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会場:ガンホー本社
この両作の開発の陣頭指揮を執っているのが、ガンホー取締役開発本部長堀誠一氏である。堀氏は、森下社長と共にガンホーを立ち上げて以来、テクニカルディレクター、テクニカルサービス部テクニカルマネージャー、技術担当取締役(現任)と、一貫して技術、運営部門のトップを務めてきた。 しかし、水面下では、森下氏がCOOの時代から明言してきた「自社タイトル」を実現させるための動きとして、2004年の堀氏の取締役就任に合わせて正式にコンテンツ開発部を立ち上げ、2006年1月1日付けで、システム運用とコンテンツ開発を合わせた「開発本部」としてゲーム開発を前面に出した組織へと刷新された。そして2007年、この開発本部のコンテンツ開発部隊の作品がいよいよ公開されるという流れになる。 ところで、2月22日から開催されるAsia Online Game Conference(AOGC)において、堀氏は満を持してゲーム開発について講演を行なうという。昨年のAOGCでは、同社のソフトウェアプラットフォーム構想についての講演を行なった堀氏だが、その構想の背景にあるのは、「Rondo-Framework」と呼ばれる開発フレームワークの存在だ。今年は「Rondoプロジェクト」を絡めた形でさらに踏み込んだ講演を行なうことが予想される。 そこで今回は、AOGCの講演に先立ち、ガンホー森下社長との年頭インタビューでは見えてこなかった、ガンホーの自社開発コンテンツの開発状況、そして「Rondo-Framework」との関連性について話を伺った。予想を上回る大胆な試みが披露され、オンラインゲーム開発関連のインタビューでは久々に興奮を覚えるインタビューとなった。初出の情報満載なのでぜひ注目いただきたい。
■ 「グランディアオンライン」は、ガンホーの「Rondo-Framework」で再開発中
堀氏: 私は開発本部の根幹となる運営環境の改善と、開発体制の整備に注力していました。ガンホーのサービスが多様化していく中で、業務の分業・継承と新規の事業体制に向けた準備に追われる狭間の年度であったと感じています。2007年に入り、開発本部としてコンテンツ開発用件に注力できる体制がようやく整ってきたところだと思います。 編: 森下さんから、「GO」の開発をゲームアーツから引き上げ、社内に開発チームをおいて、堀さんが開発を担当していると伺いました。 堀氏: はい。「GO」の開発に関しては現在ガンホーで進めております。もともとはゲームアーツでのオンラインゲーム開発ということで進めていたプロジェクトでしたが、オンラインゲームの開発はコンシューマのそれとは異なる特性を持っています。ゲームアーツにおいても、「GO」のある程度のイメージは構成されていましたが、オンラインサービスとして提供できるシステムを具体的な形とするために、ゲームアーツで取り組んできた内容をガンホーにて引き継ぎ、作り直すことにしました。 その際に、これはAOGCでお話させていただく内容となりますが、「GO」はガンホーで受け取った際に、以前お話させていただいていた「Rondo-Framework」という開発環境の一部を活用して開発するように移行しました。 編: 2006年に「GO」の開発が遅滞した原因は、ゲームアーツの開発環境からガンホーの「Rondo-Framework」に乗せかえる作業があったからだと理解していいのでしょうか。 堀氏: それは副次的なものですね。コンテンツの作り方に対してオンラインゲームで培われるものとコンシューマで培われるものでは若干異なると経験上感じています。「慣れ」という部分もあるのですが、継承されてきた開発思想の根本的な違いのようなものかもしれません。またオンラインゲームに対するノウハウはガンホーに集約されている面が強く、ゲームアーツもまた、グループ戦略として強化しなければならない分野への注力要求もありました。結果としてガンホーのプロジェクトとして「GO」を引き受けるために、開発体制の整備に時間が必要となったということになります。 編: 「Rondo-Framework」を採用したことによる開発側のメリットとユーザー側のメリットを教えてください。 