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会場:ガンホー・オンライン・エンターテイメント本社
オンラインゲーム業界にとって寝耳に水のこの事件は、単にゲーム会社から犯罪者が生まれたということだけでなく、問題の根っこには、オンラインゲームという新興のジャンルに起因する様々な問題が横たわっている。これを解決しない限り、万全の体制というのは砂上の楼閣に過ぎないように思える。 信頼回復を急ぐガンホーでも、7月31日に今後の対応策をまとめた「元職員による弊社への不正アクセス問題における具体的改善策について」の発表を皮切りに、8月11日には外部諮問委員会の設置報告と立て続けに対策案を発表している。今後も適宜、対策案の発表および対策そのものを行なっていく方針としている。 今回の対応策の大きな特徴は、会社的な対応に加え、不正アクセスの対象となったオンラインゲーム「ラグナロクオンライン」において、今回の事件によりゲーム内経済が悪化したことを公式に認め、インフレが加速しつつあるゲーム内経済を正常な状態に回復させるために抜本的な対策に乗り出すことを明らかにしたことである。 その具体的な対策の実施に先立ち、8月3日に、今回の件で陣頭指揮を執る取締役開発本部長の堀誠一氏と、カスタマーサポート本部長の広田知哉氏のおふたりに、今回の不正アクセス事件への会社的な対応の具体的な内容とその狙い、問題の根に存在するRMT問題に対する取り組み、捉え方、そして「ラグナロクオンライン」ユーザーとしては非常に気になる部分であるインフレ対策の具体的な内容について話を伺った。 2時間超のロングインタビューとなったため、前後編の2本立てでお届けする。前編は会社的な対応の部分と、RMT問題について、後編ではゲーム内経済の復旧プランを伺っている。なお、後編の掲載は8月15日を予定している。
■ 元社員不正アクセス事件の感想と、発表までの動きについて
堀誠一氏: 今回の元社員による不正アクセスについての事件については、大変申し訳ない気持ちで一杯です。私自身、監督が行き届いてなかったことを恥じるばかりです。今回の件を真摯に受け止め、初心に帰って管理体制や業務内容の見直しを進めさせていただいているところです。 編: 事件が発覚したのが3月、発表が7月ということで、4カ月もの時間があります。考えるには十分すぎるほどの時間があったことになりますが、この間堀さんはどういう考えを巡らせ、どういう結論に至ったのかを教えてください。 堀氏: 問題が発覚してからは、事実解明に向けてシステム的には過去のログ解析、社会的な解決方法については顧問弁護士への相談から対応を開始し、弊社の調査情報をまとめた上で、具体的に管轄の警察署に報告できるよう、進めていきました。 発表までに時間がかかってしまったのは、過去にさかのぼった調査のデータ量が大量であったことに加え、多岐にわたった調査ログを解析していく過程が複雑すぎたためです。解析作業を考慮し調査ログの記録形態を精査しておけば、調査速度が向上したこと、また問題を未然に防ぐ糧とできたかもしれないといったことを、今少し早目に気付き、担当部署に検討の指示ができていればと自戒しました。また業務を改めていく方針として、「業務効率を犠牲にしてでも体制を変える」という強い意志を持って、危険性のある業務を取り除いていかなければ、と考えました。 編: 時期的に2月のAOGCでも、堀さん自身が、ゲームマスター改革ということで、GMという呼称をやめて、キャリアパスも考えて、様々な面を改革していくと発表した矢先の発覚になりますが。 堀氏: 元々ゲームマスターという呼称は一般的にゲームをプレイしていただく皆さんにイメージが判りやすいというところで使わせていただいていました。しかしながら弊社の組織が大きくなるにつれ、ゲームマスターの業務は、専門的な業務と雑多な業務が入り混じり、スタッフとしての将来のキャリアパスが見えにくくなっていると感じていました。そこで、よりユーザーさんへのサービスに直結できる業務体制を形成する目的で旧ゲームマスターの業務を2つに分け、システムを監視し、不正を取り締まるということを進めていくチームと、イベントを行ないユーザーさんにプラスバリューを与えていくキャストのチームとに分けたのです。 そうした矢先に今回の事件が発覚したわけです。発覚の過程は、日々我々が計測しているゲーム内通貨が極端に変化したことが始まりとなります。昨年度の問題(編注:2005年3月に発生した不正アクセスによる個人情報流出事件)がありましたので、外部からの不正なアクセスではないかということを疑いました。しかしながら、これに関しては昨年度から積みあげて一定の成果により、回避されたことが確認されたため、内部の調査に切り替えて調査をすすめました。 