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BBA、アジアオンラインゲームカンファレンス2005を開催 |
会場:工学院大学
ソフトバンクグループが主体となっている学術団体ブロードバンド推進協議会(BBA)は、「アジアオンラインゲームカンファレンス2005(AOGC2005)」を、工学院大学において開催した。入場料は7,000円で、基調講演と一部のセッションは無料。明日3月1日まで開催される。本稿では初日の模様をお届けしたい。
元証券マンという経歴を生かし、大胆なオンラインゲーム論を展開したスクウェア・エニックスの和田洋一社長 |
形としては、CESAが主催する「CESA DEVELOPERS CONFERENCE(CEDEC)」のオンラインゲーム版といった感じだが、ゲームテクノロジー全般を対象にしたCEDECに比べ、オンラインゲームそのものが新参のテーマであるため、産官に加えて学まで踏み込み、研究対象のひとつとしている点、やや間口が広い。また、対象エリアも、オンラインゲーム発祥の地である欧米はあえて避け、アジアに限定しているところもユニークなところである。参加者もゲームメーカー関係者や報道関係者だけでなく、大学を初めとした教育機関の人間も数多く参加していたのが印象的だった。
講演者も第1回としては非常に充実しており、スクウェア・エニックスの和田洋一社長を筆頭に、オンラインゲーム業界ではいずれも名の知られた人たちが名を連ねている。講演内容も、初日だけ見ても、「企業のオンラインゲーム戦略」、「韓国RMTの実態報告」、「オンラインゲームの教育活用の実験報告」、「教育対象としてのオンラインゲームの可能性」、「ディストリビューターの市場戦略」などなど、興味深いテーマが揃っている。
中でも初日白眉だったのが、スクウェア・エニックスの和田社長による基調講演「スクウェア・エニックスのオンラインゲーム戦略について」。会社経営者による講演は、営利団体としては当然の事ながら企業秘密は話せないため、一般的な情報の開陳に終わることがほとんどだが、今回の基調講演では、オンラインゲームビジネスの現状を、具体的なデータを使ってわかりやすく説明しながら、日本のオンラインゲーム市場を牽引するメーカーのトップとして、大胆な発言を連発。メディアの人間としてもためになる情報が多い、充実した基調講演だった。
和田氏の基調講演については、すでに報じているので、詳細はそちらに譲るとして、特に印象に残った発言を2、3紹介しておくと、「(リアルマネートレードについて)法的に違法かどうかは別として、キャラクタやアイテムの売買自体をビジネスモデルにするということは成立します」、「(ネットワークリテラシーについて)国力の問題だと思う」、「(オンラインゲームの知的財産について)そもそも社会科学が予定していないんだから、現行でいうとこうなるという議論自体が意味がない」などなど。こうしたドラスティックな発言をコンテンツ提供側が発言すること自体に大きな意義がある。オンラインゲームに関する正しい認知と理解が確実に一歩進んだと思える講演内容だった。
ただ、1点だけ違和感を感じたのは、PlayOnlineの事業戦略のひとつMulti Countryの説明の中で言及された「オンラインになった瞬間に国境はない。これは嫌でもしょうがない」という一蹴発言。これは「ファイナルファンタジー XI」の海外展開の例で言い換えれば、日米欧のユーザーを同一サーバーにログインさせることによって、サーバー運営の効率化をはかる一方で、欧米の新規ユーザーがまっさらな大地に降り立つ権利を一方的に放棄させているという事実に当たる。
個人的には、和田氏はこの問題についておそらく十分に認識していないのではないかと感じたのだが、本来、企業の営利追求とユーザーの権利保護のバランスというのは、オンラインゲームを語る上で、非常に重要なポイントのはずで、たとえば、Electronic ArtsやNC Soft、Blizzard Entertainmentといったメーカーは、同じケースでユーザーの権利を優先させている。また機会があればこの点についても言及してほしいところだ。
魏晶玄助教授の講演はテーマがRMTというクリティカルな内容だっただけに、満席状態となった |
「e-Sportsの楽しみ方」では、実演も行なった。奥でプレイしているのがプロゲーマーのSIGUMA選手 |
東大助教授の馬場章氏。ゲーム研究が盛んではない理由は研究者にゲーム好きが少ないからだという |
韓国のネットゲーマーを対象に行なわれたアンケート結果を示しつつ、RMT研究の第一人者として知られる魏氏ならではのRMT論が展開された。MMORPGユーザーの子供(18歳未満)の5割、成人(18歳以上)の4割がRMTを行なっているという凄まじい事実を皮切りに、RMTの規模や被害、ユーザーの意識などの実態を明らかにした。が、研究レポートとして不十分だと思うのは、現状のみを提示し、自身は提言を行なわず、ユーザー同士のコミュニケーションに行き先を委ねているところだろう。これでは問題の本質が永遠に伝わらないのではないか。
