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ガンホー取締役開発本部長 堀誠一氏緊急インタビュー(後編)
「ラグナロクオンライン」のゲームバランス調整プランについて

2006年8月3日収録

会場:ガンホー・オンライン・エンターテイメント本社



 インタビュー後編では、「ラグナロクオンライン」ユーザー必見のゲーム内経済バランス調整策について、その具体的な内容と、その理由について詳しく話を伺っている。

 堀氏の構想は、運営権のみを持ち、開発権を持たない海外パブリッシャーとしてはハードルの高いチャレンジであり、今日明日に実現できるという話ではなく、開発元とユーザーと協議を重ねつつ、数年という長いスパンで実行していく計画になる。

 ただ、パブリッシャーレベルでのゲーム内経済への積極的な介入というのは、オンラインゲームの歴史的にも非常にチャレンジングな試みであり、仮に成功を収めれば、すべからく慢性的なインフレに悩まされているMMORPGの特効薬として、他のタイトルにも波及していく可能性がある。もちろん、インフレが是正された「ラグナロクオンライン」の姿も楽しみである。ガンホーの取り組みに、長い目でじっくりと見守っていきたいところだ。


■ 経済バランス調整のカギとなる“需給バランス指標”とは何か?

需給バランス指標の策定に熱意を示すガンホー取締役開発本部長の堀誠一氏
ガンホーが想定する対策後のゼニーとアイテム総量の推移図。縦軸がゼニーとアイテムの量、横軸が時間の推移を現している。現状はインフレ加速中の状態
編: 本題であるゲームバランスの調整プランについてですが、7月31日付けのリリースで具体的な方向性が見えてきました。まず、ゲームバランス調整の大前提として「需給バランス指標を作成する」というものがあります。この狙いは何でしょうか?

堀氏: まず、「RO」のインフレは、現実のインフレとは少し異なる問題だと考えています。まずゲーム内通貨のゼニーの総量は、キャップがなく際限なく増やすことができるものであること。次に相場は、マーチャント系のキャラクタを通じて、ユーザーの皆さんの間で自由に値段が付けられていること。そして流通するアイテムは、一定の確率でモンスターから発生し、需要バランスを考慮して生産することができないことなどが挙げられます。

 ゼニーの総量が増えて、ゼニーが余ってきた感覚が広まると、垂涎の的となるアイテムの相場は高くなっていくようです。欲しいと思っているアイテムの相場が変動し、手が届かない価格になっていく。よってそれぞれがゼニーを集めるとさらにアイテムの相場が高くなっていく。NPCで販売されているアイテムの値段は変わらないのに、一部の材料アイテムやレアアイテムなど入手しにくいアイテムの値段がどんどん吊り上がっていく。それが「RO」のインフレのイメージなのです。需給バランスと一言に言っても、材料があって、モノが作られて、それが消費されるという現実世界のサイクルとは別のものであり、相場観が支配している。それが現在のインフレを引き起こしている問題点です。

 我々が「需給バランス指標」という一種のバランスシートを策定しなければいけないと思ったのは、今回の事件に対して正確にバランスを見極めた対応をしていく必要があると考えたからです。そのために月単位で相場を形成しているアイテムの価格がどれくらいあがっているのかを調べたりしています。「RO」はもともと、経済をコントロールする仕組みを持っているわけではない。そうであれば、経済をコントロールする方法を我々が見いださなければならない。そこにチャレンジしようと考えたわけです。

 今回の事件で加速されたインフレ問題に対処していくことに関してはこのチャレンジが大きなポイントになるわけですが、結果として我々が得たノウハウで「RO」のゲーム内でバランス問題を是正する方策としたいと考えています。暫定的な対策というよりも、継続的な対策としてですね。

編: 指標の策定というのはベースがあって初めて策定しうるわけですが、これはいつぐらいを想定しているわけですか?

堀氏: あの時点のゼニー保有と相場バランスに戻そうと考えているポイントは、ある程度はあるのですが、中には否定的な意見を持たれる方がいるかもしれません。我々としては、どのバランスがユーザーさんにとって望ましいのか、対策を実行しながら考えていこうと思っています。

編: 引き戻す大体の時期はβ中か、それとも正式サービス直後なのですか?

