インタビュー
「FFXIV: 新生エオルゼア」吉田直樹氏発売記念インタビュー(前編)
祝リローンチ! 大人気だったβテストの手応えや、新ジョブを初めとした正式サービス後の世界について聞く
(2013/8/27 00:00)
- 8月27日発売
- 価格:
- 3,300円(PS3通常版)
- 10,290円(PS3コレクターズエディション)
- オープンプライス(Windows PC版)
- 利用料金:1,344円(エントリー、30日)
- 1,554円(スタンダード、30日)
- 4,347円(スタンダード、90日)
本日8月27日、スクウェア・エニックスのフラッグシップシリーズ最新作「ファイナルファンタジーXIV」が「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」として、3年ぶり2回目の正式サービスを迎えた。8月24日より始まったアーリーアクセスからログインしてレベリングに勤しんでいる人もいれば、「まだわからないぞ」と「旧FFXIV」で受けた心の傷が回復しきっておらず、まだ猜疑のまなざしで見つめている人もいるだろう。
ただ、「FFXIV」に関心を持つ全ての人が覚えておくべきなのは、「FFXIV: 新生エオルゼア」はMMORPGの世界では不可能と言われているリローンチをやりきった数少ないMMORPGであることと、それを「旧FFXIV」の運営を継続しながら準備するという2両面作戦で決行されたこと、そして何よりそうした桶狭間的な作戦を実行したのが、生え抜きでも出戻りでもなく、「FFXI」、「FFXIV」開発チームの外からやってきた吉田直樹氏だったということだ。
GAME Watchが最初に吉田氏にインタビューしたのはプロデューサー/ディレクターに就任直後の2010年12月。この時の吉田氏のメッセージは、「FFXIV」のことを徹底的に調べるということと、ユーザーの意見を聞くということだ。時期的に「ドラゴンクエストX」のリードプランナーを担当していた事実はまだ明らかにできず、就任直後でまだ開発スタッフとコンセンサスを取る前ということで、吉田氏が目指す新しい「FFXIV」の方向性すら提示できず、かなり苦しいインタビューになっている。この時点では、当然いまの風景はまったく想像できない。期待より不安の方が大きいインタビューだ。
それが180度変わったのは、それから10カ月後の2011年10月に行なった2度目のインタビューだ。誰もが衝撃を受けた「新生FFXIV」の発表に合わせたインタビューである。吉田氏は、現在に到るまでずっとそうだが、インタビューの内容は事前に一切明かさず、その場で初めて明らかにして、そのビジョンを語りまくるという、超攻撃型のインタビュイーだ。この2度目のインタビューでは、作りたての資料をテーブルに並べて待ち構え、「新生FFXIV」の存在を初めて明らかにし、吉田氏は我々に資料に目を通す暇も与えず語りまくった。そこで語られたのは、サーバーとクライアントを入れ替え、ゲームエンジン、ゲームデザイン、ゲームコンテンツの全てが新しいMMORPGを1から作り直すということだ。
今回インタビューを読み返して吉田氏のことを凄いと思ったのは、コンテンツファインダーを軸としたワールドの垣根を越えたマッチングシステムを2年前の時点でコミットしていることだ。私自身は、この構想を吉田氏から聞いた際、本当にできるのか半信半疑だったことをよく覚えている。方向性を定めてあとはキッチリやりきる。吉田氏は、企画力と実行力を備えた非常に有能なプロデューサー/ディレクターだと思う。このたぐいまれなるプロジェクトの完成をひとまずは喜びたい。
さて前置きが長くなったが、今回は正式サービスに合わせてインタビューを行なった。インタビューの収録そのものはフェーズ4開始前に行なっているため、フェーズ4やアーリーアクセスを踏まえた質問は行なっていないが(そのあたりの情報はGamescomインタビューでカバーしている)、その代わり、正式サービスやその後のアップデートに関する話題、そして個人的に気になっていた「FFXIV: 新生エオルゼア」におけるレベル50のバトルの世界などについて話を伺ってみた。
例によってロングインタビューになってしまったため、前後編にわけてお届けしたい。前編では、フェーズ3の手応えを皮切りに、フォーラムで話題になっているコンテンツファインダーについてや、正式サービスの楽しみのひとつである新クラス/ジョブなどについて質問している。後編では、レベル50のバトルの世界や、対人戦コンテンツの構想、そして正式サービス後のアップデート計画など、よりディープな話を聞いているのでお楽しみに。
βテストフェーズ3の手応えについて。50万人超が平均30時間プレイ!