堀氏: まずは改めてRondoプロジェクトについてお話する必要があると思います。Rondoプロジェクトの目的は、「仮称:Rondo」という開発ターゲットとなるゲームとその開発環境及び稼動プラットフォームを作ることとなっています。これは実は森下(一喜 ガンホー代表取締役社長)とガンホーの創業期によく話をしていた夢の第一歩となるプロジェクトでもあります。自社タイトルを開発できるようにしていきたいという夢は当初から抱いていたのですが、「RO」などの運営サービス経験を積む中で、自社のサイズとニーズにあったコンテンツを自分達で提供できるようにするためには、開発環境からサービスを実装するシステムまでフルフィルメントで取り揃える必要があると痛感し、立ち上げたプロジェクトなのです。 ゲームの開発も一般のコンピューターシステム開発と同様に多くのミドルウェアを活用して作るのですが、その当時オンラインゲームの分野において、活用事例の多かったミドルウェアは「帯に短したすきに長し」という面を感じていました。自社の想いを乗せたコンテンツを作るためには自社のフレームワークを作らなければならない、開発思想に永続的なサイクルが持てることが必要だということを感じていたのです。これは非常にソフトウェアハウス的な発想であり、生産力的にも不利かもしれないという点を悩んだ時期もありました。しかしその当時の韓国のオンラインゲームは小さなチームでこつこつとエンジンを自社開発するスタイルが多く見受けられ、ノウハウを蓄積していく姿は開発者として共感できる面も多かったのです。 このプロジェクトは多分に森下の英断もあったと思うのですが、未来の可能性を信じ、一致して支持してくれた取締役会の協力がなければ始められませんでした。長期間地道に積み上げなければならないプロジェクトでしたので、非常に心強かったですね。 とはいえこの作業は、試行錯誤の繰り返しとなりました。まずはターゲットとなるゲームモデルをイメージし、その実現に必要なベースライブラリとシステムを想定、その稼動に必要な開発工程を探り出すという作業なのですが、何度か迷い道に入り込む気の長い作業となるのです。開発ワークフレームを自社で持たれているところも多いと思いますので、開発者の皆さんからするとその作業が馬鹿馬鹿しく面倒なものであるということは理解していただけると思います。 普通は複数のコンテンツ開発の中でノウハウが蓄積された結果、カスタマイズと効率化が進められるものであり、かつ再利用性が必ずしも得られるわけではないからです。しかし我々がターゲットとするコンテンツはアップデートの繰り返されるオンラインゲームであり、開発効率、転用性を求めなければコストが大量にかつ永続的に要求されてしまう結果となってしまいます。またコンテンツの生産力を問われる中では、フレームワークの開発・再設計の機会など、たびたび訪れるものではないことも承知していました。それ故に苦心の多いプロジェクトとなっています。 今回その中間過程として、一部のノウハウが「GO」に活用されることになります。ユーザーの皆さんに提供できるメリットとしては表立って見えるものではないかもしれません。しかしながら我々が不具合を見つけた際に、手を入れられる範囲が限りなく広い点があるのです。また拡張性に注目していますので、アップデートに対する拡張余地も広いと考えています。これでようやく我々が培ってきた開発ノウハウを形として表明ができるのではないかと考えています。折に触れ、いろいろな局面で我々が学ばせてもらってきた点を皆さんに還元できればと思っています。 編: 以前、AGEIAの「NovodeX」物理エンジンを採用すると発表がありました。純粋にすべて自社というわけではないのですよね。 堀氏: もちろんそうですね。当然コンパイル環境やモデリングツール、有効なミドルウェア等は活用させていただいています。フレームワークの定義には、それらのツールを扱う作業工程も含まれます。実は開発を進めている段階で、我々が悩んでいた点を解消してくれるミドルウェアもいくつか登場しています。プロジェクトが長くなると同じようなことを考えていらっしゃる方々の製品に触れるチャンスもあるのですね(笑)。オンラインゲームとして重要なネットワークプロトコルエンジン、チャットエンジン、Viewingエンジンなどは我々が組み上げ、データ周りを扱う部分は将来的な技術変動を考慮し、製品活用もしています。それらを柔軟に工程に取り込めるようにしたことで、我々のフレームワークもより柔軟性が高まったと感じています。
