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Game Developers Conference 2005現地レポート

ウィル・ライト氏が未来構想を語る「The Future of Content」
ライト氏のライフワーク「SPORE」で実演したプロシージャルな世界

3月7日~11日開催(現地時間)

会場:Moscone West Convention Center

 GDC最終日に行なわれたビジョントラック「The Future of Content(コンテンツの近未来像)」は、欧米を代表する巨匠ウィル・ライトの単独講演にふさわしい、素晴らしい内容だった。

 この素晴らしさは多重的なもので、ひとつはライト氏の十八番としてきた「The Sims」シリーズに代表されるシミュレーションゲーム分野におけるひとつの集大成といえる大作「SPORE」を、Electronic Artsの正式発表前にも関わらず講演の題材に用いたこと、。そしてバクテリアから銀河の神までをスケーラブルに描いたその超弩級のシミュレーション内容、最後にライト氏の持論である“プロシージャルな世界”(パラメータとスクリプトによる自動生成世界)をインタラクティブエンターテインメント、要するにゲームの中で初めて実証して見せたことだ。

 講演内容の紹介に入る前にいくつか補足しておくと、「SPORE」は、「The Sims」とほぼ同時期からその存在だけは知られていたプロジェクト。発売時期等の具体的な仕様はまったく不明だが、プラットフォームは少なくともPCを含み、発売元がElectronic Artsであることは確定である。それ以上の情報については、今年5月にロサンゼルスで開催されるE3で発表されるようだ。

 なお、今回、ライト氏が示した一切のパネルの撮影は禁止されたため、肝心の画面素材は一切公開できない。発売元のEAからすればごく妥当の判断だが、ライト氏はやや不満だったらしく「今日のすべてのパネルの撮影は禁止です、と言えと言われました」とコメント。隠そうとする気がまるでない屈託のなさが彼の彼たるゆえんだろう。


■ ライト氏のゲーム観「ストーリーよりプレーヤーの体験を重視すべき」

大混雑となったセッション会場。日本人開発者の参加も多かったようだ
 ライト氏はまず概論として、自身のゲームコンテンツに対する捉え方の一端を紹介。まず「メーカーの努力とゲームの価値は必ずしも比例しない」とし、メーカーの努力は少ないが、大きなバリューを備えたタイトルとしてナムコの「塊魂」を紹介。次にPlayer Valueと題したパネルでは、QualityとVolumeの2軸に、Ownershipという3軸を加えて、新たなユーザーの価値観を提案した。

 格好の例として「Grand Theft Auto: San Andreas」を取り上げ、「このモー(キャラ名)はただの怠け者だが、カットシーンが楽しい。パンツ一丁で街を歩いたり、バービー時計を着けていたりして、こうした変なことや楽しいことをしたという体験を家族に話したりする」と報告。結論として、「今後はスクリプトによる決められたストーリーよりも、プレーヤーの体験を重視する必要がある」と付け加えた。

 次にUbisoftの「Myst」を取り上げ、「『Myst』はプレーヤーに素晴らしい没入感を与えてくれるゲームだ」と褒め称えた後、Myst世界の3Dモデルやテクスチャなどを引き合いに出し、「ただ、作るのが難しかっただろうと思う」とコメント。ゲームのデータサイズが倍々ゲームで膨大化していっていることに懸念を示した。これは言うまでもなく「自分ならこういうゲームは作らないが」という含意が込められてる。

 ライト氏はここで話を転じ、講演のタイトルは適切でなく、「『The Sims』によって何を学んだか」であると切り出した。ライト氏は、チームをリクルート(忍者のコスプレをしたチームメンバーの写真を見せて笑いを誘った)し、特殊な環境での研究改良を行なっていることを報告。さらに話は、ライト氏の子供が天体望遠鏡に夢中で、ライト氏自身は顕微鏡のほうが好きであることといったことなどに飛び、こちらの理解が追いつかなくなってきたところで、ようやく講演のメインである「SPORE」の実演がスタートした。


■ プロシージャルな進化を遂げる“進化論シミュレータ”

「SPORE」を操作するライト氏。これだけスケーラブルなデザインのゲームであるにもかかわらず、ノートPCで動くところが凄い
 まず微生物の世界を映したゲーム画面からスタート。この世界についてライト氏は「アナログのパックマン」と紹介。顕微鏡を覗いたような平面世界の中央に自らの分身がいて、周囲にはマリモのような微生物たちがうようよ動いている。分身は長細い体に2本の触覚、3本の足というアメンボの変態のような容姿。「パックマン」的な要素として、黄緑の長細い微生物が分身をゆっくり追いかけてくる。プレーヤーは、食われないように絶えず動きまわりつつ、生命活動を続けるために捕食を続けることになる。