堀氏: 時期を想定したポイントよりも、ゲーム内でのインフレ感覚を軽減することが大事だと思っています。ユーザーの皆さんが感じているインフレ感覚に対するアプローチですから、どのタイミングでインフレ感が無くなったと感じてもらえるかは非常に難しいところですよね。我々はユーザーさんの動向を追いかけながら判断を行なっていくしかないと考えています。

編: 正式サービスが始まった時と現在とではコンテンツのボリュームも全然違いますし、お金の稼ぎ方も違います。戻すといっても厳密には戻しようが無いですよね?

堀氏: ええ。ユーザーさんが存在している数も違うわけです。だから、この時代に戻そうとか、そういうお話を言っているわけではなくて、経済に対する不満が少なかった頃の感覚で取引できるように戻していくのが狙いです。

編: 特に7月以降、不正利用者を対象にした大規模なアカウント停止が行なわれていますが、アカウント1つ1つに結構巨額なゼニーが紐付けされていることは容易に想像できます。このゼニーは消えたわけですが、それでもインフレはなくならないものでしょうか?

堀氏: 不正ユーザーの取り締まりは、確かにゼニーの総量を減らす対策にはなっています。でもインフレ感の是正には繋がっていない。実際にアカウントを使っていたユーザーさんのゼニーは、ゲームから除外されていくわけですから、ゼニー総量は減る。しかし実態は、プレイをしているユーザーの皆さんには、減ったことを感じることはできないと考えています。

編: それはやはりバイヤーさんがアイテムの値段を一桁落とすような、そういう風に仕向ける施策ということでしょうか。

堀氏: そうですね。そういった対策の方向性にしていきたいと考えています。もちろん、取引が縮小されるようなことがない方向性でですね。我々は8月中に第1回目の対策を行なおうと考えているのですが、どこから手を付けるかに関してはまだ決定していません。もちろん、ユーザーの皆さんへの報告も逐次していきます。


■ 4つの柱で実施される経済バランス調整プラン

手元のPCを参照しながら経済バランス調整プランについて語る堀氏。インフレを解消しつつ、サービスレベルの向上、レベル帯ごとの各種格差、コミュニティの乖離問題までを一気に解決させる壮大なプランだ
編: ユーザーさんが気になっているのは、8月中旬以降に具体的に何をするのかというところだと思いますが。

堀氏: はい。今我々が考えているインフレ傾向対策は大まかに分けて4つくらいあると思っています。これから申し上げることは、すべて弊社として必要性を感じていることですが、最終的にはGravityと協議の上決めていくことですので、必ず導入するというわけではありません。その点はご了解ください。

 1つはゼニー総量に対する対策です。これはインフレ対策というよりは、我々自身が不正行為の取り締まりを強化していくことで、全体的なゼニーの総量を減少させることです。根本的なインフレ要因の是正を行なっていこうという考え方です。

 2つ目は、相場に直接関与する対策です。相場はいわゆるレアアイテムや材料アイテムによって生み出されているものですので、このアイテム流通量を変えていきます。たとえば、「RO」のアイテムの発生というのは、ゲームの中のモンスターがドロップをするというところから始まるわけですが、このドロップ率をコントロールしていこうということです。

 「RO」は、モンスターが高レベルであるほどドロップするアイテムの価値も高くなるように設定されているので、レベルが高いキャラクタの方がゼニーを得やすいということになります。しかし実際にはレベルが高いキャラクタはすでにゼニーを持っていて、レアドロップに対する興味のほうが強い。さらに一部のレアドロップ品は、幸運な高レベルキャラクタしか得られないということでさらに価値が高くなっています。

 まずは高レベルのモンスターに対して、収集品アイテムの発生率を抑えNPCへの販売を通して、ゼニーへと換金される率を下げる代わりに、材料アイテムやレアアイテムの出現率を上げていき、市場が必要としているアイテムの供給バランスを調整します。逆に低レベルモンスターに対しては、収集品アイテムのドロップ率を高くし、ゼニーを得やすい環境を整えていく。これはレベルの低いキャラクタに対し、それによってゲームをプレイしやすくなるのと同時に購買意欲を促進してもらう効果を含んでいます。

 さらに、低レベルのモンスターに対しては、材料アイテムや一部のレアアイテムの発生率を変動させようと考えています。このことで低レベルのキャラクタと高レベルのキャラクタ間で、アイテムの交流機会が生まれることになると思われるため、レベル帯を超えた新たなコミュニティが促進されればいいなと考えています。