■ 「Rondo-Framework解体新書 α版」。「Rondo-Framework」で何がどうなるのか
堀氏: うーん、それはまだ喋れないな(笑)。 編: 2006年のCEDECで「『FFXII』解体新書」というスクウェア・エニックスさんのセッションがありました。そこで、いわゆるミドルウェアとPS2の開発ツールをつなぐ部分をすべて自社で用意したという開発工程が紹介され、私が書いた記事でもかなりの反響がありました。「Rondo-Framework」とはこうした内製ツールの集合体ということですよね。 堀氏: 僕も中村さんの記事を読みました。まさにそういう思想なのです。スクウェア・エニックスさんのような豊富な実績をお持ちのゲーム会社では当然のこととして行なわれていることであり、我々としてもやるべきことをやっているだけなのです。今言えることは、我々も独自のエンジンと開発工程をくみ上げてコンテンツを作っていきますことだけです。具体的な取り組み内容についてのディティールはAOGCでもう少しだけお話ししようと思っています。 編: 「FF XII」の内製エンジンと比較して「Rondo-Framework」のみが備えているものとしてネットワークエンジンがあると思います。過去に堀さんが日本はオンラインゲーム後進国だといったお話をされていて、当然そのスタンスあってのロンドフレームワークであり、ネットワークエンジンなんだろうなと理解しています。 堀氏: 比較すべきものではないと思います。また想定しているエンジンモデルがすべて「GO」に投入されるわけではないです。そのうちの一部が投入されることになるでしょう。まだ我々が夢描いているネットワークモデルについては実証実験が必要な部分も多いので。いつか製品化される時が来た時には詳しくお話ができるのではないかと思います。 編: たとえば、バトル周りの見せ方にしても、リアルタイム処理かどうか、どれだけバッファを取るのかなど、無限のアプローチがあります。当然新しい仕組みを盛り込んでくるのだろうと見ていますが。 堀氏: それはゲームモデルとしてのアプローチの部分ですね。いくつか新しい試みもあるのですが、ゲームモデル、ゲームの内容についてはもう少し先にお話させていただくことになると思います。 編: 森下さんはグラフィックスも刷新されたと発言していました。2005年9月に東京ゲームショウで公開されたムービーの中にゲーム画面らしきものが写っています。あれが全面的に変わるのでしょうか。 堀氏: はい。 編: それも「Rondo-Framework」が影響しているのでしょうか。 堀氏: 元々「GO」はスタンダードな3DタイプのMMORPGを想定して開発が進められていました。ただ、「GO」をより多くの人に遊んでいただくことを考えた場合に、既存の概念のままでは表現の広がりが求められません。より高度なグラフィックス環境を要求すれば多くの人に遊んでいただくことは困難となり、ローレベル対応を安易に考慮してしまうと、競合商品との差異を生むことは難しくなる。ですから、今回の表現はゲーム的な意匠を重視した上で、ユーザーの皆さんに親しみやすい新たなグラフィックス表現を模索しています。「Rondo-Framework」では「Sphere」、「N2」という2種類のViewingエンジンが開発されているのですが、「GO」では「N2」というViewingエンジンを活用していきます。 編: スクウェア・エニックスやコーエーさんは次世代機、次世代テクノロジーの方向にシフトしている印象があります。一方でガンホーさんは「それとは違うよ」というスタンスですよね。どこを向いているんでしょうか? 堀氏: 元々PCプラットフォームでの展開ですから同次元では考えられないと思うのですが、「GO」はロースペック環境でも稼動可能なグラフィックを想定しています。意匠的には見たことがある形になると思いますが、ある程度クオリティを出せる方向を志向しています。 編: ロースペックでクオリティの高いグラフィックスとは、「大航海時代Online」のような表示まわりのスケーラビリティの高さを意味しているわけですか? 