インタビュー

「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」インタビュー

「スピンダッシュ」もただ入れただけでは完成しない!

「スピンダッシュ」もただ入れただけでは完成しない!

――今回、「SPECIAL」の部分はどうなっていますか?

奥成氏:では、今回のオリジナル版からの仕様変更点についてもご説明します。「3D スペースハリアー」、「3D スーパーハングオン」とリリースして、特に気になっていたのは難易度の部分だったんですよ。そこで今回は、メガドライブ版に隠しコマンドで入っていたステージセレクトを標準装備しました。今回、最初から表示されている「SPECIAL」をONにすると、ゲームをスタートした時にステージセレクト画面へ移行します。

 もともと、タイトル画面で簡単な隠しコマンドを入れると、メガドライブ版でもステージセレクトができるですが、「ステージセレクトが隠しコマンドである」というハードルがあったので、20年前のゲームなので、あえて標準で入れてしまおうと。「SPECIAL」は最初はOFFになっているんですが、ONにすれば買ったその日から好きなステージを遊べるようになります。

 「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は、マニュアルにも広告にも、当時「いろんなステージがある」と書いてあったので、先のステージが遊びたくて、皆さん、当時の僕を含めて頑張ったと思うんですが、結構初代は難易度も高かったので、2面の「マーブルゾーン」とか4面の「ラビリンスゾーン」など、テクニカルな面でギブアップしちゃった方もいらっしゃったのではないかと。そうすると、後半のとにかく走るのが気持ちがいい「スターライトゾーン」でM2さんがせっかく立体感をつけてくださったのに、見てもらえないのはさみしいですし。

――当時、気にならなかったかもしれませんが、今考えるとかなりボリュームもありましたし。

「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」では、日本版と海外版を切り替えてプレイできるだけでなく、オリジナルのメガドライブ版にはない「スピンダッシュ」が追加
スピンダッシュは「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」のグラフィックを流用

奥成氏:全部のステージを見てもらいたいし、当時投げてしまった人にも改めて「ソニック」を遊んでみてもらいたい、という意味も込めて、ステージセレクトを標準装備にしました。もう1つが「スピンダッシュ」ですね。これも実装するのは大変だったんですが……、今の「ソニック」なら誰でも知っている「スピンダッシュ」というアクションは初代の「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」には付いてなかったんですよ。だから初代をプレイしてもらうとみんな「あれ?」って言うんですよね(笑)。最初にスピンダッシュしようとするんで。

 唯一付いていたのが、サターンでリリースされていた「ソニックジャム」に収録されていたバージョンなんですよ。あれには「スピンダッシュ」が付いていたので、M2さんに「『スピンダッシュ』を付けてくれ」って「ソニックジャム」のプログラムソースとセットでリクエストしました(笑)。

――なるほど(笑)。

奥成氏:でも、「ソニックジャム」ってまだサターンの時代ですから、完全なエミュレーターで動かしているわけではなくて。

堀井氏:まず最初に「ソニックジャム」の中に、メガドライブの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」的なデータがあるのか、あるんだったらそれとオリジナルの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のデータとを比較してみれば、差分がわかるから、解析のしようもあるんじゃないかと調べてみたら、「そんなもんありゃしねーじゃねーか!」というところから話が始まりましたね。

奥成氏:「『ソニックジャム』のソースデータを見ても、わからない」って言われて……。

堀井氏:「わかんない」というよりは、数GByteもあるデータの中から、必要なものを見つけ出すのが超しんどいので、「まず、アタリを付けたいから、当時開発したスタッフに話を聞かせて欲しい」という話をしたんですね。

奥成氏:早速ソニックチームの飯塚(隆氏)のところに行って「あそこは誰が作ったんですか?」って聞いてみたら、「そこは中(裕司)さんだよ」って言われて。確かにスタッフロールには名前が入っていたんですけれども、当時もう部長だったのに(笑)。オリジナルのメガドライブ版に対しての修正を、中さん自身が「スピンダッシュ」の追加も含めてやっていたんですね。仕方がないので、今はプロペの社長をされている中さんに「すいません、『スピンダッシュ』ってどうやってつけたんでしょう?」って相談メールをしてみたんですよ。そうしたら、助言をいくつかいただいて。

――おおー!

