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会場:昭和女子大学
中でもスクウェア・エニックスは、CESAに加盟しているメーカーの中では比較的、新参のメーカーだが、昨年のCEDECでは、いきなり「ファイナルファンタジー XI」を題材に、MMORPGの開発と運営ノウハウを公開し、CEDEC参加者を喜ばせた。先端のゲーム開発ノウハウの共有を目的としたゲーム開発者向けカンファレンスとして大きな前進が感じられた瞬間だった。 今年は、スクウェア・エニックス代表取締役社長である和田洋一氏がCEDECの会長に就任したこともあるのか、同社のフラッグシップタイトルである「ファイナルファンタジー XII」をテーマに、同作の大きな特徴であるシームレスバトルとグラフィックス処理に関して、試行錯誤のプロセスや、使用しているツール、メモリ管理方法などディテールにまで踏み込んだ講演が行なわれた。 シリーズ累計6,800万本のセールスを誇る特大フランチャイズの最新作に、現場のクリエイターはどう立ち向かったのか。また、200人規模のゲーム開発とはどういうものなのか。「『ファイナルファンタジー XII』解体新書」は、現役のクリエイターたちにとって、多くの有益な情報が提供されたセッションとなった。
講演者は、スクウェア・エニックス研究開発部部長村田琢氏、研究開発部共通技術開発グループディレクター片野尚志氏、研究開発部共通技術開発グループエンジニア土田善紀氏、研究開発部デザイングループディレクター皆川裕史氏の4名。講演は、村田氏をモデレータにセクションごとに話が展開された。 ■ プロトタイプと比較しながら試行錯誤のプロセスを紹介
一方、「FF XII」は、シームレスバトルを採用したために、様々な試行錯誤と新たな技術的要件をクリアする必要に迫られたという。また、プレイステーション 2ですでに「FF X」、「FF XI」という2本の作品がリリースされていることもあり、上記制約を乗り越えた上で、さらにユーザーが納得するようなグラフィックス品質の向上を迫られることになったという。 次に村田氏は、プロトタイプ版と製品版の比較画面を公開しながら、試行錯誤のプロセスを紹介。シームレスバトルに関しては、E3 2004バージョンでは左上に配置されていたログ表示がなくなり、必要最小限の情報だけを表示する「インフォメーション」に変わっている。パーティーメニューもアイコンの表示位置やフォントサイズが変わり、収まりと視認性が良くなっている。 試行錯誤はゲーム性の部分でも行なわれており、開発中のバージョンでは、街でパーティーメンバー全員が表示され、かつバトルシーンにシームレスに移行できるように頭上にHPバーが付いていた。さらに驚いたのは、主人公を任意で切り替え、話す相手によって会話内容を変えるシステムを導入していたことだ。
これについては、特定のメンバーでなければ重要な情報が聞けないシステムはストレスになるため、最終的には主人公の表示は1人、切り替えも無しという仕様に落ち着いたという。まとめとして村田氏は、いかに快適なプレイを実現するか、情報の取捨選択、無用にプレイ時間を延ばさない工夫の3点を挙げ、最後にすでに完成している部分でも、時には捨てる覚悟が必要と説いた。
■ シームレスバトルの技術的課題である時間停止制御とメモリ管理をどう克服したか?
