体さんからは。お互いにメリットがあれば情報共有をしていきたいんですけどね。 編: それでは最後に今後の目標を含めて、ユーザーさんに対してメッセージをお願いします。 田中氏: せっかくここまで来たんでなんとかこのまま続けていきたいと思います。 Sundi氏: 1年やってきて、もう1年は大阪で発表してるとおりの目標でやっていきますけど、何しろ次世代のMMORPGまでにコミュニティを浄化をして、いいコミュニティを作っていきたいのとノウハウを溜めて行きたいですよね。 室内氏: 私は、うちの親分(Sage Sundi氏)がいろんなところで、いろんな約束をしてくるんで、必至にそれに追いついていく感じですかね。努力してきます(笑)。
編: ありがとうございました
□スクウェア・エニックスのホームページ (2007年12月4日) [Reported by 中村聖司 Photo by 戸塚直太郎]
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