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東京国際CG映画祭「TIGRAF」
3日目はゲーム特集
クリエイターの生の声が満載

11月4日~7日まで開催

会場:六本木アカデミーヒルズ タワーホール

 東京国際映像祭の一環として昨年から始まった東京国際CG映像祭「TIGRAF」。3日目となる11月6日は「ゲーム特集」と題して著名クリエイターによるプレゼンテーションで1日が充てられていた。その内訳は、株式会社モノリスソフト、株式会社スクウェア・エニックス、株式会社カプコン、さらに先日株式会社ユナイテッド・ゲーム・アーティスツを解散し、フリーとなった水口哲也氏のプレゼンという4部構成で、ラストにはモデレーターとして株式会社GTV代表の渡辺浩弐氏を迎えた各社代表によるスペシャル・シンポジウムが行われた。

■ 「ゼノサーガ エピソードII」、「バテン・カイトス」の製作過程が垣間見える「モノリスソフトの世界」

モノリスソフト杉浦氏
高見氏(左)と犬飼氏(右)
 株式会社モノリスソフト代表 杉浦博英氏、同じくモノリスソフトの高見典宏氏、犬飼泰三氏が登壇。同社が開発している「ゼノサーガ エピソードII(EPII)」、「バテン・カイトス」の映像を流しながら、プレイステーションの登場以降、グラフィック関連のコストの上昇に対し、いかに同社が制作にあたって効率を上げ、質の向上とともにコストパフォーマンスを上げているかを解説した。

 まずは、2つのタイトルのプロモーションムービーが上映された。東京ゲームショウ2003ベースのバージョンであったが、やはり大画面での上映には迫力が感じられる。

 「EPII」アートディレクターの高見氏によれば、「『ゼノサーガ』はイベントシーンのほとんどが実機によるリアルタイムのデモシーンで構成されている。リアルタイムデモの採用理由としては、PS2クラスでもゲームモデルの質は向上しており、そのままイベントデモに十分なクオリティに到達している」と判断しているようだ。また、メリットとしては、ゲームモデルをそのままイベントシーンで使うことによってコストも低減できること、そして課題としては、同じモデルでいかにムービーシーンの質を高めるか、ということに注力しているということだ。

 続いて、「EPII」のモーションキャプチャを利用したイベントムービーの制作工程が紹介された。モノリスソフトでは、モーションキャプチャによるモデルの座標データ収集と同時に、DVカメラによるキャプチャ映像の収録を行なっている。まず、シナリオから絵コンテを切り、セリフは先行で収録。この段階でもうカメラアングルを含めた絵作りの打ち合わせが行なわれ、いざモーションキャプチャとなれば、スタジオで座標の収録と同時に、セリフが流されつつ、モーションアクターはDVカメラに向かって演技をする。当然、演出上やシナリオの変更などにあわせてシーンの収録量は変化するわけだが、徹底した打ち合わせにより、その無駄を極力排除することでコストダウンにつなげている。

 続いて、絵コンテ+セリフ、DVで収録された映像、そしてキャプチャデータを合成したイベントシーンを順に流し、最後にすべてを1画面に納めた映像が流された。キャラクタの動き、そしてカメラ位置をあらかじめ打ち合わせておくことで、デモシーンの仕上がりはよりわかりやすくなっていることが伺えた。

 だが、これで映像の作成が終了したわけではない。画面を流れる雨や、攻撃などの演出、カメラの高速移動など、随所に施されるエフェクトがないと、空気感が感じられなくなり、デモシーンは間が抜けたものになってしまう。

 そこでエフェクト担当の犬飼氏にバトンタッチ。エフェクトといえば、バトルシーンなど爆発とか派手な光といったものだけでなく、視覚的な効果全般を指す。そこで犬飼氏は実際にどのような場所にエフェクトが施されているかを「バテン・カイトス」、「EPII」の映像を流して説明した。エフェクトは実際にはグラフィックデザイナーだけの仕事ではなく、プログラマとの密接な連動が必要となる。リアルタイムならではの苦労もあるようだが、うまく連係することで生み出せる演出効果はバカにならないことを実証して見せてくれた。

