インタビュー

祝LFS 池袋オープン! サードウェーブ常務取締役榎本一郎氏インタビュー

「足るために、知るための施設」 eスポーツ事業のキーマンにその狙いを聞く

【LFS 池袋 esports Arena】

4月15日正式オープン

東京都豊島区東池袋1-43-6 D-BOX 地下1階

 eスポーツファン待望となるeスポーツ施設「LFS 池袋 esports Arena」が4月15日にいよいよ正式オープンとなる。3月30日の「PJSαリーグ PHASE2 DAY6 ROUND7」(参考記事)を皮切りに、本日12日はメディア向けの内覧会、14日には東京大学、慶応大学、東京工科大学の3大学共催による「新歓LoLフェス」が開かれるなど、正式オープン前から歓迎ムードだ。

 最大100台のハイエンドゲーミングPCで、気軽にeスポーツが楽しめる施設。こうした施設は、eスポーツが発展しているヨーロッパやアジアでは比較的ポピュラーな存在だが、日本ではまだ極めて限られた存在だ。しかも、この施設を、ネットカフェ事業者やアミューズメント関連の業者ではなく、サードウェーブというPCメーカーが行なっているのがユニークなところだ。

 今回はその仕掛け人であるサードウェーブ常務取締役の榎本一郎氏に、同社のeスポーツのビジョンと、新規事業となるLFS 池袋について話を伺った。

PCのセールスからeスポーツへ。榎本氏サードウェーブ入社の経緯

サードウェーブ常務取締役榎本一郎氏
サードウェーブでeスポーツを推進する主要メンバー。中央がサードウェーブ代表取締役社長の尾崎健介氏。左がGALLERIA GAMEMASTER CUP実行委員長としてもお馴染みの大浦豊弘氏、右が海外交渉を担当している顧問の早船淳司氏

――この度、榎本さんがサードウェーブの常務取締役に就任し、eスポーツを担当されるということで、今年サードウェーブさんがどういったeスポーツ事業を展開していくのか、またその中核となる「LFS 池袋 eSports Arena」とはどのような施設なのかを中心に話を伺いたいと思っています。その前にまずは、榎本さんはこれまでどのようなビジネスを行なってきたのか、どのような経緯でサードウェーブに入り、かつeスポーツを担当することになったのか、そのあたりからお話をお伺いできますか?

榎本氏: ざっくばらんに話していいですか。あんまり言うといろんな人に後で怒られるけど(笑)。私はIBM、レノボ、デル、Acerと基本的には外資系のPCメーカー、「あとHPさんに行けば榎本さんもフルコースですね(笑)」と業界の中で言われていて、ともかくそういったメーカーで営業を担当してきました。でも、Acerを辞める時にグローバルの中でPC事業そのもののエコシステムがもう本当に終わったなと思ったんです。

――なぜそう思ったんですか?

榎本氏: 今から5年位前ですか。MicrosoftさんがSurfaceを本気で始めた。GoogleさんもNexusなどのタブレットを作るようになってきました。それまでPC業界は、インテルさんやMicrosoftさんとタッグを組み、PCベンダーとの間で、1つの棲み分けができていました。彼らがOSやアーキテクチャを提供して、PCベンダーはより良い使い方の提案として様々なハードの形があって、ハードが売れた分だけ、マーケティングのファンドを様々な形でご支援いただいて、それをまた宣伝費に利用するなど、様々な形でユーザーのための仕組みができあがっていました。

 そうした中で、ソフトハウス、あるいはOSベンダーが直接ハードを出すということで、「あれ? PCメーカーの立ち位置って何だっけな」と。

 この新しいエコシステムの中では、通常のPCベンダーは太刀打ちできないと思ったんです。これからはマイクロソフトさん対Googleさんとか、アマゾンさん対何々とか、もしかしたらモビリティー、クラウド、それからデータ。ここに関わった仕事をする人たちだけが生き残る業界になるのかもしれないと。IT業界は、そう変わっていくのかなと思って……もういよいよ、ハード卒業だなと思ったんです。

 「ただ安い箱を作るのではない」……と言う事をDOS/V PCを作った先輩達から叩き込まれて育ってきた側から見ると、コモディティになり、安いという理由で大量に売れるものが、PC業界の真ん中にある。そのことが、本当に私的に面白いのか、少し疑問に感じました。自分のやりがいは違うところにあるのではないかと思い、データやサービスの分野に転身したんです。

 縁あって、尾崎(サードウェーブ代表取締役社長尾崎健介氏)が、Acer時代からずっとラブコールをくれていました。私は、サードウェーブが展開しているBTOは最も好きな事業なんです。サードウェーブはハードベンダーでもあるし、エンドユーザーとの交流もしており、直接繋がっているパートナーでもある。すごく近しいところに立ち位置を持っている会社でした。PC事業そのものに対して、「もうこれは違うのではないか……」と思いかけていた時にも、尾崎からアプローチを受けていました。でも、外から応援はするけれど、中に入り込んでというのはあまり考えておらず、「ずっと距離をおきながら仲良くしていたい」というのが本音だったんです。

 プラスワンでは、多くの方たちに迷惑をかけて、楽天への事業売却のスキームが終わったら、責任を果たした上で、もう引退しようと思っていました。そんなことを尾崎に告げに行ったら、「いよいよ私にお鉢が回ってきましたね」というわけですよ。「いつでもいいから来て欲しい」と。

 そこで初めて尾崎から計画を聞かされたんです。「うちもハードや小売りだけではないです。大きな柱の1つとしてeスポーツを育てたいと思っているんです」と。3時間位の会話の中で、2時間位はeスポーツの話でした(笑)。

