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CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2006レポート

スクエニ村田氏ら、門外不出の「FF」開発ノウハウを一挙公開
「『ファイナルファンタジー XII』解体新書」

8月30日~9月1日開催

会場:昭和女子大学



 CEDECは回を重ねるごとに大手メーカーからの参加が増えてきており、最近は開発者たちが「知りたい」と思うようなメジャータイトルを扱ったセッションもごく普通に行なわれるようになってきた。

 中でもスクウェア・エニックスは、CESAに加盟しているメーカーの中では比較的、新参のメーカーだが、昨年のCEDECでは、いきなり「ファイナルファンタジー XI」を題材に、MMORPGの開発と運営ノウハウを公開し、CEDEC参加者を喜ばせた。先端のゲーム開発ノウハウの共有を目的としたゲーム開発者向けカンファレンスとして大きな前進が感じられた瞬間だった。

 今年は、スクウェア・エニックス代表取締役社長である和田洋一氏がCEDECの会長に就任したこともあるのか、同社のフラッグシップタイトルである「ファイナルファンタジー XII」をテーマに、同作の大きな特徴であるシームレスバトルとグラフィックス処理に関して、試行錯誤のプロセスや、使用しているツール、メモリ管理方法などディテールにまで踏み込んだ講演が行なわれた。

 シリーズ累計6,800万本のセールスを誇る特大フランチャイズの最新作に、現場のクリエイターはどう立ち向かったのか。また、200人規模のゲーム開発とはどういうものなのか。「『ファイナルファンタジー XII』解体新書」は、現役のクリエイターたちにとって、多くの有益な情報が提供されたセッションとなった。

 講演者は、スクウェア・エニックス研究開発部部長村田琢氏、研究開発部共通技術開発グループディレクター片野尚志氏、研究開発部共通技術開発グループエンジニア土田善紀氏、研究開発部デザイングループディレクター皆川裕史氏の4名。講演は、村田氏をモデレータにセクションごとに話が展開された。


■ プロトタイプと比較しながら試行錯誤のプロセスを紹介

今回のセッションの座長として司会進行役を担当したスクウェア・エニックス研究開発部部長村田琢氏。時折、冗談やわざとらしい質問をぶつけて会場の笑いを誘った
講演者には、スクウェア・エニックスの技術部門を支える責任者が揃った。左から順に研究開発部共通技術開発グループディレクター片野尚志氏、研究開発部共通技術開発グループエンジニア土田善紀氏、研究開発部デザイングループディレクター皆川裕史氏
 村田氏は、まず従来の「FF」シリーズと「FF XII」の違いについて紹介。従来の「FF」シリーズは、グラフィックス品質の継続的向上を目指してきたゲームであり、エンカウントバトルを採用し、フィールドとバトルを物理的に切り分けることで、個別にグラフィックス品質の向上を図ることができたと説明した。

 一方、「FF XII」は、シームレスバトルを採用したために、様々な試行錯誤と新たな技術的要件をクリアする必要に迫られたという。また、プレイステーション 2ですでに「FF X」、「FF XI」という2本の作品がリリースされていることもあり、上記制約を乗り越えた上で、さらにユーザーが納得するようなグラフィックス品質の向上を迫られることになったという。

 次に村田氏は、プロトタイプ版と製品版の比較画面を公開しながら、試行錯誤のプロセスを紹介。シームレスバトルに関しては、E3 2004バージョンでは左上に配置されていたログ表示がなくなり、必要最小限の情報だけを表示する「インフォメーション」に変わっている。パーティーメニューもアイコンの表示位置やフォントサイズが変わり、収まりと視認性が良くなっている。

 試行錯誤はゲーム性の部分でも行なわれており、開発中のバージョンでは、街でパーティーメンバー全員が表示され、かつバトルシーンにシームレスに移行できるように頭上にHPバーが付いていた。さらに驚いたのは、主人公を任意で切り替え、話す相手によって会話内容を変えるシステムを導入していたことだ。

 これについては、特定のメンバーでなければ重要な情報が聞けないシステムはストレスになるため、最終的には主人公の表示は1人、切り替えも無しという仕様に落ち着いたという。まとめとして村田氏は、いかに快適なプレイを実現するか、情報の取捨選択、無用にプレイ時間を延ばさない工夫の3点を挙げ、最後にすでに完成している部分でも、時には捨てる覚悟が必要と説いた。

【従来の「FF」と「FF XII」の違い】
一言でいうと最大の違いはエンカウントバトルとシームレスバトルということになる。たったこれだけの違いが、開発行程に大きな影響を与えた

【試行錯誤「シームレスバトル」】
左がプロトタイプ、右が製品版。システムログの表示の仕方が大幅に変わっている。快適なプレイ環境を提供するための工夫だ

【試行錯誤「メニュー」】
画面下のメニュー表示が微妙に変更され、すっきり改良されている

【試行錯誤「ゲーム性」】
初期仕様では、街にもパーティーメンバーが表示され、さらに任意で入れ替えることができた。製品版では1人表示となり、頭上のHPバーもなくなってすっきり整理されている


■ シームレスバトルの技術的課題である時間停止制御とメモリ管理をどう克服したか?