絵コンテ。シナリオが挙がったらセリフも収録 セリフにあわせてDVに向かって役者が演技する 3つの工程を同時に1画面で表示してくれた
エフェクトの役割がわかりやすい「EPII」のシーンをいくつか紹介してくれた

■ 「フロントミッション フォース」デモシーンが充実「スクウェア・エニックスの世界」

スクウェア・エニックスの直良氏(左)と玉井氏(右)
 次はスクウェア・エニックスの直良有祐氏、そして玉井進太郎氏が登場。直良氏は氏が関わったタイトルである「ファイナルファンタジー」シリーズ、そして「アンリミテッド サ・ガ」といった過去のスクウェアタイトルの映像を紹介、スクウェアとゲームCGとの取り組みについてを語ってくれた。

 直良氏は、ムービーを振り返りながら、「『FF VII』は、ムービーとリアルタイムポリゴンを主軸として始めたタイトル。当時はまだ手探りで、コンテなどは存在しなかった。ビジュアルシーンはメンバーが思いつきで作っていたことが多かった。最初は1シーンを制作するのに5~6人で1ヵ月半ほどかかっていた。最後の最後まで手を入れていた記憶がある。プリレンダのマップにポリゴンキャラクタが動くということも初めてだったので、プログラマも手探りの作業だった。初めて実機で表示したとき、『自分たちが作ったCGが画面の中で動き出す』という初めての体験はすごくうれしかったし感動した」と当時の思い出を語ってくれた。

 「FF」のナンバーズは、回数を重ねていくごとにノウハウも蓄積され、よりきれいになっていったのは読者の方々もご承知の通りだが、直良氏にとっては「VII」は特別印象深いものだったようだ。

 PS2の時代になり、「X」ではリアルタイムとプリレンダのムービーの差別化に試行錯誤を繰り返したと直良氏。特に差をつけられるところとして、デザイン、エフェクト、シチュエーション、後処理などを挙げ、まず最初にコンセプトワークを起こしてからアイデアを持ち寄り、各シーンをプリレンダとリアルタイム、どちらで処理するかの振り分けを行なって作っていったそうだ。

 この時点で社内スタッフは述べ100人を越え、外部スタッフも合わせると相当数のスタッフが関わっていたという。その際に、意思の統一などは重要な課題だったようだ。コンセプトワークを起こし、コミュニケーションをできるだけとることで、イメージの統一を図っていったとか。また、コンテをムービーコンテにして、モニター上でエフェクトなど細かい打ち合わせを行なってから実作業に入る、といった作業形態へと変わっていたという。

 それから、新たな映像表現と少人数での制作を意識したという「アンリミテッド サ・ガ」では、メインスタッフは6人、フローティングで20名ほどが関わったという。少人数での開発ということで、「どうやったら“イラストが動いてくれた”と感じるか」を研究したそうだ。書き割りやテクスチャなどの制作もいろいろ工夫を施している。しかもローカルマシン1台で表示できる軽さの作業量になっている。ほかには、「FF」シリーズのダンスシーンで使われていたモデルをそぎ落として使い、モーションデータを流用したりなどの効率化を図ったそうだ。使いまわしの妙といえばそれまでだが、うまくデータを再利用しつつ、ボリューム感覚を出すことは重要なポイントだろう。

 続いては「フロントミッション フォース」映像の上映とともに、同作のチーフデザイナー・玉井氏が壇上に登場した。アニメーターの主導で開発されたムービーシーンは、まず、PS2で出力することを前提としていないレンダーウェアでの画像からスタート。そして同じシーンをCGツール上でカメラやモーションを作りこんでいき、アングルを決めてから作りこむことで作業量を最低量に抑え、作りすぎないことを念頭に工程が組まれていることがよくわかるプレゼンテーションになった。

 リアルタイムムービーのよいところは、多少の変更で大幅にシーンのイメージを作り変えることができるところ。実際に曇りのシーンを晴れ模様に変えて見せてくれたが、実際に完成とするには細かな調整を経てからになるが、これほどまでに印象が変わることには驚いた。

「FF X」のイメージボード 美麗なムービーが評価も高い「FF X」 新たな表現を目指した「アンリミテッド サ・ガ」
プリレンダによる「フロントミッション フォース」のムービー ツール上でカメラを含めた打ち合わせを行なう
動きなど細かな指定が入ったもの 左の画像とほぼ同じシーン。完成にほど近い状態 リアルタイムの良さは同じものを少しの手直しでガラッと印象が変えられるところだという

