★ PCゲームレビュー★
コーエーの「信長の野望」シリーズ第10作目「信長の野望 蒼天録」が、いよいよ6月28日に発売される。「下克上」という刺激的なキャッチフレーズとともに秘密のヴェールを脱ぎ、長い開発期間を経て完成した同社のフラッグシップシリーズ最新作は、最終的にどのような作品に仕上がったのか。じっくり見ていこう。 ■ テーマは“下克上”。 下克上を狙いそして恐れる新しい戦国世界
戦国時代は、司馬遼太郎や黒澤明をはじめとした数々の作家、監督が作品の題材として繰り返し取り上げてきた、日本史の中でもひときわ知名度の高い時代だ。そうした作中で目覚ましい活躍を遂げる日本史上の英雄のひとりとして、濃厚な戦国ロマンと自分だけのオリジナルドラマを楽しめるのが「信長の野望」シリーズ最大の醍醐味である。 基本的なゲームシステムは、内政、外交、軍備増強などを行なう内政フェイズと、野戦や攻城戦で敵勢力を撃破する合戦フェイズからなり、これは初回作から第10作目「蒼天録」に至るまで変わらない。もっとも、両フェイズとも実行可能な命令は初回作とは比較にならないほど増えており、モチーフとする舞台は常に同じながら、プレーヤーが得られるゲーム体験は毎回異なっている。信長ファンが絶えず新作を待ち望む理由、あるいは新作に拒否反応を起こす理由はこのあたりの事情による。 また、信長シリーズは、各作品ごとに「テーマ」があり、それが大きな魅力のひとつになっている。具体例をあげると「武将風雲録」は文化、技術、「覇王伝」は論功行賞による人心掌握、「天翔記」は軍団制、「将星録」はリアルマップによる内政と合戦の結合、「烈風伝」は大名威信、「嵐世記」は諸勢力といった具合だ。これらテーマは、1作限りのこともあれば、次作にも盛り込まれることもある。「蒼天録」ではこのうち軍団制、大名威信、諸勢力などのシステムがそのまま受け継がれている。
さて、「蒼天録」のテーマは冒頭でも触れたように“下克上”。下克上とは、下位が上位に克(か)つ、戦国時代における下層階級の台頭が頻発する社会風潮を端的に表した言葉だ。これまでのシリーズ作品では、プレーヤーは大名でしかプレイできなかったため、この点は無視され続けてきた。「蒼天録」では、この戦国の裏舞台を描くために、大名のみならず、方面軍司令官である軍団長、そして各城の最高責任者である城主の3クラスでプレイすることが可能になっている。それでは以下、下克上の詳細について見ていこう。
■ 全国にひしめく有力武将になって思いのままのプレイを堪能しよう
適材適所の環境下で実力どおりの戦功をあげ、大名から慰労を受けたり、家宝をもらったりと秀吉ばりの出世街道を邁進できればそれに越したことはないが、その逆もありうるところが「蒼天録」のおもしろいところ。この点が「三國志VIII」の全武将プレイシステムと本質的に異なるところだ。 敵城の攻略に必要な強力な人材が獲得できなかったり、攻略目標が遠く離れていたり、突然軍団長を解任されたり、指示どおり城の包囲を続けていたら突然退却命令がくだるなど、思いどおりにいかないことも多い。特にシナリオ「本能寺の変」の織田家でプレイしていると、大局的な理由から目まぐるしく領地が変わる。 こちらとしては戦功を立てるのに適した最前線の城か、農業や商業の発達した豊かな城が望ましいが、そんなことはまったくおかまいなしだ。あえてそうしていると思われるが、この大名の強引な転封政策がプレーヤーの下克上魂に火を付ける。ただ単に下克上を可能にするシステムを搭載しただけでなく、プレイ中にそれを実行させたくなる気にさせるところが、「蒼天録」の下克上システムのユニークなところだ。 ともかく、そうしたとき、プレーヤーの選択肢のひとつとして提供されているのが「下克上」。やり方は大別して以下の3つの方法が用意されている。
「下克上勧誘」
「下克上提案」
「お家のっとり」