片野氏は「FF XII」チーフプログラマとしての立場から、各種リソースの運用に関する設計、実装。イベント記述言語の設計、実装などシステム周りを担当
「FF X」と「FF XII」のメモリ管理の対比図。「FF X」は排他処理を行なっているため比較的おおざっぱだが、「FF XII」では全行程を包含する必要があるため、かなり細分化されている
 片野氏は技術的側面からシームレスバトルの仕組みが紹介された。片野氏は、「FF XII」の設計当初に、シームレスバトルはクエストとバトルの切り替えがなく、両者を同一システム内で処理する必要がある一方で、「FF」シリーズの手法を受け継いでコマンド入力が可能なことから、完全リアルタイムのゲームにはしないことを決断。

 この決断により重要になるのが、バトル中の時間停止制御で、ここでも多くの試行錯誤を行なっている。時間停止をすべてに適用させると、バトル進行の不整合の発生は避けられる反面、会話時に話者と対象者まで止まってしまう。逆に時間停止をかけないと、会話中にダメージを受けてもそれが反映されなかったり、会話中にゲームオーバーが発生したりなどのおかしなことになる。

 そこで片野氏は、時間停止処理が発生する項目を洗い出し、それぞれに対して、停止するものと停止しないものを設定していった。時間停止処理が発生するシーンは、バトルメニュー表示、会話実行、トレジャー取得、ミストナック実行、召還獣の呼び出しなど数多く存在するが、たとえば、トレジャー取得では、操作キャラは動作させ、操作キャラ以外はすべて停止させている。

 また、クエストとバトルの切り替えがないシームレスバトルを採用したことにより、大きな技術的課題となったのがメモリ管理である。「FF X」まではクエストとバトルが独立していたことにより、お互いを気にせずに思う存分メモリを消費してクオリティを追求することができたが、「FF XII」では同時に処理が行なわれるため、「FF X」と同じアプローチで処理をするとメモリ不足が発生してしまう。

 そこで片野氏は、「FF X」では排他処理にすることでたっぷり使えたメモリ管理を、「FF XII」ではあらかじめセクションごとに割り当て、セクション内で都合を付けるというユニークな方法で処理したという。こういう場合、セクション間で、激しいメモリ争奪戦が繰り広げられるケースが多いが、片野氏によれば、ギリギリまでメモリを使っていたりしたが、ほとんど初期の配分のままでそのまま最後まで行けたという。

 最後に片野氏は、チーフプログラマとしての立場から、目的と開発効率を考慮したシステム設計の重要性を説いた。また、大規模システムにおいては、仕様書に見えない要件の早期発見と、問題発生時の原因究明までの時間短縮も大事だとした。

【時間停止制御】
シームレスバトルに「FF」らしさを残す取り組みとして実装された時間停止処理は、内部的な不整合を避けることと、視覚的な違和感をなくすためにかなり細かい制御を行なっている

【メモリ管理】
「FF X」と「FF XII」では設計が根本的に異なるため、メモリ管理の考え方もドラスティックに変化している。また、プランナーがメモリ管理しやすいようにリアルタイムでメモリの消費状況がわかるツールを機能を作成している


■ 「も~ちゃん」、「えふぇくちゃん」など、門外不出の内製ツールを公開

ツールの解説を行なう土田氏。ちなみにこのネーミングはすべて土田氏の考案(イベントビューワーを除く)だという
各内部ツールは、すべてPS2の実機プログラムと連携し、ネットワークを経由して、リアルタイムで同時に確認することができる。きわめてリッチな開発環境といえる
 続いて土田氏からは、「FF XII」のエフェクト周りの開発に使用するツール、プラグインに関する紹介が行なわれた。内製のツールは、ゲーム会社でも門外不出の最たるものであり、ましてや「FF」シリーズのそれが公開されるのは今回が初のケースではないだろうか。

 土田氏は、データ作成の基本スタンスとして、PS2の実機ツールはあくまでプレビュー用と定義し、エンジニアの業務はあくまでデータ作成環境を支援するツールの整備に注力することだと規定。また、特殊パターンはプログラムの検証を複雑化させるため、汎用パターンに押し込み、例外処理を行なわないようにしたという。これにより、プログラムの検証に掛かる負担が軽減され、かつ特殊パターンを他に応用することが可能になる。「FF XII」では実際に特定のボス専用のパターンを、あとで雑魚モンスターに適用させたケースがあったという。

 今回紹介されたツールは、「モデルさん(マテリアルエディタ)」、「も~ちゃん(モーションプレビューワー)」、「ZEEK3(スプライトエディタ)」、「えふぇくちゃん(エフェクト総合ツール)」、「イベントエディタ(カットシーンの演出、バトルシーンの配置)」の5つ。これらはすべてPS2上の実機プログラムと連携し、ネットワーク経由で現在処理中のデータを実機に反映させ、リアルタイムで確認することができるという。