これまでWCGやCPLの日本予選など数々のe-Sports大会をプロモートしてきたe-Sportsプロデューサー犬飼博士氏は「e-Sportsの楽しみ方」と題して、オンラインゲームを新たなスポーツという見方を提案。内容は、情報の集め方、対戦に至るまでのプロセス、必要なハードウェアといった具合にディテールにこだわったe-Sportsの現状紹介で、最終的にはWCGやCPLなど、プロの世界に行き着くというもの。
見せ方そのものは、洋行帰りのプロゲーマーSIGUMA選手を呼んで、実演させたり、プロの視点から意見を聞かせるなど、なかなか楽しい内容だったが、シアトルでイチローを見ても誰しもイチローにはなれないし、なりたいとも思わない人が過半であるように、ハイエンドばかりを希求するe-Sports論には自ずと限界がある。本当にスポーツであることをゲームユーザーに浸透させるつもりなら、ボトム層を意識した論の展開が必要なのではないだろうか。
オンラインゲーム研究分野では、東京大学助教授馬場章氏の「オンラインゲーム研究の新地平を切り拓く」がおもしろかった。中でもユニークだったのはMMORPGを社会状況的にプラスと捉えているところで、フレーズばかりが先行している「ゲーム脳」について、客観的な測定が行なわれておらず、問題の本質を隠蔽してしまう非科学的言説と一蹴。俗に「廃人」呼ばれるネット中毒者に対しても同じように十分な客観的研究が行なわれておらず偏見にさらされているとし、それゆえに科学的研究が必要であることを強調した。
研究内容は、市販のオンラインゲームをプレイすることで、教育効果を計るというもの。研究は2005年10月からスタートし、研究のサンプルとしてコーエーの「信長の野望 Online 飛龍の章」が最有力候補であることを紹介した。最終的には、韓国と共同して、同一のタイトルを利用して比較するという。
初日の最後に行なわれたIGDA日本代表新清士氏の「北米オンラインゲーム研究事情」は、北米ゲームカルチャーのスペシャリストである新氏の面目躍如ともいうべき名講演で、アジアを主体としたAOGCにあって、唯一北米を題材にした講演で存在感を見せつけてくれた。
まず新氏は、北米のオンラインゲームビジネスの概況について、北米の雄Electronic Artsをサンプルに、2003~2004年に発生した「The Sims Online」の商業的失敗、「Ultima X Odyssey」を含むオンラインゲーム4タイトルのキャンセルなど、いわゆるEAショックからまだ抜け出せていない一方で、「World of Warcraft」が120万のユーザーを集め1人勝ち状態にあることを報告。
続いて話を北米のオンラインゲーム史に転じたが、'78年に登場したMMORPGの前身に相当するMUD(Multi User Dungeon)から論を展開するのがいかにも新氏らしい。MUDは、北米や韓国のMMORPGの開発に深く寄与している事実を示し、現在でも非商業ベースの同人カルチャーとして北米に根付いていることを紹介した。
一方、RMTやネット中毒といったオンラインゲーム固有の問題については、「意外と野放し状態」と報告。理由としては、FPSのコアゲーマーが引き起こした凶悪犯罪が、悪い意味で隠れ蓑になっているという。つまり、問題そのものはアジア諸国と同じように存在するものの、顕在化していないため、メーカーや諸機関もそれほど意識的な対策は取っていないということだ。
得意の北米分野の知識を遺憾なく発揮したIGDA日本代表の新清士氏。日本のこうしたカンファレンスで、MUDについて言及したのは新氏が初ではないだろうか |
□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
□「AOGC 2005」のページ
http://www.bbassociation.org/AOGC2005/
□関連情報
【2005年2月28日】ブロードバンド推進協議会、「AOGC2005」開催
和田洋一スクウェア・エニックス社長が語る「ネットワークゲームビジネス」とは?
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050228/bba.htm
【2004年6月21日】SIG-OG、オンラインゲーム専門部会特別講演会を開催
コーエー松原氏「開発費回収のために海外展開は必然」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040621/sigog.htm
(2005年2月28日)
[Reported by 中村聖司]
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