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会場:台北世界貿易中心
入場料:大人200台湾ドル(約700円) そんな彼らが暮らす台湾のゲーム事情はどのようなものなのか。それを知るために昨年、台北市のゲーム関連ショップを歩き回ってみたところ、予想以上の収穫が得られ、台湾ゲームファンの実態をかいま見ることができた。その結果は、昨年、「台湾ゲームショップ特別レポート」としてまとめたとおりだ。 昨年に引き続き、今年も台湾ゲーム事情について研鑽を積むべく、台北市内のゲームショップまわりに加えて、現地ゲームメディアやネットカフェを訪問し、さらに深く現地事情を掘り下げてみた。本稿では「台湾ゲームショップ特別レポート 完全保存版 Ver.2.0」と題してその模様をお伝えしたい。 なお、非常に残念なことに、2007年2月の時点ではなりを潜めていた違法改造、違法コピーが再び顕在化してしまっていた。レポートにはその記述も含んでいるが、目的はあくまでも台湾ゲームショップの実態レポートであり、台湾旅行者に対して便宜を図るものではない。違法改造およびコピーは、国を問わず違法行為であり、くれぐれも利用しないでいただきたい。
■ 台湾ではWiiが大ブーム。台湾未発売だが、何故か政府公認ハード。その顛末とは?
現在、仮設営業を行なっている光華商城は、幅10メートル、奥行き50メートルほどの長方形のプレハブが五棟、川の字に並べられ、その中にビッシリ百を超える数の店舗が軒を連ねている。メインはPCパーツ系で、ゲーム系、映像系、電子機器、書籍の順に続く。 訪れた日はあいにくの雨だったが、仮設営業の光華商場は、年に一度のボーナスで懐が温かい旧正月前ということもあり、買い物客でごった返していた。光華商場でもっとも大きな店舗を構える普雷伊に赴くと、常連客や子供たちが店員と延々と長話を繰り広げる台湾ならではの光景が見られたが、動きの速いゲーム業界だけに、品揃えは一変していた。 今年の光華商場のゲームショップにおける新たなトレンドとしては、Wiiが他のプラットフォームを圧倒する勢いで売り場面積を獲得していたこと。中古品が減っていたこと。キャリーバッグが人気を集めていたことなどが挙げられる。ネガティブな要素としては、コピー品が復活していた。 順番に解説していくと、まずWiiの大躍進については、日本好きの台湾ではある程度予想できた事態だが、実状は想像よりかなり複雑だった。台湾では任天堂の製品は、現地総代理店の博優が行なっているが、Wiiはまだ発売していない。したがって現在店舗に並べられているWii関連製品は100%が日本からの並行輸入品となる。 品揃えはハードウェアが中心で、Wii本体とWii Fitの白い箱が至る所で山積みされていた。ソフトウェアは「Wii運動(Sports)」が目に付く程度で、品揃えはあまり良くない。これは後述するコピー品が決定的な悪影響をもたらしている。 これまでの累計出荷台数は、統計データがないので正確なところは不明だが、ショップ関係者によれば、その数はざっと10万台以上だという。台湾市場で据え置き型ハードで、しかも並行輸入品だけで10万台は、大ヒットと言って良い。台湾のゲームショップでは必ずといっていいほどWiiが並べられ、キャンペーンの景品としてもよく利用されるほど一般的な商品となっている。 なぜここまで並行輸入品が一般化してしまったのかというと、行政院長(日本の首相に相当)の失言が直接のきっかけになっている。Wiiは、他のゲームプラットフォームと同様、無線通信機器に該当するため、業者、個人にかかわらず、輸入時に国家通信委員会の検査を受ける必要がある。これに違反すると罰金刑となる。 これが建前だが、昨年、蘇貞昌行政院長(当時)が、「娘が海外で買ってきたWiiを遊んでいる」と発言し、それが未検査だったことから大騒ぎとなり、なし崩し的に「日本の法律で認められているものだから未検査でも構わない」ということになった。この一連の報道により、Wiiに対する認知が爆発的に向上し、それ以来、並行業者が先を競ってWiiを輸入し、行政院長お墨付きの人気ハードとして台湾市民が争って購入した、という顛末だ。 