■ 深作監督との「クロックタワー3」開発秘話など三並氏のトークが盛りだくさん「カプコンの世界」

カプコンの三並氏
 「カプコンの世界」は、まず三並氏のプロフィール紹介からスタートした。大学でデザインを専攻していた三並氏は、デザイン会社を探している最中に、カプコンの求人を受けてデザイナーとして入社した。当時は「魔界村」が出た当時と2D真っ盛りで、それまでしてきたこととは違うドット絵の世界。ドット絵を勉強したのだが、やはり肌に合わないということで上司に申し出たところ、ディレクションをやってみないか、ということでディレクターデビュー。そしてプロデューサーへと転向した。当時はゲーム制作の役割も細分化されておらず、珍しい存在の1人といえるだろう。

 現在はゲーム制作はかなり細分化され、CG分野においても、モデルデザイナー、モーションデザイナー、エフェクトデザイナーなど、それぞれの仕事が専門職化している。ハードの進化に応じてこういった役割分担は必要不可欠になっている。

 カプコンは、社内スタッフを大量にかかえると同時に、社外の優秀なスタッフとのコラボレートでも有名。これはPS、セガ・サターンの時代から行なわれたことで、メディアがCDになり、3D表現、生音さながらのサウンドが使えるようになったことが大きいという。

 その当時、すべてをリアルタイムで行なうか、プリレンダとの組み合わせで実現するのかの試行錯誤はカプコンでも重要な課題となったという。デザイナー出身の三並氏も、リアルタイムの良さとプリレンダの質の高さの2つのバランス取りの難しさを強調していた。

 また、これだけプロジェクトが大きな仕事が増えてくると、プロデューサーも細分化していきたいと三並氏は語る。自身としてはゲームのプロデュースに専心していきたいのだが、予算折衝やコスト配分だけでなく、外部との交渉、マスメディア対策を含めた販売、広報面のチェックなど、その仕事分野は多岐にわたっているため、時間が取れないのが現状だとか。

 三並氏の作品のひとつに、深作欣二監督との共同作業となった「クロックタワー3」がある。最初に深作監督との仕事で行なったことは、3DCGに関する知識を監督に伝えることだったという。

 三並氏は、「監督がクリエイターだと思ったのは、3D作品で重要なのは演技じゃないか、とすぐに指摘したところ。実際にキャプチャリングのとき、何もないところでアクターに演技してもらうのではなく、『ドアを開ける』という演技をするときは実際にドアを作って開ける演技を要求した」という。また、何百人ものアクターをオーディションして選出し、凄まじい気合の入れようだったそうだ。

 また、「ゼノサーガEPII」でも行なわれていた、キャプチャリングと同時にカメラを回すという作業も「クロックタワー3」で行なわれていたという。しかも、カメラを構えるのは通称「深作組」と呼ばれる監督のチーム。モーションキャプチャの時点でカメラアングルも決定され、まさに深作作品としての風合いを持たせる作業が徹底して行なわれていたことが伺える。絵コンテ、カメラアングル、そして演技。ここまで徹底した深作監督の仕事があれば、あとはそれほどイメージがぶれることなくムービーシーンを作り出すことができる。三並氏は、「CGを作るために何をすればいいのか、どうしたらいいのかを改めて勉強することになった貴重な機会だった」と深作監督との仕事を振り返っていた。

深作監督と「クロックタワー3」の作業風景が公開された

■ 「スペースチャンネル5」、「Rez」の未公開映像でつづった「水口哲也の世界」

フリーとなった水口氏
 水口氏のプレゼンテーションは、氏の今までの仕事を振り返りつつ、これからのゲーム像を見据え、「見えないデザイン」をテーマとした内容となった。

 氏がセガ入社後初めて関わった仕事としては、アミューズメントパーク向けシミュレーターのCGから、アーケード版「セガラリー」や、「マンクスTT」などの懐かしい作品を紹介した。