原因がわかった瞬間に、愕然としたというところが率直な気持ちです。当然悔しいという思いもありますし、なぜそのようなことをという混乱もありました。しかし、まずはこの事実自体を公表し、解明しなければならないということで、一連の対応を開始しました。 編: 堀さんの中で、内部の犯行は完全に想定外だったわけですか? 堀氏: 想定していなかったわけではありません。我々も社内のスタッフがゲームデータにアクセスすることに関しては「RO」が始まった当初から注意をしていました。そしてツールを開発設計する際にも、セキュリティに関しては慎重に行なってきたつもりでした。 今回の事件では、上長のパスワードを盗み見て利用するということが行なわれています。そもそもパスワード管理に注意喚起をし、パスワードの設定も短期間で定期的に変更していくことは当然だと考えています。ですが、今回対象となったツールに関しては、アクセス調査が定期的に行なわれていなかったという業務上のミスとパスワードを盗み見ることができたという人為的なミスを起こしてしまいました。まったくもって監督不行届であったと責任を感じています。 編: 堀さんは2005年からゲームアーツの取締役、「グランディアオンライン」の開発者として、ゲームアーツで仕事をする時間が増えていたとは思います。その辺りで物理的にチェックしきれなかったなというところはあるのでしょうか? また今後はどうされていくのか? 堀氏: いかなる理由であっても、社内オペレーションに、留意しなかったということは私の怠慢であったと考えています。また、開発制作担当部門で、社内監視対策も行なっているのは、甘えの元になることを痛感しました。 改めて運営環境の整備とともに、業務体制を変革する機会となったと考えています。現在、監視部門を設け、開発政策担当部門から切り離していきながら、管理監督責任者には危機に対する自覚をもって業務に当たる体質となるよう指導しています。 編: とにかく今回はものすごく大きな金額が動いた事件です。それが半年にわたり継続されていた。なぜ気づかなかったのか? というところが今ひとつ納得できないのですが。 堀氏: 先ほどもお話した通り今回の問題は、大量のゲーム内通貨、ゼニーが一度に作られたことから発覚しました。現時点の「RO」は緩やかにインフレ傾向に向かっています。アップデートに伴ってアイテム取引の金額が高くなり、かつゼニーが滞留している量が増えてきている状態です。大量にゼニーを発生させる前のインフレ傾向は、想定の枠内であったため、発覚が遅れた次第です。 編: ゼニーやアイテムの総量というのは常に把握しているのでしょうか。 堀氏: 日々記録をとっていますので、ゼニー総量とその変化は完全に把握しています。 編: 「RO」には運営期間の異なる複数のワールドがありますが、ゼニーの総量はそれぞれ違うのでしょうか? 堀氏: 同じ時期にリリースをしているワールドに関しては大きくずれてはいません。新しいワールドほどゼニー総量は少ないということになります。 編: 彼が犯行を行なったワールドというのは1つなのでしょうか、複数なのでしょうか、或いは全部なのでしょうか。 堀氏: 全部のワールドということになります。24ワールド全部です。 編: 増えたゼニーを業者に売ったわけですが、そのプロセスというのはどの程度把握されているのでしょうか。業者はどこなのかとか、何回やったのかとか。 広田知哉氏: 業者自体は把握していますが、捜査段階ですので具体的には申し上げられません。 編: オフラインミーティングのログを一通り読みましたが、予想通りだなと思ったのは、ログに関する追跡ツールの不備です。今後、不備なまま行くのか、自社開発するのか、或いはGravityを動かすのか、どう対策を取られるのでしょうか? 堀氏: いくつかの手法を考えていますが、まず発端となったデータへのアクセスに関しては、我々で改善するべきだと考えています。現在のオペレーションツールの仕様に関しては、業務全体の流れも含めて早急な改良を進めています。 「RO」以外の全タイトルも同等に考えていかなければいけませんので、他のゲームのオペレーションに関しても併せて検討をしているところです。開発元に協力していただければならないログ生成の部分に関しては各開発元にご相談を始めているところです。 編: 現在運営ツールがいろいろとあるそうですが、ガンホーさんで開発したものと、Gravityさんから提供を受けているものの割合はどのくらいなのでしょうか。 堀氏: 「RO」というコンテンツで考えた場合ですと、だいたい1:1くらいになると思います。基本的には我々が運用しているツールの監視強化を先行して行ないますので、Gravityさんに用意していただいたツールに関しては、要望を出して改善されるまでは、独自に使用を制限するという措置を一時的に取っていきます。