★ PCゲームレビュー★

戦国期の合戦模様と家中闘争を見事に描いた
遊びごたえ満点の信長シリーズ第10弾

「信長の野望 蒼天録」

  • ジャンル:歴史シミュレーションゲーム
  • 発売元:コーエー
  • 価格:11,800円
  • 対応OS:Windows 98/Me/2000/XP
  • 発売日:6月28日


 コーエーの「信長の野望」シリーズ第10作目「信長の野望 蒼天録」が、いよいよ6月28日に発売される。「下克上」という刺激的なキャッチフレーズとともに秘密のヴェールを脱ぎ、長い開発期間を経て完成した同社のフラッグシップシリーズ最新作は、最終的にどのような作品に仕上がったのか。じっくり見ていこう。


■ テーマは“下克上”。 下克上を狙いそして恐れる新しい戦国世界

下克上を達成するまでの道のりは長い。しかしその成就したときの達成感は大きい
シナリオは5本とたっぷり用意されている
 コーエーの「信長の野望」シリーズは、日本の戦国時代をモチーフに群雄たちの活躍を描いた歴史シミュレーションゲーム。ゲームの目的は非常に簡潔で、日本全国の大名家の中から好みの大名を1家選び、配下武将とともに軍備を整えて勢力拡大をはかりつつ、最終的に全国統一を果たすことだ。

 戦国時代は、司馬遼太郎や黒澤明をはじめとした数々の作家、監督が作品の題材として繰り返し取り上げてきた、日本史の中でもひときわ知名度の高い時代だ。そうした作中で目覚ましい活躍を遂げる日本史上の英雄のひとりとして、濃厚な戦国ロマンと自分だけのオリジナルドラマを楽しめるのが「信長の野望」シリーズ最大の醍醐味である。

 基本的なゲームシステムは、内政、外交、軍備増強などを行なう内政フェイズと、野戦や攻城戦で敵勢力を撃破する合戦フェイズからなり、これは初回作から第10作目「蒼天録」に至るまで変わらない。もっとも、両フェイズとも実行可能な命令は初回作とは比較にならないほど増えており、モチーフとする舞台は常に同じながら、プレーヤーが得られるゲーム体験は毎回異なっている。信長ファンが絶えず新作を待ち望む理由、あるいは新作に拒否反応を起こす理由はこのあたりの事情による。

 また、信長シリーズは、各作品ごとに「テーマ」があり、それが大きな魅力のひとつになっている。具体例をあげると「武将風雲録」は文化、技術、「覇王伝」は論功行賞による人心掌握、「天翔記」は軍団制、「将星録」はリアルマップによる内政と合戦の結合、「烈風伝」は大名威信、「嵐世記」は諸勢力といった具合だ。これらテーマは、1作限りのこともあれば、次作にも盛り込まれることもある。「蒼天録」ではこのうち軍団制、大名威信、諸勢力などのシステムがそのまま受け継がれている。

 さて、「蒼天録」のテーマは冒頭でも触れたように“下克上”。下克上とは、下位が上位に克(か)つ、戦国時代における下層階級の台頭が頻発する社会風潮を端的に表した言葉だ。これまでのシリーズ作品では、プレーヤーは大名でしかプレイできなかったため、この点は無視され続けてきた。「蒼天録」では、この戦国の裏舞台を描くために、大名のみならず、方面軍司令官である軍団長、そして各城の最高責任者である城主の3クラスでプレイすることが可能になっている。それでは以下、下克上の詳細について見ていこう。

前半の艶やかさと後半の死闘ぶりが対照的な「蒼天録」オープニングムービー。集結した忍者集団を前に必死の防戦を続ける信長公。チェコフィルの演奏もいい。ゲームの内容をよく象徴した非常に見応えのあるムービーだ


■ 全国にひしめく有力武将になって思いのままのプレイを堪能しよう

「蒼天録」ではすべての城主を選択できる。画面はシナリオ「桶狭間の戦い」で今川家と隣接する城主柴田勝家
軍団長に次々に転封を言い渡される。発言力が弱いうちは黙って従うしかない
朝廷から貰える「大義名分」は下克上で大きな効果を発揮する。独立前は朝廷に足繁く通っておきたい
 今回、大名、軍団長、城主の3クラスでプレイできるようになったことで、日本全国にあるすべての城が選択対象になっている。大名のいる城を選べば全城を束ねる大名でプレイすることになり、それ以外なら軍団長、もしくは城主でプレイすることになる。大名以外でプレイする場合、上位の武将から攻撃目標が下され、その結果如何によっては軍団長に格上げされたり、解任されたり、へんぴな場所に転封されたり、最前線に送り込まれたりと、実にさまざまな出来事が起こる。これは実に新鮮な感覚だ。

