インタビュー
「FFXIV: 黄金のレガシー」メディアツアーインタビュー
もっと楽しく、自分たちが面白いと思うものを作りたい。そんな思いが詰まった拡張
2024年6月6日 19:00
- 【ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー】
- 7月2日発売
- 価格:
- 4,620円(通常版)
- 6,600円(コレクターズエディション)
スクウェア・エニックスは、プレイステーション 5/プレイステーション 4/Xbox Series X|S/Windows/Mac/Steam用MMORPG「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」のメディアツアーを開催した。
メディアツアーでは、プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏に話を聞く機会もあった。メディアツアーと同日に配信された「第81回 FFXIVプロデューサーレターLIVE」で発表された内容や、新ジョブの面白さ、そして拡張パッケージに詰め込んだ想いを聞いてきた。
なお、インタビュー当時のゲームのバージョンは最終調整前のものであり、リリース時には大きく変更される可能性があることを追記しておく。
【「FFXIV」、いよいよ「WoW」超えへ】
▼いよいよ満を持して「WoW」超えへ。「FFXIV: 黄金のレガシー」で再スタートする光の戦士達と吉田直樹氏の新たな冒険
【吉田直樹氏インタビュー】
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」メディアツアーインタビュー
もっと楽しく、自分たちが面白いと思うものを作りたい。そんな思いが詰まった拡張
【新エリアレポート】
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」エリアガイド
新たな冒険の拠点「トライヨラ」と「コザマル・カ」と「オルコ・パチャ」をガイド
【新IDレポート】
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」インスタンスダンジョンレポート
レベル91のダンジョン「濁流遡上 イフイカ・トゥム」を一足早く紹介
【最新ジョブレポート】
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」ジョブレポート「ヴァイパー」
超高速に繰り出す多段コンボが気持ちイイ!
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」ジョブレポート「ピクトマンサー」
カラフルで可愛くお手軽、アートの世界はとにかく楽しい!
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」ジョブレポート「近接DPS編」
モンク、竜騎士、忍者はより使いやすくシステムを修正、侍、リーパーは正統進化
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」ジョブレポート「遠隔DPS編」
召喚士に新召喚獣「ソルバハムート」が登場。機工士は最終兵器化か?
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」ジョブレポート「タンク編」
上位防御バフと追加攻撃で正当進化。「FFVIII」のスコールの技が新技として登場
▼「FFXIV: 黄金のレガシー」ジョブレポート「ヒーラー編」
学者はセラフィムに変身!占星術師はカードシステムが大きく変化
多くの種族が暮らすトラル大陸で多様な価値観に出会う
――今回はジャングルのある南国が舞台の冒険という感じですね。これまでの冒険とはまた違ったものになるかと思いますが、どういった雰囲気になるのか教えていただけますか。
吉田氏: いろいろな要素はあるのですが、……意図からお話しします。宇宙の最果てまで行き、世界崩壊というか……宇宙も崩壊しそうなレベルの終末というものを止めた主人公が、では次に何と戦うんだと考えた時に思うのが、いわゆるバトル物の宿命でもある敵の強さのインフレですよね。
僕らが中高生の頃に読んでいたバトル漫画はそれ自体がカタルシスでした。めちゃくちゃ面白かったですし、燃えたものです。ただ、現代では多くのエンタメがあり、敵の描き方も様々になりました。壮大な物語である以上、ある程度はインフレしていくのですが、前回「暁月のフィナーレ」でクライマックス感を、1回きちんとやったからこそ、次の大きな結末に向かってまた少しずつ石を積んで道を作っていこうと考えました。「前回を超えよう!超えよう!」という意識ばかりで物語を作ろうとすると、またしても世界は即座に危機に陥る、ということになりかねません。そこから先はずっとインフレさせていかなくてはならなくなってしまう。それもまた、いずれはやはり飽きられてしまいます。
だから今回は「世界を広げる」ということが目標です。「FFXIV」が目指しているのは戦いではなく、「冒険」です。今回提示したかったのは、世界を救ったヒーローが踏み出す次の一歩では、単なる戦いだけではなく、英雄からみた世間とか、1つの大陸の争いとか、多様な価値観とか、そういうものを、今の光の戦士=プレイヤーの皆さんならば、第三者的な視点で見ることができるのではないか、ということが今回の出発点になっています。
とはいえ、主役はプレイヤーである皆さんであり、皆さんが操作する冒険者が主人公であるべきですので、脇役になってしまわないよう気をつけました。まだつたない王位継承者レースの候補者をサポートして、一人前の王にふさわしい人物に引き上げつつ、その中で出会う新しい価値観や冒険をしっかりと描きたい。だから今回は、結構難しいことにチャレンジしているかなと思います。
振り返れば、「新生エオルゼア」の時には駆け出し冒険者として冒険を始めて、いろいろな価値観に触れて考えていったと思います。同じように、新たな冒険の幕開けというイメージで作っています。
――当然新大陸でも終末はあったと思いますが、新大陸の人たちは冒険者のことをまったく知らないんですか?