セキュリティレベルは弊社のほうで維持しつつ、そのオペレーションを変更していくという形で進めています。 編: Gravityさんは、ワールドワイドにコンテンツを提供していますから、要望を出しても時間が掛かるということをよく耳にします。さらにソースコードもいじれないというところで、ガンホーさんだけでなく、台湾や中国なども四苦八苦しているのが全体的な傾向です。そうした部分は今後変わるのでしょうか。 堀氏: 今回当然Gravityさんにも我々で起きた問題というのを一つの事例として考えていただいて、協力を申し入れています。Gravityさんも「RO」の長い運営の中でオペレーションツールの強化はしていかなければならないと考えていますので、今回のケースを問題提起として、十分に検討されていくと考えています。 編: 発表文の中に「Gravityとの連携」とありますが、それはもう始まっているのでしょうか? 堀氏: はい。始まっています。まずは我々自身での改善が先ですが、協議は進められています。我々の改善の方向性は、作業効率を高めるために作り上げてきた業務フローを、一時的に不便になるとしても、セキュリティを第一にしていくという考え方です。 その方策にご協力いただけないかというアプローチで、改善プランが協議されています。
■ 社内改善策の内容とその狙いについて
堀氏: もちろんこれまで以上に組織的安全対策を実施していきます。社員自身が、モラル認識を強く持つようにレクチャーも進めていきます。何が良くて何が悪いか、何がユーザーさんのためになって何がならないのかというところをちゃんと理解できる、そして、それを意識してさらに向上するためにはどうするのか自分達で考え、提案できるように指導していきたいと考えています。 確かに今回の事件が起きたということに関してはスタッフ個々人にとってもショックだったと思います。しかし現在、彼らは今後どうするべきかをよく考えてくれていて、自分達で改善策をも提示してたりしています。 余談となりますが、ガンホーは今まで旧GMに対して、単にGMという世の中の包括的なイメージに囚われない明確な位置づけをもって業務を進めてきました。ガンホーが運営を始めた当初、GMの職種に対し、私自身調査しながら、位置づけを決めてきました。当時日本全体でオンラインゲームに携わる人の数が1,000人単位でいるかいないか分からないような状況下であり、例えば転職活動をした際に、「以前はGMをやってました」といっても、「それはどんな仕事ですか」と、「それは仕事なのですか」という受け取られ方をしかねない状況でした。 ガンホーでGMのポジションを作ったときに話したのは、GMという仕事が世の中で一定の評価を得られるようにしていこうということでした。GMの職域を底上げすることを目指すのと同時に、自分達が開拓者だと思って仕事を進めて欲しいとずっといってきたのです。 その途中成果として、GMという呼称を社内で使うことはやめて、それぞれの職種に分けていったのです。ほとんどのスタッフはそれを理解して、自発的に行動してくれていると考えます。運営システムとしては、疑いの目を忘れずに、彼らを信じ、彼らとともに信頼回復に努めていきたいと思っています。 編: 中でも目新しいのは、組織的安全対策という部分で、外部有識者による外部諮問委員会の設置です。これはどういったメンバーを集めて、何を行なうのでしょうか? 堀氏: 私の部門は諮問委員会からご提案を頂く側になります。諮問委員会というのは基本的には我々が今後「このような安全対策を採っていきます」ということに対し、確認、監査を行なっていただいて、さらに提言を頂く組織ということになります。私はご報告する立場となり、委員会組織の運営は、カスタマーサポートの広田のほうで行なってまいります。 編: メンバーというのはどういった方々を想定されているのでしょうか。 広田氏: 今考えているのは、オンラインゲーム業界の中で、ある程度名前の通ったアカデミックな方々と、法律関係の弁護士の先生を含めて、2、3人で構成しようと考えています。すでにコンタクトを取っていまして、今受諾いただけるかの判断をお待ちしています。 編: さらに監査部が置かれるということですが、こちらも開発とは別部署による開発、運営監査機関ということでしょうか? 堀氏: オフラインミーティング等でもお話していたのですが、ゲーム内の不正取締りと、ログの調査というのは密接しています。ログ調査については、慣習としてオペレーティングを行なっている開発本部のほうで行なっていましたが、お客様に密接な部分であることを考え、サポートの一環としてカスタマーサポートに移します。