 適材適所の環境下で実力どおりの戦功をあげ、大名から慰労を受けたり、家宝をもらったりと秀吉ばりの出世街道を邁進できればそれに越したことはないが、その逆もありうるところが「蒼天録」のおもしろいところ。この点が「三國志VIII」の全武将プレイシステムと本質的に異なるところだ。

 敵城の攻略に必要な強力な人材が獲得できなかったり、攻略目標が遠く離れていたり、突然軍団長を解任されたり、指示どおり城の包囲を続けていたら突然退却命令がくだるなど、思いどおりにいかないことも多い。特にシナリオ「本能寺の変」の織田家でプレイしていると、大局的な理由から目まぐるしく領地が変わる。

 こちらとしては戦功を立てるのに適した最前線の城か、農業や商業の発達した豊かな城が望ましいが、そんなことはまったくおかまいなしだ。あえてそうしていると思われるが、この大名の強引な転封政策がプレーヤーの下克上魂に火を付ける。ただ単に下克上を可能にするシステムを搭載しただけでなく、プレイ中にそれを実行させたくなる気にさせるところが、「蒼天録」の下克上システムのユニークなところだ。

 ともかく、そうしたとき、プレーヤーの選択肢のひとつとして提供されているのが「下克上」。やり方は大別して以下の3つの方法が用意されている。

「下克上勧誘」
自分を盟主として周囲の城主や軍団長を誘って、十分な応諾者が揃ったところで大名から独立する。失敗すると独立前に大名から成敗される可能性がある。独立せずに、集団で他家に鞍替えすることも可能

「下克上提案」
ほかの城主に独立を促す方法。提案を受けた城主が独立すると、プレーヤーは自動的に独立勢力に鞍替えする。ある意味、一番安全な下克上の方法

「お家のっとり」
大名後継者として合法的(?)に大名になる方法。まず大名の姫を嫁にもらって「提案」で大名の後継者となり、そのあと大名に「隠居」を迫って自ら大名になる。「提案」で評定参加者(大名+全軍団長)の過半数の支持を集める必要がある

 いずれの方法を採るにしても、朝廷や幕府、評定参加者に対する根回しが必要で、時間と金がかかる。無理にそうしなくても、周到な根回しをして評定に望み、思いどおりの結果を出す影の支配者になることも可能だが、軍団長、城主でプレイしたときはぜひ実行してみるといいだろう。

武功を立ててついに織田家の第5軍団長になった前田利家。北陸方面完全制覇が任務。よっしゃーと思ったら、いきなり目標が離反した斯波家に変わり、もたもたしていたら軍団長を解任に。また城主からやり直し。「蒼天録」は利家クラスの中級武将でプレイするのが一番おもしろい


■ 忍者軍団を組織せよ! 謀略性の高い政略フェイズ

忍者同士の死闘がアツい。Bクラス以上の戦いになると延長引き分け(?)になることもあるが、基本はどちらかが死ぬ
利用する機会は少ないがなかなか楽しい評定シーン。各軍団長との友好度と発言力の大きさが効果を発揮する。ここは秀吉を説得しよう
 「蒼天録」は1年4ターンで展開し、1ターンは2つのフェイズで構成されている。政略フェイズは、プレーヤーの身分に応じたさまざまな内政作業を行ない、そのあとにまわってくる軍略フェイズでは、リアルマップ上で軍勢を動かし、攻城戦や野戦を行なっていく。上述したように「蒼天録」は下克上という大きな拡張が施されているとはいえ、基本的な展開は前作「嵐世記」と同じと考えていい。

 政略フェイズにおける戦術的な部分での大きな変更点は、忍者の重要性が飛躍的に高まっていることだ。忍者による各種謀略の効果は絶大で、敵勢力との決戦前には忍者の暗躍が欠かせない。今回、忍者は全国に点在する諸勢力のひとつ「忍びの里」からまとめて借り受けるようになっており、費用さえまかなえれば10人でも20人でも雇うことができ、自由に全国の城に派遣することができる。

 忍者が実行可能な謀略にはおもに、敵城の防御力を下げる破壊、対象武将と任意の第3者との友好度を下げる流言、武将を殺させる襲撃、城主と主君の仲を裂いて主君の手で城主を殺させる謀殺の4つがある。使用頻度はプレイスタイルによって変わってくるが、普通にプレイしていれば破壊を多く利用することになるだろう。コマンドの成否は忍者の能力(S~Eまで6段階)によるが、任務遂行の前に護衛の忍者に発見され、戦闘になる場合がある。これがなかなかアツい。