 もちろん、そうなると今度は低レベルキャラクタのための狩場を、高レベルキャラクタが独占してしまうのではないかという心配が出てきてしまうので、そうならないような対策を別途取る必要があると思います。低レベルのモンスターと高レベルのモンスターとで対応を変えることによって、いわゆる狩場のバランスも修正されていくと思います。細かい内容については現在プランを練っているところですが、開発元と相談しながら実施していきたいなと考えている重要な対策案と捉えています。

 3つ目の対策としては、消費材販売対策です。これは消費系アイテムの販売を並行して行なっていくという対策です。例えばポーションやマステラの実の販売など、消費系アイテムの価格を見直し、利用しやすい環境を作っていく。期間限定で通常肥培販売していない消費アイテムを売り、消費を促進することによってゼニーを使っていただけるので、インフレ傾向は軽減されるのではないかなと考えています。

 また、期間限定アイテムの販売も検討しています。アニバーサリーリングのように有効視されるような機能を持ったアイテムの販売です。期間限定で効力を持ち、期限が切れた後は記念品として残されるアイテムですね。つまり、ロイヤリティの代わりにゼニーを回収するという考え方です。期間限定ということになりますが、それに見合う価値のアイテムを提供することで、ユーザーさんには買ったアイテムを有効に使っていただける。さらに我々もゼニーの総量を抑えられる。そういうことを考えています。

 最後の1点は、レベル帯に応じたゲーム内サービスの価格変動です。高レベルキャラクタであろうと低レベルキャラクタであろうと、すべてのユーザーが「RO」の中で動いているサービスに対して同率でゼニーを払っていただいているのが現状ですが、それをレベルによって変動させていく。レベル帯別の価格設定ができるようになれば、高レベル帯のキャラクタは非常にゼニーを獲得するチャンスは高いので、それを有効に使うチャンスが増える。単にアイテムないしはサービス自体をどんどん上げるような対策をとると、低レベルキャラクタ側としてはものすごく足かせになってしまうのでその辺はあまり変えずに、高レベルキャラクタに滞留しているゼニーを使っていただける方向性にうまく持って行きたいと考えています。

編: 8月中にこの4つの方向性から少しずつやっていくわけですか?

堀氏: 8月に一度何かをやったら即解決するというものではないですし、どのくらいやれば解決するのかも現段階では見えないところがあるので、結論のみを考えずに永続的にやっていくことを考えています。ただ、これをすぐ全部実施しますとはまだいえません。一方で、全部やりませんという選択肢もありません。我々の取り組みをユーザーの皆さんに理解できる形で見せることができるかがカギとなると考えています。

編: レベル帯に応じて価格が変動するというプランですが、これは主に店売り価格を変えるということですか。

堀氏: それだけではなく、他にも色々なサービスがありますよね。カプラですとか、イベントですとか。そうしたものに対してレベル帯に応じて価格を変える、ないしは高レベルキャラクタを持つユーザーが望むサービスを提供する。ゼニーの総量を下げると同時に消費意欲が上がらないと対策にはならないと思っています。双方向のアプローチで行なっていきたいと思います。

 今回の一連の対策には2つの側面があります。ユーザーさんにとって今まで高嶺の花だったアイテムが手に入るようになったり、「使えるな・便利だね」というサービスが届けられる環境をつくることで、我々がユーザーの皆さんのプレイ環境を細かくメンテナンスできるというところが1つ。もう1つに継続的にバランスをとっていくと宣言することによって、相場をある程度の範囲でコントロールされることとなり、ゲーム外で行なわれているRMT業者の活動に対して何らかの影響を与えられるのではないかと考えています。これは本当に対策として効いてくるかどうかはわからないのですが、最終的にはRMTの抑制に繋がればいいなと考えています。

編: これはGravityさんの全面的な協力体制が必要ではないでしょうか。

堀氏: その通りです。我々が暫定的に考え出している要素をGravityさんと相談しながら進めているところです。当然Gravityさんのほうでもいろいろなことをお考えになられていますし、当然意見交換をしながら進めています。

編: ゼニーの総量を抑えることについてですが、これは不正取り締まり以外に、たとえば所得税のような直接的な回収策という含みもあるのでしょうか?

