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会場:KINTEX
対に当たる用語として「開発プラットフォーム」があるが、こちらは非常にお馴染みの存在だ。プラットフォーマー、ハードウェアベンダーから自社ハードをより効率よく活用するために各種SDK(Software Development Kit)が提供されているほか、近年では“ゲームエンジン”という形でゲームデベロッパーからも各種SDKが生み出され、それぞれ日々のゲーム開発シーンにおいて活用されている。最近は、マイクロソフトの「XNA Game Studio 2.0」のように、ユーザー向けのゲーム開発プラットフォームも生まれ、エンドユーザーにも馴染み深い存在となりつつある。 その一方で、「運営プラットフォーム」は、IT分野の一部でのみ使用され、ゲーム業界ではまだまだ聞き慣れない言葉だ。オンラインゲームにおいて開発と運営は、車の両輪のような関係で共に重要な存在であるはずだが、汎用ミドルウェアの整備という点で見れば、運営部分の環境はまだまだ未成熟で、個々のメーカーの開発力に大きく依存しているのが現状だ。 その理由としては、PC向けオンラインゲームビジネスは、既存のコンシューマビジネスと根本的に異なり、実質的にプラットフォーマーが存在せず、各社が勝手気ままにリリースすることができるという環境の違いに起因する側面が大きい。 しかし、毎年発生するオンラインゲームの運営面でのプリミティブなトラブルを見る限りでは、その必要性は十分にあると思われるが、「誰のカネ」で、「誰が作り」、「どう導入させるのか」という根本的なビジネススキームの課題があり、必要性を感じてもなかなか導入には至らないというのが現状のようだ。 そうした状況下で名乗りを上げたのがNHNである。日韓で最大規模を誇るゲームポータル「Hangame」のサービスの一環として、提携パートナーに対して「PURPLE」を無償提供し、「Hangame」への繋ぎ込みに掛かる時間、コストを低減し、フォーマットを統一化することによる運営部分でのリスクヘッジが主な狙いである。もちろん、運営面で軽減されたリソースを開発に集中して、デベロッパーがよりゲーム開発に集中できるというメリットもある。「PURPLE」単体では完全に持ち出しのビジネスとなるが、「Hangame」全体でプラスに導いていこうという戦略的なサービスだ。
弊誌では、10月に実施したNHN Japanゲームエンタープライズ事業部長 田代克行氏に対するインタビューの続編として、韓国NHNで「PURPLE」の開発責任者を務めるパブリッシング技術支援室室長の宋 桂翰氏と、NHN Japan ゲームエンタープライズ事業部 テクニカルディレクションチームマネージャーの鎌田康之氏に話を伺った。
■ 「PURPLE」の開発構想と、開発側が想定する導入のメリット
宋桂翰氏: これまでNHNは韓国、日本、中国、アメリカなどでオンラインゲームのサービスを行なってきました。従来は、自社で作る各ゲーム向けのシステムだけをその都度開発していたのですが、今後は、自社のゲーム向けだけではなく、外で作られたゲームの環境を短時間で効率的にサービスに繋げていくための標準となるプラットフォームが必要だと考え、2006年3月頃から「PURPLE」の開発がスタートしました。 編: 「PURPLE」は、2008年にはパートナーへの提供を開始するとのことですが、現在の開発の進捗状況はいかがですか? 宋氏: 「PURPLE」は、継続して拡張されるプロジェクトなので、完成度を数値で表すのは難しいですが、内部的な目標から考えますと7割から8割程度は完成できたと思います。といっても、完成があるような1つのプログラムではなく、一定の段階で順次各国のサービスに適応されていきます。すでに韓国では現在サービス中のタイトルに「PURPLE」が適応されています。日本でも一部用いられています。 編: 提供を予定している地域は? 宋氏: Hangameが展開されているすべての地域に投入していくつもりですが、韓国と日本がもっとも早く導入され、アメリカは現在準備中です。中国はまだ環境が整っていないため、内容だけを共有してまだ適用には至っていません。まずは韓国、日本への提供がメインとなります。 編: 開発側が考える「PURPLE」導入のメリットとは何ですか? 宋氏: オンラインゲームの開発会社としては作業範囲が明確になりますし、私たちがすでに他のゲームで検証済みのサービスを提供するため、安定性も非常に高いものとなっています。開発現場の満足度もそうですが、会社の立場からみても、スタンダード性や安定性を確保できますので、導入期間も短縮できるメリットがあります。 編: ちなみに日本からは、開発に対してどのような要望が挙げられましたか? 