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「Hellgate: London」の開発元であるFlagship Studiosは7月12日、内部のリーク情報により、Flagship Studios及び、その子会社Ping0のほとんどの社員が解雇されたことが明らかになった。即日、韓国のゲームメディアはこれを大きく取り上げ、話題となった。 そのリーク情報によれば、Flagship Studiosは7月12日を持って閉鎖となり、Flagship Studiosが開発した「Hellgate: London」の知的財産所有権(IP)は、同社の設立に出資したアメリカのComerica Bankに、現在開発中の次期タイトル「Mythos」は、韓国HanbitSoftに移管されることになるとしている。 この一連の騒動を受けて、「Hellgate: London」のアジア地域のパブリッシングを担当するHanbitSoftは、このリーク情報を事実だと認めた上で、「Hellgate: London」のIPについても速やかにComerica Bankとの交渉の上HanbitSoftの開発のラインに乗せることと、「Hellgate: London」のサービスを継続する方針を打ち出した。 その一方で、当事者であるFlagship Studiosは7月15日に、“これらのうわさ”に対して、「Hellgate: London」公式ホームページの掲示板を通じて「Flagship Studiosは以前のようなペースでこそ活動を続けられないが、我々はまだ健全だ」と表明し、同社自らによる「Hellgate: London」事業の継続を明言。さらに「Hellgate: London」のサービス無料化を発表した。
HanbitSoft側は、Flagship Studiosによるサービスの継続は不可能と認定し、IP確保のための訴訟もやむなしとのことで、既に現地の弁護士を通じて交渉が進行中だという。やっと日本でのサービスにこぎつけた「Hellgate: London」であるが、いきなりサービスの継続に暗雲が立ちこめてきた。今回は、両社の一連の騒動を追ってみたい。 ■ 資金難によりFlagship Studiosは事実上の閉鎖状態。「Hellgate: London」の不評が原因か!?
最初に「Starcraft」のパブリッシングを担当したのはLGソフトだったが、1997年の韓国経済危機の影響でLGソフトはゲームパブリッシング事業を縮小。キム・ヨンマン氏は「Starcraft」のパブリッシング権を獲得し、HanbitSoftを創業した。「Starcraft」は450万枚という大ヒット。さらに、「Diablo II」、「Diablo II: Lord of Destruction」もHanbitSoftが担当し、現在の韓国中堅オンラインゲームパブリッシャーの立場まで上り詰めた。 それらの経緯により、その後、「Starcraft」、「Diablo」シリーズを開発したBill Roper氏がBlizzard Entertainmentを退任して、2003年にFlagship Studiosを設立する際に、キム・ヨンマン氏との深い信頼関係により、HanbitSoftも莫大な投資をしたとされる。 2007年10月に発売された「Hellgate: London」は、北米の初動こそ順調だったものの、ゲームクライアント側にバグや不具合が多く、月額課金によるマルチプレイユーザーの数を積み上げることができなかった。今年の1月よりサービスを開始した韓国の場合、パブリッシャーHanbitSoftによると最初の2週目では約3億円を売り上げを稼ぎ上げたものの、ここ最近ではコンテンツ不足や度重なる不具合などが原因で急激にユーザー数を減らし、現在では月次の売り上げが数千万円を下回ると見られている。 一方でこうした事態を受け、HanbitSoftはFlagship Studioの救済のために今年の5月15日、共同出資で立ち上げたPing0をFlagship Studiosの100%子会社化とし、Flagship Studiosの株式持分の9.5%を買収した。 しかし、HanbitSoftによれば、Flagship Studiosはこれといった事態の挽回の対策がなされないまま、さらなる投資を求めてきたという。これに対し、HanbitSoftは業績回復の見込みが立たないとの理由で追加投資を拒否した。 「Hellgate: London」に事業の過半を依存していたHanbitSoftは、同作の失敗により、経営難に見舞われ、ついに5月19日には「Audition(邦題:「ダンシングパラダイス」)」のデベロッパーであるT3Entertainmentに買収されてしまうという結末を迎えた。同時に、HanbitSoftの代表取締役もT3Entertainment代表取締役キム・ギヨン氏に代わり、HanbitSoftとFlagship Studiosの蜜月関係にも終止符が打たれた。冒頭で紹介したのは、Hanbitsoftの新経営陣による最初の動きといっていい。 