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会場:日本教育会館
そうした中、ゲームデザイン論不在の不満を幾分和らげてくれたのが、ガンホー取締役本部長堀誠一氏の有料セッション「2006年、ゲームマネジメントの新たな潮流」。「現在見え始めている未来のゲームシーン」、「現状の諸問題」、「課題を克服するための新しい取り組み」の3段構えで、総論として1月に弊誌のインタビューで堀氏が語った「ソフトウェアプラットフォーム構想」について改めて公式な見解を示した。 2006年といいつつ、2006年どころではなく次の10年のゲームシーンを見越した壮大な論の展開に、大枠を掴むのがやっとという感じだったが、チートやRMT、ファシリティ問題など、ゲームユーザーにとっても気になる話題も多いため、可能な限り詳しく取り上げていく。今回の講演の大部分は、弊誌インタビューでも触れられている内容なので併せて参照頂きたい。
■ ニンテンドーDSから覗ける未来像と、現状の問題について
堀氏はオンラインゲームセッションということで、ここはWi-Fiコネクションに注目してみたいとし、DSにおけるネットワークへの取り組みを「インターフェイス端末とゲートウェイ概念の具現化」という言葉で表し、ライターサイズの「ニンテンドーWi-Fi USBコネクタ」をPCに接続することで、PCがネットワーク世界へのゲートウェイになる新しい発想を持った端末であると評価。堀氏はこれを「同じ端末上にいないプレーヤーと遊ぶという概念がわかりやすく世に示された」と説明したが、これはオンラインゲームパブリッシャーとしてはなかなか口にできない台詞だろう。 続いて堀氏は、DSのUSBコネクタのゲートウェイ機能をふまえ、オンラインゲームメーカーが期待する構造として、PCや次世代ゲーム機、次世代デジタルテレビなどをゲートウェイに、モバイルゲーム機や携帯電話、PDA、その他各種携帯端末から、オンラインゲームをはじめとした様々なオンラインサービスにアクセスできるような環境を提示。このモデルだと、プラットフォームに依存しない新たなサービスインフラが生まれる可能性が出てくるため、オンラインゲームのサービスクリエイターらに、コンシューマ市場やユビキタス世界の門戸が一斉に開かれるという期待を示した。“オンラインゲームのサービスクリエイター”とは、ガンホーを含むオンラインゲームパブリッシャーのことを指す。 次に堀氏は、現在オンラインゲームが抱えている悩みを紹介。堀氏は、ユーザーから日々届けられる「もっと良くならないの?」という意見についてプレッシャーを感じているというが、バグ、不具合については、「サービスレイヤーで起こっている問題は、簡単に解決できることではない」と断言した上で、「これはサービスの発展途上段階と言われても仕方がない」と、運営上の限界を主張。この堀氏の見解は、設計時点にアーキテクチャに問題があると、パブリッシャーではなかなか手が出せないということを示しており、ガンホーがネットワークエンジンレベルからオンラインゲームを開発しているのは、この考えが背景にある。 個別の問題では、チート、RMT、ゲームマスター問題、ファシリティ問題を取り上げた。チート問題については、昨今、チート手法のメジャー化、情報共有、大規模化を踏まえ、単独の会社ではもはや検証、カウンター対策が追いつかないことから、デベロッパー、パブリッシャー、そしてセキュリティベンダーの3社がノウハウを共有し共同で対策していく取り組みを紹介した。 RMT問題に関しては、堀氏はRMTを「ゲームリソースに対する秩序のない取引」と規定し、お金が動く話であることから未成年への影響について懸念を表明。ガンホーとしての立ち位置は明確化しなかったが、対応はあくまでメーカーの意志により行なわれるべきであり、ユーザーニーズなどによって左右されるべきではないとの見解を示した。 ゲームマスター(GM)問題とは、GMの育成とキャリアパス不在を指している。希望者の多い人気職種だが、採用率は低く、離職率は高いため、常に人材は不足気味だという。この裏には、GMが安易なゲーム業界への近道との誤解があることや、企業が求める人物像(顧客対応を行なう企業プレーヤー)との乖離が激しいという。GM希望者に対して厳しい見解を披露した一方で、ゲームマスターの業務内容の煩雑さ、あいまいさも問題だとし、「業務の再定義が必要だろう」という考えを示した。詳しくは後述するが、ガンホーでは、再定義の結果「ゲームマスター」という職業を無くすという決断を行なっている。 最後のファシリティ問題は、サーバーコストの増大化の話かと思ったらそうではなく、コストの問題はファシリテーターへの委託により解決可能な方向にあり、むしろ問題なのは電源と発熱だとした。こうしたとんでもない変化球が飛んでくるから、堀氏の話は聞き逃せない。 