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会場:シンガポール・Erectronic Arts Asiaオフィス
■ Will Wright氏、すべての産業界に向けて「型破りな製品ブランディング」を語る
ちなみに、本フォーラムの案内資料によれば、一般参加料金は2,500シンガポールドルから3,500シンガポールドル(8月18日現在、1シンガポールドル=約78円)となっており、メインターゲットは各業界のマーケティングディレクター、プロデューサークラスだ。会場はシンガポール市の中枢近くに位置する一流ホテルにあって、相当に格式の高いイベントであったことが伺われる。 そんな中で製品のブランディングについて語るWright氏だったが、やはり近年におけるライフワークが「SPORE」の制作、またそのブランドの確立であったことは間違いなく、本講演の内容は、先日シンガポール動物園で行なわれたEA Asiaのプライベートイベント「WILL WRIGHTS AND FRIENDS」で語った要素と多くの部分で共通していた。
拍手で壇上に迎えられたWright氏は、はじめに「私はマーケティングの専門家でもなんでもありませんし、私がわかるマーケティングといえば八百屋さんごっこくらいのものです。右肩上がりのグラフを見たら、それはいいことだとぐらいしかわかりません」と謙遜して見せる。とはいえ全く臆することなく製品のブランディングについて独自の話題を展開していく。
このスピーチで特に印象的だったのが、Wright氏が言う「パーソナル」、「パーソナライズ」という言葉だ。これは個人、個人化という意味になるが、Wright氏は前述のAT&Tに限らず色々なブランドが、個人にとって異なる捉えられ方をしていること、またそのプロセスを構成する個人の思考の動きに着目しており、それを様々な方法で表現していた事が興味深い。
ゲームの例として「SimCity」を挙げたWright氏は、「『SimCity』は街を作るゲームですが、実際に街を作るのは2番目の段階です。顧客は最初にパッケージを見て、頭の中で街を作ります。それが完成したら実際に試してみたくなって、パッケージをレジに持って行くのです」と、ユーザー心理を分析する。このほかにも、ライトユーザーからコアゲーマーまで様々な形態をとるユーザー各自の心理を例に挙げるなど話題を広げつつ、各個人とコミュニティの関係、そしてブランドとの関係を、Wright氏独自の世界観で表現して見せていた。
このあたりは、ひとつのゲームでありながら沢山の顔を持つ「SPORE」のゲームデザインに通じる部分を非常に強く感じた。「SPORE」には、「SPORE Creature Creator」というキャラクタメイキングツールで得られる楽しみがある一方で、ゲーム本編では全く趣の異なる5つのゲームステージがあり、また、ニンテンドーDS版の「SPORE Creatures」や、iPhone版の「SPORE Origins」という、これまた異なるスタイルのゲームタイトルが展開している。ここには、ひとつのブランドを個人の楽しみ方に合わせて多方面に展開するアプローチが見られるが、これがWright氏のいう「パーソナライズ」なのかもしれない。 スピーチの最後には完全に「SPORE」の話題となり、「SPORE Creature Creator」の成功、ユーザーコミュニティの能力は神の38%であることなど、他のゲーム関連カンファレンスでも見られた内容が語られた。そして、「このように、コミュニティに参加することにより、個人は様々な事を学ぶことができます。学ぶことは単に知識を得ることではなく、次の学びへのモチベーションを与えるものです。コンピューターゲームがその助けになればと思います」と話して講演を終えた。
スピーチ後の質疑応答では、ゲーム業界以外の産業人からの質問が相次いだが、その中で面白かったものをひとつピックアップしてご紹介したい。それは「Wright氏がシンガポールの首相になったら、どんな町を作りますか?」というもので、明らかに「SimCity」を意識したものと思われた。ところが実は、シンガポールの略記は「S-PORE」と書くため、「SPORE」というと「シンガポールの話か?」と連想してしまう人もいるようで、そこから質問につながったのかもしれない。そしてこの質問に対しては、「現実の町作りはゲームとは比べものにならないほど複雑ですから」と軽やかにかわして見せたWill Wright氏だった。
■ 「SPORE」を可能なすべてのプラットフォームに提供したい──Will Wright氏インタビュー
アジア中から沢山のメディアが集まった今回の催しでは、英語圏向けのグループインタビューセッションが取られたあと、各国語通訳付きでのソロインタビューセッションが取られ、Wright氏としてはインタビューづくしの大変にタイトなスケジュールになったようだ。そんな中でもWright氏は我々に対して「コンニチワ」と日本語で挨拶し、優しい心遣いを見せてくれた。
今回ぶつけた質問は、発売を目前に控え、あとは実際にプレイするだけという状態の「SPORE」そのものについては控えめに、本編発売後の展開とWill Wright氏自身のこれからの関心事を探ることが主要なテーマとなった。