 尾崎からeスポーツ事業への取り組み、熱意、投資プランなどを聞かされました。その中で私が1番フックしたのは、「新しいエコシステムを作りたい」という部分です。「ハードベンダーとしていろいろやってきたけれど、eスポーツは文化事業になる。でも慈善事業ではないのでただの投資ではない」と。

 「我々はハードを作っていて、特にゲームに特化して売ってきた。長くやってきたので一日の長がある。しかし、まだeスポーツ=GALLERIA GAMEMASTERにはなっていない。もしそういう建て付けが上手くでき上がるようになったら、次のステージはユーザーエクスペリエンスの仕組みを考えたい。お客様が楽しめる場、『やって楽しい、見て楽しい、教えて楽しい』といった、コミュニティの場が欲しい。プロチームやイベント企画会社にも声をかけて、様々な取組を考えていきたい」と言うんですね。

――サードウェーブが今後eスポーツに本格的に取り組むであろうというのは、昨年、尾崎さんを取材していて強く感じてました。

榎本氏: 尾崎は言います。「会社の利益の半分以上を投資し、数年かけてやろうと思っている。最初は先行投資かもしれないが、裾野が広がり、楽しんでもらえるお客様に、正しくeスポーツを理解していただき、日本の中でeスポーツが根付いたものになってくれればいい。全員ではなくても、その取り組みの中からサードウェーブやGALLERIA GAMEMASTERを知って、その何パーセントか購入に結びついてくれれば、ヘタなマーケティングをするよりよっぽど効果がある。普段遊んでいるマシンが「この値段なら買ってみよう」と。そのような形でうちの製品購入につながってくれたらたらいい。そしてその利益をプールするのではなく利用する。それは更なるスペースの提供、あるいは新たな施設の開設、大会やイベントの企画運営であったり、賞金の出る大会の開催や、eスポーツ団体への支援だったり。

 単なる慈善事業はいけない。全部ビジネスライクでもよくない。中間くらいで、新しい文化の中でエコシステムができ上がってきたら、その中の一部でいいからサードウェーブという形で参画できたら、こんな素晴らしいことはないと思っています。これが1つの波になれば、我々サードウェーブの新たな立ち位置が明確になってくるんです」と。それを聞いて私は「いやあ、なんて途方もないことを言うんだろう」と思ったんです。本当にできそうもないですよね。客観的に考えて(笑)。しかしその後、尾崎が言っていた、「eスポーツが、こうなっていくといいな」……と言っていたことが現実になってきました。

松野氏との思い出を語る榎本氏
2012年の秋葉原PCゲームフェスタで開幕の挨拶をする元サードウェーブ取締役社長 松野康雄氏

――榎本さんは、これまで“もの”を売ったり、サービスを提供したりということをやってきた訳ですが、eスポーツは文化事業でありエンターテイメントですよね。ハッキリ言ってしまうと畑違いのお仕事になると思うのですが、なぜこの仕事を受けようと思ったんですか? もちろん断ることもできたわけですよね。

榎本氏: もちろんそうです。普通断りますよね。やはり得意分野の仕事を続けると言うのが普通のシナリオだと思います。ただ、私がIBM時代の先輩で尊敬している人が数名いるのですが、そのうちの1人が、この会社で工場の責任者をやっていた松野さん(元サードウェーブ取締役社長 松野康雄氏)という方です。松野さんは亡くなるまで、サードウェーブの仕事をしていました。そしてその頃、何かの折に触れて、「あの尾崎と言うのは面白いぞ」と。

 「尾崎はいい男だ」、「いい男だ」と繰り返し聞かされてきたので、どこかで関わりたいなと言う気持ちが少し本能的にありました。私が尊敬している大先輩が、俺以外にそんなにかわいいと言う人がいるのかと思って。半分は嫉妬心もあった……というのが1つです。

 それから、確かに畑違いですが、これは1人ではできない仕事だなと思いましたね。個人的にもそうだし、このサードウェーブという会社だけではできない。パートナーを巻き込むとか、一緒にこの業界を作ってくれる仲間が必要です。eスポーツは文化事業と頭ではわかっていますが、ある意味ではセールスです。エンドユーザーに理解してもらうセールスであったり、協会の人に正しくエンドユーザーの声を届けるセールスであったり。

 セールスと言うとしゃべることが本分だと思っている人が多くいますが、しゃべるだけがセールスではないんです。30年も営業をしていると、私の最も得意な事は「人の話を聴くこと」なんです。「この人はこんなことを望んでいる」、そういうことを人よりも早く正確に把握する。「ああ、これを求めているんだ、この人は」と。それが与えられるものだったらその場でコミットします。そうでなければ、持ち帰って考えます。営業とは、お客様からニーズを聴いて、それを商品化し、製品化できないものはサービスとして提供し買っていただく、そう思っています。たくさん売れると思われるものを、お客様からどうにかして聞き出してくる事、それが1番セールスとしての大事な仕事だと思っているので、これは私の能力が使えると。

 今はeスポーツに関して、様々なことを様々な人が言います。メディアの方や協会の方、会った人の数だけ違うことを言いますね。最終的には同じかもしれませんが、違う言い方をします。たとえば、プロゲーマーの呼び方ひとつでも、協会の人は「プロeスポーツプレーヤー」。でもゲームをしている人たちは、「プロゲーマーと呼んでほしい」と言います。そのプロゲーマーの人たちも、会う人会う人違うことを言いますね。協会のありかた、大会のありかたに対してもそうですし、eスポーツという言葉自体に対する意見や定義なども、人それぞれです。