堀氏: 先ほど説明したプランの全てが回収の方向に向かっていると思うのです。例えば流通量増加対策では、高額アイテムが増えることによって、相場価格が下がり、消費が活性化されていく。消費材対策に関しても、ユーザーの皆さんにとって価値のあるサービスを提供しつつ、ゼニーを消費してもらえるようになる、ということです。

 レベル帯価格変動に関しては、少し所得税的な感覚を感じられるかもしれません。元々、高レベルキャラクタがたくさんゼニーを持っているという状況を少しずつ改善していこうということなのですから。ただ、一概に高レベルキャラクタに対してサービスの値段を上げると、やっとの思いでレベルを上げているのにというユーザーさんも中にはいらっしゃると思いますので、慎重になる必要があるかなと思います。

編: インフレ感の是正と同時に堀さんが考えているのは、ユーザー間の格差の是正であり、ゲームを経済の視点からいい方向に変えていこうという試みだなと感じました。

堀氏: インフレという問題が、明らかに我々の責任によって起こしてしまっている状況であるならば、取るべき対策という消極的なものではなくて、インフレ状況を浄化させるところまでやるべきだろうと考えているのです。またそれ自体が副次的効果を生み出せればもっといいですよね。

編: 最初にゲーム内仮想通貨消費を促す新たな施策と聞かされたときに、短絡的にカジノみたいなそういったお金を使いたくなるような娯楽的コンテンツを追加するのかなと思ってました。

堀氏: それもサービスの追加によってゼニーの総量を下げる施策という意味では1つの方法だと思いますね。先ほどの消費財を販売することによる対策、レベル帯による価格変動による対策といったものの中に例えばカジノというものは含まれるかもしれない。ですが、単にカジノを開けばそこでゼニーを使ってもらえるからゼニー総量が抑えられる、というわけではないと思います。有効視していただいて使って貰える対策でなければならないと考えています。

編: バザーを開いた場所によって、無税だったり、高い税金がかかったりするようなシステムを導入しているMMORPGもあります。そうなると高額商品は税金も高額になるから、わざわざ辺鄙なところで出したりする。結果としてイメージとしてのインフレ感が押さえられているという側面もあって、うまいなと感心したことがあります。運営側でできることは意外に多いのではないかという気もしますね。

堀氏: 「RO」は元々そういった仕組みを持っていませんし、それ以前に、コミュニティの皆さんが作り上げてきた世界観というものがあります。そこに我々が暴力的な仕組みをドンといれて対応できるわけではないと思います。我々の対策というのは今あるコミュニティをそのまま維持しながら、とれる対策を行なっていくという考え方です。ユーザーさんにインフレが是正されているという感覚を持って貰うまでには時間が掛かるかもしれませんが、じわじわと続けていくということで少しずつ解消されていければなと考えています。

編: 堀さんの計画としては、いつまでに手触りが感じられる時期を到来させたいですか?

堀氏: 難しい質問ですね。まずはなるべく早い段階で相場の変動をユーザーさんに実感してもらいたい。ただ、低レベルのキャラクタがレベル上げが楽になった、あれも買えるこれも買えるという手触り感をもたらしつつ、その一方で、高いレベルのキャラクタがものすごくゼニーが掛かったという感覚にならないような対策を入れる。そのバランスってすごく難しいと思うのです。

編: 気になるのは、一部の超高額アイテムはそれそのものがステータスになっている側面もありますが、堀さんの計画がそのまま入るとすると1桁2桁下がるくらいの暴落はある。これは所有者としては辛くないですか?

堀氏: 先ほどお話したレアアイテムの話ですが、ステータスアイテムになっているものを暴落させるということは所有していらっしゃるユーザーさんにとってのプレミアムが減ることになってしまう。そういったものに対して大きく手を入れるということは回避しないといけないと思います。具体的な例ですと、カードの発生率を変動させるということは考えていないです。そうではなくて、カードを使うスロットのあるアイテムなどの取得率を向上させていくのはどうだろうと考えています。使って役に立つ、使ってみたいと思っているアイテムの流通量を増やしていく、一方ステータスになっている「これ手に入れるの大変だったんだ!」というものに関してはそのまま残していけるようなそういった変動を実現したいと思っています。

編: 素晴らしい考え方だと思いますが、一部の超高額アイテムが安泰のままなら、やっぱりプロンテラにいったときに、バザーのケタの数を見て萎える感覚は変わらないのではありませんか?