吉田氏:そういう人物がいるらしい、というのは、風の噂で聞いて知っている、という程度です。三大州側からはメルウィブが発見した安全航路を通じてある程度の船が行っていますが、トラル大陸側の造船技術や航海の技術はそれほど高くないので、よほどのことがないとまだエオルゼア側へは移動していないのです。だから情報も一方的に入ってはくるけれど、より知るために取りに行こうという動きは、まさに今から! といった時代感です。
プレイしていただければ、なるほどそういう感じなのねというのは分かっていただけるようには作っています。あまり知られていないからこそ新鮮という感覚はあるかなと思っています。
――今回のような密林ジャングルの冒険は、映画や小説などでもありますが、モチーフにしたり、吉田さんの中で冒険ってかくあるべきというイメージの作品はありますか?
吉田氏: 今回のモチーフとは言えませんが、やはり僕の世代的には冒険といえば「インディ・ジョーンズ」ですね。小学6年生の時、「グーニーズ」を観た思い出はめちゃくちゃ大きいので、冒険と言ったら、この辺りになります。でも、「漆黒のヴィランズ」の中でヤ・シュトラと一緒に古代遺跡の中に入り、巨大な石の玉に追われたりとか、あのあたりの感じは1回ストレートにやっています(笑)。今回はどちらかというと、その大陸全体に伝わる伝承とか神話みたいなものをいろんな角度から追って解き明かしていくという構成になっています。
――新しいロアがたくさん出てきそうですね。
吉田氏: ロアは100%新鮮に感じていただけると思います。あとは今回は多部族を描こうとしています。トライヨラ自体は連王国で、大陸内にいるいろいろな部族をまとめ上げてひとつの国家としています。その中で、お互いの価値観とか、政治観とか、信奉するものとかを尊重し合おうという。もちろん尊重できない人たちも出てくることになりますが、そこにも道理や歴史がある。それらを繋いでいく、知っていくという旅が大きなテーマのひとつでもあります。
現代において、世界情勢がまさかここまで悪くなるとは、おそらく誰も考えていなかったと思うんです……。でも結局これは、何世代も前の過去の歴史が原因だったり、相互理解の足りなさだったり、今は不遇の民族が、少し世代が前になると逆の立場だったり、そういった連鎖が今に続いているのが原因だと感じています。どうやったらもう少し歩み寄れるのかな、と考えたりもしますし、僕自身がプレイヤーの皆さんとの相互理解を少しでも深めたい、と思って開発と運営を続けてきましたが、それでも100%には至りません。改めて難しさとか複雑さを感じています。
今回の旅では他人の価値観や考え方を知ることが大事なのではないかということをかなり丁寧に描いたつもりです。特に狙ったとか、メッセージ性をやたら強めたいという意図はないのですが、現代社会を生きている中で、なんとなく考えるきっかけになってくれたら……という思いはちょっとあったりします。
――ゲームとは言え、遊んでいるこの世界の状況とは切り離せないということですね。
吉田氏: 現代に生きている以上、やはり多少は影響を受けますね……。でも、結局これも繰り返し語られていることだな、と思うところはあるんです。ファンタジーの金字塔である「ロード・オブ・ザ・リング」でも、中つ国には様々な種族がいて、みんなそれぞれ価値観が違います。シャイアという田舎に住むホビットのフロドは純粋な存在で、人間はわりと欲望に抗えない種族として描かれています。だからこそ、フロドの純粋さが光るし、ヤキモキもする。でも、それに心を打たれ、その旅路を守る人間も現れる。世界を創るということにおいても、物語としてもテーマとしても、やはり偉大だなと改めて感じます。
――今回の舞台は南の国で、吉田さんといえば北海道ですが、南国バカンスにはロケハンなどで実際に行ったりしたんですか?