もう少し詳しく見ていくと、現在Flagship Studioの持つ「Hellgate: London」及び「Mythos」の2作に対して、出資者であるComerica BankとHanbitSoftにそれぞれ担保権が掛けられている。そのため第3者による投資やパブリッシングは法的に無理があるため、事実上Comerica BankとHanbitSoftからの支援や承諾無しにFlagship Studiosの復活は不可能といってよい。 Comerica BankもFlagship Studiosにこれ以上の追加投資はしない方針としており、このままだと事実上Flagship Studiosは閉鎖されてしまうことになる。そうなると自動的に「Hellgate: London」のIPはComerica Bankに、「Mythos」のIPはHanbitSoftに移管することになる。しかし、Comerica Bankは投資銀行であり、オンラインゲームの運営はできない。そこでHanbitSoftが開発まで含めてすべて面倒を見ようという考えだ。 Flagship Studiosはこれに対し、7月15日に「Hellgate: London」公式ホームページの掲示板を通じ「Flagship Studiosの開発は以前のようには続けられないが、我々はまだ健全だ」と事業の続行を宣言。事業の続行が可能であればIPの譲渡は不要になるが、Flagship Studiosの公式的なコメントはここまでで、今後の具体的な開発ロードマップや事業継続に関する詳細な声明は発表されていない。
Flagship Studiosは設立からゲームの開発まで殆どの資金が第3者の出資により賄われており、HanbitSoftは株主に大きな被害を及ぼしたBill Roper氏ら4人の責任と投資契約を根拠にFlagship StudiosタイトルのIPを是が非でも確保するつもりだ。7月16日のリリースによると既にアメリカの弁護士を通じて交渉を進めているという。これらの事態はどういった方向に向かうかは不透明で、今後本作を楽しんでいるユーザーを守る上でも建設的な議論がなされることに期待したい。
■ 交錯する両社の発表「Hellgate: London」はどうなる?! 「Hellgate: London」は現在、オンラインゲーム運営会社Ping0によって欧米、日本サービスが、HanbitSoftによって日本を除くアジア圏のマルチプレイサービスが行なわれている。Flagship Studiosが事実上の閉鎖状態に至ったため、それぞれのサービスにも大きな影を落とすのは必至だ。 7月15日にFlagship Studiosは「Hellgate: London」はPing0が運営する欧米、日本地域におけるマルチプレイ料金は受け取らないと発表した。一方、同作の日本を除くアジア地域のサービスを行なうHanbitSoftは月額課金によるサービスを続行しているが、これはこのまま継続する方針。韓国ユーザーは16,500ウォン(約1,815円)払い続けることになる。 しかし、Flagship Studiosの子会社であるPing0も、数人を除く全社員が解雇されている。当然ながら運営や開発にあてるリソースが決定的に足りないため、今後の大型アップデートや日々のメンテナンスなどのいったいどこまでサービスを維持していけるかはわからない。現時点でサーバーだけがオープンされている状態だ。ただ、大型アップデート「The Abyss Chronicles」については、既にマスターアップしたビルドを確保したため、実装には問題ないとのことだ。 HanbitSoftは今後、Comerica Bankとの交渉を通じて「Hellgate: London」のIPを確保し、自社開発とサービスを目指すという。現在、Flagship Studiosの元開発スタッフとの面接が順次進行しているとのことだ。 しかし、その後のアップデートやサービスは両社間にIP争いが終了しない限り、根本的な不透明感は拭えない。Flagship Studiosも本格的な法的対策に出ると、係争が長引くことになってしまい、一番損をするのは、メーカーを信じて課金してきた「Hellgate: London」をプレイするユーザーということになってしまう。 筆者としては無料化を宣言してサービスを事実上放棄している状態になっているFlagship Studiosのサービスよりも、開発とサービスの両ラインを準備しているHanbit Softに移管されたほうが現状は良いのではないかと考えている。Bill Roper氏を始めとするFlagship Studiosが、新たなスポンサーを獲得し、早期に挽回策を提示できれば状況は変わるかもしれない。いずれにしてもプレイするユーザーにとっては一刻も早い解決を願いたいところだろう。世界的な看板タイトルの行方が気になるところだ。
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□Hanbitsoftのホームページ(韓国語) (2008年7月23日) [Reported by Dong Soo “Luie” Han / 三浦尋一]
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