 様々な意見がありますが、皆が望んでいるのは、好きなことをやって、それで本当に対価がもらえて生活ができることです。そうなればみんなハッピーですよね。今はそれだけではでメシが食えないから、違うことをしたり、途中で辞めざるを得なかったりしています。ですから、我々はプロゲーマーに本質的なところを聞いて、それを協会に届けたり、メーカーとしてはハードに反映したり、スポーツ施設を作ったり。やるべき事は1つではありません。

 そして、それを始めてもどんどんブラッシュアップしなければいけない。時代とともにプレイするゲームも変わるかもしれない。だからなおさら尾崎やそれ以外のメンバーに言うんですが、「これ、信念を持ってやらないと、たちまち崩れるよ」と。

 ちょっと語弊があるかもしれませんが、「協会のための業界」なんてないんですよ。もちろん「メーカーのための業界」でもない。結局誰のためになければいけないかというと、「ユーザーのため」なんです。楽しむ、使う、遊ぶ、なんでもいいです。ユーザー視点に立った時に、その声が正しいのか正しくないのかをジャッジしながら、様々な方にそれを伝えて、「そうだよね」という仲間を増やしていったらいい。唯一、私がゲーマーの声を聞かないとすると、「この人たちの言うとおりにやるとエコシステムが作れない」という場合だけです。

 少し話を戻すと、私は聴く能力は高いと思っているので、それを活かし、新しいエコシステムを、正しいと思われる声を正しく聴いて、正しく伝える。そして仲間を増やし、それをムーブメントにして、大きくしていきたいなと思っています。その「正しい」の基本は「ユーザーが何を望んでいるか」です。

 転がして大きくなる雪だるまは、芯がしっかりしていると思います。これが転がるたびに大きくなり、仲間を増やし、ものすごいパワーや大きさにしてくのが大事です。芯の部分が弱いと、転がる中で崩れていったり、芯が割れて半分になったり、結果的に望んでいる形にはならない。中心がしっかりしていたら、たぶん時間はかかっても上手く転がるし、ちゃんとわかる人たちがくっついてきて、大きくなっていくんだなと思っています。ちょうど今、芯ができるところです。協会も1つになりましたから。

――榎本さん自身はゲーム経験はあるんですか?

榎本氏:ありますよ。任天堂のファミリーコンピュータぐらいですが(笑)。ソフトも多数もっていました。個人的にはコンソールゲームを楽しみながら、その一方でPCの世界にずっと身を置いていました。今からやろうとしていることは、その合体版ではないですが(笑)、PCゲームでグローバルに、eスポーツをどう盛り上げていくべきかを考えること。

 eスポーツがオリンピックゲームになるのであれば、日本人が作ったゲームで日本人が世界チャンピオンになるというのは、全然夢ではないと思っています。そういう世界ができ上がる方向になったら面白いなと。将来的にはそこで世界チャンピオンになった人が、「私は昔、池袋にできたLFSで、最初にeスポーツに触れたんですよ」なんて言ってくれるような未来になればいいなと思っています。

「LFS 池袋 esports Arena」設立経緯

榎本氏が4月3日に発表したGALLERIA GAMEMASTERの春モデル
LFS 池袋にはこの最新モデルが導入される

――そのLFSについてですが、これはサードウェーブのeスポーツ事業の中でどういうポジショニングの施設になるんでしょうか?

榎本氏:池袋に作るのは、今流行っている「PUBG」がオフラインで遊べることを想定しています。とにかく100人くらいが同じゲームに同時に参加し、ワーっと遊べる施設です。もちろん、ゲームは「PUBG」に限らず、あらゆるコンテンツが対象です。

規模としては最大100人が同時に遊べて、海外との試合で100人対100人も可能。「100という括りで、100席同時に同じようなゲームが楽しめる……そんなものが作れないかな?」という尾崎のオーダーを形にしました。

――LFSも尾崎さんの発案なんですね。

榎本氏: そうです。尾崎の発案で、「よし、本気で作ろう」と。途中いろいろありましたが、ようやく完成しました。ただ、420平米くらいですから、ゆったりとはいかず、常時100人というわけではありません。10対10で対戦できる防音設備のあるステージも作り、その試合を大スクリーンで見ることができ、配信設備、音響の管理室などを全部加えると、ゆったり遊ぶには60人くらいが1番適正なのかな、というところです。もちろんPCはGALLERIAのハイスペック機を並べます。本音で言うと、そのままGALLERIAの商売に繋げたいんですが(笑)。そこはあえて商売っ気は出さないでというのを、私からみんなに伝達しました。

【LFS 池袋 esports Arena】
3月30日にプレイベントとして実施された「PUBG JAPAN SERIES αリーグ Phase2」の時の様子。実際にはここまで密度は高めず、4人掛けのテーブルも別のものとなる

――常設で最大100人、ステージ込みで60席というのは日本最大規模になると思います、これはどこかの会社に運営を委託するのではなく、全部自前でやるんですか?

榎本氏: 全部自分たちです。そのために、イベント企画会社を事業譲渡を受けて設立しました。新会社にふたつの事業部を作ります。1つはインフラ設備、店長的にマネジメントする店舗運営、もう1つは他社も含めてイベント企画でここを使いたいという場合、快適に大会運営ができるようにするという運営部分。これを両方あわせて、1つの会社で運営していきます。

――その新会社の名前は?

榎本氏: E5 esports Works(イーファイブ イースポーツ ワークス)です。

――ずいぶんストレートな名前ですね(笑)。

榎本氏: はい、ストレートです。私は少なくとも社名にeスポーツというのを入れてほしいと言ったんです。何故かというと、会社の説明をするときに、「eスポーツをやる会社です」と明確に言えるようにしたかったからです。

――E5 esports Worksには、サードウェーブから何人か入る形になるんですか?