吉田氏: 行ける……わけないじゃないですかー(泣)。あ、でも、「FFXVI」のプロモーションをやってらっしゃる吉田さんから、PRとして東南アジア地域に行った時のイメージはなんとなく聞いたりしました(笑)。今回、ネタバレになるため、メディアのみなさんにも全フィールドはお見せできてないんですが、結構フィールドごとにガラッと空気感は変えてあります。そこはテーマパークでいろいろなエリアに行くような違いは出せたかなと思うので、そのあたりも楽しみにしてください。今まで冒険してきたエリアとは、明確に空気を変えてあります。
――今見えてるところだけではなく、もっと違いのあるエリアがあるんですね。
吉田氏: はい。奥へ行けば行くほど高地になってきて、空気が薄くなって、ちょっと肌寒さを感じる空気とか、荒野に行けば常に砂塵が舞っているような天気が標準だったり。砂塵が完全に晴れる瞬間は、ある程度レアにしてあって、発生頻度が低いなど。そのあたりは結構こだわって調整しています。
――砂嵐という天候は今までなかったですね。
吉田氏: ゲームを作っている側からすると、砂塵はイベントやカットシーンがある時に邪魔になりがちです。だから、そういった気候フィルターをかけるのを嫌がるんですが、やはりこのエリアの空気感を出すには、常時砂塵がベースではないと 逆に白々しく見えるね、と。カットシーンが少し見えづらくなっても、敢えて西部開拓時代のイメージみたいなところから外れないように。空気が濁って口の中が砂でザラザラするような印象が、かえって雰囲気を出してくれるだろうからと話して調整しました。実際に見に行く余裕はありませんので、かわりに「RED DEAD REDEMPTION」に代表されるような、この時代を描いたゲームを、改めてたくさん見せていただきました。
共に旅するNPCたちとの関係は、プレイヤーのフィードバックで変化するかも
――「暁月のフィナーレ」がゾディアーク&ハイデリン編の集大成で、今回はまったく新しい冒険が始まるわけですが、こういった2回目のスタート部分を描いていくうえでの難しさはどういった部分ですか?
吉田氏: 「FFXIV」のプレイヤーベースも、「新生」の時から比べるとものすごく広がっています。本当に多種多様なプレイをして、異なる生活を送っている人たちが一堂に集まっているので、それぞれの方が冒険に求めるイメージが違うだろうと思っています。
特に、どこまで新たなキャラクター側に話を寄せていくのか、「暁の血盟」という存在をどこまでプッシュするべきかということに関しては、今回が試金石かなと考えています。もっと暁の活躍が見たいという方もいれば、誰も主人公のことを知らない場所に行きたいという方もおられると思います。
ここからまた新しく物語を拡張し続けていく上で、今回の皆さんの捉え方だったりフィードバックが、今後にも影響してくるだろうなと思っています。大筋はもう考えてあるのですが、そこに挑むべき仲間たちをどう描くかは、今回の物語を皆さんがどう受け止めてくださったか次第で、さらに考えていこうかと思っています。せっかくのライブタイトルですので、こうしたライブ感も大切にしたいのです。
――暁への思い入れで反応が変わってくる可能性はありますね。
吉田氏: アルフィノとアリゼーについても「いい加減、少年少女を抜けて成長した姿が見たい!」とおっしゃる方がいらっしゃいます。しかし、「身長が伸びて大人びてくると、これはもうアルフィノとアリゼーじゃない!」となる方もいらっしゃると思うのです。ヤ・シュトラもご意見番としてもう少し後ろに控えようかとなると、「ヤ・シュトラが大好きでこのゲーム遊んでいたのに!」っていう人も多分いてくださるし、難しいところです。かといって新キャラが入ってパーティの人数が20人になったとすると、常に主人公が20人とぞろぞろ行動するというのも……ですしね(笑)。
――確かにそういう意味では新キャラを出すのが難しいですね。
吉田氏:と言いつつ、今回新しく登場するキャラクターは本当にたくさんいます。みんな魅力的に描けたのではないかと思っており、その中からまたいろんなキャラクターを好きになったり、嫌いになったりして欲しいと思って作っていますので、そこがうまくハマってくれればいいなと願っています。
――NPCといえば、フィールドを歩いているアルパカがすごくかわいいです。毎回、可愛いポジションのキャラがいますが、今回はアルパカがそうなんですか?