堀氏: これ以上は言えません(笑)。 編: 3Dグラフィックスは正常の進化とフェイクの進化があります。フェイクの進化として、バンプマッピングだとか、ノーマルマッピングだとかあります。狙っている方向としては後者だろうと。 堀氏: 食い下がりますね(笑)。フェイクの進化の方向性ということになるだろうと思います。ガンホーの登録ユーザーの皆さんが今までのゲームを遊んできた環境のままで、可能な限り遊べるようにしていきたいと考えて作っています。 編: 2005年の発表から1年半近くが経ち、開発元が変わるなど大きな変化もありました。その中で基本コンセプトやゲームデザインの揺らぎはないのでしょうか。 堀氏: コンセプト自体はまったく揺らいでないですね。もとよりテーマは「本当の冒険」でした。1年半前東京ゲームショウでお話したことですが、冒険という言葉を考えたときに、どんなことが冒険になるのだろうということを真面目に考えて作っています。「GO」の冒険者達はこういうものだということを、「グランディア」の世界背景を踏襲しつつ新しい形で表現していきたいと考えています。その軸線は変わっていません。
■ 「GO」のゲームエンジンの革新性は、コアエンジンの拡張性にあり
「それだけじゃないよ」という部分を小規模ながら実現しているのがカジュアル系のオンラインゲームであり、それが今のカジュアルゲームの人気に繋がっていると私は見ています。しかし、メインストリーム系のMMORPGにも、そろそろ新しいゲーム性を搭載したタイトルが出てくる頃ではないかと。そして「GO」がまさにそれではないかという期待を私は持っているんですね。 堀氏: そういう論理展開ですかぁ。ストーリーできてるんだもんなぁ(笑)。少しだけ話すと、MMOのゲームフォーマットと考えられているものとしては、クリック戦闘して、レベルを上げて、モノを生産して販売してといった一連のセオリーがあります。MMORPGのフォーマットはこれに限る、と開発者が一致団結して考えているわけではなく、MMOという遊びを提供していく中で自然とセオリー化してきたことです。 しかし、このフォーマットに則った形で新作を出していくのはかなりのチャレンジなのです。なぜなら我々は「RO」や「ECO」のようなコンテンツを出しているからです。なので、同じような軸線のものは作らないということを考えていました。「GO」はRPGとしてのフォーマットは変わらないのですが、ゲーム性の部分に対しては別なチャレンジをしていこうと考えています。戦闘システムに関する部分ですとかゲームシーケンスに関する部分ではちょっと新しい考え方を入れていこうと考えています。 編: ほうほう、とても興味深い話ですね。 堀氏: 自社開発をやらせていただくことでのプラスワンは何かといえば、これまで蓄積してきたノウハウを「GO」に実装していくことで、我々が長期的に拡張サービスが提供できるようなゲームシステムにしていけるということです。普通のことを言っているようで実はそうでもない。これはAOGCのテーマと絡んできますが、オンラインゲームの開発に大きな壁がいくつかある中で、大きいものの一つとして拡張性の問題があります。オンラインゲームというのは長期のビジネスの中で無数のトライアルを重ねていくモデルの為、初期開発と同等のコストが都度かかってくるとなるとビジネス的なリスクも増えてくるわけです。初期段階でゲームシーケンスの考慮を甘く見積もり、ゲームデータ及びモデルの開発を力技で行なってしまうと次のアップデートも必然的に力仕事になってしまいます。 私がシステム開発の出身者であるから特に強く感じるのかもしれませんが、これはナンセンスなことなのです。ではどうしてそうなってしまうのか。ゲームプランニングのセオリーとして、第一にコンセプトを立ち上げて、コンセプト実現の為にシーンを切っていく考え方があります。もちろんすべてのゲームでそうではありませんし、それが最適解の場合もあると思いますが、オンラインゲームはそのセオリーに則っていくといつか破綻するのです。大勢の人が同時に多種の行動をするという不確定要素が多量に発生する中で、とあるシーンを演出するために発生する不確定要素をつぶし、またそのそのしわ寄せとして発生する不確定要素をまたつぶし、といった形で詰めていくといつしか袋小路になってしまう。 