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会場:コーエー本社
今回は、AOGCでの特別講演に先立ち、コーエーの2006年以降のオンラインゲーム戦略を伺ってきた。今回のインタビューも、昨年に引き続きやっぱり長くなってしまったため、前後編でお届けする。前編では、2005年のオンラインゲームビジネスの感想と、アジア展開の進捗状況、次世代機に対する考え方、そしてコミュニティ対策など、主に戦略的な部分について伺った。 後編では、ユーザーお待ちかねの「信長の野望Online」、「大航海時代Online」の今後の展開、拡張ディスク構想。それから、今年いよいよサービスが始まる「真・三國無双BB」に対する抱負、最後にシンガポールで開発がスタートして丸1年が経過した「三國志Online(仮)」の最新動向を伺った。
■ 2005年、海外でのコーエーのオンラインゲームの展開は? 編集部: 松原さんにとって2005年はどういう年になりましたか?
まずまずというのは、中国でサービスインまでたどり着けなかったことですね。去年、目標に掲げていたのは、2つのゲームの中国でのサービスインまでですから、中国大陸までは行けなかったのは残念でした。日本で展開していた2つのオンラインゲームをアジアで展開できたのは、コーエーにとってもエポックメイキングでした。 編: 9月に出されたコーエーの中間発表では、オンラインゲームは100%成長ですが、アジアでの売り上げは前年より落ちていますね。アジアでは意外に苦戦しているのでしょうか。 松原氏: よく調べてますねえ(笑)。一昨年は海外のパートナーと契約を行ない、その契約金が売り上げになっています。昨年に関しては、台湾での「信長の野望Online」のサービスインが8月25日でした。リアルキャッシュが生まれたのはそこからです。今年からアジア地域での収入が本格的に始まるという感じですね。 編: ただ、中国では走り出すところまでいけていないですね。 松原氏: 簡単にいうと政府から版号という認可が取れないのです。弊社だけではないと思うのですが、いま中国のオンラインゲームは市場がすごく伸びていて、中国産のタイトルがたくさん出てきています。海外のタイトルについての認可が以前に比べると厳しくなっているのかなと。 それからご存じだと思いますけど、中国では5時間以上遊んだら、それ以降は経験値を0にする、というようなことが去年の秋に実施されたりしていますよね(編注:グリーンゲーム政策のことを指す)。オンラインゲームは産業として大事なんですが、健全な青少年に変な影響を与えないようにというコントロールが入ってきます。既存のタイトルはともかく新しく参入するタイトルに対して慎重になっているんじゃないでしょうか。 編: 松原さんの基本方針として、中国での展開を全くあきらめるつもりはないのですね。 松原氏: 全然あきらめていません。今年も引き続きチャレンジしていきますし、既存のタイトルだけではなく、これからのタイトルも積極的に中国でも展開していきます。他の業界の人に聞いても「中国は長い目で見ないと」と言われるんですよ。 編: 業界全体で見ると、オンラインゲームのムーブメントは少しずつ変化している印象があります。特にカジュアルゲームが元気ですが、この変化をどのようにとらえていますか? 松原氏: オンラインゲームは着実に伸びていて、我々のやっているMMOも伸びていますが、やはりカジュアルゲームが大きくなっていますね。市場全体が広がっているのはいろんな形で感じることができます。例えばゲームポットさんが去年末に上場して大きな時価総額となったことは、「スカッとゴルフ パンヤ」といったカジュアルゲームがそれだけ多くの方から興味を持たれているということもあるでしょう。 カジュアルゲームの流れとしては、去年MMOもアイテム課金制へ移行して、クライアントフリーで、無料で始められて気に入ったらそこでアイテムを買うというビジネスモデル、また、ゲームそのもののカジュアル性が高まってきているという動きが多かったと思いますね。 編: こうした一連の動きは予想できていましたか? 松原氏: ハンゲームさんのようにゲーム自体がカジュアルで、そこにユーザーがどんどん入っていくというのは予想していました。一方、MMOで月額課金制からアイテム課金制に移っていくというのは意外に多かったなと、去年の後半、特に感じた印象ですね。 編: アジア市場を見ると、日本以上にアイテム課金が当たり前になってきていますね。 松原氏: そうですね、しかしMMOにおいてはどうでしょうか。韓国では「リネージュ」や「リネージュII」は引き続き月額課金制です。すでに何万人も何十万人もお客さんがいるところは月額制から変えていない。それは変えなくてもお客さんがプレイして頂けるというのが一番の理由なんだと思います。 中国もそうですよね。もともと時間課金のような概念が一般化しているので、アイテム課金じゃなくてもカジュアルにプレイする環境はあります。ですから、今後全部のタイトルがアイテム課金に移るわけではないと思っています。