これにより開発本部もゲームのオペレーティングだけに注力することができます。 また、今回の件もふまえ、中立的な立場として、社内の監査も行なっていく業務も加わりました。不正取り締まりを行なうためには、中立な立場を持っていなければならないわけですから、さらに社内の監査を行なうのは適任の部署だと考えています。 編: 監査チームの規模と、勤務体制はどうなるのでしょうか? 広田氏: 不正対策および監査を行なうメンバーとして、社内移動と新規採用を合わせて20人前後になります。 編: GMは3交代制、24時間体制で勤務していますが、この監査部門も24時間体制ということになるのでしょうか? 広田氏: ローテーションを組まなくていいような効率の良いチェック体制を考えていきます。 編: 基本的には普通の勤務時間で、朝出社して前夜のログをチェックするところから始めると? 広田氏: 当初はそういうことになるかと思います。 堀氏: 社内監査とログ監査については、そうなると思いますが、ゲーム内での不正取締りに関しては今後さらに検討していくところです。 編: ユーザーさんにしてみれば「当たり前だ」といわれるかもしれませんが、客観的に見てこれだけ内部に厳しい監査システムを置くメーカーというのはオンラインゲームパブリッシャーの中では初めてです。これは「ついに」なのか「とうとう」なのか。堀さんの中ではどういった感想をお持ちですか? 堀氏: 難しい質問ですね。必然であったとは思います。我々としてはそういう組織の必要性というのは感じていましたし、今回の事件があろうがなかろうが、いずれはそうした組織が必要だったと思います。以前、我々は外部からの不正アクセスを受けたということで、対策を行なってきました。その対策に関しては第三者機関のほうでもセキュリティレベルが保たれているというご回答をいただけるところまできていました。 今回は内部的なヒューマンセキュリティに対して、同様に改めて対策を行なっていきます。ユーザーさんにサービスを提供する以上は安心をもって利用していただけるようにしなければならない。「厳しい」といっていただけるのはありがたいというのはおこがましい話で、我々としてはそこまでやらなければならないと考えています。
■ ガンホーはリアルマネートレードとどう向き合っていくのか?
広田氏: これまでカスタマーサポートでは、ゲーム外でのRMTに対する取り組みとして、ホームページ等を開設されている50社程度の業者さんに対して、「規約違反の行為になりますので削除してください」という内容のメールはずっと投げてきました。その中では私どものお願いを聞いて削除してくれるところもありますけれども、ほとんどのところで無視されているのが実情です。 しかしそれ以上に踏み込んだものをやろうとすると法律の壁がありますので、あくまで法律違反ではなく規約違反ということで、踏み込めなかった部分があります。この部分に関しては業界各社さんですとか、オンラインゲームフォーラム等の業界団体、一部行政を交えて、RMTに対してどういう取り組みをしていくかということを今まで話してまいりました。現状ではRMTに関しては何の法律の適用も無い状況に対して、今後はどういう形になるのか、どうすればいいのかはまだわかりませんが、著作権の法の解釈によってゲーム内のデータまで保護してもらえるのか、あとは民法上の財産権の問題から法的な規制がかかるのかなど、我々のような事例を元に、業界の方にも強く訴えかけていきたいと思います。 編: 禁止というのは変わらないと? 広田氏: そうです。変わりません。 堀氏: 禁止というのは変わらないというか、RMTが事実上あるということに関して、我々も何らかの対処をしたいということです。RMT業者がどうというよりも、RMTという問題に対してどうにかしたいというのは今も昔も変わっていないわけです。当然、RMTが成立しえないところまで考えていかなければいけないですし、私達もそこに決着を見たいと考えています。 編: 決着の姿というのはどういった姿を想定されているのでしょうか。 堀氏: あくまで禁止させていただきたいという考え方です。 編: ワールドワイドで見ると、表向き禁止を謳いつつ実際のところ黙認していたり、eBayと提携して恒常的にやられていたり、別に人気のバロメータだからいいではないかという形もあり、非常にカオスな環境になっています。「禁止」ひとつとっても、ハッキリ言って全然シナリオが読めないのが現状だと思います。 堀氏: 決着を見る方向性というところに関しては、最終的に是か否かという問題になってきます。是なのか否なのか我々だけで決断することはできませんし、立法等で決めていただく等のことがあるのかもしれません。