いずれの方法を採るにしても、朝廷や幕府、評定参加者に対する根回しが必要で、時間と金がかかる。無理にそうしなくても、周到な根回しをして評定に望み、思いどおりの結果を出す影の支配者になることも可能だが、軍団長、城主でプレイしたときはぜひ実行してみるといいだろう。
■ 忍者軍団を組織せよ! 謀略性の高い政略フェイズ
政略フェイズにおける戦術的な部分での大きな変更点は、忍者の重要性が飛躍的に高まっていることだ。忍者による各種謀略の効果は絶大で、敵勢力との決戦前には忍者の暗躍が欠かせない。今回、忍者は全国に点在する諸勢力のひとつ「忍びの里」からまとめて借り受けるようになっており、費用さえまかなえれば10人でも20人でも雇うことができ、自由に全国の城に派遣することができる。 忍者が実行可能な謀略にはおもに、敵城の防御力を下げる破壊、対象武将と任意の第3者との友好度を下げる流言、武将を殺させる襲撃、城主と主君の仲を裂いて主君の手で城主を殺させる謀殺の4つがある。使用頻度はプレイスタイルによって変わってくるが、普通にプレイしていれば破壊を多く利用することになるだろう。コマンドの成否は忍者の能力(S~Eまで6段階)によるが、任務遂行の前に護衛の忍者に発見され、戦闘になる場合がある。これがなかなかアツい。 戦闘はオートで処理され、必ず片方が死亡か負傷する。大大名の本拠地などは能力の高い忍者が守りを固めていることが多く、こちらも精鋭忍者集団を送り込む必要があり、その場合、4人殺害して、3人死亡するといった壮絶な闇夜の死闘が繰り広げられる。忍者はいきなりS、Aクラスを借り受けることはできず、D、Eクラスから長い時間をかけてじっくり育てて行く必要があるため、戦闘シーンは常にドキドキものだ。
ちなみに今回、上級難易度でプレイすると、前線の城は破壊されまくり、軍団長や城主は流言を信じ込み、プレーヤーが大名の場合は城主が謀反の噂ありの情報が次々に届き、疑心暗鬼に陥ってしまう。忍者の謀殺工作とはわかっているとはいえ、流言で君主に対する忠誠度が下がっているのは事実であり、なかなか悩ませてくれる。「蒼天録」の忍者システムは、「天翔記」以前の忍者暗殺の恐怖に近い、主君の精神的プレッシャーをうまく表現して秀逸なシステムだ。
■ 秀吉の“中国大返し”を彷彿とさせる戦略戦が楽しい軍略フェイズ
とはいえ、完全リアルタイム制ではなく、軍略フェイズ開始直後は時間の歩みは止まっている。この間、プレーヤーは自城から軍勢を出撃させたり、同盟勢力に出撃を促したり、あるいは前ターンから敵城を包囲させている軍勢ユニットに対して、力攻を指示したりとさまざまなことができる。すべての指示を終えたあと、画面右下の「命令」ボタンを押せば、時間が進み始め、マップ上のすべての軍勢ユニットが動き始める。そして次の指示が必要になれば、再度時間を止めて指示を下していくわけである。 時間は4カ月分たっぷりあり、その気になれば1フェイズ中に2城陥とすことも可能で、複数の軍団を束ねる大大名ともなれば、波状攻撃的に5つや10つの城を一気に陥とせたりなど、この辺の感覚は「天翔記」に近く、実におもしろい。このシステムの特筆すべきポイントは、自城を攻められながら敵城を攻め続けることが可能なところ、あるいは敵の侵攻を察知した段階で侵攻を途中でやめて引き返せるところだ。 こういったシステムの柔軟性も「蒼天録」の大きな魅力のひとつで、上記のように柔軟な行軍ができることに加え、攻城戦では段階的な攻撃が可能になっている。攻城戦は、本丸を囲むように3段構えの曲輪が用意されており、3つの城門をすべて撃ち破るか、敵の全滅させることで勝利となる。今回、30日経つことで強制的に引き分けとなり、しきり直しでまた最初の門から、といった理不尽なシステムは解消され、第1の曲輪に至る城門を破壊すれば、一度退却してふたたび攻めると城門は壊れっぱなしになっている。実に建設的なシステムだ。