中国や台湾の時間課金制は、月額固定だけというモデルに比べるとカジュアルに楽しみやすいですしね。 編: コーエーさんのタイトルも国によっては課金モデルを変えるようなことはあるのでしょうか。 松原氏: それはもちろん、パートナー企業さん達と話をして決めていきます。台湾は時間課金と月額課金の2つのモデルを用意しています。現地のパートナーと組んだのは「郷に入りては郷に従え」ということです。現地のマーケットを知っていて、ユーザーの方々が一番楽しくプレイできるやり方を知っているわけですから、パートナーの意見を尊重しています。 編: 昨年欧米への展開も考えているとおっしゃっていましたが、進捗のほどはいかがでしょうか? 松原氏: まだそこまでは結果が出ていないです。「大航海時代Online」は基本的にヨーロッパの話なので継続的に話をさせていただいていますが、まだサービスインがいつかという話ができる段階ではないです。アメリカは結構MMOの市場があるのですが、ヨーロッパはまだこれからという感じですね。 編: 欧米への進出は、やはりプライオリティは高いですか。 松原氏: そうですね、それもグローバルな展開としてやらなくてはいけない。今年の大きな目標の1つです。昨年は正直アジアの展開だけでも大変だったので、今年は是非中国でもサービスインを始めて、そこでのオペレーションを定着させると共に欧米への展開の道をつけるというのが目標ですね。
■ 「信長の野望Online」と「大航海時代Online」のアジアでの状況 編: コーエーさんのアジア展開の状況を見ると、台湾のSoftworldさんが展開している「信長の野望Online」が好調ですね。
プロモーションのやり方が全然違いますね。Softworldさんはパブリッシャーとして「ラグナロクオンライン」やったり、合弁の会社で「World of Warcraft」を展開したりと、パブリッシング事業を広く手がけていて、Softstarさんはもともと開発会社で、私たちも開発の会社なのでわかるのですが、わりと堅くやっていますね。かなり違うのですが、ふたをあけてみると同じくらいで、両社違いはありますけどしっかり展開して頂いています。 編: コーエーさんのタイトルは、台湾では2社のパブリッシャーによって展開されているわけですが、このビジネスは成功したと言えそうですね。 松原氏: 今のところ非常にうまくいっていますね。まだまだ伸びる余地もあると思っています。「大航海時代Online」は今年の1月17日にサービスインしたばかりですからここからまだのばしていくでしょうし、「信長の野望Online」も12月に大きなバージョンアップするなどしているので、もう少しユーザーを増やしていきたいですね。 編: Softworldさんのプロモーションはいかがでしたか。。 松原氏: 日本とは全然違いましたね。テレビCMを流して、バスにも特大広告を貼って、有名なデパートの壁面一面に広告を出したり、清涼飲料水を作ったり。 編: Softworldさん好きですよね、そういうの(笑) 松原氏: 12月に台湾に2回行ったんですよ。1回はSoftworldさん、1回はSoftstarさんだったんですけど、やっぱりプロモーションはすごかったですよ。 編: では、台湾での認知度はかなり高くなったんですね。 松原氏: 台湾はもともとコーエーのパッケージソフトの人気が高いんです。「信長の野望」、「大航海時代」のシリーズはパッケージで販売実績がありますし。 編: 韓国はどうでしょう。 松原氏: 韓国では、“韓国勢”の中に入ることができたな、というレベルですね。数字的には「まずまず」という感じです。こちらも数字は私達からは申し上げられないのですが、オープンβテスト時、正式サービスを経て、他のタイトルと肩を並べた感じです。韓国ではトップ3タイトルの市場シェアが大きく、それらに続くグループの一員になれたと思います。 パートナーのCJインターネットさんがMMORPGを展開したのは我々のゲームが初めてと聞いています。だから非常に気合いが入っています。先方からの意見に対して、我々も提案したりと、お互いにもっと良い形にしていくといったスタンスでやっています。国の違い、プレーヤーの違いもだいぶ実感できました。
■ 松原氏の期待するオンラインゲームに向けた新ハード 編: 国内に目を移すと、「大航海時代Online」、「信長の野望Online」共に、ビジネス的に安定していますね。