堀氏: 難しいところですが、ものすごく高額なアイテムに対して、こんなに高いアイテムが存在するのだなというプレミアム感は残しておきたいと思うのですよね。大半のユーザーの皆さんが感じることは、ある程度気軽にスロットつきのアイテムを手に入れて、それを精錬し、実際売っているものと同じものを所有できる確率が増えるといったことではないかと考えます。

 もちろん相場に関わる変更に対する我々のアナウンスというのは慎重にしていかなければいけないと考えていますし、健全に流通を楽しんでいるユーザーさんが楽しめる要素を残しつつやっていきたい。いきなり大きくどーんと変動が起きるという方針を取るつもりはないです。ゆるやかに変動していく中で、変わったなという感覚を持ってもらえるようなそういった方向に持って行きたいと思います。

編: インフレのために、本来はミドルクラス向けのコンテンツなのに、高すぎて遊びにくいというところは是正するけれども、ハイエンドの高額アイテムは、一種ステータスとしてそのまま残していくということですね。

堀氏: はい。ただ、先ほど言いましたとおりインフレの是正という問題に対して我々は長期に対応していこうと考えています。今このタイミングでカードの発生率は変えないという具体的な話はしましたが、それでもやっぱり、カードの発生が不足してカードの値段がどんどん吊りあがってしまったというような場合には、調整の中に含めていくだろうと考えています。ずっとやりますということが伝われば納得いただけるのではないかと思っています。


■ 経済バランス調整の先にある新しい「ラグナロクオンライン」の姿

硬い表情から始まったインタビューだが、コンテンツの話になるとようやく笑みがこぼれた。「RO」担当を離れた現在でも、同作改良に対する熱意は並々ならぬものを感じさせる
編: 元「RO」担当、現取締役開発本部長としての「RO」運営に関するポリシーを久々に聞けてとても有意義ですが、せっかくなのでもう少し聞かせてください(笑)。今回のバランス調整の方向性は、コアユーザー層にやや厳しく、ライト層に優しい。やはり一番意識しているのは、新規ユーザーの獲得ということになるのでしょうか?

堀氏: 当然今まで一生懸命ゲームを遊んできた人が、「俺達がやってきたのはなんだったんだ!」というような対策はしたくないですし、今後、高レベルのキャラクタを持つユーザーさんに向けたサービスも用意していきます。ただ、やっぱりインフレが進むと、レベルの差という問題が単なる遊べる範囲の問題ではなくて、コミュニティの問題にまで発展しかねません。ここの部分をまずは是正したいと思います。

編: 欲を言えば、さらに職業によってレベル上げその他諸々の遊びにかかるコストが違いすぎるという、ジョブ間の経済格差が厳然として存在します。ここにも光を当ててほしいなと。

堀氏: それはそれで難しい問題ですね。職業を考慮するとパラメータが多くなりすぎて、今そこまで我々が対処するのは難しいかなとは思います。ただ、いわゆる所得という問題は最終的にはモンスターを倒せるか倒せないかというところに帰着すると思うのですよね。今回の対策はモンスターを倒した後に出てくるものに対するコントロールですから、ある意味での是正に繋がっていく部分はあると思いますね。

編: インフレ感というのは第三者との取引によって感じる要素ですが、アイテムトレーディング関連のシステムに手を入れるということは無いのでしょうか。

堀氏: 今回我々が行なう対策に関して、ゲームシステムは極力いじらないようにしています。現在Gravityさんとお話をしている中で、我々の具体的な提案内容があるわけではないのですが、これから話していく中で出てくるかも知れませんね。

編: 基本的にアップデートはGravityさんが開発してそれをローカライズして日本に持ってくるということですが、今後ガンホーさんが考えた経済策的なアップデートが入ったりするのかなというところですが。

堀氏: 今まで“アマツ”を始めとして、いくつか日本サイドのほうからご提案したものを取り入れていただいたケースもあります。今後、我々は、経済対策はシステム化するべきではないかというご提案をしていきたいと思います。ただ、我々はあくまで日本のドメインのことを考えていますが、Gravityさんはワールドワイドの観点を持っています。我々ももっと協力関係を深めていきたいですね。