Wii関連商品に関しては、Wii本体が若干品切れしている程度で、どのショップも潤沢に在庫があり、旧正月前の目玉商品として目立つ場所に置かれていた。一時期、日本でもWiiやWii Fitの品薄が続いた時期があったが、日本にない場合は、相当数がアジアに行っていると考えていいように思う。 それから、中古品が減っていたのも印象的だった。昨年、中古ゲームソフトがゲームショップの店頭で散見され、正規の新品市場に悪影響を及ぼすことに懸念を示したが、懸念は杞憂に終わり、今年は販売規模が縮小されていた。 台湾の中古品市場は、SCEのアジア参入後に、徐々にコピー製品が駆逐される過程で、いわばその代用品として日本からの“中古品の並行輸入”という最悪の形でスタートしている。昨年に比べて中古品の取り扱いが減った理由はいくつか考えられるが、ひとつは正規品市場の成長により、わざわざ中古品を買う必要性が薄くなったこと。もうひとつはもともとコピー文化の影響で、ソフトはコピーして手に入れるモノであり、売買するものではないという認識が一般化していたため、中古品を売り買いするという文化が根付かなかったことだ。 現在でも取り扱いはあるにはあって、ゲームショップの取り扱い率でいえば、過半数を超えそうだが、店頭では誰も見向きもしていなかった。少なくとも日本のように中古品専門店が成立するような勢いではなく、ましてや韓国のようにソフト市場のメインストリームになるところまでは行っていない。このまま行けば緩やかに淘汰されるかもしれないという印象を持った。 キャリーバッグは、まさに台湾ならではのアイテムであり、ますます取扱量が増えつつある。任意の据え置き型ハードをバッグに詰め込み、自宅の外に持ち出して遊ぶためのアイテムだ。日本では据え置き型ハードを外に持ち出すという文化がないため、何に使うのか面食らってしまうところがあるが、台湾では全プラットフォーム用意されており、さまざまなカラーバリエーションがあっておもしろい。その実態は、台北地下街で詳しく紹介したい。
■ 光華商場にWiiのコピーが大量に流通、再び海賊版の悪夢復活か
光華商場では、棟と棟を繋ぐ渡り廊下に、バインダーを携えた青年がパイプイスに腰掛けていて、近くを通ると拡げて見せてくれる。中身はすべてWiiのゲームソフトで、価格は1枚200元(約700円)。言うまでもなく完全に違法のコピー商品だ。 光華商場に隣接する地下街「光華国際電子廣場」はまさにコピー品の巣窟となっており、Wiiを中心に、ニンテンドーDS、PSPと人気の高いハードの違法改造と、違法コピーに関するあらゆるアイテム、サービスが揃っている。 その手の店は、小さいコンパートメントに若いアルバイトがひとりで切り盛りしており、カウンターに近づくと、最新の3.1Jに対応した最新改造版Wiiを熱心に勧めてくれる。つまり、ここでは違法改造済みのWii本体が買えてしまうのだ。価格は9,600台湾ドル(約33,600円)。改造のみだと2,000台湾ドル(約7,000円)。日本での定価が25,000円、台湾での並行品の店頭価格が8,300台湾ドル(約29,050円)だから、ずいぶん上乗せされている。 店頭ポスターを見ても、WiiとPSPはシステムアップデート後に、即座に新バージョンに対応した違法改造が行なわれていることがわかる。MODチップの製造元にも複数社があり、互いに性能を競い合っているような状態で、Wiiは台湾未展開の状態ながら、すでに市場として末期に近い。これはちょうど5年ほど前のPS2の状況にそっくりであり、悪夢は再び繰り返されたという感が強い。 現地関係者によれば、PSPはWiiに比べコピー対策がまだ奏功しており、ユーザーはその対策として2台のPSPを持つことが多いという。1台はコピー品用で、1台は正規の製品を遊ぶためのものだ。根本的な解決には至ってないが、少なくとも新製品の初期出荷段階ではコピーから免れていることになる。 ちなみに、PS3はいまだにコピープロテクトが破られておらず、違法改造や海賊版は見あたらなかった。Xbox 360は、海賊版が存在するが、改造業者が改造を敬遠し、市場としてはほとんど存在していない。敬遠する理由は、ハードの故障率が高いからだという。改造業者は、改造したハードに対して、一定期間の動作保証を付けるが、頻繁に故障されてしまうと、改造の利益より修理費が上回り、ビジネスにならないわけだ。そういう理由からXbox 360もまたコピーが出回っていない。結果として、Wiiが集中的に狙われるという展開になっている。 唯一救いだと感じられたのは、少なくとも訪れた際は海賊版や違法改造の利用者はひとりもいなかったことだ。冷静に考えればわかることだが、違法コピービジネスと並行品ビジネスはまったく相容れない。ハードにMODチップを埋め込めば、改造費で潤う一方で、ソフトが1枚も売れなくなる。