編: 「信長の野望Online」はPCとプレイステーション 2のマルチプラットフォーム展開をしていますが、現在はどちらが多いですか? 松原氏: まだPS2の方が多いですね。オンラインゲームは途中で辞めてしまうユーザーと、新規に入ってくるユーザーとを比べて、入ってくるユーザーが多いから成長していくんですが、新規ユーザーはPC版の人が多いですね。ですから、徐々にPC版のユーザーが多くなってきています。 編: 今なおPS2版のユーザーが過半数となると、コンシューマー機の世代交代に対するニーズもありますよね? 松原氏: プレイステーション 3(PS3)、Xbox 360、レボリューションという次世代機のオンラインへの展開を見極めることが先決かなと。今のところ、PS2の延長でPS3にハードディスクが入れば? という感じですかね。 編: ハードディスクが入ればPS3に移植するということですか? 松原氏: PS3はPS2と互換性がありますし、ハードディスクが入れば「信長の野望Online」はそのまま動くわけじゃないですか。もちろんグラフィックス面の強化などは検討しますけど。PS3では最初からハードディスクがついていて他のオンラインのサービスも楽しめるとなれば、じゃあ「信長の野望Online」も、となるかもしれませんね。そういう点では、Xbox 360もレボリューションも我々と考え方が一致するのであれば、ターゲットプラットフォームになるのではないかと考えています。 編: スクウェア・エニックスさんは「ファイナルファンタジーXI」の新しいプラットフォームとしてXbox 360を選択しましたね。コーエーさんの展開はいかがでしょうか。 松原氏: 去年のE3で私もびっくりしました。Xbox 360での展開は、マイクロソフトさんとお話をしながら検討を進めたいと思います。 編: 仮にXbox 360やPS3などに移植をする場合、グラフィックスを初めとした現行要素の世代交代もある程度計るわけでしょうか? 松原氏: もし移植するとしたら、そういった変更を加えないとファンの方々に楽しんで頂けないと思います。ただし、次世代機のCG表現の修正は、かなりの開発工数を伴うので、じっくり検討してから判断したいと考えています。 編: 「大航海時代Online」は、最終的な結論としてPC版のみの展開となりましたが、「信長の野望Online」は今後もマルチプラットフォームで展開していくのでしょうか。フェードアウトしてPCのみになるという選択肢はないのですか。 松原氏: PS3ではオンラインゲームの戦略はもっと発展すると期待しています。今後もオンラインゲームを作っていくというときにプラットフォームとしてやはりPS3を検討できる形にして欲しい。MMOにとってはハードディスクというのは欠かせないと思っているんですよ。ハードディスクがあるかないかで我々の対応も変わってくるでしょうね。 編: ハードディスク以外の選択の基準は何になるでしょうか。 松原氏: 今公表されているPS3のスペックは非常にリッチですから、オンラインゲームを開発する上でそのほかの心配はないですよね。あとは、Xbox 360には「Xbox Live」がありますが、PS3ではどういったサービスを持つのかに興味がありますね。 PS2の「BBナビゲーター」はシンプルな機能でしたが、各メーカーさんがサービスを提供するという形にはなりませんでした。構想としてさらに機能を発展させることはあったかもしれませんが、現実としてはそういう状況にならなかった。 Xbox Liveは、個人のプロファイルも用意できてMOのマッチングが楽だったりする。Xbox Liveが持っている機能は、MMOを含んだオンラインゲームを提供するためのハードを目指している、と我々は理解しています。 PS3も同じような形、もしくはより発展させた形をやっぱり期待します。我々としてはゲーム以外の部分をプラットフォーム側で用意していただければ、本来のゲームコンテンツに集中できるところがあると思うんですよね。メールやチャットなど、ゲーム内でプラットフォームのAPIの機能を呼び出すというのができれば。そこの機能の充実は、ハードディスクと共に大きな関心です。 編: 仮に次世代機に移植する場合、どのようなことにチャレンジしたいですか? 松原氏: 「信長Online」も「大航海時代Online」も移植するからといって0から作ることは考えていません。やはり移植となると、まずはグラフィックスを変えることにチャレンジしたい。それと繰り返しになりますけど、Xbox Live、PS3ではどのようなサービス名称になるかわかりませんが、各ハードのオンラインシステムとの連携、連動もやっていきたい。 現在、インターネットでは「私は烈風伝の何処の国に所属している誰々です」という感じで、ソーシャルネットワークサービスが提供され、そこに画面のスクリーンショットを貼り付けたり、お友達がブログに書き込めるとか、現在は各社が公式ページで用意しているようなBBSや各種コミュニティツールをプラットフォーム側で出してくれれば、我々はコンテンツ開発や運営にリソースを集中できる。 PCでは我々がGAMECITYのように用意しますが、家庭用ゲーム機ではそういう物を用意してくれれば非常に良いんじゃないかなと思いますね。日記にモンスターを倒した記念写真を貼ることができたりといったことがプラットフォームレベルで簡単にできるようになれば、ゲーム、プラットフォーム、コミュニティというのがまた一段と面白くなってくるでしょう。