 戦闘はオートで処理され、必ず片方が死亡か負傷する。大大名の本拠地などは能力の高い忍者が守りを固めていることが多く、こちらも精鋭忍者集団を送り込む必要があり、その場合、4人殺害して、3人死亡するといった壮絶な闇夜の死闘が繰り広げられる。忍者はいきなりS、Aクラスを借り受けることはできず、D、Eクラスから長い時間をかけてじっくり育てて行く必要があるため、戦闘シーンは常にドキドキものだ。

 ちなみに今回、上級難易度でプレイすると、前線の城は破壊されまくり、軍団長や城主は流言を信じ込み、プレーヤーが大名の場合は城主が謀反の噂ありの情報が次々に届き、疑心暗鬼に陥ってしまう。忍者の謀殺工作とはわかっているとはいえ、流言で君主に対する忠誠度が下がっているのは事実であり、なかなか悩ませてくれる。「蒼天録」の忍者システムは、「天翔記」以前の忍者暗殺の恐怖に近い、主君の精神的プレッシャーをうまく表現して秀逸なシステムだ。

忍者の三大任務「襲撃」、「破壊」、「流言」。「襲撃」はなかなか成功しないが、邪魔な武将を取り除く一番てっとり早い方法だ

今回も姫武将は登場する。プレーヤーの能力を受け継ぎ、自らの分身として大活躍してくれる。養子縁組にすることで他家の跡取りにすることも可能だ


■ 秀吉の“中国大返し”を彷彿とさせる戦略戦が楽しい軍略フェイズ

軍略フェイズでは、全軍勢ユニットが同時に行軍するため、一歩先を読んだ行動が必要になる
軍勢が一カ所に集結すると、合戦では自動的に合流した状態で始まり、もっとも身分の高い武将が指揮を執ることになる
 軍略フェイズは、日本全土が描かれた特大マップ上で軍勢ユニットを動かして敵勢力の撃破を図っていく戦闘に特化したフェイズだ。雰囲気的には前々作「烈風伝」の軍勢ユニットだけが動き回るようなフェイズと考えればいいが、「全勢力が同時に動く」という点が本質的に同作とは異なっている。

 とはいえ、完全リアルタイム制ではなく、軍略フェイズ開始直後は時間の歩みは止まっている。この間、プレーヤーは自城から軍勢を出撃させたり、同盟勢力に出撃を促したり、あるいは前ターンから敵城を包囲させている軍勢ユニットに対して、力攻を指示したりとさまざまなことができる。すべての指示を終えたあと、画面右下の「命令」ボタンを押せば、時間が進み始め、マップ上のすべての軍勢ユニットが動き始める。そして次の指示が必要になれば、再度時間を止めて指示を下していくわけである。

 時間は4カ月分たっぷりあり、その気になれば1フェイズ中に2城陥とすことも可能で、複数の軍団を束ねる大大名ともなれば、波状攻撃的に5つや10つの城を一気に陥とせたりなど、この辺の感覚は「天翔記」に近く、実におもしろい。このシステムの特筆すべきポイントは、自城を攻められながら敵城を攻め続けることが可能なところ、あるいは敵の侵攻を察知した段階で侵攻を途中でやめて引き返せるところだ。

 こういったシステムの柔軟性も「蒼天録」の大きな魅力のひとつで、上記のように柔軟な行軍ができることに加え、攻城戦では段階的な攻撃が可能になっている。攻城戦は、本丸を囲むように3段構えの曲輪が用意されており、3つの城門をすべて撃ち破るか、敵の全滅させることで勝利となる。今回、30日経つことで強制的に引き分けとなり、しきり直しでまた最初の門から、といった理不尽なシステムは解消され、第1の曲輪に至る城門を破壊すれば、一度退却してふたたび攻めると城門は壊れっぱなしになっている。実に建設的なシステムだ。

 なお攻城戦では、部隊移動は基本的にオートで、少しだけ下がるという行動は取れない。門を挟んで敵と対峙しながら城門の破壊や弓矢/鉄砲による攻撃、挑発/破壊といった武将が備える特殊攻撃を行なっていく展開になる。移動する手間が省けて戦術面に集中できるようになった反面、虎の子の鉄砲隊を矢玉に当たらない場所に下げて、敵の出撃に備えるといった細かい行動はとれなくなっている。この辺は賛否両論ありそうだが、1回の攻城戦にかかる時間はずっと短くなっており、個人的には大いに評価したいシステムだ。