オンラインゲームの開発は不確定要素を机上で確認しづらい為に、ついつい甘い見積もりのままスクラッチビルドに突入してしまいがちです。それが製品化まで辿り着けたとしても、次のステップのアップデートでつまづいてしまう。スクラッチビルドはいずれにしても必要なステップなのですが、プロジェクトのスケールを考えた上で、実装に移るタイミングを見計らわなければなりません。 ゲームのプランナーがゲームコンセプトとコンセプトイメージを切っていく作業の中で、可能な限りフレームワークを想定に入れ、開発のタイミングとスケーラブルポイントをどこにもっていくのか。システム全体を頭に入れた上で、ゲームシーケンスを組んでいかないとオンラインゲームの拡張性は永続的に保つことはできないです。我々はそうしたものに関して最初から新たなセオリーを持って取り組んでいきたい。それを実現するところが「GO」のプラスワンだと思います。 編: それもいくつかの考え方がありますよね。コンテンツをすべて自前で用意するのか、あるいはそれをある程度ユーザーにゆだねるのか。パラメータを組み込むだけでオブジェクトなりシナリオをジェネレートしたり、「Second Life」のようにコンテンツ生成をユーザーに任せるという考え方も出てきている。GDCにおける最近の流れを見ても、ゲーム開発において、開発側がそれほどマンパワーをかけずにコンテンツを量産していこうという考え方が増えてきています。「GO」はそれらに似たアプローチなのか、まったく新しい考え方なのでしょうか。 堀氏: 我々はゲームの拡張に関して、ゲームシーケンスそのものの多様性を増やしていこうという考え方を持っています。これはミニゲームということではないですよ。システムとしての拡張性拡充性に着目しているところがあります。「Second Life」のようにMODを大量に生成する形でもありません。冒険自体を表現するためのゲームシーケンスを最初に定義したものだけでなく、増やしていけるように考えていこうということなのです。 編: なるほど。だんだん見えてきましたが、「GO」は誰もがなしえなかったコアエンジンに拡張性を持たせた初のMMORPGということですよね。例えば、ある程度歴史の長いオンラインゲームは、設計思想そのものが古びてきていて、1マップ上のオブジェクトは最大512個までとカッチリ決められている。これを拡張しようとするとデータベースの構造からいじらなければならない。するとすべてに手を入れなければならなくなる。結論としては「無理です」となる。基本的にはコアエンジンは固定であって、これに無理に継ぎ接ぎすることによってリスクが増大していく。この点、「GO」はコアエンジンに拡張性を持たせることによって無限の可能性を持たせることになるわけですね。 堀氏: まったくおっしゃるとおりなのですけど、この話はここまでにさせてください。コンテンツに評価あってからの裏話であって楽屋ネタを先にやるべきではないと思いますので(笑)。あとは「GO」のリリース前にお話させてください。 編: なぜここまで突っ込ませていただいたのかというと、一般世間から見るとゲーム開発に実績にあるゲームアーツからガンホーに開発体制を移す理由がよくわからない部分がある。私なりにわかりやすい解説するために、直接堀さんを当たったというわけです。 堀氏: ガンホーはオンラインゲーム開発に特化して積み上げてきたものがあり、まさにそれが必要なタイミングが訪れたということです。Rondoプロジェクトの目指している方向性を「GO」に乗せていくべきだろうと。作り手としての思いが「GO」に収束される形で完成を目指しています。 「ECO」は初の自社提供コンテンツとして、ヘッドロックさんとパートナーを組みながら出してきました。オンラインゲームをパブリッシングする立場からリリースしていく立場を学んできましたし、海外展開を踏まえたうえで次の「ECO」を考えていくステップに繋がっていっています。同時に「北斗の拳 ONLINE」も開発パートナーを踏まえながら既存のフォーマットに則らない形でどこまでやれるのかにチャレンジし、学んでいっています。「ECO」、「北斗」、「GO」は開発学習の中で1つの繋がった流れとなっているのです。「GO」で明確な答えを見せたいところですね。
■ 「北斗の拳 ONLINE」で描かれる世紀末の実態とは!?