■ より「近くにいる」ことを実感できる、新しいコミュニティサポート 編: 昨年1年間のコーエーのオンラインゲームに対する取り組みを見てきますと、ユーザーコミュニティをとても大事にしていますよね。コミュニティのサポートがアップデートの軸となっていますし、なおかつしっかり結果を出しているところが素晴らしい。コミュニティに関して、何かポリシーみたいなものがあるんでしょうか。
もう少し具体的に言いますと、一番はゲームのコンテンツの中で繋げていくということです。GAMECITYでは、情報提供であったり、BBSであったり、その繋がりを補助する。そして、現在βテスト中ですけれども携帯電話でのサービスもやっています。携帯電話でゲームの中の人とメールができて、一番面白いのは、ログインしていなくてもメールを通してゲームの世界に触れられる点だと思っています。 たとえば、「大航海時代」では自動回航機能というものを導入しました。「今日の何時にロンドンに集合!」と携帯電話経由で受けたときに、他の街で船を停泊中のユーザーが、外出先で携帯電話で自動回航機能を使ってロンドンに船を回航させておく。そうすると自宅に帰る頃には船がロンドンに着いてる。そういう機能を作ったのは結局人との繋がりをもっとサポートするためです。 GAMECITYのサービスでも中心はユーザーがゲーム内でこういう事をしたいということのサポートなんです。もちろん他社さんのものも参考にしながら、携帯ではオリジナルのアイデアを詰め込んで、こういったことはずっとどんなゲームでもやっていきます。ここを評価していただけているのは我々としても大変うれしく思います。 編: 「信長の野望Online」では「信書システム」が導入され、コミュニティ機能がさらに強化されますが、松原さんの考える“ユーザーコミュニティの終着点”というのはどのあたりになるのでしょうか。 松原氏: 難しい質問ですね。「信長の野望Online」は実装当初はゲーム内メールですが、今後はさらに機能を発展させて、外部とのメールのやりとりが出来るようにしたいと考えています。システム的にはもっともっと色々な可能性があると思います。たとえば、声はP2Pのボイスサービスを使って良い音質でグループ間の通話ができるようになってきていますし。コミュニティサポートに終着点というか、尽きることはないなと思っています。 コミュニケーションというのは、今のインタビューのように話しているのと変わらないと感じてもらうことがひとつの終着点じゃないかなと思っています。バーチャルリアリティーっぽい話ではないんです。一番のコミュニティっていうのは電話でも、会っていても、相手と繋がっているということが感じられる、それが一番楽しいじゃないですか。だったら、ゲーム内でそれができるのが一番いいだろうと。その雰囲気を味わうためにできるだけのことはしたいなと思いますね。7人のパーティーがいるとしたら、その場に実際7人いるように話ができたら、それは究極のコミュニティだと思いますね。 編: MMOにおけるボイスチャットの実現は是非やってみたいと。 松原氏: ボイスだけではなく、ユーザーがあたかも「もっとこの人は近くにいる」ということを感じてもらうことに関してチャレンジしたい。ユーザーさんが楽しいと思える形で繋がりを深くしていきたいとは思います。 編: 方向性としては、世界観やストーリーとの整合性は特に意識せずに、リアルな繋がりを深めていくという感じでしょうか。 松原氏: いえ、それも非常に重要だと考えています。やはり我々はゲームを提供しているので、ゲーム内で育ったコミュニティだから、それを外れるようなものを持って行くと一気に崩れちゃうと思うんです。「信長」だったらP2Pでボイスチャットをやっていても、やっぱり自分も、相手も戦国時代の人だろうと思うんですよね。なりきっているわけで、例えば中村さんの姿をそのまま写して、相手のクライアントに表示されるとしたら、それはもはやゲームではなくなってしまう。 でも、顔は3Dモデルにするけれど、ちょんまげを結ってもらいましょうといったように、そういう“繋がり方”をユーザーさんが望めば次のステップもありだと思います。たとえば仲の良い友達だけに、顔の3Dモデルデータを交換して我々の用意している標準データではなくちゃんと顔が表示されるようにする。それはいい人と悪い人がいるでしょうけど、こういうのはボイスチャットとは違うのですがよりリアル感があって、それをユーザーが面白いと思うのであれば付加価値サービスとして提供できないか。考えているのはそういうことなんです。 世界観を崩さないというのは、私もゲーム内では「忍者」でプレイしているので、「格好は忍者で顔は松原」。そういうのがMMOをもっと賑やかにしてユーザーに喜んでもらえる形ではないかと。ただこれは今年中にとかいうレンジでの話ではないですよ(笑)。将来的には、という話です。 編: 今後もコミュニティは大事にしていくという考え方なのですね。 松原氏: そうですね、オンラインの一番大事なところだと思いますね。
□コーエーのホームページ (2006年2月1日) [Reported by 中村聖司 Photo by 勝田哲也]
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