なお攻城戦では、部隊移動は基本的にオートで、少しだけ下がるという行動は取れない。門を挟んで敵と対峙しながら城門の破壊や弓矢/鉄砲による攻撃、挑発/破壊といった武将が備える特殊攻撃を行なっていく展開になる。移動する手間が省けて戦術面に集中できるようになった反面、虎の子の鉄砲隊を矢玉に当たらない場所に下げて、敵の出撃に備えるといった細かい行動はとれなくなっている。この辺は賛否両論ありそうだが、1回の攻城戦にかかる時間はずっと短くなっており、個人的には大いに評価したいシステムだ。
野外戦で重要なのは、ぶつかり合う敵部隊との兵種相性。歩兵は槍兵に強く、槍兵は騎馬兵に強いといった相性があらかじめ決められており、この相性がそのまま部隊の「攻撃力」になっている。つまり、武将の統率(旧呼称では武力)や兵数は、部隊の攻撃力とは関係ないシステムなのだ。このため、兵種の相性が悪いと、大軍を擁する大名の部隊でもがんがん押されてしまう。この感覚もまた実に新鮮で、史実はここまで単純ではないとはいえ非常に近いルールといえそうだ。 ちなみに武将の「統率」の効果は、「突撃」「三段(撃ち)」など特殊攻撃の実行に必要な戦意が早く貯まり、そして相対する敵武将との差が士気の低下スピードになる。この“抜け道”があるため、織田信長、徳川家康クラスの統率90台の大名なら、敵の兵種にかかわらず正面からの力押しで勝ててしまうのは残念だった。 コーエーはこの野戦システムを「姉川の合戦」から着想したように見受けられる。同合戦は、織田・徳川連合軍と浅井・朝倉連合軍が滋賀県姉川を舞台に行なった戦いで、この合戦で織田軍は浅井軍にさんざんに打ちのめされ、徳川軍の驚異的な粘りと家康の機転で勝利を収めている。ゲームでもこれに近い雰囲気の合戦は楽しめるが、中翼に織田信長を鉄砲隊で出せば、潰走するのはまず間違いなく敵のほうだ。この点に関しては、統率を絶対値とするシステム根本に無理があるように感じるのだが、どうだろう? さて、まだまだ書き足りないことは山ほどあるが、あとはユーザー自身に確かめてもらうことにしてひとまずこの稿を終えることにしたい。「信長の野望 蒼天禄」は、リアルタイムストラテジー合戦のゲームエンジンを未完成のまま発売してしまった前作「嵐世記」に比べれば確実にゲームとしての完成度は高まっている。
個人的には、今でも最高傑作と確信している第6作「天翔記」に匹敵するレベルの名作に仕上がっていると自信を持ってお勧めできる。「信長の野望」ファンのみならず、多くのひとにプレイしてもらいたい作品である。最後にひとつ。「蒼天録」のエンディングは10作目にふさわしい内容に仕上がっている。「信長の野望」ファンならぜひ1度は見ておこう。
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□コーエーのホームページ http://www.gamecity.ne.jp/ □「信長の野望 蒼天録」公式ホームページ http://www.gamecity.ne.jp/products/products/ee/new/souten/index.htm □関連情報 【2001年12月23日】コーエー、「信長の野望 蒼天録」を2月に発売 10作目が実現する「下克上」の全容を一挙大公開 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011223/souten.htm 【2002年6月19日】「信長の野望 蒼天録」プロモーションムービー http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020619/demo0619.htm (2002年6月27日)
[Reported by 中村聖司] |
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