【マテリアルエディタ「モデルさん」】
【イベントプレビューワー「も~ちゃん」】
【スプライトエディタ「ZEEK3」】
【エフェクト総合ツール「えふぇくちゃん」】
【「イベントエディタ」】
「FF XII」で使用された内製のツール群。土田氏によれば、市販のツールと実機プログラムの間に内製のツールを挟むことで映像品質の向上に大きく寄与したとのことだが、開発力と人的リソースがあって初めて可能になる行為でもある


■ 「即時プレビュー機能」でエフェクト周りをじっくりチューニング

リアルタイム映像のディレクションを担当した皆川裕史氏。ツール間の連携の重要性と、即時性をアピール
「FF X」、「FF XII」の半分のグラフィックリソースで、それらを超えるためのアイデアが、「作り込める環境作り」。そのために「即時プレビュー機能」が誕生した
 4人目の講演者となる皆川氏は、イベントを中心としたリアルタイム映像におけるグラフィックス品質の向上に関する取り組みを紹介した。

 皆川氏は、同じPS2でリリースされた「FF X」、「FF XI」がすでに高品位であること、シームレスバトル実現のために当初想定していた半分のリソースで作る必要に迫られたことを挙げ、品質向上の困難さを説明。皆川氏は困難を突破するためのアプローチとして、「可能な限り、作り込みに時間が掛けられる環境を整備する」という道を選んだ。

 作り込みに時間が掛けられる環境というのは、コンバートを初めとしたマシン側の処理で発生する待ち時間を最小限にして、デザインに掛けられる時間を長く取ろうという考え方である。デザイナーに対して行なったアンケートでも「実際のゲーム画面でどう見えるのかすぐ確認したい」という要望が強い。それらの意見を総合した結果生まれたのが、「即時プレビュー機能」である。

 これは、Mayaで編集中のモデルデータを、ネットワークで繋がったPS2に実機プログラムに流し、リアルタイムプレビューを実現したもので、さらにMayaとPhotoshopの間でExportプラグインを使って連携機能を持たせている。このため、実質的にはPS2の実機上で、リアルタイムにモデルデータのテクスチャ編集が行なえることになる。「即時プレビュー機能」のデモが行なわれると、会場からは感嘆の声があがったが、確かにこれはもの凄い機能だ。

 その後、皆川氏は、ボムやエレメントといったエフェクトで構成されている特殊なモンスターを例に、エフェクトの調整デモを公開したり、イベントシーンにおけるライティング処理やポストエフェクト的な処理の仕方を紹介した。

 ライティング方針は、フィールド(バトル)時とイベントシーンで方針が異なっており、フィールド時はキャラクタの視認性が重視され、ライトの位置はマップに配置する。一方、イベントでは魅力的に見せることを重視し、カットごと、キャラクタごとに個別のライティングをあてる。ちなみにライティング担当は、イベント用のハイポリゴンフェイスモデルを作成したスタッフが担当しているという。

【即時プレビュー機能】
映像は撮影禁止だったため紹介できないのが残念。皆川氏は、「技術的にとんがったことをしているわけではない」と謙遜したが、手作業の効果を数倍にも高めるための「即時プレビュー機能」は十分とんがっている。やはり最終的にはいかに“手を掛けたか”が重要になるのは今も昔も変わっていないようだ

【ライティング】
イベントシーンで個別にライティングを施した例。一番左は何もエフェクトを施していない状態。真ん中がフォグで奥行きを表現し、最後にライティングを適用。実際のライト位置ではなく“ウソ”のローカルライティングだが、イベントシーンではこれが重要になる

【ポストエフェクト処理】
デフォルトでは暗くてよくわからないシーンだが、フォグを極限まで適用し、最後にライティングを適用。メリハリのあるシーンに生まれ変わっている


 講演の最後に村田氏は、これから「やり残した事」として、「完全シームレス化」、「作業フローの確立」、「キャラクタモーションのインテリジェントな制御」の3つを掲げた。これが次回作「FF XIII」に適用されるかどうかは不明瞭だが、たとえば、完全シームレス化に関しては、片野氏によれば、いま振り返れば「FF XII」でできないことではないというところまで認識が変わっているという。

 現在開発中の「FF XIII」に関しては、具体的な仕様については一切言及しなかったが、マルチコア対応とマルチスレッディング処理の2つを明確な課題として挙げ、PS3のCellプロセッサをフルに活かした次世代RPGになることを暗にほのめかして見せた。「FF XIII」の完成が楽しみだが、「『FF XIII』解体新書」も今からすでに楽しみである。

【これからのファイナルファンタジー】
3月16日の日本語版発売に続いて、10月31日には北米版が発売される。そして「ファイナルファンタジー XIII」へと続く

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2006」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□関連情報
【2006年9月1日】スクエニ矢島氏、「FF XII」のサラウンド実装ノウハウを公開
ドルビー「みんなでつくろう! ゲームサラウンド環境」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060901/cedec_sq.htm
【2006年8月30日】CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2006」を開催
過去最多の1,700人強が参加する国内最大のゲームカンファレンス
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060830/cedec_01.htm
【2005年8月29日】CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2005」を開催
“次世代”を見据えた意欲的なセッションが目白押し
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050829/cedec_01.htm

(2006年9月2日)

[Reported by 中村聖司]



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