宋氏: 「PURPLE」の内容は維持したまま、日本サービスに向けて必要なものを日本の環境に合わせていくのが基本方針です。そのために「PURPLE」は基本的な内容で提供されます。それはつまり、日本独自の内容を日本側で盛り込むことができるようにするためです。いわば土台ですね。 たとえばゲームをダウンロードして実行するランチャーがありますが、日本と韓国で機能は同じでも、ランチャーの形や追加の機能が若干異なります。韓国の場合は単純に少し待ってからアプリケーションを実行しますが、日本の場合は、たとえばその途中にチュートリアルを入れたりするなど、柔軟に改良が可能になっています。 編: 以前、田代さんに取材した際に、韓国ではこうした運営プラットフォームを開発事例が増えていると伺いました。韓国ではオンラインゲーム運営プラットフォームのビジネスはどのような状況なのですか? 宋氏: 私が知る限りプラットフォームビジネスを公にする企業はありませんので、実は良くわかりません。それぞれ独自の経験やノウハウを持って作っているのだと思います。 編: 例えばCJインターネットやNeowizなどポータルを持っている大手メーカーはどこも準備を進めていると伺いました。 宋氏: 韓国では公にそうした情報を知るのは難しいですね。業界的に人事の異動が多いのでそうしたルートを通じてベンチマークした部分もありますし、独自に開発したものも多くあります。 編: 「PURPLE」が他社のサービスに比べて優れている部分はどこだと思いますか? 宋氏: 「PURPLE」は開発会社と有機的な作業ができるようにすべてをまたがった概念です。NHNは外国の企業と仕事をする機会がたくさんありますが、そのためには技術的な内容を共有する際に国際的な基準構築が必要です。コミュニケーションのツールや資料が標準化されています。「PURPLE」は、開発会社とそうしたコミュニケーションがスムーズに行なわれるように設計されています。NHNはさまざまな国でサービスしていますので、ゲームのサービスに必要な環境に対する経験も優れています。WindowsやLinuxに限らずさまざまなOSを支援するシステムを持っています。 編: 対応するOSはWindowsだけではないのですね。 宋氏: Windows版も32bit版、64bit版にもそれぞれ対応できますし、UNIXにも32bitや64bitは関係ありません。 編: それではXbox 360やPS3に対応することも可能だと? 宋氏: 現在、NHNはこれまでコンソール市場においてパブリッシングビジネスを行なったことがないので未検証ですが、必要ならばこうした経験を土台として対応するのには時間がかからないと思います。 鎌田康之氏: 日本のコンソール市場に進出するかどうかは会社の事業戦略になりますので私からはなんともいえませんが、技術的には韓国と共同でやっていくことはまったく問題ありません。 編: 田代さんはさらにモバイルにも対応したいと言うことでしたが。 鎌田氏: モバイルは日本独自で企画を進めているものです。モバイル、Webも含めたWebサービスを考えています。今企画を詰めているところで、技術的な部分については問題ありませんし、企画が決まり次第着手する状況です。現在検証している段階です。 編: 現在どのような企画を詰めていますか? 鎌田氏: モバイルは、開発会社向けというよりはエンドユーザー向けのサービスとなっておりまして、BtoCのサービスになります。モバイルのWebサイトでユーザーがアクションを起こすことで、ゲームに反映されて、PCでゲームをするとモバイルで起こしたアクションが何かしら反映されるサービスを考えています。 編: ということは開発部分も日本が行なっているのでしょうか? 鎌田氏: そうですね。モバイルサービスに関しては、Webサイトとゲームの連動という部分の開発は行ないます。するのですが、我々は「PURPLE」の指揮の下に定義して考えていきます。すべて開発会社さんやお客さんに対して提供するものはすべて弊社のプラットフォームと考えています。
■ 「PURPLE」導入で、サービスまでの期間を短縮化。将来的には開発支援もサポート