Will Wright氏: 正確には7年かかりました。最初の「The Sims」と同じくらいの期間です。完成することができてとても嬉しく思っています。 ────「SPORE」の開発最終段階では、Soren Johnson氏(Firaxis Gamesで「Civilization IV」のリードゲームデザインを務めたゲームデザイナー)がチームに参加しましたね。彼が果たした役割はどのようなものだったのでしょうか? Will Wright氏: Sorenは「Civilization」シリーズでストラテジーゲームの素晴らしい経験を積んでおり、それが「SPORE」で発揮されました。彼は「文明ステージ」の全体を担当し、また「文明ステージ」に前後でつながる「部族ステージ」と「宇宙ステージ」にもタッチしています。 Sorenがチームに参加したときに、まず私は「文明ステージ」を「The Sims」のカジュアルプレーヤーにも理解できて楽しめるものにして欲しいと彼に希望しました。しかし同時にSorenは、ゲームをハードコアゲーマーの興味を引けるものにしたいと考えていました。
そうして、ゲームを手ごたえのある内容にするため、沢山の変更が加えられたと思います。特に大きいのは、イージー・ミディアム・ハードの難易度設定を導入したことです。これは完全にSorenのアイディアです。このおかげで、ハードモードでプレイすれば、ハードコアゲーマーが「SPORE」を非常に手ごたえのあるゲームだと思えるはずです。
Will Wright氏: MMOのすべてに否定的というわけではありません。それに、私の元で「SPORE」の仕事をしているたくさんのゲームデザイナーがMMOをプレイしていますよ。 「World of Warcfart」について言うと、その成功は本当に記録的なものだと思います。思うに、「WoW」は発明的な作品ではありませんが、「Ultima Online」や「EverQuest」といったMMORPGの良いところを完璧に融合させ、最適なゲームデザインを実現しています。 ちなみに「SPORE」の開発チームでは、各ゲームステージを別のゲームデザイナーが担当しています。その中で「宇宙ステージ」を担当した女の子のゲームデザイナーがいまして、彼女は「EverQuest」のヘビープレーヤーです。実際にプレイしていただけると、インターフェイスなど色々な部分でその影響が出ていることに気がつくかもしれません。各ステージは全く違う雰囲気を持っているのですが、「宇宙ステージ」は非常にMMO的な雰囲気がありますよ。 ────例えば「SPORE Online」のように、完全なオンラインマルチプレーヤーのゲームを作る構想はお持ちでしょうか。 Will Wright氏: 可能性については検討していますが、しかしMMOタイプのゲームには、沢山のゲームデザイン上の制約があります。MMOではズルをすることができませんし、ポーズをして休憩することができません。また、すべてのプレーヤーには同等の力を持たせなければならず、1人のプレーヤーがスーパーパワーを持てば、他のプレーヤーのゲーム体験を破壊してしまうことになります。 それに、オンラインゲームでは一般的に何らかの形でプレーヤーに課金することになります。「SPORE」では、そういった制約を受けずにMMOライクなプレイ体験を実現することを試みています。 ────Wright氏が関わったMMOについて、「Sims Online」では残念な結果に終わったと記憶しますが、将来的に再チャレンジする意思はありますか。 Will Wright氏: 一応視野には入れており、現在のところは、北米を対象に少額課金制が機能するかどうか、少額課金のシステムを持つバージョンの「Sims」を使って実験してみたいと思っています。 またこれは、アジアマーケット向けの基本的なシステムになってくると思います。長い目で見れば、アジアは北米、欧州以外の地域を視野に入れる上で大変重要だからです。 それに「The Sims」ではカジュアルなプレーヤーが多く、月額制料金を支払ってもらうことはとても難しいと考えています。そこでもっと手軽な少額課金のシステムが有効です。 ────Wright氏自身が注目しているオンラインゲームがあれば教えてください。 Will Wright氏: 最近ではEA DICEの「Battlefield Heroes」に注目しています。とてもユーモラスで、楽しそうです。
私がFPSゲームに注目していることが珍しいかもしれませんが、実のところ年に1本くらいのペースでFPSゲームをプレイしているんです。最近では「Call of Duty 4」をとても楽しみました。それに「BattleField」シリーズは大好きです。
Will Wright氏: ニンテンドーDSは非常にカジュアルで、かつ手軽にプレイできるプラットフォームです。ですのでDS版はカジュアルゲーマーや、特に子供向けを意識して制作しました。 またiPhoneは北米で非常に興味深いマーケットになっています。したがってiPhone版は実験的な製品でもあり、他のプラットフォームに比べて大人向けを意識して制作しました。このためDS版とiPhone版は、全く異なる層を狙った製品になっています。 ────日本ではゲーム機のマーケットが主流であるため、プレイステーション 3やXbox 360版の「SPORE」を期待してしまいます。これらの高性能ゲーム機向けに「SPORE」を供給する可能性はありますか? Will Wright氏: 現在のところ正式に言えることはありませんが、いずれは「SPORE」を可能なすべてのプラットフォームに提供したいと考えています。 ────最も可能性のあるプラットフォームを、強いて言うならば?