堀氏: 「ECO」はヘッドロックさんをパートナーとして進めていますが、「北斗」は多くの会社さんに協力していただいている形です。ゲームアーツ、ガンホー、他にも協力会社さんが入っている状態です。基本はゲームアーツとガンホーです。 編: 色々な会社がジョイントした理由は何でしょう。 堀氏: 「Rondo-Framework」とは異なる開発体制で「北斗」は進められているので、ガンホーは進行管理が主な担当作業となっています。開発母体であるゲームアーツの体力でカバーできない点を、協力会社さんに補ってもらっていることが理由となります。 編: ガンホーとしては、「北斗」に関してもう少し時間を取ろうという判断から、リリース時期を今年の第2四半期としました。開発本部の判断はどうだったのでしょうか。 堀氏: 「北斗」の基本的なゲーム意匠はできあがっていましたが、オンラインゲームということを考えると不確定事象に関する考えがまだ足りず、いくつか問題点が出てきました。より遊びやすくといったポイントを踏まえてゲームの意匠を変えてきた部分もあります。 編: つまり、ゲームデザインが変わってきたのでしょうか。 堀氏: コンセプト自体は変わってないのですが、ゲームのデザインは変わってきています。「北斗の拳」の世界を表現しようと考えたときに、あの無法の世界観を踏襲しつつ、拳法家同士の戦いを表現することが大きな肝だと思うのです。そこで戦いの戦略、読みあいの表現に注力した形で進められています。 編: 年末に新しい画面を1点頂きました。あれは実際のゲームを現わしていると考えてよいのでしょうか? 堀氏: そうですね。「北斗」の戦いは己の信じている論理のバトルでもあるわけです。もちろん「拳」で殴るのですが、「拳」に意味をこめて戦っている部分が大きいですよね。お互いの論理のぶつけ合いや読み合いのバトルがあるわけです。その感覚はクリッカブルで敵を倒すだけでは語りつくせないだろうと思うのです。より戦略性を出す形として「死闘」戦闘システムというものが準備されています。「指先1つでダウン」というイメージは大切にしつつ、モヒカン達をクリックして倒していくのではない戦闘を用意しています。 編: 原作の魅力はなんといってもドラマ性だと思います。いわゆる雑魚キャラでもとてもむごたらしく死ぬことで、一瞬ながらとてつもない存在感を放ちます。ユーザーの中にはその雑魚キャラになって可能な限りむごたらしく死にたいといった変なニーズもありそうですが(笑)、そのあたりをどうビジュアルとして見せていくのか気になるところです。 堀氏: 「北斗」ではプレーヤーは原作「北斗の拳」の世紀末を生き抜く人となって登場します。この世界では暴力による支配がいくつかの勢力によって行なわれています。原作に登場したシンがKING軍を率いていたり、マミヤが解放軍を指揮していたりするわけです。ユーザーはそれらの勢力に所属する形でゲームの世界に入っていきます。 通常だとモンスターを倒して何かを得てお金を貯めて何かを買ってという流れになりますが、「北斗」ではお金は紙くずです。「ケツを拭く紙にもなりゃしない」という台詞そのままです(笑)。しかも世紀末の時代のため、モノが不足しています。日々の食料や身を守る武装、移動のための車を手に入れなければならないのに、それらは人から奪ったり作ったりしないと生まれないものなのです。さらに別なものが欲しいといった場合は物々交換をしなければならない。お金を貯めて資産があるから何かを買ってではなく、生き抜くためには日々考えなければいけない世界です。ゲーム内でもかなり厳しい世界になるだろうと思います。 また「北斗」の世界ではモンスターがいてモンスターと戦うわけではありません。ときどき化け物のような人物がいたりするのですが、基本的は人間が相手です。自分の所属している勢力と敵対している勢力のプレーヤーないしはNPC達と争っていかなければならないのです。突然、街角で死闘が始まるわけですからおちおち余所見もしていられません。