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【連載第214回】 あの、おもちゃを徹底レポート




心を鍛えるトレーニングツール!
タカラトミー「EQトレーナー」

「EQトレーナー」
発売 タカラトミー
価格 5,250円
電源 単4アルカリ電池×4
発売日 発売中



 任天堂がニンテンドーDS向けに発売した「東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」は、いまなお売れ続け、ゲームソフトの一大潮流を作り出している。「頭がよくなる」、「記憶力が上がる」、「右脳を鍛えられる」などと謳ったゲームソフトが、雨後のタケノコのように大量に登場しているのだ。

 このムーブメントは、トイの世界にも及んでいる。今回取り上げる「EQトレーナー」も、そんな“大人のDSトレーニングブーム”から生まれたアイテムであることは間違いない。

 けれど、数あるアイテムの中で、筆者の心をもっとも捉えた代物でもある。なにしろパッケージに書かれたキャッチコピーがふるっている。「IQだけでは成功できない。心を鍛えて現代社会で生き残る」とあるのだ。筆者のように「脳を鍛える大人のDSトレーニング」でトレーニングを重ね、ようやく脳年齢が20代になった! と喜んでいる者の心をえぐるようなキャッチコピーだ。「じゃ、ど、どうすればいいの!?」と叫んで、すがるようにこの「EQトレーナー」を手にしたとしても、誰が責められようか。

 パッケージの裏面には、さらにドキリとする宣伝が描かれている。左側には頭を抱えて深く落ち込んでいる男性がいる。男の周囲には、「孤立しがち」、「よくイライラする」、「人の気持ちがわからない」、「会話が苦手」などのドンヨリとした暗い吹き出しが立ち込めている。

 しかし、右側の男性は、人生を謳歌するがごとく、両腕を上空へ突き上げている。その周囲には「話し上手」、「人に好かれる」、「いい意味で目立つ」、「カンがいい」などというウットリするような吹き出しが乱舞している。

 「EQトレーナー」を使えば、こんな境地に達することができると書いてある。これは試さずにはいられない。

表パッケージ。「IQだけでは成功できない」というキャッチコピーが胸に突き刺さる 裏パッケージ。「EQトレーナー」の使用前、使用後の変化。こ、こんなに変わるものなのか……



心の知能指数が偏差値で診断される

 「EQトレーナー」には、原作ともいえる関連書籍がある。「EQこころの鍛え方」と「EQこころの距離の近づけ方」(高山直著/東洋経済新報社)の2冊。ビジネスマンを対象にした啓発書だ。そのためこの「EQトレーナー」も徹底して大人をターゲットにしたつくりがなされている。対象年齢は18歳以上だし、出題される設問もすべてビジネスシーンが想定されている。

 本体のデザインも大人向けだ。多少の玩具らしさは残しつつも、PDAのような大人っぽさが強調されている。毎日の通勤電車や呑み会の席でこれに興じても、「大の大人がおもちゃで遊んでらぁ」と冷ややかな視線を集めることは少ないだろう。

 液晶画面はタッチパネルになっていて、付属のタッチペンで操作する。液晶画面はこの手のトイとしてはドットが細かく、5,250円という価格設定を鑑みても豪華な印象がある。

「EQトレーナー」本体と付属のタッチペン。本体のデザインは、大人向けのアッサリとしたテイスト 使用していないときのタッチペンは、本体に格納する 表示される設問に従ってタッチペンで画面に触れるだけなので、操作は簡単だ


 さて、くわしいレポートの前に、主題である「EQ」について、簡単に説明しておこう。EQ(Emotional Intelligence Quoitient)とは、「達成すべき目的のために、情動を最大限に利用する能力」のこと。エール大学のピーター・サロベイ博士と、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士によって、'90年に学術論文で提唱された「感情知能」という概念だ。

 EQは、「感情の識別」、「感情の利用」、「感情の理解」、「感情の調整」の4つの能力から構成されており、「EQトレーナー」はこれらの能力を鍛えられる機能をそなえているのだという。

 「EQトレーナー」は、大きく分けて2種類のモードが用意されている。「EQ測定」と「EQトレーニング」だ。

 最初に「EQ測定」からトライしてみる。「EQ測定」には、設問が40問の「Standard」と、20問の「Simple」の2種類がある。ここは「Standard」を選んでみる。

 液晶画面に表示された設問に応じて、用意された5つの答えから自分の心にいちばん近いものを選んでいく。設問はこんな感じだ。「悲しみを感じたときには、その後どうなるのか理解できる」、「人と話をするとき、言葉だけでなく、身振りや表情にも注目している」、「会話の中で感情や気持ちを示す言葉を使うことができる」。