編: 最近のアップデートの特徴は高レベルキャラクタ向けの要素が多くて、そこにアクセスできる一部のユーザーだけが莫大な利益を得ている。それに関して一部のユーザーが不満を抱いています。それが評価のすべてではありませんが、アップデートによってさらに経済格差が拡大している懸念があるという風に私の方では見ています。

堀氏: 私がGravityさんとお話している中でも、今までのアップデート“ノーグハルト”というシリーズの中では、ハイレベル向けの対応を中心に考えていたという話を伺っています。その一方で、今後はハイレベル層だけではなくて、「RO」を遊んで日も浅いユーザーさんに対して何らかの対応を取っていきたいと仰っています。我々としてもライト層を意識してほしいとお話しています。シュバルツバルドアップデートで学んだことを、今後のアップデートに活かしていきたいとお話されていたので、我々としても今後の展開に期待しているところです。

編: 今回は不正対策、経済対策についてお話を伺いましたが、MMORPGは進化し続けるわけであって、ゲームに関する今後のコンテンツの拡充も気になるところです。堀さんはどのあたりに注目していますか。

堀氏: Gravityさんとの協議の中で、日本でユーザーさんがどう考えているのか、どういうことを望んでいるのか、という話はよく議題として取りあげられます。そうした中で、我々が思ってきたことやりたいことというのはその都度お伝えしています。Gravityさんとしては日本だけではなく、各国でそうしたお話を聞かれた上で総合的に考えなければならないのですけど、日本からの提案を注目して聞いていただけるというのは非常に嬉しいことです。具体的に何を話しているのかは、今後実装されるかもしれないゲームのネタですので、カンベンしてください(笑)。

編: 私は今後高レベルユーザーに集約されるのではないかという懸念がある。今のお話ですと初心者層も意識していますよということですが、今後「RO」はどういう風に進化していくのでしょうか?

堀氏: 長い間遊んできたユーザーさんが喜ぶものを提供していくことはもちろんですが、もっと「RO」をいろいろな人に知ってもらうことが我々の課題だと思います。「RO」でオンラインゲームを始めて触る人でも、他のオンラインゲームを遊んでいた人でも、さらには以前遊んでいただいていた人でも「RO」に対して再認識してもらえるようになったらと。私個人として思うのは、レベル差が離れて疎遠になっているコミュニティ同士をなんとかしたいと考えています。

 また、それぞれのレベル帯で楽しめるコンテンツをもっと拡充していかなければならないと考えています。初心者が遊びやすい仕組みというのはコンテンツの分量ではなく、遊びやすさ、チュートリアルの良さ、ゲームのスタートダッシュの良さという部分だと思います。そして先行しているコミュニティに追いつけるような施策をとっていくべきだと思っています。

 一方、中堅ユーザーさんは中だるみをしてしまいやすいです。そこに関しては今回の対策でもそうですが、世界が動いている感覚を提供することと、中間層のユーザーさんでも、高レベルキャラクタに向けて実装したシュバルツバルドに挑戦しやすくなるような流れを作っていきたいですね。それを促進するようなサービスも今後入ってくるといいのではないかと思っています。

編: そういった意味では、本日(8月3日)から始まったガンホーゲームズは色々な可能性がありますよね。「RO」ではどのような活用を考えていますか?

堀氏: 「RO」ユーザーの皆さんにとってはガンホーの公式サイトは、ゲーム代金を払うサイトと思われがちでしたが、今後はそれだけではなくて色々なインフォメーションも提出でき、メンテナンスの間に遊べるゲーム等、今までにない楽しみを用意していきたいと考えています。

 時々ガンホーゲームズにも立ち寄って頂いて、「エミル・クロニクル・オンライン」を遊んでいる方々や、ガンホーゲームズのプチアプリだけを遊んでいる方々など、ゲームの中とは違うコミュニティの方々ともコミュニケーションを取っていただきたい。 「ROを一緒にやろうよ!」というような会話がガンホーゲームズのコミュニティで交わされれば嬉しいですね。新しい友達を探せる場にもなると思いますし、別のゲームの道しるべにもなっていければと思います。

編: 「RO」にログインしてギルドチャットしつつ、実はガンホーゲームズの「ラグナロクオンラインスロット」をプレイしながら、スロットの話で盛り上がるですとか、そういった風景でしょうか。

堀氏: それもありだと思うのですが、ガンホーゲームズに集中しすぎて、「RO」のチャットを読み逃してしまったということになると寂しいので、その辺をうまく活用できるようにしてもらえればなと。