吉田氏: うーん、どうでしょう……。開発チーム内でも可愛さの定義は違いますからね。でもアルパカに関してのエピソードはサイドクエストも含めて結構あるので、みんなけっこうアルパカ推しなんだろうなと、チェックしていて感じました(笑)。
でも今回はどちらかというと、種族にフォーカスしています。マムージャ族は、今はあまりなじみが無く、種族というよりも印象はモンスターに近いはずです。特に日本人には、爬虫類ベースのヒューマノイドはなじみが薄いと思います。今回は多くの種族が出てくる中で、マムージャ族達がキチンと種族として認識されていくのではないかと思っています。
最初はキャラクターどうしの区別がつかないと思います。でも物語が進むと分かるようになってきます。この辺りは丁寧に描いたつもりですし、プレイする前とプレイした後で振り返ると、皆さんの中にも変化があるのではないかと思います。だから僕はトラル大陸内に出てくるいろんな種族、部族たち推しです。そういう意味でいうと、かわいいなと思う人たちがたくさんいますよ!
「黄金のレガシー」では明るくムーディーなジャズが世界を彩る
――今回フィールドや街の曲がジャズ調だったりと、BGMも今までとはだいぶ雰囲気が違いますね。このBGMのプランは吉田さんから提案されたんですか?
吉田氏: 「漆黒のヴィランズ」くらいからは、石川夏子(編集部注:シニアストーリーデザイナーの石川夏子氏)がBGMの発注を担ってくれており、石川から祖堅(編集部注:サウンドディレクターの祖堅正慶氏)に伝えるという形で行っています。僕はどちらかというと、サンプルが上がってきた時に確認してフィードバックするか、現場が悩んだ時に相談に乗る、という感じが多いです。今回は南国でバカンスというところから始めたかったのと、楽器がたくさんあって、にぎやかだったり寂しかったりという感じを表現しています。僕は音楽の専門家ではないからうまく表現できませんが、ジャズを聴いていると、後ろでずっと流れていても気にならないけれど、耳をそばだてて聞けばそれぞれの旋律がセッションして曲として聞こえる。多民族でガヤガヤして、でも耳なじみがよくて、その辺りを意識して作り始めたと言っていました。
珍しかったのですが、今回のトライヨラの曲についてエピソードがありました。実装されたもののチェックで、とてもしんどいタイミングに入ってきた頃に、「聴いてくださいこれ、これが今回のタウンの曲なんですよ!」と石川から連絡が飛んできて。「おー、これはいいね!」と伝えると、「でしょ? へへ!」みたいな感じで、ハマった感があったんでしょうね。ほっこりしてチェックに戻りました(笑)。
テーマや雰囲気に合わせて、祖堅のまた意外な一面も見えると思います。「FFXIV」の楽曲は、ゲームデザイナーからきちんと発注していますが、「新生」の時にはできるだけ王道、だけど地域によって主になる楽器を変えようというコンセプトでやっていて、こういった拡張毎のテーマ決めという方法は、いい感じに受け継がれていると思います。
――多民族が、楽器のジャムセッションみたいな意味になっているんですね。
吉田氏: そうです。メディアの皆さんにも新鮮に感じていただけたんじゃないかと思っています。
――グラフィックスアップデートも、実際に見せていただくと本当に綺麗になっていて、かなり驚きました。各ジョブの専用装備のCGアートも発表されていましたが、それを見てもパーツの数が増えてるのか、それとも描き込みがすごくなっているのか、以前よりも密度がすごく高くなっている感じがしました。そういうのを意識して今回のデザインっていうのはされてるんですか?
吉田氏: 情報密度という意味では、今回意識して増やしているわけではないのです。むしろもともとアートワークに描かれていた情報をより精密に表現できるようになったのが今回だと思います。パッチ6.Xまでは、設定画に描かれた情報密度を再現するのに、小手先のテクニックを使ってなんとか上手く見えるように表現しようとしてきました。それが今回はグラフィックスアップデートが入り、アーティストたちが使える容量やテクニック、パーツ数も増えたことによって解き放たれた部分と、いままで培ってきたものが嚙み合って、そう見えているんだと思います。例えばここのパーツの情報量は今までのローテクでなんとか稼いで、増えたぶんの容量で、別の部分を高精度高密度に表現しようといったような。
特に素材感に関してはシェーダーでかなり表現できるようになったことで、みんながそれを気に入っています。結果、どの担当者もベロア素材にしようとするから、「どれもこれもベロアになってるぞ(笑)」と、いくつかの素材をチェックしている時に変えたくらいです。シェーダーによって質感表現ができるようになって、アーティストたちはすごく喜んでいますね。
――高精度になったぶん開発が大変というよりは、表現できる幅が増えてむしろ楽しいという感じですか?