街にいるから安全だといったことは無いのです。 編: 大きな謎なのがインフラの部分です。お金だとお水だとかガソリンだとか、こうしたものは基本的には奪うものなのでしょうか。 堀氏: ええ。奪うかもしくは勢力の中で分かち合う形になります。初期の段階ではまずは奪うということが中心になると思います。次のステップでは「育てる」という話になるのでしょうかね。皆さん、ゲームに入ってみるとこれぞ世紀末と感じるだろうなぁと思っています。 編: 初心者ユーザーはどういう扱いになるのですか。ゲームに入るといきなり殴られる対象になるのでしょうか。 堀氏: はい。やはり殴られる対象にはなると思います。 編: システム的に保護されないのですか(笑)。 堀氏: 世紀末ですから(苦笑)。まず慣れないうちは敵対勢力の熟練者は避けて通るべきでしょうね。逃げることも生き残るための術の1つではあるので、逃げるすべも見出してもらいたいと思います。救いのない世界なのかといえばそうでもありませんよ。戦っていく中でライバルを見つけたり、状況によって戦友となっていくような仕組みを実現していくことが考えられています。男らしい「漢」の生き方を選ぶか、「外道」な生き方を模索するか、どちらの方向を選ぶかはプレーヤー次第です。 編: バトルシステムはエンカウントなのでしょうか。人がいてバトルシーンに移行する形でしょうか。 堀氏: 基本的にはプレーヤー対プレーヤー、プレーヤー対NPCの戦いとなり、バトルシーンに移行されます。ターンベースで戦闘が進む中、互いに出方を読みあう展開になります。相手の出方を読み、防御や攻撃の手段を自ら戦略を組み立てながら戦っていきます。文字ではお伝えしづらい内容ですが、近日に詳細をお伝えすることができるようになると思います。
■ 2007年は「オンラインゲームに対しての視野が広がる年に」
堀氏: 継続中だと考えています。ゲームサービスの形態も少し変わってきていますので、方向性は少し変わってきていますが、バランスの変動に併せて、今後も新たな施策を実施していくことになると思います。 編: 今後の方針はどういった内容でしょう。 堀氏: それは話すと長くなるので、また別の機会にさせてください。 編: アイテム販売についてお伺いしますが、アイテム販売の真の狙いとして、レベルバランスを是正し、円滑なコミュニティを形成していくという話でした。これは実は堀さんがずっと前から言われていたことです。実際に販売が開始されてそのとおりになったのでしょうか。 堀氏: 一定の成果は挙げていると考えています。但し、前のインタビューのときにもお話させて頂きましたが、実際に遊んでいただいている皆さんのフィードバックも受けながら、調整の必要なことと考えています。今後の経過を見て、より良い方向に進めていければと考えています。 編: 次に「ヨーグルティング」についてですが、韓国では開発とサービスの中止が発表されました。 堀氏: はい。開発元での継続的な開発とサービスは終了します。日本でのサービスも止まってしまうのかというご心配をお掛けしましたが、日本でのサービスは今後も継続されていきます。ゲームの開発は止まりましたがカスタマイズ、チューニングできる部分はあります。 編: 今後の開発はどこが行なうのでしょうか。 堀氏: 残念ながら開発が継続されるということではありません。ユーザーの皆さんに遊びやすい形でのチューニングはガンホーにて行っていこうと考えています。現在までに実装されてきているゲーム性をユーザーの皆さんにはなんら変わることなく提供できればと考えています。 編: では新モンスター、新エリア、新学年といったアップデートは難しいと考えていいわけですか? 堀氏: 残念ですが、現在そういったアップデートは想定していません。 編: メジャーアップデートの無いMMOの運営というのはかなり厳しいことになるのではないかと思いますが。 