榎本氏: そこはまだ検討中です。

――eスポーツ事業における現場のトップである大浦さんは行かれるんですか?

榎本氏: 大浦はどちらかというと、それを外部からコントロールする立場です。大浦が入ったらそれを楽しんでやっちゃうでしょ? そんな楽をさせるのもなあと(笑)。大浦はコンシューマ全体をやって欲しいと思っています。

――なるほど、大浦さんはeスポーツだけでなく、ゲーミングPC「GALLERIA GAMEMASTER」の事業展開も含めてPCゲーミング事業全体を見るということですか。

榎本氏: 製品もあるし、うちがコンシューマにリーチするものも多々あります。大浦の部署には、コンシューマ全体のマーケティングをしてもらいたいと思っています。もちろんeスポーツもその中の1つです。ですから、どうしてもやりたいと言ったら給料下げて行かせます……、それは冗談ですが(笑)。サードウェーブ側から、このスペースをどう使うか、何をやるのかというのを、内側で考えてもらいたいんです。

E5 esports Works代表取締役社長に就任する長縄実氏。ずっと日本のeスポーツシーンを支え続けている人物だが、極端に表に出たがらず、この写真は2007年の「BIGLAN Socket6」(参考記事)のもの
長縄氏の右腕で、eスポーツキャスターとしてお馴染みのOooDa氏も所属する

――サードウェーブさんから誰も入らないとしたら、マネジメントの人間はそれなりの人間を当てないと、納得感がないというか、2017年から本腰を入れて取り組んでいるeスポーツ事業の事業としての連続性がなくなってしまいませんか?

榎本氏: 新会社は「成」という、元々イベント運営会社です。そこの代表の長縄氏に運営をお願いします。彼はGALLERIA GAMEMASTER CUPをはじめ、様々なeスポーツイベント運営をしてきた人物です。スタッフは、そこの社員と、スポーツ施設運営とか、そういったことに携わった経験がある者を外部から招聘します。この事業に4人くらい。さらに4人ぐらいコミュニティ周りのイベントを企画運営してきた人たちをE5 esports Worksに集めて入ってもらう感じです。計8人ぐらい新しく入ります。

 店舗運営に約12人。ここにはドスパラのノウハウも活かせると思っています。当社の店舗経験者や、ネットカフェ事業の経験者なども外から集める予定です。さらに、プロゲーマーの方々の練習の場にもする予定です。この店の運営側には、プロゲームチームの「Rascal Jester」のメンバーの方々に入っていただいて、その練習風景も見せるようにしてもいいと思っています。

――お店の正式名称は何ですか?

榎本氏: 「LFS 池袋」、LFSは「Looking for Squad」の略で、それを「ルフス」と読み、正式名称は「LFS池袋esports Arena(ルフス イースポーツ アリーナ」です。

――あえて池袋を付けているということは、LFS新宿や、LFSなんばみたいな展開も考えているということですか?

榎本氏: そこを目指しています。

――オープンはいつからですか?

大浦氏: プレイベントが3月31日。4月12日が内覧会、4月15日が正式オープンの予定です。

――プレイベントからすぐオープンではないんですね。

榎本氏: 中村さんだから正直に言いますが(笑)、これまで色々あったんです。最初の困難は、100人同時プレイという部分でした。実際に100人で同時にゲームをするとなると、熱気が凄くてエアコン設備が今のままでは足りないことがわかりました。そして全部取り替えなくてはいけなくなり、それを全部取り替えると、今度はもともと入っている電気工事を全部やり直さないといけなくなりました。かなり大わらわになったんです(笑)。他にも色々と手をいれたい部分が増えてきて(笑)。

――先ほどドスパラの店長経験者が店舗運営に入るというお話でしたが、ドスパラ色は一切出さないのですか?  例えばここでPCを買うってことはできない?

榎本氏: できません。もし将来的にユーザーが、eスポーツを初めてやったマシンがいいと思ってくださったり、プロの人たちがゲームをしているのを見たりして、「これが欲しい、この場で欲しい」と言われたら考えますけどね。敢えて仰々しいマシンの宣伝なども、ここではしません。あまりそれをやり過ぎて、これを売るための施設だと思われたくないんです。ここはプレイするための施設です。

――では、現在秋葉原にあるGALLERIAのアンテナショップとはまた性格の異なる施設なんですね。

榎本氏: 違いますね。どちらかと言うと、あくまでeスポーツの体験施設です。

――施設の利用料金はどうなりますか?

榎本氏: 目安としては、3時間で1,000円くらいを考えています。ただ、誰もまだ、私にPLを持ってこないんですよ(笑)。「3時間で1,000円くらい」と皆が言うから、私は記者さんに聞かれるとそう答えています。でも今、一回もここのPL見たことがないなあと思っています(笑)。

――ちなみに3時間で1,000円と言うのはどう言う算定方法なんですか?

大浦氏: 基本的にはeスポーツをするならここに来て欲しい。というところで、他よりも高くしたら意味がないということです。

――ネカフェで遊ぼうかと言う流れになったときに、「だったらLFSに行かない?」という展開にしたいということですね。

大浦氏: そうですね。PCゲームをやるんだったらこっちにきてほしいなと。前からずっと言っていた「裾野を広げる」と言うところで、そのためのアクティビティとして捉えています。

――24時間365日営業とおっしゃっていましたが、これで利益が出るスキームになっているんですか?

榎本氏: 多分、出ないですね(笑)。会社は本当に、私に責任取らせようとしてますよね(笑)。

――とはいえ、榎本さんは、色々な事業を立ち上げてきた人間です。これをどう最終的に帳尻を合わせて行こうと考えていますか?