一方、並行輸入業者およびゲームショップとしては、やはり最終的にはソフトで利益を出せるスキームが必要になるわけだ。いずれにしても完全に違法行為ながら、業者は業者でジレンマを抱えている様子が見て取れた。どうも情けない表現になるが、台湾の状況は、中国ほど末期ではないという印象を持った。
■ 台湾ゲーマーが集うトレンドスポット台北地下街
台北地下街は、服飾店や飲食店、土産物屋、按摩屋などひしめくなか、その一角にゲームショップエリアがある。その店舗数、全体規模、客数などは間違いなく台湾最大規模で、日本における秋葉原のような役割を果たしてるエリアといえる。 店舗は普雷伊をはじめとしたチェーン店が多く、やはり並行品、中古品はあるものの、一番多いのは正規品だ。人気ハードはやはりWiiで、その扱いはもはや並行品のレベルではなく、正規品のPS3やXbox 360とまったく同格で扱われている。なお、台北地下街は台湾の玄関口に相当するためか、改造やコピーを行なう店舗は見かけなかった。比較的クリーンな状況が維持されていると言えそうで、子供でも足を踏み入れやすいスポットだ。 台北地下街の今年のトレンドは、やはり地下通路に座り込んでゲームに興じるゲームファンの姿だろう。その数が半端ではなく、ざっと数えただけでも50人以上はいた。プラットフォームは、PSPを筆頭に、Wii、PS2、DS、PCと実に多種多様で、折りたたみ式のイスや、PSPの長時間プレイも安心なようにマルチタップと電源アダプタまで持ち込み、ゲームショップから電源を引き込んで、思い思いのゲームを友人達と楽しんでいた。 ゲームファンの中には若い女性や子供も含まれていたのが印象的で、子供をコミュニティに預けて、買い物に出かけている親もいそうだ。人気のタイトルは「モンスターハンター ポータブル2nd」で、中文版と日本語版のユーザーが混ざっていた。
据え置き型ハードは、ゲームショップのデモ用のテレビを勝手に使っているところがユニークだ。PS2が中心で、魅せるプレイで観客を集めるのが目的であるためか、対戦格闘ゲームが多かった。その遊ぶ彼の後ろには、別のハードを持って順番待ちをしている人がいて、一定のルールが存在することを伺わせる。遊んでる姿は見られなかったが、Wiiを持ち込んでいるユーザーもいた。歩行者が少なくなってから遊び始めるのかもしれない。地べたに座ってプレイする姿は美しいものではないが、台湾らしいエネルギーが感じられる文化である。
■ 台湾でコンシューマ雑誌を出版している青文出版社を訪問
今回訪れたのは、台湾で最大手ゲーム雑誌「週刊電玩通」を出版している青文出版社。「週刊電玩通」とは、エンターブレインのゲーム誌「週刊ファミ通」の中文繁体字版であり、エンターブレインからライセンスを受けて、主要記事の中文版をメインに、毎週10数ページ前後の台湾独自記事を加え、台湾では数少ないフルカラー128ページのコンシューマゲーム雑誌として発売している。 価格は98台湾ドル(約350円)で、日本と同水準に抑えているが、現地の物価水準で言うと1,000円ほどとなりやや高い。発行部数は20,000部前後で、台湾のゲーム雑誌としては最大手となるが、台湾ではコンシューマ市場が発展途上であるためか広告も少ない。かけ算をすると、採算が取れるかどうかギリギリのラインだ。 同業者として偉いと思うのは、プラットフォーマーが並行輸入品を防ぐために世界同時発売を目指すのと同じ理屈で、日本と同日発売を実現しているところだ。しかも、その作業をわずか11名のスタッフで回している。日本と台湾では市場が異なるため、無理に同日発売を意識しなくても良さそうなものだが、「週刊電玩通」編集長の任學璽氏は、発売が1日でも遅れると“並行品”が入ってきて現地で発売する意味がないという。 