堀氏: ビジネスとして厳しいのは確かですが、今まで遊んでくださった皆さんや育ってきたコミュニティを大切にしていきたいのです。「ヨーグルティング」の楽しさが失われてしまったわけではありません。現在も遊んでいただいている皆さんの為に、また今後「ヨーグルティング」を知り、遊んでいただく皆さんの為にも、オンラインの中の「学園」を大切に守っていきたいと思います。 編: 2007年のオンラインゲーム業界はどのような流れになると見ていますか。 堀氏: ガンホーとしては「ECO」を皮切りに行なってきた自社コンテンツ展開に対し、今年は「北斗」、「GO」を加えていきます。当然「RO2」も控えておりますし、我々にとって今年は色々な意味で大きく展開する年だと考えています。 市場全体としては、オンラインゲームに対する遊び方、提供の仕方の広がりを感じています。今までのゲームフォーマットにのっとっていたMMORPGとは違うものも当然出てくるでしょうし、 FPSのようなコンテンツに対しても日本では一部の方々だけというイメージが強かったのですが、だんだん広がってきています。カジュアルゲームも同様ですね。オンラインゲームを遊んでいただける方々の裾野の広がりが感じられます。 編: ビジネスモデルと先ほどのUser Created Contentsに対して、日本ではどのように向き合っていくと見ていますか。 堀氏: その点については確かにわからないですね。先ほど中村さんが引用された「Second Life」は、非常に壮大で面白いサービスを展開されてきているなと思っています。但し「Second Life」も多くの課題に直面していると思います。大規模であり、かつゲームという受け取られ方ではないコンテンツですから、我々が経験したこともないような新しい課題にトライしていかなければならないのだろうと思います。「Second Life」は特化した一例だと思いますが、今までゲームとして捉えられていたエンターテインメント自体も、オンラインエンターテインメントというくくりの中で、共通の問題提起が広がっていくのではないかと思っています。 編: 確かに「Second Life」はオンラインエンターテインメントという総括した枠組みがピッタリですよね。 堀氏: ゲームとそれ以外のエンターテインメントの境界が少しずつぼやけてきたところがあると感じています。もっと形の違うものに変化していく時代になってくると思います。但し全体的に変化していくというよりも、コアなユーザーさんに喜んでいただけるようなコンテンツを作っていく考え方と、もっとマスに向けて作っていくコンテンツの考え方が同時に成立しうる環境になっていくのではないかと考えています。 次世代機などの環境でもそうですが、これまで限定環境の中でパッケージ提供されてきたゲームが、遊ばれる環境・デバイスが広がり、ネットワークの要素が加わって、遊び自体が進化してきています。そしてその中で、やるべきことはまずこれだという限定された進化ではなく、いろいろなチャレンジすることが可能となった。多様化した進化の時代、そういう時代がやってきたのだと思います。 2007年の動きではそうしたところを私としては注目していますし、私自身のミッションとしてはそういう世界に船出するために自社コンテンツを開発していくことに集中していきたいと思います。 編: 最後に開発本部長としてユーザーさんにメッセージをお願いします。 堀氏: 今年は皆さんの期待を集めている「RO2」や、我々として待ちに待った自社のオリジナルコンテンツを2本出すことができます。それに向けて全力投球していきたいと考えています。ガンホーのオンラインゲームがどう変わっていくのか期待して見ていてください。 編: ありがとうございました。
□ガンホーのホームページ (2007年2月20日) [Reported by 中村聖司]
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