榎本氏: 最終的にはeスポーツのすそ野が広がり、多くの人が自分の家でもやりたいと感じてくれる。「PCゲームをどうせやるなら、GALLERIAがいいよ」と周りが言ってくれる、あるいは自分もそう思う。話を聞いたからLFSでちょっと体験してみる……。やはり広い意味ではショールームになりますね。だから、ここだけの単体の売上、3時間で1,000円ということよりも、ここをeスポーツのとっかかりにしてもらい、慣れ親しんでもらう。自分で購入したり、自分が買わなくても友達に「GALLERIAいいよ」と言ってくれて、その友達が結果、当社のPCを買ってくれたらいいなと考えています。

「PJSαリーグ」でも活躍していたRascal Jester「PUBG」部門のメンバー

――Rascal Jesterの選手が常駐しているということですが、彼はスタッフとしているんですか? それともゲストのような存在ですか?

榎本氏: 基本スタッフで、予定しています。

――それはE5 esports Worksの社員になるのですか?

榎本氏: 社員になってもらうか、外部委託にするのかまだ決めていません。一緒に頑張ってやってもらおうと考えています。

――LFSに行けば、選手に会えるし、あるいは一緒にSQUADを組んで遊べたりするのですか?

榎本氏: そうですね。まだそこを細かく詰めていませんが、彼らも練習できる環境が必要なので、そういう意味ではいいし、たまに模範演技じゃないけど、デモンストレーションなどしてもらえたらなと。

大浦氏: その点についてはRascal Jesterの大川氏と詰めている段階です。教えるというところまで行くと、また別の話になってしまうのですが、あくまで公開練習ということで、身近にプロのプレイを見られる……というようなそういうことができないかなと、今詰めているところです。

榎本氏: まだわかりませんね。あまり最初から色を付けたくありません。例えばLFSを、「GALLERIA GAMEMASTERのためにやっている」、「Rascal Jesterのためにこれを作った」、みたいに紐づきすぎてしまうと、排他的になってしまいますよね。「俺はサードウェーブ嫌いだから行きたくないよ」とか、「特定のチームカラーが出るのであれば、あそこには行きたくないし、大会にも参加したくない」、みたいにはしたくないんです。

――なるほど。では改めてこのLFSの本義というか、やりたいことをシンプルに教えていただけますか?

榎本氏: 「ユーザーに気軽に、eスポーツに親しんでもらう場所」。定義はそれだけです。

――日本にはeスポーツがまだカルチャーとして根付いていません。ただゲーミングPCがポンとあって、それでeスポーツを楽しんで下さいと言われても、何がeスポーツなのかわからない人もいると思うんです。そういう人をどのように導いていく計画ですか?

榎本氏: 計画というか、この施設には様々な目的を持たせています。1つは、仲間とローカルで会って一緒にゲームを楽しむ場所です。それから、「eスポーツって聞いたことはあるけど、よくわからないよね」という人は、ここに来て遊んでいる人のプレイを見ることができます。それで友達を作ってこの場で教えてもらうこともできる。仲間を作り、気軽に親しんでもらう場所でありたいと思っています。

 私の大きな夢は、eスポーツにポジティブなイメージをもっていただくこと。何となくPCゲームをしているとか、ネットカフェやゲームセンターといった場所は、一般的にあまりポジティブなイメージがないですよね。でもLFSでは、「今日どこいくの?」と親御さんが聞いたとき、「LFS 池袋」、「それなら安心ね」と思ってもらえる場所にしたいです。どうせPCゲームをするなら、「あそこだったら安心」、みたいな。

――ちなみにここで飲食はできますか?

榎本氏: 持ち込みは禁止です。アルコールの問題とか、チェックしなければいけない部分があるので、原則持ち込み禁止です。施設内のソフトドリンクの自販機をご利用ください。

――なるほど、ネットカフェの延長線上にある施設ではないですね。全く新しいeスポーツ施設ということなんですね。

榎本氏: 水分は取らないといけないのでそこだけ自販機でカバーします。

――ちょっと意地悪な質問になりますが、LFS 池袋を、なぜサードウェーブがやるのだろうと思う人もいると思います。ひょっとしたらサードウェーブの社内にも思っている人がいるかもしれません。その理由は何でしょうか?

榎本氏: そんなに感じますか? 私はいつも事業をする時に他の部門にも言っていますが、「3つ考えなさい」と。「サードウェーブにしかできないこと」、「サードウェーブだからできること」、「サードウェーブだけでやっちゃいけないこと」。この3つを正しく理解しながら、だからこれは「今だったらうちがやる価値がある」と。実はこの件について尾崎は、多くの関係者に話したらしいです。「こういう施設があったら、もっとユーザーが楽しめると考えているんですが、どう思いますか?」と。

 常設の設備があったら常に最新のPCを提供できるし、イベントでも使える。逆に言えば、PCゲームをハイスペックで楽しみたいユーザーのためにもなるのに、なぜ誰も真剣に作らないんだろうと思ったんです。それで最初は、「こういう施設を作るのであれば、ハードはうちが提供しますよ」とか、「お貸しできますよ」と言って周っていたんですが、何となく話は盛り上がるけど最終的にGOにならない。

 だったら、ハードはあるし、お金も全然ないわけでもない。そういうことをやりたいといってくれる人もいるので、自分たちで作ることにしたんです。1人だけじゃできないけれど、例えばRascal Jesterとか色々仲間が集まって、「これは自分たちで絶対できるな」と思ったんです。

――土日の週末や祭日はイベント開催やそもそも会社や学校が休みなので「遊びに行こうぜという流れを作りやすいですが、平日や深夜はどういう風に回すんですか?