宋氏: 「PURPLE」は発展しつつあるもので、明確に定義付けは行なっていません。開発機能の追加は公に決まったものではありませんが、今後「PURPLE 2.0」や「PURPLE 3.0」といった形でカバーすることができると思います。実際、開発者の立場としては開発も行なえるのが一番望ましいビジョンですが、会社や事業の方向性が合致すれば早い段階で対応は可能だと思います。 鎌田氏: 会社ではパブリッシング事業を行なっていまして、新規にオンラインゲームを開発して提供することは今のところ考えられていないのです。会社の事業戦略上、そうした方向に行くのであれば、先ほどいったように「PURPLE」のバージョンアップ版で開発機能を提供することも考えられます。 編: 「PURPLE」のおもしろさは無償提供と言うところですが、これはどういった経緯で決まったことなのですか? 宋氏: 実のところ弊社のプラットフォームの中で開発側が利用して開発しやすくなるという環境を提供することが目的ですので、無償提供自体は問題ではないのです。基本的にはゲームを多く作ってサービスすることが最大の目標です。弊社の発展させることもそうですが、一緒にゲームの開発に取り組んでくれる会社も同時に成長していくことが大事だと思います。 鎌田氏: 「PURPLE」の無償提供の狙いは、やはり開発会社さんにゲームの開発の部分に集中してもらいたいということです。無償で提供してもその結果、ゲームのアイテムの売り上げが上がるなど良い結果に繋がれば意味があるのではないかと考えています。 編: 提供開始時期はいつ頃を考えていますか? 宋氏: 先ほど、7~8割程度完成しているとお答えしましたが、繰り返しとなりますが、「PURPLE」は各国の状況をふまえ、常に進化し続けるプラットフォームですので、現時点では、明確な提供時期は未定です。 編: 「PURPLE」提供後のメンテナンスや機能の追加はどうなりますか? 宋氏: 基本的に「PURPLE」はNHN Koreaのみの所有物ではありませんので、スタートは韓国で始まりますが、その後は、各国の開発者が力を合わせて作っていくものになります。 鎌田氏: どの機能をどの国で使うかということはまだ決まっていません。ランチャーやユーザーインターフェイスなどの機能が国によって異なるので、実際運用してみて問題が発生してから、リクエストベースで修正を掛けていくことになると思います。最終的にはノウハウ共有して国ごとにカスタマイズができるようにプラグインを導入する形にしましょうということを目指しています。 宋氏: 「PURPLE」は、各国の環境やサービス経験に対応する形で作られるものなので、どこか一国で制作するといった縛りは設けないほうが良いと思います。そうするうちに強く良いものになっていくと思います。 編: 「PURPLE」が実装されたあとオンラインゲームはどのように変わるのでしょうか。 宋氏: 外から見るうえで差は無いと思います。「PURPLE」の特徴としてランチャーがあげられますが、Hangameで提供されるゲームのすべては始まりから同じプロセスを経てUIを統一してサービスができると思います。 また、ユーザー側が感じるものとして、やりたいゲームがより早くサービスされるということ、それから安定した環境でプレイができるというメリットが挙げられます。デメリットはありません。開発側の企画力や能力を制限する可能性もありますので、あまり機能を増やすこともしないと思います。 編: 日韓の「Hangame」はどのような変化が見られますか。 宋氏: 開発側としての立場からの発言ですが、プラットフォームという用語は難しいですね。いろいろな意味に取れる言葉ですが、本来は実際の作業において効率性を挙げるものであって、企画や事業の日程を前倒しにして早く次の工程に移ることができるということが主眼にあります。 「PURPLE」は複雑なプロジェクトに感じられるかもしれませんが、現在よりもオンラインゲームのサービスが軽く柔軟になると思います。究極的にはNHNだけではなく、すべてのゲーム会社が基本的なゲームサービス向けのインフラとしてゲームをより簡単にサービスができる環境を整えていくべきだと思います。 鎌田氏: 「PURPLE」を導入することによって、オンラインゲームの開発開始から実際にゲームを遊べるようになるまでの期間がかなり短縮できるのではないかと考えています。また、サーバーシステム自体も安定するので、ゲームが落ちたりといった障害も無くなると思います。今後は、より安定した環境でオンラインゲームを楽しんでいける場を提供できるかなと思います。 編: 日本のユーザー、メーカーに対して一言お願いします。 宋氏: 「PURPLE」を通じてサービスされるオンラインゲームは、オンラインゲームに関して豊かな経験を持つ韓国と、優れた企画力を持つ日本が力を合わせて作った共同作品と言えます。きわめて安定して信頼性があり楽しめる作品になります。どうぞご期待ください。 鎌田氏: 韓国のNHNで提供されたゲームを日本で展開する場合、共通のプラットフォームですのでかなりの時間を短縮できると思います。
編: ありがとうございました。
□NHN Japanのホームページ (2007年12月20日) [Reported by 中村聖司]
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