ただ、是ならば是のやり方、否ならば否のやり方、どちらを取るにしてもユーザーさんにはご迷惑がかからないようにするのが我々の目指すところです。 編: 堀さんのポリシーとしてはユーザーさんに迷惑が掛からなければ、是という選択もありうるということでしょうか。 堀氏: 今の段階では禁止ということですが、世論が決めるものなのか、何が決めるものなのか、一個人の私が判断できる問題ではないと思うのです。結論として、例えばRMTが許されるものだという方向性になったとしても、改めて我々としての規制を設ける道筋はあると考えますし、許されないという方向性になるのであれば、我々はさらにの明確な道筋を見せていくことができるだろうと思います。今我々としては、どちらの方向性も明確ではないという問題に悩まされていますね。 編: ガンホーさんの公式見解によりますと、不正や詐欺などいろいろなトラブルの温床になるからやってはダメだということになっています。私自身もRMTというのはクリエイターの開発したゲームをぼろぼろに破壊する行為なので、1個人の力、1メディアの力としては小さいなりにも、「ダメだ」という方向に動いていますが、ガンホーさんとしてはありだという選択肢も踏まえたうえで、じっくり検討していきたいというお考えでしょうか? 堀氏: 中村さんのようなお考えの方もいれば、RMTを禁止する行為は禁酒法のようなものではないかと考えられる方もいます。世論としていろんな考え方を持っている方がいらっしゃる中で、現状では道筋になるようなものが見えない状況です。私個人の考えとしては個々のゲーム、または運営元が是非を定義できるような形が望ましいのではないかと考えています。たとえば我々のゲームでは禁止、他社さんのゲームでは有効というようにね。どちらにせよ、ルールに沿ってフェアな環境でゲームを楽しんでいただきたいと思います。 中村さんの考え方は個人的に支持したいのですが、それが禁酒法のようだとお話されている方に対しての完全なアンチテーゼとはならないと考えます。最終的には法で定められている、定められていないというところに帰結してしまう。そこが問題ではないかなと思います。 編: 現状、ある意味で一番フェアな対策を行なっている例としてSOEの「Ever Quest II」があります。Station Exchangeという公式RMTサイトを設け、RMTできるサーバー、できないサーバーを設けた上で、Station Exchangeを介してセキュアな環境でのRMTサービスを提供している。ユーザーが選択肢を与えられているわけです。実にアメリカ的ですけれども、合理的なひとつの解決策ではある。つまり、すでにこれだけ問題が噴出しているわけだから、メーカーレベルで何らかの対策は取るべきではないのかと私は思うわけです。 堀氏: ゲームとしてそうしたスタンスを持ったゲーム作りをされていて、顧客を集めてきたコンテンツというのは、そういうやり方は認められるかもしれないと思います。いわゆる運営元の規約においてRMTを認めているのであれば、フェアな環境でトレードしているということになりますので、混乱は起きないでしょう。 一方で我々が運営しているコンテンツは、規約でRMT禁止と謳い続けているものなので、我々が認めていないものについてRMTを行なうことは問題だと思います。システム的にRMTを前提としていないゲームなのですから、私の個人的な言葉になってしまいますが、こういった行為に対しては“戦っていきたい”と思っています。 編: 広田さんが、RMT業者に対しては文書での対応をとっているとのことですが、RMTの次の動きとして期待したいのは、買う人に対する対応です。 広田氏: 買う方たちに対して私達がやっているのは、いわゆる啓蒙活動です。RMTに関しての考え方を公式サイトで案内するとか、業界団体で冊子を配ってネットカフェ等の店頭においていただくですとか、オンラインゲームフォーラムさんで一定のガイドラインを作り、啓蒙活動をしていくということをしています。 編: 買うことも規約違反ですから、厳密にはアカウント永久停止対象ではないのでしょうか? 堀氏: アカウント停止対象というのはもっともなのですが、ゲームの外での取引はそれが正常な取引なのか、RMTなのか、我々からは見えないのです。我々が一企業として対処できるものには限界があり、残念ながらゲームの中の取引が、RMTに絡んでいるのも絡んでいないのも判断することができないのが現状です。 編: つまり冤罪を恐れるという部分もひとつにはあるのでしょうか。 堀氏: 例えば私が中村さんにゲームの中でゼニーを渡しましたと、それはログから見ると単にゼニーが渡っているだけですので、それが単なる友達関係なのか、私が業者なのかということは判断できません。またゲームの外での現金授受と結びつけるのもやはり難しいと思います。 