榎本氏: これはメディアの方の力にも頼る部分があります(笑)。「こういうの作りました!」でパッと広まり、最初のうちは「知る人ぞ知る」かもしれませんが、そのうちに「今日ちょっと行かない?」とSNSで仲間に声をかけ、会社や学校帰りに皆で集まって楽しむ。それが少し話題になって、また広がって……というサイクルを作りたいですね。

――そこまで盛り上がってくれるといいですね。

榎本氏: そうですね。2号店以降の作り方のヒントは、そのあたり、皆さんの行動から色々と出てくるのでは……と思っています。まだ今はわからないですが、今後課題や新しいアイディアが多数出てくるでしょうね。

――イベント開催についてですが、具体的な計画はありますか?

榎本氏: そのあたりはまさにこれからです。日曜だけイベントを実施するとなった場合、土曜日にリハーサルが必要で、土日が使えなくなる。それだけでもかなりの制約ですよね。

――ステージを使って大会イベントを開催する場合、いくらぐらいで実施できるのですか?

大浦氏: 今まさに値段設定しているところです。基本的には、通常の会場貸しを参考にしながら、ほぼ一緒くらいにしようと考えています。「e-sports SQUARE AKIHABARA」さんは参考にさせて貰っています。

――ただ、「e-sports SQUARE AKIHABARA」さんよりもデカいですよね?

大浦氏: 大きいです。そこら辺を見合った形で若干高めになりますが、最大100台使えるという規模としては、非常にリーズナブルな金額だなと思ってもらえるような金額設定にしようと思っています。

【e-sports SQUARE AKIHABARA】
eスポーツファンにはお馴染みの「e-sports SQUARE AKIHABARA」。大きなステージ、モニターを備え、ゲーム大会やパブリックビューイングなど様々なゲームイベントが行なわれている。写真は2017年11月に行なわれたロジクールイベント(参考記事)のもの

――今は遊ぶだけでなく、ゲーム配信を楽しんだり、自身で配信したりする時代ですが、このLFSからゲーム配信も行なえるのですか?

大浦氏: 正直な所、そこまでまだ詰めていませんでした。確かにそういった議論も社内で出始めていますが、現時点では個人でというよりも、コミュニティ単位とか、グループ単位で、お貸し出しする際に「配信もできますよ」、といった形にしようかなと思っています。

――施設設計に当たっては、昨年GALLERIA GAMEMASTER CUPで協業したBenQさんが中国で展開している「B5 Gaming Cafe」は参考にしたんですか?

大浦氏: 参考にしました。実際その、100台のPCを入れているということ、ステージ、あと、試合をする選手の席を結構本格的に作っていて、ガラス張りの防音仕様の設備になっています。

――それはまさにB5 Gaming Cafeと同じ作りですね。あんな感じで5対5で対戦できる作りになっているんですか?

大浦氏: そうです。LFSは最大、10席10席入るようになっています。ベースはB5をかなり参考にさせていただいています。

――PCはGALLERIAということですが、モニターはどのメーカーですか?

大浦氏: モニターに関してはBenQさんのかなりいいモデルを入れています。

――ゲーミングギアに関してはどうですか?

大浦氏: 基本的には、我々のキーボードとマウスを使う形になると思います。

――ギアの持ち込みは可能ですか?

大浦氏: そこは今、検討中ですね。基本的には可能にしようとしています。

【B5 Gaming Cafe】
2017年7月に取材で訪れた中国上海にあるB5 Gaming Cafe(参考記事)。BenQ Chinaが運営しており、最新のZOWIEモニターでeスポーツやeスポーツイベントが楽しめる

第2回「GALLERIA GAMEMASTER CUP」について

――私がLFSと並んで伺いたかったのは、「GALLERIA GAMEMASTER CUP」についてです。昨年、eスポーツ大会をホストするというPCメーカーとしては珍しい事をやりましたけれども、今年どうなるのか。そこは我々ゲームファンだけでなく、eスポーツアスリートの皆さんや業界関係者も、みんな気になってる所だと思います。

大浦氏: 今まさにタイトルをどうするのかということも含めて、全体の計画を再度練り直し中です。基本的にはLFSを上手く絡めていきながら実施していく形になると思います。

【第1回「GALLERIA GAMEMASTER CUP」】

――第2回大会は、LFS 池袋での開催になりますか?

大浦氏: LFSを上手く活用していきたいというのは、大前提としてあります。去年は、いきなりそういう大会を立ち上げて、ポーンと実施しましたが、できれば前段階のコミュニティイベントみたいなことも含めて、関心を持ってくれるコミュニティを増やしていきながら、大会に繋げていくというような流れを作れればいいなと考えています。

――予選もオンラインに限定せず、地方予選なども実施するようなイメージですか?

大浦氏: ゆくゆくは、そこまで持っていきたいとは思いますが、いきなりはそこまでいかないと思います。まずはLFSを最大限に活用するというところで考えていきたいなと。ゆくゆくはそういった形で、全国各地でネットワークが繋がればいいですけど、それはもう少し先になりそうですね。

――実施時期についてはどのように考えていますか?

大浦氏: 今の所、第2回を開く前提で考えていますが、開催時期や発表する時期は、まだ調整中という段階です。

――競技種目についてはどのような計画ですか?

大浦氏: そこも調整中です。

【第1回の競技種目】
「フィギュアヘッズ」はサービス終了が発表され、「World of Tanks」は公式リーグWargaming.net Leagueが休止中でリーグが機能していない。「Counter-Strike: Global Offensive」以外は、すべて種目が変わる可能性がありそうだ

――開催規模については?

大浦氏: 規模に関しては、昨年と同じくらいの規模を前提として考えて行きたいなと。

――第1回大会で、ひとつ話題になったのは、賞金額です。今年は当たり前になってくるかもしれませんが、昨年国内で開かれたeスポーツ大会としては最大規模で、驚かれました。今年はどのように考えていますか?