 また、今ガンホーゲームズでは、「RO」の公式ページにはリンクしているわけですが、プチアプリのように、ワンクリックでダイレクトに「RO」が起動するようにはなっていません。もしそういった細かなサービスが充実してくれば、もう少し「RO」をやりながらパチンコなどを遊べたりもできるでしょうし、利用価値も広がっていくと思います。

編: 掲示板やサークル機能の実装が延期されて、コミュニティ部分がいまだに見えて来ないのですが、将来的には「RO」のギルドとそのメンバー達がガンホーゲームズのコミュニティ機能を使って、ゲームの中だけでなく外でもコミュニケーションをとっていくというようなことができると考えていいわけでしょうか?

堀氏: もちろんそのように使って頂ければと思います。

編: 「RO」とガンホーゲームズというくくりの中で、最終的にはゲームとポータルとしての連携、またはガンホーゲームズからキャラの情報を引っ張ってこれるですとか、直に繋がるサービスは考えているのでしょうか?

堀氏: 「RO」のくくりの中でというのは難しいです。コンテンツという言い方をあえてしますが、ガンホーゲームズのコンテンツはゲームも含めて様々なサービスが存在しています。その中でコンテンツに触れ合った人同士が交流できるようにするために、互いを認識できる仕組みというのを強化していかなければいけないと考えています。

 例えばの話ですが、ゲーム側から考えると、ゲームの中から直接ガンホーゲームズの情報を参照できるような仕組みというのも実現できたら面白いかなと思います。色々とハードルはありますが、そういったこと相関関係ができるような形にしたいなあと思いますね。いずれWebサイトとゲームクライアントという関係がシームレスになってくる時代になるのではないかと思っています。ガンホーゲームズがそれに対応したときが、本当の進化と言えるのではないかとも考えています。

編: 当然「RO」本体も進化するし、ガンホーゲームズも、現在はまだ見えないものの、ゲームコンテンツとの関わりの中で進化を遂げていくと?

堀氏: 単なるポータルサイトというイメージではなくて、我々のサービスがリンクしている起点になるというイメージに仕上げていきたいと考えています。

編: 最後になりますが、「ラグナロクオンライン」ファンに向けてメッセージをお願いします。

堀氏: 今回の事件に関しては、ユーザーさんに迷惑をかけてしまったことを深く反省しています。ただし、反省しているだけでは前に進めません。ゲーム的な対策もさることながら、我々スタッフひとりひとりが企業人として襟を正し、胸を張れる状態にならなければなりません。森下も先日ガンホーゲームズのゲームカンファレンスで「止まることなき」という話をしていましたが、継続して意識を高く持って企業の責任を担っていくことが大切だと考えています。

広田氏: ユーザーの皆様には本来一番信頼されるはずの職務の人間が、裏切り行為を行なったことに対して大変申し訳なく思っています。その点に関しましては改善策を打つことでユーザーさんにご理解いただけるような、また堀が申し上げたようなゲーム内の施策に関しても随時できるところから発表させて頂きますので、その点も含めまして皆さんからの信頼を回復していきたいと考えています。

編: ありがとうございました。

□ガンホーのホームページ
http://www.gungho.jp/
□「ラグナロクオンライン」のページ
http://www.ragnarokonline.jp/
□元職員による弊社への不正アクセス問題における外部諮問委員会設置の報告
http://www.gungho.co.jp/important/012.html
□元職員による弊社への不正アクセス問題における具体的改善策について
http://www.gungho.co.jp/important/010.html
□元職員による弊社への不正アクセスについて
http://www.gungho.co.jp/important/009.html
□関連情報
【8月14日】ガンホー取締役開発本部長 堀誠一氏緊急インタビュー【前編】
不正アクセス事件に関する社内対応およびRMT対策について
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060814/gh_01.htm
【7月20日】ガンホー社員、「ラグナロクオンライン」の不正アクセスで逮捕
6,910億ゼニーを無断複製してRMT業者に売却、1,400万円超を不正取得
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060720/rormt.htm
【7月31日】ガンホー、元社員による不正アクセス問題の対応策を発表
流出したゲーム内通貨の調整案も検討
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060731/gungho.htm

(2006年8月15日)

[Reported by 中村聖司]



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