この決断により重要になるのが、バトル中の時間停止制御で、ここでも多くの試行錯誤を行なっている。時間停止をすべてに適用させると、バトル進行の不整合の発生は避けられる反面、会話時に話者と対象者まで止まってしまう。逆に時間停止をかけないと、会話中にダメージを受けてもそれが反映されなかったり、会話中にゲームオーバーが発生したりなどのおかしなことになる。 そこで片野氏は、時間停止処理が発生する項目を洗い出し、それぞれに対して、停止するものと停止しないものを設定していった。時間停止処理が発生するシーンは、バトルメニュー表示、会話実行、トレジャー取得、ミストナック実行、召還獣の呼び出しなど数多く存在するが、たとえば、トレジャー取得では、操作キャラは動作させ、操作キャラ以外はすべて停止させている。 また、クエストとバトルの切り替えがないシームレスバトルを採用したことにより、大きな技術的課題となったのがメモリ管理である。「FF X」まではクエストとバトルが独立していたことにより、お互いを気にせずに思う存分メモリを消費してクオリティを追求することができたが、「FF XII」では同時に処理が行なわれるため、「FF X」と同じアプローチで処理をするとメモリ不足が発生してしまう。 そこで片野氏は、「FF X」では排他処理にすることでたっぷり使えたメモリ管理を、「FF XII」ではあらかじめセクションごとに割り当て、セクション内で都合を付けるというユニークな方法で処理したという。こういう場合、セクション間で、激しいメモリ争奪戦が繰り広げられるケースが多いが、片野氏によれば、ギリギリまでメモリを使っていたりしたが、ほとんど初期の配分のままでそのまま最後まで行けたという。
最後に片野氏は、チーフプログラマとしての立場から、目的と開発効率を考慮したシステム設計の重要性を説いた。また、大規模システムにおいては、仕様書に見えない要件の早期発見と、問題発生時の原因究明までの時間短縮も大事だとした。
■ 「も~ちゃん」、「えふぇくちゃん」など、門外不出の内製ツールを公開
土田氏は、データ作成の基本スタンスとして、PS2の実機ツールはあくまでプレビュー用と定義し、エンジニアの業務はあくまでデータ作成環境を支援するツールの整備に注力することだと規定。また、特殊パターンはプログラムの検証を複雑化させるため、汎用パターンに押し込み、例外処理を行なわないようにしたという。これにより、プログラムの検証に掛かる負担が軽減され、かつ特殊パターンを他に応用することが可能になる。「FF XII」では実際に特定のボス専用のパターンを、あとで雑魚モンスターに適用させたケースがあったという。
今回紹介されたツールは、「モデルさん(マテリアルエディタ)」、「も~ちゃん(モーションプレビューワー)」、「ZEEK3(スプライトエディタ)」、「えふぇくちゃん(エフェクト総合ツール)」、「イベントエディタ(カットシーンの演出、バトルシーンの配置)」の5つ。これらはすべてPS2上の実機プログラムと連携し、ネットワーク経由で現在処理中のデータを実機に反映させ、リアルタイムで確認することができるという。
■ 「即時プレビュー機能」でエフェクト周りをじっくりチューニング
皆川氏は、同じPS2でリリースされた「FF X」、「FF XI」がすでに高品位であること、シームレスバトル実現のために当初想定していた半分のリソースで作る必要に迫られたことを挙げ、品質向上の困難さを説明。皆川氏は困難を突破するためのアプローチとして、「可能な限り、作り込みに時間が掛けられる環境を整備する」という道を選んだ。 作り込みに時間が掛けられる環境というのは、コンバートを初めとしたマシン側の処理で発生する待ち時間を最小限にして、デザインに掛けられる時間を長く取ろうという考え方である。デザイナーに対して行なったアンケートでも「実際のゲーム画面でどう見えるのかすぐ確認したい」という要望が強い。それらの意見を総合した結果生まれたのが、「即時プレビュー機能」である。 これは、Mayaで編集中のモデルデータを、ネットワークで繋がったPS2に実機プログラムに流し、リアルタイムプレビューを実現したもので、さらにMayaとPhotoshopの間でExportプラグインを使って連携機能を持たせている。このため、実質的にはPS2の実機上で、リアルタイムにモデルデータのテクスチャ編集が行なえることになる。「即時プレビュー機能」のデモが行なわれると、会場からは感嘆の声があがったが、確かにこれはもの凄い機能だ。 その後、皆川氏は、ボムやエレメントといったエフェクトで構成されている特殊なモンスターを例に、エフェクトの調整デモを公開したり、イベントシーンにおけるライティング処理やポストエフェクト的な処理の仕方を紹介した。
ライティング方針は、フィールド(バトル)時とイベントシーンで方針が異なっており、フィールド時はキャラクタの視認性が重視され、ライトの位置はマップに配置する。一方、イベントでは魅力的に見せることを重視し、カットごと、キャラクタごとに個別のライティングをあてる。ちなみにライティング担当は、イベント用のハイポリゴンフェイスモデルを作成したスタッフが担当しているという。
講演の最後に村田氏は、これから「やり残した事」として、「完全シームレス化」、「作業フローの確立」、「キャラクタモーションのインテリジェントな制御」の3つを掲げた。これが次回作「FF XIII」に適用されるかどうかは不明瞭だが、たとえば、完全シームレス化に関しては、片野氏によれば、いま振り返れば「FF XII」でできないことではないというところまで認識が変わっているという。
現在開発中の「FF XIII」に関しては、具体的な仕様については一切言及しなかったが、マルチコア対応とマルチスレッディング処理の2つを明確な課題として挙げ、PS3のCellプロセッサをフルに活かした次世代RPGになることを暗にほのめかして見せた。「FF XIII」の完成が楽しみだが、「『FF XIII』解体新書」も今からすでに楽しみである。
□CESAのホームページ (2006年9月2日) [Reported by 中村聖司]
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