大浦氏: そこも含めて検討しているところで。総額500万円を設定したのは去年のあのタイミングだったので、非常に業界的にも注目を集めました。今回、もう1回コンセプトというか、我々の主軸をどこに置くのかについて見直している段階です。

 賞金が、本当に今後のeスポーツを発展させるのに重要なのかも踏まえた上で、考えて行きたいと思います。基本的には、みなさんをがっかりさせる方向性にはしたくないですけどね。

――第1回大会の「CS:GO」部門は、BenQ主催のアジア大会eXTREMESLANDの日本予選という位置づけでした。この点についてはどうなりますか?

大浦氏: そこについては今年も継続するつもりです。「世界の登竜門になる」という基本コンセプトはブレないようにしたいと思っています。そこを含めて今、全体を構成している最中です。

【eXTREMESLAND】
2017年10月に中国上海で開かれた「ZOWIE eXTREMESLAND CS:GO ASIA OPEN 2017」。GAME Watchでは、日本代表として出場したSCARZ Absoluteの奮闘を4日間に渡って密着レポートした(関連記事その1その2その3その4

――正式発表はいつぐらいを予定していますか?

大浦氏: 6月もしくは7月ぐらいを予定しています。まずはLFSを立ち上げてみて、これを使った形でどのように大会まで持って行くかというのを整理したいと考えています。

――では、LFSオープン後に、すぐ第2回予選、本戦というふうには行かなそうですね。第2回開催までに、どのような形でこのLFSを盛り上げようと考えていますか?

大浦氏: 現時点では、まだはっきりしたことが言えませんが、できればコミュニティイベントみたいなものをうまくこの場所で開催していって、少しでも参加の人数を増やしていくであるとか、関心を示してくれる視聴者の方を増やすだとか、といったものは地道にやって行ければいいなと思っています。

LFS 池袋は「足るために、知るための施設」

ドスパラ札幌店。ドスパラがある大都市にはLFSがオープンする可能性があるようだ
GALLERIAはJeSUになってもオフィシャルスポンサーを継続する

――榎本さんはeスポーツ業界に携わってみて、今どのような印象を持たれてますか?

榎本氏: 何だろうな、ワクワクが1番かな。どういう感想ですかって言われたら難しい。だけど、その分楽しみもすごく多い。真面目に聞かれるとちょっと暗くなっちゃう(笑)。

――ちょっと不安もあるような、まだナーバスになっているところがあるようですね。

榎本氏: 不安というか、責任というか。取材の最後にお願いするんですが、メディアの皆さんのご協力をよろしくお願いいたします……って感じですね。「おもしろい」、「新しい」、「こういうスポーツの施設ができました」、みたいなところで、明るくマーケティングしてもらいたいなというのは、ちょっとありますよね。

――少し気が早いですが、2店舗目以降の計画について教えて下さい。

榎本氏: まだ、場所は決まっていませんが、探しているところです。イメージとして東名阪、福岡、札幌といったドスパラの店もあるような地域がターゲットです。そこで遊んでみて、いいなと思ったら、買える場所がすぐ側にもあるし。もちろんネットでも買える。そういう所には建てたいなって思っていますね。

――ドスパラがある都市にはどんどん作っていくようなイメージですか。

榎本氏: 尾崎が言ったように、仲間と一緒にやりたいわけです。うちがうまくいったら、例えば既存のネットカフェさんもやりたいと言ってくれるかもしれない。そういったときにフランチャイズじゃないですけど、広げられるようにするためのプログラムも作っているところです。

――フランチャイズですか。

榎本氏: PC貸し出しプログラムや、1、2年のレンタルで、こういうパッケージで、こういう運営だったら、絶対、人が入りますよというようなフランチャイズの展開もあるなと思ったんです。1社でできることは、限られています。だからそういうのは、仲間と一緒に作れればいいなと思っています。

――おっしゃるように、今新たにJeSUという新たなeスポーツの団体ができましたけども、JeSUとの付き合い方をどのように考えてますか。

榎本氏: もともとJeSPA(一般社団法人 日本eスポーツ協会)の時に、我々は公式PCという扱いでした。JeSUにおいても、同じような立ち位置で、協会とは協力しあいたいと考えています。ですので、JeSUもいろんな形で応援して下さいと。それがどういうプログラムになるかはわかりませんが、そういうのも含めてお互い協力しあってやりましょうと。我々がお返しできるのは、良い大会を運営したり、協会やユーザーを繋ぐような、面白い建て付けを用意することです。

 今、様々な立場で様々な意見を聴きます。どうしたらみんなで仲良く、1つの方向で、いい形を作れるかを模索しているところがあるので、うちの立ち位置からもビジビリティを上げていきたいと思っています。

 こういった話しをすると、受け止めた記者さんの中には、「サードウェーブでこんなことできるの?」みたいな方もいると思いますが、年間パスポート出すから、好きな時に遊んでよ……。遊びながら記事を書いてよ……。あるいは、意見を聞かせてよ……と思っています。「あそこへ行ったら、ユーザーがつまらなそうに、ひとりでポツンといましたよ」でもいいし、どんどん言われれば、発想が出てくるじゃないですか。そういうのも含めて、皆さんと、ある形のものができるといいなと。

 意見を吸い上げる仕組みを作らないといけません。その仕組みがないと、こうやって言うだけになっちゃうじゃないですか。どうやったら意見を拾い上げられるか。その仕組みをちゃんと作り、改善していかなければ、良いことを言っているけど、うまく進んでないな……となってしまう。そんな風にはなりたくないなと思います。