――まずはフェーズ3の手応えから教えてください。
吉田氏: βテストフェーズ3は、スタートしたタイミングがE3期間中でした。E3の最終日が終わり、現地時間の午前2時くらいにフェーズ3が始まって、最初の2時間くらいログインサーバーが混み混みで、入れた入れないというお客様の声を確認しながら、コミュニティーチームの室内がツイッター担当で、僕がフォーラム担当として対応していました。何かトラブルがあった際、開発トップからアナウンスがあるというのは安心に繋がると思ったからです。
開発本拠地である日本を離れ、北米滞在中でのβテストフェーズ3開始で不安もありましたが、サーバーチームの奮闘もあり、結局あの数時間くらいだけで、一部のサーバーダウンが3回あったかどうかくらい。それもエリアダウンだけだったのですぐに修正できました。PS3版のクライアントクラッシュに関しても、プレーヤーの方から献身的に「こういうシチュエーションでこうなった」など、的確に情報をいただけたので、毎週末ごとに全部バグを潰せましたし、結果から見ると僕としてはフェーズ3は満点です。
やはり1番プレッシャーがきつかったのが、βフェーズ3でした。というのも、PS3版がスタートして、新規のお客様がはじめて「新生FFXIV」に触れる瞬間だったからです。それまでは、単純な「旧FFXIV」との比較論で「新生FFXIV」の評価がある程度されてきたところで、βフェーズ3ではNDAも解禁になり、日本だけじゃなくて北米/欧州のメディアさんも自由に触って記事を書き始めるタイミングなので、やはり勝負だと思っていたところが大きくて……。満点だったと思ったのは終わってからです。数字という目に見える結果が残ったことで、βフェーズ3は満点です
――βフェーズ3では、何人ぐらいがプレイしたのですか?
吉田氏: それにお答えするのはすごく難しくて、βの配布数、いわゆるβテストに応募いただいた方に当選した方にメールを配布している数と、ダウンロードしている数はまったく違うわけです。
――当選メール送付数よりプレイした数は少ないわけですね。
吉田氏: そうです。なぜなら1人で何通も応募されている方もいますし、「旧FFXIV」のアカウントをお持ちの方は全員当選にしているので、「プレイした全体数」というのは「FFXIV」というプロジェクトの特殊性上、数字を「読める」人でなければ、単に数を言っても誤解される数字になってしまいます。僕が事実として注目したのは約50万人の人が1時間以上「新生FFXIV」のβフェーズ3でプレイしていて、その1時間以上プレイした方の平均プレイ時間が30時間だったという部分でした。これはデータがワイプ(削除)されるオンラインゲームのクローズドβテストの数字としては、異常に高いと思います。
――それは最後の5日間連続稼働だけじゃなくて?