Will Wright氏: それがまだ言えません。(日本語で)ゴメンナサイ(笑)。
Will Wright氏: 「SPORE」では、「The Sims」とは違う方向性にしたいと考えています。というのは、「The Sims」では毎回同じ既存のプレーヤーに対して新コンテンツを提供してきましたが、「SPORE」では横方向に広げていくアプローチをとります。 例えばPCで「SPORE」本編をプレイしたことがなくても、「SPORE Creature Creator」では別のやりかたで楽しめます。このほかにも、PCでの深いゲーム体験、モバイルでの手軽なゲーム体験など、色々な楽しみ方を提供して新たなユーザーを獲得していくことができると思います。 ────現時点で具体的に考えているプランはありますか? Will Wright氏: まずは実際に「SPORE」が発売されてから、プレーヤーのフィードバックを受けることから始めたいと思います。プレーヤーから学ぶことはとても多いのです。 私たちが拡張パックを企画するときは、もちろん事前にぼんやりとしたイメージはあるのですが、実際に「The Sims」で行なったように、プレーヤーが実際にゲームの中でどのような行動をとっているのか、何を必要としているのかということを見て、学んでから具体的なことを決めるのです。 ────例えば、既に沢山のユーザーがプレイしている「SPORE Creature Creator」で多い要望というのは何でしょうか? Will Wright氏: (頭を抱えて)オーゴッド!! たくさんの要望があって大変です。よくある要望は、使える部品を増やしたり、もっと複雑に編集できるようにして欲しいというものですね。毛や羽根を付けられるようにして欲しい、テクスチャをペイントできるようにして欲しいなどです。 中でも深刻な要望は、あるプレーヤーが傑作なクリーチャーを作って「Sporepedia」に公開したとき、他のプレーヤーがそのデータをダウンロードして、少しだけさわり、自分のデータとしてセーブして再公開してしまうことです。ある種の海賊行為というわけです。そういった状況で、個人レベルで戦っているのを見るのがとても興味深いです。 ────それは、一部のユーザーにとって深刻な問題ですね。EA Maxisとしては、その問題をどう解決していくのでしょうか。
Will Wright氏: なんとかする方法を探してはいますが、私たちがすべてをコントロールするわけにはいきませんし、そうするつもりもありません。コミュニティで発生する問題をプレーヤー自身がどう解決するのか、その過程を見守っています。
Will Wright氏: すでに実現してますよ。私の友達も、もうすぐ宇宙に飛び出していきますしね。 ────なるほど、近い宇宙に限れば実現済みですね。ちなみにそのお友達とは、リチャード・ギャリオットのことではないでしょうか(笑) Will Wright氏: その通りです(笑) ────では、人類が別の恒星系に行ったり、銀河全体で繁栄することができるか、という質問では如何でしょう? Will Wright氏: 別の恒星系はとても遠いです。一番近いものでも、光の速さで何年もかかりますからね。ですから、まずは人類そのものではなく、人工知能を送り込むことになることになると思いますね。十分な技術が開発されれば、実際に可能なことになっていくでしょう。 ────最後の質問です。次の10年、ゲームはどのようになっていくと思いますか。Wright氏が抱くビジョンをお聞かせください。 Will Wright氏: エンターテイメントは、より「パーソナル化」していくことになると思います。つまり、コンピュータープログラムが自発的にユーザーを楽しませるメカニズムを備えて、ユーザー各自の好みに合わせてユーザーが希望する楽しみを提供するという「パーソナル」なものになっていくと思います。 ────ありがとうございました。
Will Wright氏: ドウイタシマシテ(笑)。
(2008年8月18日) [Reported by 佐藤カフジ]
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