吉田氏: たぶん半々だと思います。あれもやれる!これもやれる!からといって、1つの装備にそんなに時間をかけていたら、作業量増えて苦しむのも自分たちなんだから、折り合いはちゃんとつけるんだよ、と話しています。
――やっぱりそうなっちゃいますよね。
吉田氏: キャラモデルは、基本的に1装備ずつ、キャラクターモデルを作ってくれている人みんなで集まって確認するんですが、みんなもう自慢げです。「(ここです。吉P、ここを見てください!気付くかな?ここを褒めて欲しいな)」みたいな感じで、すごくテンション高くチェックに参加してくれるので、雰囲気はとても良いです(笑)。
古い装備も今後順次手を入れていきます。「新生」の方へ徐々に遡って、装備のアップデートを続けていきますので、最終的にはすべての装備、すべてのキャラクターがグラフィックスアップデートされるようになります。
――第一次アップデートというのは7.Xを通じた全体のアップデートを指すということですか?
吉田氏: いえ。なぜ「第一次」と呼んでるかというと、グラフィックスの進化は1回ではないと思っているからです。グラフィックスアップデートといっても、まだ使えていないテクノロジーもありますし、これが「FFXIV」の限界だと思って欲しくないという思いもあります。MMORPGである以上、スタンドアロンのゲームに最新トレンドで使われているシェーダーや物理計算、ライティング技術の幾つかは実装できていません。ただし、これもまた皆さんのプレイ環境が年月とともにスペックが高くなっていくと、「では第二次をやろうか!」と決断する日が来ると思っているのです。プレイヤーの皆さんにもその余地を残しておきたかったし、開発チームにもこれで終わりではないからという意味で、「第一次」と呼ぶことにしました。
失敗を恐れず、面白いと思うアイデアで挑戦していきたい
――次はジョブについてお伺いします。PLLでは防御バフや被ダメージ軽減が全体的に見直されていて、プレイヤー側が強くなりますが、これは敵も同様に強くなるからでしょうか? プレゼンテーションでも話されていた、面白さを追求した敵にするという考え方では、これまでのボス戦と比べてどう変わっていくのか、もう少し詳しく教えてください。
吉田氏: まず、ストーリーをクリアするだけなら楽しんでプレイできる、という部分は変えていません。ストーリー道中のインスタンスダンジョンでは、軽減を使うことを前提にバランスを取っているわけではないので、あまり気構えなくても大丈夫です。被ダメージアップのデバフがついている状態で、AoEを2枚同時に踏んだからさすがに……くらいのいつもの値づけになっています。
ただ、レベルがカンストしてからの、いわゆるエキスパートと呼ばれるダンジョンや、レイド「至天の座アルカディア」だったり、その零式というところに関しては、6.Xシリーズに比べると「やり応え」は感じていただけると思います。クリアに必要なダメージ総量や、プレイヤーが受けるダメージを極端に上げる、というダイレクトな難易度の調整ではなく、ギミックの新しさや手数の豊富さで「やり応え」を出していこうとしています。
ただし、とても微妙なニュアンスで、場合によってはネガティブに受け取られてしまうかもしれませんが、僕らはプレイヤーの皆さんをぎゅうぎゅうに苦しめたいわけではなく、クリアした時の達成感をより感じられるようにしたいのです。達成感は、その手前のハードルが絶妙であれば、より感じやすいと思うからです。
登る山の高さがハイキングコースだとした場合、あまり高くないので気軽さはありますが、あまり刺激や達成感は得られにくいと思います。僕たちも「バトルコンテンツ」という山を作る経験をたくさんしてきたことと、プレイヤーのみなさんにより「楽しんでいただこう」とした結果、どれも「似たような山」になってきてしまったのではないか、と感じたのです。ダンジョンのはずなのに、ハイキング的なイメージがあるかもな、と……。
山を登った時の達成感が弱くなってきていると思うんです。と言っても「だから登る山を急こう配にします!」ということではなく、「それぞれの山の高さは今のままで良いけれど、登山ルートをもっと変えよう! 発生するイベントは、もっとユニークにしていこう!」という意識です。