 アーケードゲームばかり作ってきた氏は、このあたりで壁にぶつかったという。3~5分でスリルやストーリーを伝えるというアーケードには限界を感じたのだろう。そこで、コンシューマの世界へと足を踏み入れることになる。しかも、「女性を幅広い層に受けるゲームを制作しろ」という命令を帯びて作られたのが「スペースチャンネル5」だった。

 このゲームの原案では、ダンスの要素は入っていたものの、インタラクティブムービーのような構成で、コマンドをタイミングよく入力することで敵を攻撃したり、主人公がアクションを取る、といったものだった。これを部下から受け取った水口氏は、まずゲームとデザインを分けて考えることにしたという。このゲームを大きく変化させたヒントとなったのは「STOMP」のライブ途中のイベントだったという。

 リズムを刻んでお客にレスポンスさせる、という内容で、ドンドン早くなっていくリズムに観客が応え、連続したリズムの応酬に観客がついていけないと笑いが起こる。この様子を見ていて、そんなゲームができないものかと考えたところから、「スペースチャンネル5」が変化していった。なぜ笑いが起きるのか? 笑いを作るということはどういったことか? そういった感情はどういった理由で起こるのかを突き詰めていった結果、当時ユナイテッド・ゲーム・アーティスツの社内で半年にわたってワークショップが行なわれ、徐々にこのゲームのイメージをスタッフがつかんでいく過程も紹介された。

 また、「うらら」のキャラクタの誕生秘話についても触れられた。女性にウケるキャラクタを作るという至上命令を受けていた水口氏は、女性にウケる女性キャラクタの検証を行なったそうだ。そこで得られたのは、本能と欲求にまみれて生きている人間は、自分の大事なものを奪う存在を嫌うという。色気をアピールするようなものは男性にはウケるが女性の琴線には触れない、ということだ。男性にこびる要素を徹底的に排除して、見た目だけではなく、そのキャラクタの性格や内面を盛り込んで完成したのがうららだという。

 制作途中のうららは男性デザイナーの手によるグッドプロポーションの女性だったが、最終的には読者の方もご存知の通りのかわいらしさと美しさが同居するキャラクタに仕上がっている。そこに水口氏のいう「見えないデザイン」が盛り込まれていることは明らかだろう。

 続いてその後のうららの活躍ぶりについても紹介された。J-PhoneのアプリやMTVとのコラボレートの映像も流され、うららファンにはたまらない内容となっていた。

 最後にゲーム制作のヒントとして、氏は、「人間の本能からくる欲求が、ゲームの制作のカギになると思う。人には、自分に対する欲求、人に対する欲求、自然に対する欲求の3つがあると思う。肯定的な価値観でその欲求を満たしてあげるものができれば、その仕組みがわかれば、それは新しいものを生み出す近道になると思う」とアドバイスしてセッションを締めくくった。

「マンクスTT」。ホンダと共同で制作した筐体がなつかしい 初期の「スペースチャンネル5」の映像。今までも「GameJam」などで語られたことがあったが、これだけたくさんの映像が流れたのは初めて


最後のスペシャルシンポジウムも大盛り上がり
 2回目となった「TIGRAF」。ゲームの制作に関しての話題がこれでもか、というほど充満したプレゼンテーションの数々は、なかなか一般には触れる機会の少ない濃い内容になっていると感じられる。特に、ゲームの製作過程に興味がある方は、足を運ぶ価値は十分にある。ただし、1回60分オーバーのプレゼンを4回以上も連続で受けることになるのは少々骨が折れるかもしれない。

 もし3回目が開催されることがあるとしたら、できればもう少し日程に余裕を持たせたゆっくり見られるイベントにしていだだけるとありがたい、と思うのは私だけだろうか?

□TIGRAFのホームページ
http://www.tigraf.com/
□関連情報
【11月5日】第2回東京国際CG映画祭「TIGRAF」開催
映画「ケイナ」初公開
映画とゲーム両クリエイターのプレゼンテーションに注目が
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031105/tigraf.htm
【10月14日】第2回「東京国際CG映像祭(TIGRAF)」、11月4日から開催
映画「ケイナ」日本初上映、水口氏プレゼンテーションなど注目セッション多数
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030919/kaena.htm

(2003年11月7日)

[Reported by 佐伯憲司]


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