堀氏によれば、電源、発熱問題は、サーバーを集中管理するIDC側では、現実問題として存在しており、すでに設計時の電力使用量を大幅に上回っているIDCもいたり、もっとも故障しやすいハードウェアであるネットワークカードの故障原因は、発熱である恐れが高いとした。ではどうすればいいのか、ということに関して堀氏に話を伺ってみたところ「私にもまったくわからない(笑)」と避けられた。現実世界と同様に、省エネの方向に進むのか、あるいは新たなブレイクスルーが生まれるのか。サーバーは、メーカーのみならず個人レベルでもオンラインゲームをプレイする上で避けて通れない問題だけに、今後どのような方向に向かうのか注目されるところだ。
■ ソフトウェアプラットフォーム構想と、ガンホーの次世代に向けた取り組み
この考え方の中心にいるのはサーバーを持つメーカーであり、今後は、これまでのようにハードウェアに合ったソフトウェアを提供していくのではなく、開発したソフトウェアをハードウェアに合わせていくというワークフローに変わっていくのではないかという見解を示した。これが実現すれば、ゲームプラットフォームに依存せず、あらゆるデバイスにコンテンツの提供が可能になる。まさにコンテンツプロバイダーにとっては理想的な形だ。 ただ、この理想的な図式は、インターフェイスメーカー(この場合、ゲームプラットフォームや携帯電話などを提供するプラットフォーマーすべてを含む)がハード的、ソフト的なユーザーの囲い込みを行なうため、「なかなか実現は難しいだろう」と冷静に分析したものの、「技術的には実現は容易」と楽観的な見込みを崩さなかった。 堀氏のプランはここに留まらず、端末IDで個々のチャネルで個人を認識するという考え方に基づいた「セキュアラインの構築」、オンラインによるダウンロード流通をコアとした「サービスチャネルの統合分業化」、そしてコミュニティ支援機能を加えた「総合コミュニテインメントポータル」へと続いていく。こうしたサービスを根底から支えるのが、ソフトウェアプラットフォーム、というわけだ。 今回、初めてソフトウェアプラットフォームの概念図が公開されたが、基本的な考え方は、現行のミドルウェアを、アプリケーションとハードウェアを繋ぐ、プロトコル、共通サービス、チャネル、ペイメント、開発ワークフレームといった各レイヤーまで上下に最大限に引き延ばした感じで、末端には冒頭で紹介したような無数の端末が存在する。 ワクワクする気持ちを抑えがたい壮大な構想だが、堀氏の考え方は、インターフェイスの多様性を非常に重要視する一方で、ゲームインターフェイスとしてのインプットデバイスを軽んじる傾向がある。ゲームデザインとインターフェイスは表裏一体のはずで、任天堂やマイクロソフトが実践している、ゲームに合ったゲームデバイス(インターフェイス)をその都度開発する(ハードベンダーに依頼する)つもりなのか、何かまったく新しい考えがあるのか。仮に堀氏の言うように、端末レイヤーの開発者がUI(ユーザーインターフェイス)デザイナーに特化したところで、問題の解決には繋がらない。いずれにせよ、ゲームインターフェイスの問題がクリアにならなければ、ハードとソフトの支配構造の逆転は難しいのではないか。 ガンホーの次世代への取り組みについては、なんといってもGM業務の分業化が斬新だった。同社ではGMグループを廃止し、イベントまわりの業務を専門に行なうイベント制作課、サーバー周りの保守を専門に行なうDCオペレーション課を設置、現在さらにインゲームサポートに特化したナビゲーターも取り入れていく方針だという。 これによりGM業務の内容が明確化されると同時にキャリアパスも示される。イベント制作課のスタッフは、オンラインゲーム時代のプランナーに、DCオペレーション課のスタッフは、各種エンジニアへとキャリアパスを示した。昨日、モビーダ・ゲームズ取締役の栗原哲氏が、講演内でゲームマスターの慢性的な人材不足について、業界内でゲームマスターのキャリアパスを示せてないことが原因と問題提起を行なっていたが、ガンホーが先んじて回答を出した格好となった。 ソフトウェアプラットフォームに向けた施策としては、「レーテンシー対策・セッションコントロールのチューニングを積んだネットワークエンジン」、「マルチデータフォーマットの非同期型データ配信システム」、「サーバー横断を意識したパケットブロードキャスティングシステム」の3つを挙げた。ディテールについては伏せられていたが、機会があればその狙いを伺ってみるつもりだ。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2006年2月10日) [Reported by 中村聖司]
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