以前作ってみて評判が悪かったから、あれはダメ、これはダメ、だからこの範囲でギミックを作ろうという考え方ではなく、評判が悪かったポイントを見極め、そこを改善して、より一段上のギミックを考えてみよう、というイメージです。アイデアはあるのに、過去の経験上リスクもあるからと、それを開発チーム内で作る前に止めてしまうのは勿体ないなと。
――確かに最近のギミックは似たものが多いですね
吉田氏: みんな経験を積みすぎているせいで、「そのタイプのギミックはあのレイドのあのシチュエーションで、こういうフィードバックがあったから、やめておいた方がいいよ」と。繰り返しなのですが、これ自体はプレイヤーのみなさんのストレスを軽減したい、良くしていきたい、という想いですので悪くはないのです。ですが、そこで立ち止まってしまうと、やはり同じようなものしか生まれてこなくなるんじゃないかな、と議論を行いました。
これはディレクターである僕のコンセプトの出し方が非常に悪かったと思っています。「プレイヤーの皆さんにとにかく楽しんでもらおう!」と言ってきた結果でもあります。若いスタッフにはもともとプレイヤーだった人も多くて、自分がプレイヤーとして「なんだよこのクソギミック!」と叫んでいた人が、今度は作る側になった。「あああ、自分はそんな風に叫ばれたくない!」と、そう思ってしまう心理もとてもよくわかります。
でも、開発チームがプレイヤーのみなさんの想像の範疇でしかコンテンツが作れなくなったら、ガッカリされて当然だと思うのです。だから、もっともっと高いレベルを目指そう。挑戦と失敗は表裏一体でもあるので、高いレベルを目指した時に、プレイヤーの皆さんからお叱りを受けるようなことが出てしまうかもしれない。でも、あまりにそれを怖がると委縮してしまう。僕らの進化のためにはやはり挑戦は必要なことでもあるから、その際には反省を生かして、チャレンジを止めるのではなく、改善したギミックの面白さなどでお応えしていきましょう、と。皆さんに改めて最高の達成感を感じてもらうためには、僕らの発想をもっともっと豊かにして、もっといろんなものに、僕たち自身が挑戦する必要があると思うのです。
でもそれをいきなり現状のメカニクスだけで表現すると、やはり難しくなったと捉えられがちです。プレイヤー側としても、どういったタイプのギミックが来るか分からないからこそ、例えば軽減の効果時間を少し長めにしておいて、早めに入れてしまったとしても延長された時間分でうまく軽減されたと、そんなふうになってもらえるといいなということで、そういった理由にもなっています。
――お話を聞いていると「大迷宮バハムート」で苦戦していた最初の頃の感じに、回帰する感じかなという印象を受けました。
吉田氏: あの頃はアイデア最優先だったので、そこまで尖るという意識はないですし、経験も積ませていただいているので、大丈夫とは思います。ただ、現場とこれについてのミーティングをしている時に、「じゃあアラガンロットもありですかね?」という質問には、「別にいいんじゃないかな、面白くなるのなら」とは話しました。「ただ、あの段差のある場所でスライムを引っ張って、双方に食わせるはどうだろうね」、「いや、さすがにあれは尖り過ぎだよ」みたいな話も(笑)。あとは8人のうち1人がずっと乗り物に乗って、爆弾を引っ張っていても別にいいじゃないかと。
火力が出せないという人がいるかもしれないけど、チームでボスを突破していくところこそが、遊びの本質です。そういう声は出るのかもしれないけれど、毎回のコンテンツでそうなるわけではないですし、全体として面白いかどうかが大事なので、アイデアを出す前に、あれこれ制限はしなくてもいいよね、という見解にはなりました。ただ、これはディスカッションなので、会話に飛び出すギミック例は極端です。ぜひ、その点は差し引いて読んでくださいますよう、お願いします。
とはいえ、一足跳びにそこまで行くわけではないです。急ハンドルを切ると僕たちも、外力で吹っ飛んでいってしまいます。ですので、徐々に変化を加えていこうと考えていますし、「7.0」でもレベルがカンストした後に、その片鱗が少し見えてくると思います。エキスパートダンジョンは、周回に慣れるまでは、いつもの感じでいくとちょっとピリッとします。でも、とても面白く仕上がりましたので、楽しみにお待ちください。
僕のキャラには可愛すぎるかも、でも個人のテクニック差が出るのが面白い
――PLLではヴァイパーとピクトマンサーについて、久しぶりにメインジョブを変えてもいいかなと思っていると言われていましたが、吉田さんのお気に入りポイントを、それぞれ教えてもらえますか?