堀井氏:解説が書いてあって「簡単だから頑張ってね」って。「いや『簡単』って……おおーい!」みたいな感じになるじゃないですか。すごいよねあの頃の人たちは……。でも、おかげで実装させることができました。ただ、入れてうまく動いたからOKということにはならなくて、遊んでいくとたまに「この挙動はこれで合っているのか」ということに出くわすことになって。入れたら入れたでその確認も結構大変でしたね。

奥成氏:まず、アニメーショングラフィックは入ってない状態でした。アクションが入ってないんだから絵もあるはずがない。

堀井氏:メガドライブのVRAMの中にギリギリで描かれている「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」に、さらに「スピンダッシュ」のアニメーショングラフィックを追加しろって言われたら、空きがもうないわけじゃないですか。そこで、僕らが「ギガドライブ」と呼んでいる今回の「ソニック」が動いている仮想プラットフォームには、拡張VRAMが載ることになるわけですよ。

奥成氏:こうしてアニメーショングラフィックも「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」から引っ張り出してきて追加して、「スピンダッシュ」のアクションを入れてみたところ、今度は、もともと無いアクションなので、「スピンダッシュ」をすると画面外に飛び出して死んじゃうところがあちこちに出てきたんです。

 「これは大変だ」と慌てていたら、M2さんのプログラマさんが「それは当たり前だよ」とおっしゃって。そもそも「ソニックジャム」はどうなっているのか? というと、あちらはちゃんとそういった不具合は修正されていたんです。なので、「スピンダッシュ」のアクションだけでなく、アクションによって発生する不具合修正もすべて「ソニックジャム」から引っ張ってくる必要があったんですね。

――それは、「ソニックジャム」の「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」が、オリジナルのメガドライブ版のデータをそのまま使っているわけじゃなかったってことですか?

奥成氏:いえ、元はオリジナルのデータを使っています。

堀井氏:エミュレーターの上で動いているわけではないですけれども、たぶん、元のコードをコンバートして動かす、ということをやっているんだと思います。だから、X68000でアーケードゲームを動かす手法に近いかな。後期のタイトルに多かったものです。あとは、スーパー32Xで「スペースハリアー」を動かしていた手法に近いですね。

――だから、修正した手法もある程度そのまま指針として通用したということですか?

堀井氏:通用するということですね。

奥成氏:M2のプログラマーさんはそこまでわかっていて、途中のバージョンで「『スピンダッシュ』が動いたー!」って僕が喜んでいたら、「それはまだ動いてるだけですよ」って言っていたわけです。と、そういう過程を経て、気がついたら「スピンダッシュ」もばっちり入っていたと。結構ギリギリのタイミングでしたが……。

堀井氏:これね、奥成さんが最初におっしゃってましたけれども、入ってなかったら「あれ?」って思う人がいるだけで、入ってても「あたりまえ」って取られる話なんですよね。これだけ苦労したのに……。

奥成氏:M2さんが「スピンダッシュ」を入れるのにあまりにも苦労したので……「『スピンダッシュ』を今の「SPECIAL」の位置に入れたい」という話をしていて、それを僕が「いやいや、『スピンダッシュ』は今の時代、入っていて当たり前だから。これはひっそりと入っているべきなんだよ」という話をして。「スピンダッシュ」をOFFにするということは、完全にオリジナル版をプレイしたい、という人以外、たぶんありえないことなんですね。もはや。……なので、システムのオプションの奥に、「スピンダッシュ」のOFFはひっそりと付いているんです。

堀井氏:その辺はいいんですけれども……。奥成さんって毎回毎回、そういう提案をしてくださって、僕らは大喜びで実装するんですけれども、あの……「これ、(実装すると)これぐらいかかります」とか、締め切りの話をすると「締め切りは絶対厳守なんで、間に合わなかったら実装しないでいいです」って言うんですよね。……と言いながらねー、なんでか毎回入ってるんだよね。プロデューサーではなく、個人・奥成としての発言というのが多くてですね、それが間違いなく「3D復刻プロジェクト」のクオリティを支えていると思う次第で……。

――(笑)。

奥成氏:結果的にそういう無茶振りをしたところの7~8割は実現してくれてますね。

堀井氏:「間に合わないんだったらやらなくていいけど」って言い方をしてきたら、もうそういうことですよね。

(佐伯憲司)