吉田氏: βフェーズ3の13日間トータルの数字です。つまり、当選が後ろになればなるほど、遊ぶ期間が少なくなっていくわけですね。僕ら都合13日間しかβフェーズ3を開けていないので。最後の2日間とか4日間しか当選されていない方もいるわけです。その人たちの数字も全部入れて30時間なので。
――すると、ほとんどの当選者は積極的にプレイされたということですか。
吉田氏: そう判断しています。僕の中で「数字は嘘をつかない」というポリシーがあって、数字は結果としては絶対に揺るがない。そして、その数字には何か原因や要因があるからこそ、その数字が結果として出る、という考え方です。たとえば「『新生FFXIV』はおもしろい」、「いや、おもしろくない」という議論がネットで繰り広げられたとします。果たしてこの議論に、何人の人が参加してるのか、その議論となる両者のバランスは?数は?また、その両者に属する人々のMMORPG経験の有無や、年齢、性別分布は?と、こうした「結果が不定の議論」は、ニュアンスとしてとても大切にさせていただいていますが、やはり結論を導き出すには、あまりに数値的根拠が弱すぎます。そんな中でも「1時間プレイした50万人がいて、その50万人の平均プレイ時間は30時間」という結果は「細かい要望はあるにせよ、おもしろいからプレイが止められない」と解釈しています。
αテスト、βフェーズ1、2で頂いたフィードバックに対する修正点を約900項目くらい、実際にはそれ以上にあるのですが、フィードバック項目を修正しています。だからそういう意味では数字としてはパーフェクトでした。
――ちなみに30時間以上プレイしていた人たちは、何をメインにプレイしていたのですか?
吉田氏: 普通にシナリオを進めて、バトルコンテンツをプレイしている、というのが最も多いです。
――みんな似たような動きですか?
吉田氏: そうですねぇ……。今回のβフェーズ3のデータを見ておもしろいと感じたのは、正式サービスならレベル50に向かってまっすぐ進んでいけますけど、βフェーズ3はレベルキャップが存在するので、キャップまでいってほかのクラスに行く人と、レベル15くらいまでやって行ける都市が広がると、他の都市で今度は別のクラスをやり始める人と2通りの遊び方をしている人がいたことです。
それから、新規の方、いわゆるハードコアMMOプレーヤーと、「旧FFXIV」のプレーヤーで動きはちょっと違いますね。僕が1番新鮮だったのは、やはり新規の方。アーマリーシステムで、いろんなクラスをちょっとずつ遊んで時間を消費しているというのが印象的ですね。あと「旧FFXIV」のプレーヤーの方は、明らかにコンテンツそっちのけで、「新生FFXIV」の観光をされている方が多いです(笑)。
――フェーズ3では、途中話題になっていた、ISPさんに起因する通信障害がありましたが、あれは解決したのですか?
吉田氏: 解決したかと聞かれると、どうしても弊社側だけの問題に聞こえてしまいますが、ネットゲーム黎明期の頃からある、なかなか難しい問題ですよね。この時代になってもまだあるのか、と思ったくらいでして……。
――かつて、そういうゲームに向いたISPみたいな話はありましたね(笑)。
吉田氏: やはり黎明期、特に日本のインターネット網は、ものすごく複雑で、特定業者の名前が付いていても、実際の2つ先からは別の業者さんに相乗りさせてもらっていたりして、その中継基地ごとに使っている機器も違っていたりするので、どんなフィルターが入ってるのか僕らにはわからないのです。
ただ、日本でここまで大がかりなMMORPGをローンチする機会はなかなかありません。弊社の各部署から、各ISP様へ「新生FFXIV」のご説明と現状をお話しして、「なんとか対応していただけませんか?」と。それをちゃんとお話しした結果、各ISP様がきっちり原因を追っていただいて、日本国内に関してはほぼ100%通るようになったと思います。本当に各ISP様のご協力には感謝しています。
――私もβフェーズ3はE3から戻ってから参加しましたが、こんなに盛り上がったβってあったかなという感じは、お世辞でもなんでもなくて、事実として連日盛り上がってましたよね。実際、中の雰囲気はどんな印象でしたか?