編: 現行規約で明確な違反だということはわかっていながら、技術的に対応は難しいということになるのでしょうか? 堀氏: 先ほどの話と同様です。何らかの法的な裏付けが必要です。その方向性が見えれば、是であれ否であれ我々にも対応の仕方があると思っています。 編: 理想論でいえば、買う人もアカウント停止にしていきたいという気持ちはあるのでしょうか? 広田氏: もちろんあります。 編: もうひとつ、RMTのタネを生産する人ですが、その代表格としてBOT使用者がいます。最近はアカウントバンの対象者というのがこのBOT使用者ということで、7月から2,000件といった形で実績を挙げ始めてきていますが、この対処については堀さんとしてどのように評価していますか。 堀氏: 対策としてはまだまだだなと思います。当然これで、ゲーム内から不正なツールの使用が消えたと宣言するところではないですし、我々はこれからも継続して対処をしていかなければならないと考えています。 編: 実際、その一方で、いまだにBOT報告が続いています。このBOT対策辺りの新たな技術革新は何かあるのでしょうか? 堀氏: オフラインミーティングでもお話したのですが、開発元と、我々、それから不正対策プログラム「nProtect」を開発しているインカ社と三社で対策を進めていこうという認識で一致しています。定期的に三社で会合を行なったりしています。 編: そのnProtectですが、現在もBOTが存在するということは、nProtectのセキュリティが破られているということですよね? 堀氏: インカ社には、我々で状況報告を行なうなどしており、対応策を練ってもらっているところです。今後も定期的なアップデートで対応していくということになります。 編: 堀さん、森下社長、制作担当の廣瀬さんから異口同音に「負のスパイラルをいつか断ち切りたい」というお話を伺っていますが、当然断ち切る努力というものもされていると思うのですが、本当に断ち切れるものなのか。ユーザーさんの期待は、そこに集約されると思うのですが。 堀氏: 断ち切るために止まることなく問題に立ち向かっていかなければいけないと思います。我々運営元だけでは対処することに限界があると思っていますので、開発元のGravityにもご協力いただければなりませんし、不正対策ツールに対する技術革新も必要ということで、インカ社のノウハウも必要です。3社の協議の中で、最近では少しずつお互いのノウハウも増えてきています。その中で、「RO」のプログラム自体を変えることも視野にいれようということもお話しています。この件についてはむしろGravityさんのほうからお話を頂いています。 編: 「RO」のプログラムの抜本的な改良についてはかなり前から話があったと思うのですが、進展はあるのでしょうか? 堀氏: 現時点では、その都度細かく修正して、そしてその都度BOT開発者が対策してくるという状況ですね。それを飛び越える話になると、「RO」自体の通信プロトコルの改良や、いわゆるアーキテクチャの部分を完全に直していかなければいけないという話になってしまいます。これは一朝一夕に解決できる問題ではないとGravityのスタッフもおっしゃっているし、我々もそうだろうと考えています。しかしながら、どうやって挑戦解決していくべきだろうかという点を現在お話しているところです。 編: 現実世界ですと高速道路を工事するのに一時的に通行止めにすることがありますよね。オンラインゲームでは今までそうしたことはありませんでしたが、一時運用をとめて、そっくり入れ替えるといったこともありえるのでしょうか? 堀氏: 多分お話されている内容というのは、「RO」のサービスを止めて、一旦全部直してそれからサービスを再開したらどうだろうと、いうことだと思います。もちろん直すべきところはすでに見えているのですがゲームのコアな部分となるため、手を入れるのは慎重にならざるを得ないのですね。 Gravityのスタッフの皆さんも非常に多くのユーザーさんを抱えているコンテンツなので、慎重にならざるを得ないと仰っていましたし、我々もそう考えています。βサービスが始まった頃からこの問題は両社で話されている内容ですが、開発元においても対応の必要ありと考えてくれている部分ですので、今後も希望を持ち続けたいと思います。 編: 将来的にはやっていきたいということでしょうか。 堀氏: もちろんです。具体的な時期については、運営元の我々だけではお話しにくいところですね。今後も不正対策の協議の中で進めていくつもりです。
以下、後編へ
□ガンホーのホームページ (2006年8月14日) [Reported by 中村聖司]
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