 また振り出しの話になりますが、エコシステムについて。私はずっと子どもの時から野球少年でした。昔はみんな長嶋や王に憧れて、背番号3はもう、誰が付けるかで取り合いになったものです。私は野球で飯を食いたかったんです。沢山稼いで、いい家に住んで、いいもの食って……という、未来像がありました。実際に野球が巧い人たちは、選手が終わったら監督やっているんですよね。いい監督になるかは別だけど(笑)。いい選手は監督をやるんですよ。監督だけじゃなくて、コーチや解説の道もありますが、広い意味でその人たちの生活って、プロとして活躍したら人生の後ろの方も含めて約束された道があるわけです。

――そうですね。

榎本氏: で、名球会だとか、ロングタームで飯が食えるというのが、個人のライフを考えた時のエコシステムなんです。

 それに比べ、ゲームは短いサイクルで、流行り廃りもある中で、この抜きんでたスキルやノウハウといったものを、どうしたら人に伝授できるのか。あるいは、チームに継承していき、日本を代表するくらい強くなれるのかとか、引退後、その人たちが公に飯が食える何かがあるか……。

 今は技術を教える場すらないわけです。LFSみたいな設備が日本に増えて、スクールみたいなシステムもいいかもしれない。例えば月水がユーザーの個人レッスン、木金が講師のためのコーチング、土日がイベント参加、みたいな決まったスケジュール。ゴルフのスタジオと同じですよ。1時間いくらかの講習料を払ってプロがマンツーマンで教えてくれたりするような。それをゲームでもできればいいですよね。

――それはユニークなアイデアですね。

榎本氏: そういう意味でゲームに携わる人が、もう下世話な言い方をすると、飯が食えるか食えないかっていうのが、ひとつの大きな課題だと思いますね。

――その通りですね。

榎本氏: 私は、そのあたりがeスポーツの基軸になってくると思うので、ゲームのオリンピック競技化はすごく賛成です。ヒーローを作るのも賛成。まずは、LFSのようなインフラを作って、様々な取組で人材排出ができればいいと思っています。

――なるほど、サードウェーブが今後作っていきたいeスポーツのエコシステムにとって、足りないピースを埋める存在が「LFS」という理解の仕方でいいんでしょうか。

榎本氏: 足るために、知るための施設だと思うんです。これだけが足りないんじゃなくて、もっといっぱい足りないと思いますが、足りないことを知るためには、こういう施設がないと知ることもできない。ユーザーの声やプロゲーマーの声、大会イベントの声、それを見に来た人のユーザーの声を含めて知りたい。LFSがないと知ることもできない。情報が一方通行になってしまうのではないかと思います。

――5年、10年たったらサードウェーブは「LFS」の会社だと思われてるくらい人口に膾炙される存在になるといいですね。

榎本氏: そうですね。もう極端な話、それでいいと思っています。「LFS」の運営会社というよりも、新会社E5 esports Worksが、親会社を超えて上場しているとかね(笑)。

――もう1点。榎本さんが仰るように、日本にはゲームを職業にしたい、プロになりたい、プロとして活躍したいっていうeスポーツアスリートの皆さんがいっぱいいらっしゃいますが、今後彼らへのサポートについてはどのように考えていますか?

榎本氏: まずこういう場を提供して、声を聞いて、スポンサードもする。それから、大会のスポンサードや、チームのスポンサードもしていきます。

――最後にゲームファン、eスポーツファンに向けてメッセージをお願いします。

榎本氏: 私自身も、eスポーツに関しては、まだまだ勉強の途中です。まずは様々な形で機会を提供していきます。そして皆さんに、eスポーツがどういったものであるのか、自分に向いているのか、いないのか知っていただきたい。そして、例えば子どもの時に、野球、サッカー、今でいうとカーリング、スケートボードをやるといった中で、eスポーツをやるという選択肢を作りたい。多くの自分の可能性を広げる1つの選択肢に、eスポーツが加わるような、そうなったらいいですね。

  文化事業というと、ちょっと大げさかもしれませんが、新たな日本の中の、定着すべき事業領域のひとつだと思っているので、そういうものにサードウェーブとして、大きなエコシステムの中の一員に加われたらいいなと思っています。

 ある時には、リーダーシップをとって、「こうやるべきだ」と言うような知見を貯めて、協会、あるいは業界、あるいはユーザー目線で貢献できたら、会社としては凄くハッピーだと思っています。もちろん慈善事業ではないですから、我々のPCを使って世界に羽ばたいていってくれるような、そういうユーザーが1人でも多く育ってくれたら嬉しいなという風にも思っています。「サードウェーブがあったおかげで、俺は今、eスポーツで飯食ってるんだよな」と言ってくれるような、それが10年後か、20年後か判りませんが、そのスタートの年が今年だったなと言える年にしたいなと思っています。

大浦氏: 私からは、今年のGALLERIA GAMEMASTER CUPを頑張ります。去年私が、本来計画していたことが間に合わなかったと言いましたが、まさにこのLFSが、第2の矢で、我々にとってはユーザー拡大の第1歩と捉えていますので、GALLERIA GAMEMASTER CUPのような大きなイベントだけやるのではなく、コミュニティイベントなどをどんどんここで仕込んでいって、まずはeスポーツプレーヤーを増やしていきます。

 それから多くのeスポーツプレーヤーが、こういったところでどんどん活躍できる場を提供したいです。GALLERIA GAMEMASTER CUP開催だけでは限られた期間だけになってしまうので、1年間を通して活躍できる場を持てるということがeスポーツプレーヤーに当社ができる貢献だと思っています。こういう場所をできるだけ多く作っていきたいなと思いますね。

――期待しています。ありがとうございました。