 こうした設問に対し、「よくできる」、「大体できる」、「ふつう」、「あまりできない」、「全くできない」などの選択肢からひとつを選んで、タッチペンで押して回答する。

 筆者のEQが測定された。EQは偏差値という形で表現され、筆者のそれは64だった。説明文には「自分や相手の気持ちを正確にとらえ、場の空気も把握できるので、人心を掴む先を読んだ行動ができるようです。相手に共感しながら関わることができ、また、自らの気持ちも盛り上げて目標達成のための行動が取れるようです。EQは高く、自分自身の感情のコントロールや人間関係構築のための基礎能力を備えているでしょう」とあった。思いのほか評価が高く、くすぐったい感じだ(筆者の人となりをご存知の方からすればここは失笑を誘うポイントなのかもしれないが、あくまで機械が測定したことに過ぎない。筆者の自己評価ではないので、ゆめゆめ誤解のなきように)。

 筆者はたまたま好結果が出たのでよかったのだが、偏差値50を下る厳しい結果が診断された場合の心境は、いかなるものであろうか。「脳年齢が50歳代」よりもはるかにショックが大きいと思うのだが……。

「EQ測定」のタイトル画面。2種類から選べる 心を診断する設問には、真剣に解答しよう 診断結果は、偏差値と長文の解説、そしてグラフにて表示される



4種類のトレーニングを重ねてEQを鍛える

 つぎに「EQトレーニング」に挑戦してみる。「EQトレーニング」は、「識別トレーニング」、「利用トレーニング」、「理解トレーニング」、「調整トレーニング」の4種類があり、それらをまとめて訓練できる「総合トレーニング」も用意されている。

 「識別トレーニング」は、自分の感情を正しく認識できる能力を鍛えるトレーニングだ。まず最初に喜、怒、哀、楽のアイコンをタッチして、自分の今の心境をグラフ化して表現する。たとえば喜が強いと感じたら、喜のアイコンを多めにタッチして、グラフを伸ばすといった具合だ。つぎに画面に表示された「残念」、「イライラ」、「心を砕く」などの感情語から、自分の感情に合っているものを思いつく限り選ぶ。

 その結果、自分が今の感情を正しく認識しているか、その度合いがパーセンテージによって表現される。筆者の結果は……60%。へええ、すべて正直に回答したつもりなのに、まだ認識していない、あるいは言葉にできていない感情があるのだろうか。

 「利用トレーニング」は、感情の性質を理解し、場面に適切な感情を生み出す能力を鍛えられる。筆者に出題された問いは、「楽しい場面にふさわしい言葉を10個選ぶ」というもの。「意気揚々」、「臨時ボーナス」、「絶望」、「やるせない」などと大量に羅列された言葉の中から、これはと思うものをタッチしていく。結果は……あれれ、またしても70%だ。簡単だと思ったのに。

 「理解トレーニング」は、擬似会話の中で他人の感情を理解する能力を鍛えるトレーニングだ。たとえば「怒らせるな!」というタイトルの問い。「上司のやり方が気に入らない、と同僚が怒っています」というシチュエーションの中で、同僚を怒らせない会話をつむいでいく。「全員で解決できるようにがんばろうよ」、「君もそう思っていたの?」、「どこか間違っていると思うの?」、「君、頭悪いんじゃない?」などと用意された答えから適切と思えるものを選んで、タッチしていく。

 筆者の結果は、最悪だった。問いが変わろうが、ことごとく「失敗」してしまったのだ。他人の気持ちがわからないという烙印を押されたようで、いささかショックを感じた。EQ偏差値64なのに……。

 「調整トレーニング」は、感情を整える能力を鍛えられる。「今日はいいことだらけです。仕事は順調、仕事の後はデートです。しかし、これから関係の悪い得意先との商談です。とても舞い上がっています。今、あるべき気持ちは?」などという設問に対し、「失敗は成功のもと?」、「安泰?」、「ウキウキ?」と矢継ぎ早に表示される回答に、3秒以内で答えていく。結果は、またしても45%だった。

「識別トレーニング」。自分の今の心境を理解するトレーニング 「利用トレーニング」。場面に応じた感情を生み出すトレーニング
「理解トレーニング」。他人の感情を読み取るトレーニングだ 「調整トレーニング」。心の動きを安静に整えるトレーニング


 最初に「EQ測定」をして偏差値64が出たときの高揚した気分は、どこへいったやら。「EQトレーニング」を重ねるたびに、あまり色合いのよくない結果が出てきて、いささか落ち込む結果となった。

 しかし、これはおもしろい。トレーニングの内容はバラエティに富んでいて飽きさせないし、随所にユーモアが散りばめられていて、楽しい気分にもさせられる。仕事や人間関係に悩みがある人は、遊びの感覚で手にしてみれば、きっと何らかの福音がもたらされるだろう。

 筆者も人体実験の材料となるべく、しばらく続けてみるつもりだ。今後、筆者の人格が劇的な変化を遂げれば、効果は絶大といえるだろう (周囲の人たち、診断してくださいね)。

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□タカラトミーのページ
http://www.takaratomy.co.jp/
□「EQトレーナー」のページ
http://www.takaratomy.co.jp/products/eq_trainer/
□関連情報
【2005年10月25日】トミー、「2006 トミーグループ新春商談会」開催
感情を認識する「ともだちピカチュウ」など
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20051027/tomy.htm


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(2006年3月30日)

[Reported by 元宮秀介]


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