壮絶な消耗戦になる攻城戦。敵兵力が少なければ、門を壊さずに弓矢で攻撃して降伏を狙う方法が有効だ

野戦最強の兵種騎馬鉄砲隊。伊達政宗をはじめ伊達家中の数名だけが備える高い機動力と攻撃力を備えた兵種だ
諸勢力のひとつ国人衆は、支持する大名家の援軍として軍勢ユニットを出撃してくれる。仲間にすると頼りになる存在だが、敵に回すとやっかいだ
 一方の野戦は、シリーズ最大の醍醐味といっていい軍勢ユニット同士がぶつかり合う野外決戦。今回の戦闘システムは「将星録」に似ているが、もっと複雑に、より臨場感の高い内容に仕上がっている。野戦も攻城戦と同様に移動はオートで処理され、手前と最奥に双方が陣を構えた状態で、左翼、中翼、右翼の3部隊で激しいもみ合いを展開する。最終的に部隊を敵本陣までなだれ込ませれば勝利となる。

 野外戦で重要なのは、ぶつかり合う敵部隊との兵種相性。歩兵は槍兵に強く、槍兵は騎馬兵に強いといった相性があらかじめ決められており、この相性がそのまま部隊の「攻撃力」になっている。つまり、武将の統率(旧呼称では武力)や兵数は、部隊の攻撃力とは関係ないシステムなのだ。このため、兵種の相性が悪いと、大軍を擁する大名の部隊でもがんがん押されてしまう。この感覚もまた実に新鮮で、史実はここまで単純ではないとはいえ非常に近いルールといえそうだ。

 ちなみに武将の「統率」の効果は、「突撃」「三段(撃ち)」など特殊攻撃の実行に必要な戦意が早く貯まり、そして相対する敵武将との差が士気の低下スピードになる。この“抜け道”があるため、織田信長、徳川家康クラスの統率90台の大名なら、敵の兵種にかかわらず正面からの力押しで勝ててしまうのは残念だった。

 コーエーはこの野戦システムを「姉川の合戦」から着想したように見受けられる。同合戦は、織田・徳川連合軍と浅井・朝倉連合軍が滋賀県姉川を舞台に行なった戦いで、この合戦で織田軍は浅井軍にさんざんに打ちのめされ、徳川軍の驚異的な粘りと家康の機転で勝利を収めている。ゲームでもこれに近い雰囲気の合戦は楽しめるが、中翼に織田信長を鉄砲隊で出せば、潰走するのはまず間違いなく敵のほうだ。この点に関しては、統率を絶対値とするシステム根本に無理があるように感じるのだが、どうだろう?

 さて、まだまだ書き足りないことは山ほどあるが、あとはユーザー自身に確かめてもらうことにしてひとまずこの稿を終えることにしたい。「信長の野望 蒼天禄」は、リアルタイムストラテジー合戦のゲームエンジンを未完成のまま発売してしまった前作「嵐世記」に比べれば確実にゲームとしての完成度は高まっている。

 個人的には、今でも最高傑作と確信している第6作「天翔記」に匹敵するレベルの名作に仕上がっていると自信を持ってお勧めできる。「信長の野望」ファンのみならず、多くのひとにプレイしてもらいたい作品である。最後にひとつ。「蒼天録」のエンディングは10作目にふさわしい内容に仕上がっている。「信長の野望」ファンならぜひ1度は見ておこう。

あらかじめ敵の兵種がわかっている場合は、相性を考えて第一陣を決める。敵から野戦を仕掛けられた場合は、平野、山岳、森林、海岸などにおびき寄せることができ、やや有利に戦える

(c)2002 KOEI Co.,Ltd. All Rights Reserved.


【信長の野望 蒼天録】
  • ジャンル:ジャンル:歴史シミュレーションゲーム
  • 開発/発売元:コーエー
  • 価格::11,800円
  • 対応OS:Windows 98/Me/2000/XP
  • CPU:Pentium II 333MHz以上(Pentium III 500MHz以上を推奨)
  • メモリ:64MB以上(128MB以上を推奨)
  • HDD:800MB以上
  • ビデオメモリ:4MB以上(16MB以上を推奨)


□コーエーのホームページ
http://www.gamecity.ne.jp/
□「信長の野望 蒼天録」公式ホームページ
http://www.gamecity.ne.jp/products/products/ee/new/souten/index.htm
□関連情報
【2001年12月23日】コーエー、「信長の野望 蒼天録」を2月に発売 10作目が実現する「下克上」の全容を一挙大公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011223/souten.htm
【2002年6月19日】「信長の野望 蒼天録」プロモーションムービー
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020619/demo0619.htm

(2002年6月27日)

[Reported by 中村聖司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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