任氏は、コンシューマゲームの攻略本の執筆を皮切りに、一貫してコンシューマ畑を歩んできた、台湾では数少ないコンシューマ系のゲームジャーナリストのひとりだ。大学で日本語を学び、流ちょうな日本語を操る。「週刊電玩通」は2004年の創刊から携わり、現在、総編集長の立場にある。 任氏とは、台湾ゲーム市場の認識から、ゲームメディア論、ソフトウェア産業としての今後の展望など、さまざまな分野で意見交換をしたが、印象的だったのは、一般メディアの海賊版に対する認識の甘さや、ゲーム制作の現場における深刻なプログラマ不足の問題など、台湾ゲーム市場独自の産業の歪みに対して極めて厳しい見解を持っていたことと、2008年メインストリームになるプラットフォームはPS3と予測したことだ。 任氏によれば、台湾の新聞メディアは過当競争にあり、個性化を図るために総ゴシップ誌状態で、記者のコモンセンスにも相当問題があるという。実際に新聞の問題の箇所を見せて貰ったが、今回のTaipei Game ShowでSCETが発表した、新カラーのPS2に関する記事で、「改造して海賊版で遊ぶことができる」と、あたかも海賊版で遊べることをウリであるかのように記述していた。なるほど凄まじい。 プログラマ不足は、日本でも似たような状況だが、台湾の場合は、ゲーム作りの原点である、コードを記述し、プログラムを実行するということに興味をもつ機会そのものがないという。だから、プログラマという職業そのものをほとんど知らないまま、ゲーム業界に対する漠然とした就職希望を抱いてしまう。結果としてプランナーやグラフィッカーの希望者はいても、プログラマを希望する人が極端に少なくなる。その意味で、SCETが発表した「台湾クリエイター育成プログラム」は、台湾ゲーム市場にとって朗報となりそうだ。 2008年のメインストリームをPS3と予測したことは、単なる希望的観測ではなく、確かな裏付けがあると任氏は言う。「デビル メイ クライ 4」の最新の予約状況をリサーチしてみたところ、Xbox 360系のショップで、予約比率がPS3が2に対して、Xbox 360が1で、PS3系のショップではその比率は20対1まで開いていたという。過去のケースだと「真・三國無双5」においてもPS3版が圧勝したという。日本好きが多い台湾においては、日本のハイエンドゲームプラットフォームであるPS3に対する期待は依然として高いようだ。 その一方で、他のプラットフォームはそれぞれ不安材料を抱えていることもPS3優勢とみる要因のひとつだという。Xbox 360は、とにかく発売スケジュールが守れないという。ひどい場合は、店頭に並んでいるにもかかわらず、Microsoftがそれを把握できていなかったというものもあったという。また、メーカーの許諾を得ないまま並行品のプロモーションを行なうため、メーカーとのパートナーシップがうまくいっていないようだ。細かいところだと、Xbox 360のパッケージデザインは台湾人の好みに合わないという。このため、マルチプラットフォーム展開しているタイトルは、PS3版に手が伸びる傾向があるという。 Wiiに関しては、すべて並行輸入版で、日本語版しか存在していないところが大きなマイナス要因となる。日本語を理解できるゲームファンは限定されてしまうため、ブームにはなりえても、一過性に過ぎないと任氏は見ている。実際、ニンテンドーDSは、アクションゲームなどは人気だが、日本で人気を集めている「脳トレ」系のゲームソフトは全滅だという。これがWiiにもそのまま当てはまるのではないかということだ。 任氏自身が、日本産ゲームのコアなファンであることを若干差し引いて考えるとしても、納得できる事柄が多く、さすが台湾で長年コンシューマゲームを見てきたメディア人だと感心させられた。現在、台湾のコンシューマゲーム市場は、据え置き型はXbox 360がやや先行し、次にWiiで、PS3は3番手に甘んじている。任氏はこれを抜くと豪語してくれたが、果たしてどうなるだろうか?
□Taipei Game Showのホームページ (2008年1月28日) [Reported by 中村聖司]
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