吉田氏: 楽しそうに遊んで貰っていたとは思います。ただ、そうは言っても僕自身は、作り手としてのMMORPGのローンチって初めてなので、今回がどれほどなのかは、自分の中に比較対象が存在しないので、実感としてはまだ薄いです。
――そうか、「ドラゴンクエストX」の時には、ローンチのタイミングではすでに現場から離れていたんですね。
吉田氏: はい。クローズドβはデータがワイプされる前提で、通常はプレイ時間が短いですしね。余計他のMMORPGと比較しにくかったです。やっぱり僕はゲーム内に自分でこっそり入って、普通にプレーヤーの方と身分を隠してプレイしたり生の声を聞いてたり、異邦の詩人のキャラを使い、吉田として入って声を聞いてたりするのが好きですが、プレイしている皆さんが、とにかく楽しそうなのでホントに良かったと思いました。
――プレイしていて感じたのは、これは善し悪し両方あると思いますが、まだ始まってないにもかかわらず、ある意味、すでに成熟したコミュニティが存在することです。こんなゲームないですよね。
吉田氏: そうですね。でも、コンテンツファインダーでは、JPのデータセンター単位でマッチングするので、すべてのプレーヤーは、否応なくレガシーの人たちともコンテンツファインダーでマッチングする。つまり、アーティファクト装備を着ている人たちもレベルシンクして新規の人たちと一緒に遊んでいます。新規の方のブログや日記を拝見すると「レガシーの人はみんな優しかった」など、うまく交流されていましたね。
結局はゲームが面白いかどうかだし、綺麗なグラフィックスかどうかだし、自分が気に入るキャラが作れるかどうか、後はシナリオが面白いかどうかですよね。その点では、コンテンツファインダーを公開した第4週目からのテストで、レベル15を突破してイフリート戦をクリアまで行った人が前週の倍以上になっているので、やはりパーティープレイの敷居は高いと改めて思いました。
――倍ですか? それは単純に皆のレベルが上がって参加しやすくなったからというわけではなくて、コンテンツファインダーが実装されたことで、それを利用してイフリートを攻略した方が多かった?
吉田氏: そうです。いかにパーティーを組むか、声を出してパーティーを組むというのが初心者にとって難しいか、ということなんです。コンテンツファインダーがないとなかなか、ダンジョンに行けない。たとえば、クエストでコレを突破したらシナリオが進む、しかもその場にどっちゃり人が集まるような導線設計をしたとしても、パーティーを組めないという人がやはり多い。コンテンツファインダーがなければ、あそこでゲームを止めてしまっても不思議じゃないです。
――凄い効果ですね。数十%増ではなく、倍ですか。
吉田氏: はい、倍です。就任当時。中村さんにお会いしてインタビュー受けた際、「必要だと考えている機能は何ですか?」と言う質問で、「コンテンツファインダーでマッチングできるかどうかです」という話をしたと思います。
フォーラムにも、パーティーの作りにくさや面倒くささや、パーティープレイの敷居の高さを打破したいと書いたところ、「MMORPGプロデューサーの吉田がそれを言うなよ」とボヤきもいただきましたが、カジュアルゲーマーには本当に難しいことなんです。
吉田の友達には濃いMMOファンもいれば、ライトなゲーマーの友達もいますが、何回MMOに誘っても断られるんです。「だっておまえ先走っちゃうし、残された俺はパーティーなんか組めないし」と。今回彼らもβに応募してくれて、βフェーズ3で当選した人が多いのですが、「ファインダーで初めてパーティー組んだわ。会話は全くしなかったけどね」と。
僕が「へー、でも挨拶はしたんじゃ?」と聞いたら、「よろしくお願いします」と「お疲れ様でした」はしたよ!って帰って来たので、「それなら、ちゃんとチャットしてるじゃん?(笑)」と。これを繰り返しているうちに余裕ができていて、喋ることも多くなってきて、「ここの攻略初めてなんです」と言ったら、「自分もまだそんなに慣れてないですけど、ここは確かこんな感じだったので」と返事があるかもしれない。この1歩目はとても大きいと考えているのです。