吉田氏: ヴァイパーはとにかく、二刀流ウェポンスキル、合体剣ウェポンスキル、合体剣アビリティを、それぞれ独立して使うのではなく、常にその3つをひとつとしてローテーションを考えるジョブです。特に合体剣のウェポンスキルのチャージは、余らせると火力的に損をする作りになっていますので注意が必要です。単に木人を殴っている時なら、ローテーションを覚えるまでは、さほど苦労しないのではないかと思います。しかし、これがコンテンツになってくるとやり応えがあるのです。
ヴァイパーは手触りが良いため、攻撃を回すことにめちゃくちゃ集中しちゃうんです。のめり込んでいくようなスキルローテーションがめちゃくちゃ気持ちいいジョブになっています。すさまじい速度でアニメーションしますし、今まで以上にハイテンションなジョブに仕上がったと思います。しかし、操作に夢中になると視野が狭くなるため、ギミック対応がおざなりになってしまったり……。僕は別にメインジョブだけやっているわけではなく、いろいろなジョブを使っていますが、ヴァイパーに関してはいつもより突き詰めて使おうかなと思っていたりします。
ピクトマンサーに関してですが、僕は初めて遊んだオンラインゲームである「Diablo(ディアブロ)」の頃からソーサラーをやってたりするくらい魔法使い系のクラスやジョブにお気に入りが多いのです。ピクトマンサーは、絵を描く、具現化する、具現化した能力を発動させるという大きな3つの流れがあります。さらに魔法のルートも回さなくてはいけないので、当然絵ばかり描いているわけにもいかないし、ギミックにも対応しなくちゃいけない。コンテンツに合わせて、どのタイミングでどれを使うかが大事になります。Procしたから今すぐ!とか、リキャストさえ余らせなければ、今使わなくてはいけないということがあまりない作りになっています。
とにかくリキャストを余らせさえしなければ、条件を満たしたうえでキープしておき、バーストに合わせるとか、どうしても移動しなくてはいけないタイミングに合わせて準備しておいて、そこで発動するとか。例えば黒魔道士の「三連魔」は、リキャストを残してさえおけば良いのですが、ピクトマンサーは絵を描いて準備をしておく必要があるので、どこでどう準備をするかとか、そういう工夫の巧さによって、テクニックの差が出せるところが気に入っています。僕が使うジョブとしては、ちょっと可愛すぎるかな……というところはあるんですが、個人差がでるジョブが好きなので……。あまり時間は取れないのですが、黒魔道士と並行して、突き詰めるくらいまでやってみようかなと思っています。問題は時間の方ですね……。
――絵素を作るアクションは詠唱の時間が長いだけに、どこでやるかというタイミングで火力が変わってくるんですね。
吉田氏: 大事だと思います。最初の絵を全部吐き出した後は、バトル中のどこかのタイミングで絵を描く必要があります。その絵を描いている間は、火力はまったく出ないのですが、もちろん他のアクションで火力を補えるような設計にはなっています。例えば絶対に移動しなくてはいけないタイミングで、あえて迅速魔で描いておくとか、ダメージが出せないタイミングで描いておくとか、コンテンツに合わせたローテーションを自分なりに調整するところが、腕の見せ所になってくると思います。
――そこがピクトマンサーの面白さということですね。
吉田氏: そうですね。それに長年の開発経験を積んでから作っているジョブなので、設計レベルやシステム的な完成度も最初から高いと感じます。ハンマーの技が無詠唱3連で組まれているのは、ギミックが来た時の移動用コンボとして使うためだったり、その辺りの設計がしっかりできていて、キャスターとして面白くなるよう作られています。
――学者がいきなり変身していて、びっくりしました。
吉田氏: 学者は「妖精食べた?!」など、色々な歴史があって、いよいよ自身がフェアリーに転身。でもデザインはバトル班とアート班が相当な回数のやり取りをして決まっていきました。ちょっと天使よりという意見もでるかもとは思っていますが、まずはじっくり触ってみていただけると嬉しいです。
――学者はいままで海兵魂!とか、結構武骨な印象だったので、落差がすごかったです。
吉田氏: 絵替わりは非常に大事なので、こういった大胆さはあって良いと思います!
――召喚士は新たにソルバハムートが召喚できるようになります。PLLでは、バハムートの今の姿はアラグが作った姿だから、もうひとつ作ったということでした。ソルバハムートが、バハムート本来の姿なんですか?
吉田氏: それはまだ何とも言わないでおきます。ただ、もともとタラガブに封印されていたのが、皆さんがよく知るバハムートです。月の衛星なので、ある意味ルナ・バハムートです。今回は、闇属性のバハムートに対して、光属性のバハムートで、ソルみたいなイメージになります。これ以上は、いつメインクエストに絡んできてもおかしくないため、お話しないでおきます……。
――学者のセラフィム化やソルバハムートは、どちらも裏設定がありそうなアクションですが、今回それがわかるようなジョブクエストがあるんでしょうか?
吉田氏: 一連のジョブクエストは一回完結させているのと、ジョブクエストを作った場合、縛られてジョブ自体の改修に影響がでるため、本当はあった方が良いのかもしれませんが、今回用意していません。むしろ今後別の形でサイドクエストを作る時に、その中でロアが分かるようになるということはやると思います。
――最後に、発売を待っている方にメッセージをお願いします。
吉田氏: 今回ベンチマークについてですが、みんなが「7.0」本体の開発に集中しすぎ、キャラクターの確認もそちらで行っていたため、キャラクターメイクでの環境やライティングの調整を忘れるという、非常に大きなミスを発生させてしまいました。本当に申し訳ございません。
こういう部分もサービスという面でいえば、「ちょっと情けない体たらくなのでは」というお叱りの声も拝見しました。もちろん、申し訳なく思っていますし、繰り返さないための意識合わせも行いました。改善していくことで、また挽回させていただきたいと思っています。
「グラフィックスアップデート自体、無謀なんだよ。止めたらいいんじゃない?」というお声も拝見しましたが、リスクが高いから、僕ら自身が怒られたくないから、安全にいこうと挑戦を止めてはいけないと思っています。もちろん、だから失敗したって良い、というつもりは毛頭なく、ただひたすらに挑戦と改善を繰り返し、最終的に面白いとおもっていただけるものを提供させていただきたい、と考えています。挑戦しないと道は開けないですし、それを続けてきたのが「FFXIV」チームでもあるので、どうぞ引き続きお付き合いいただけますと嬉しいです。
規模が拡大しているので、「新生」の頃の挑戦とは次元が違うレベルで難しいですが、今回の「7.0」は、まさにそれに取り組んだ拡張になっています。だから、もしかしたら粗さも見えるかもしれません。でも僕は既定路線というか、先ほどお話ししたように、保守的にいくよりは前のめりに、またみなさんと楽しく「FFXIV」を育てていきたいと思っています。
これからたくさんの新規プレイヤーの方をお迎えするためにも、みなさんにも「最終的にめちゃ良くなったね!」と言っていただくためにも、リスクがあったとしても、思い切ってグラフィックスもアップデートもしていこうと思います。新しいグラフィックスが生活としてなじんでいくと、スクリーンショットももっともっと楽しくなるだろうし、演出の表現も増えます。だからこそリスクがあってもやらなくてはいけないんだ、ということがいろんな所に詰まっている拡張になりました。
夏休みのタイミング直前くらいにリリースできるので、肩の力を抜いて、思い切って遊んでいただけると嬉しいです。その先に「へー、こんな話の持っていき方もあるんだ」とか、「こんなレイドギミックがあるんだな」とか、こんなテイストも「FFXIV」にはあるんだとか、そういうところを楽しんでいただけると幸いです。ハイデリン&ゾディアーク編の後半のテンションとは、また違ったテンションがたくさん見えてくるとおもいますので、ぜひいろんな方面で楽しんでいただけると嬉しいです。
誰よりも「FFXIV」が好きで、「FFXIV」をプレイしてくださっている皆さんのことが我々は大好きなので、だからこそ今回の拡張では「FFXIV」がもう一段、もう二段上にいくために、ちょっと背伸びもして頑張りましたので、どうぞよろしくお願いします!
――ありがとうございました。
(c)SQUARE ENIX
IMAGE ILLUSTRATION (c)YOSHITAKA AMANO