 ライト氏はしばらく操作した後、ゲーム内エディターを起動し、分身の触角のような部分にパーツを取り付け、分身に攻撃能力を付けた。この選択がまさに「プロシージャルシステム」の一端で、ロボットゲームのように単なる付け替えではなく、ダーウィンの進化論のように、その選択が後々まで影響を及ぼしていくことになる。

 続いてゲームシーンは、進化の過程を経て、原始的な水中世界、そして原始的な陸上世界へと移っていく。ここからは完全なフル3D世界になり、キャラクタの行動範囲も一気に広がる。ここでもライト氏はその都度エディターを立ち上げ、そのたびにマウス操作で機能パーツを付け足したり、手足の形や数を改良したりしていった。エディターには、部位別に複数の機能パーツが用意されており、さらに各パーツに対して、パラメータ式のピクセルレベルの改良を施すことができる。

 ライト氏が「Content Pollination」と呼ぶこのシステムの革新的なところは、既存のゲームのようにオブジェクトに対してポリゴンデータや固定データを個々に持たず、サンプルとなるデータは最小限にとどめ、その代わり、バックグラウンドにパラメータデータを大量に用意することで、各パーツに無限のバリエーションを持たせるという考え方。理論的にはこれによって、データサイズを最小限に抑えながら、イージーなインターフェイスを使って、深みのあるゲームプレイが実現する。これだけでも十分に凄いことだが、これはあくまでもライト氏の提唱する“プロシージャルシステム”の切片に過ぎない。

 さて、水中世界でライト氏は「泳がないのでヒレは取り、3本足にしてみよう」という無茶な選択をしたため、3本足の爬虫類のような謎の生命体が陸上を闊歩することになった。陸上ではしっぽを使って小動物を殺し、草原地帯まで引きずって捕食したりしたあと、今度は逆に大きな生命体に襲われた。ライト氏はこの脅威から一目散に逃げながら「自分が食物連鎖の一番上だとは限らない」とコメント。それぞれの時代にリアリティのあるシミュレーション要素が設けられているようだ。その後、交尾する相手を探し、声を出して求愛行動を行なった。これには場内は大爆笑。

 ライト氏は、このゲームは「進化のゲーム」と説明し、「プレーヤーは簡単なインターフェイスを使って、どのスクリプトを動かすか決めて、おもしろい結果を生み出そうとするだろう」と「SPORE」の遊び方を提案。ここまでのゲーム内容は、さしずめ「進化論シミュレータ」といったところだ。


■ 生物学的な進化後は、プロシージャルな文明進化の道へ

 ゲームシーンはさらに進化。ライト氏は「ここからはFPSからRTSになる」と切り出し、自分が生み出した3本足の謎の爬虫類が集落を構成し、集団生活を営むシーンを見せてくれた。ここでのゲームデザインは初代「Age of Empires」の初期の時代をフル3D化したような感じを想像するといい。

 ライト氏はしっぽに槍を持たせ、集落の中央にキャンプファイアーを置いた。すると爬虫類たちは、喜んで原始的なダンスを踊り始めた。爬虫類たちのこうした行動パターンは、これは無数のContent Pollinationの選択の結果、「プロシージャルシステム」によってはじき出されたものだという。

 さらに時代は進化し、今度は都市を構築するようになった。都市は城壁で囲まれ、丸みを帯びたファンタジックな建物に、無数の爬虫類たちが出入りしている。分身達は未だに3本足だが、各人が種の繁栄のために社会的な集団行動を採っている。ライト氏はここではビルディングエディターを立ち上げ、あるカテゴリの建物に対して“Pollination”(改良)を施した上で設置した。すると、都市の住民達は大きな環を作ってこれを歓迎。まるで「Black & White」のような展開である。

 ライト氏は、ここでカメラを都市から北東にスライドさせた。カメラをスライドさせると地平線から雲や山がせり上がってくる感じで、星の丸みを実感させる。しばらくスライドさせた先には、また別の都市が存在し、色の異なる人類(正確には3本足の爬虫類)が暮らしていることがわかった。その都市は機械的かつ無機質な雰囲気で、すぐにも戦争を始めそうな雰囲気。と思ったら城壁の間から3台の戦車が飛び出してきて、土煙を立てながらライト氏が造った都市に向かって侵攻してきた。ライト氏はこれに対抗するために飛行機を繰り出したが、飛行機は戦車を攻撃せずに明後日の方向に飛んでいってしまう。やがて城壁の近くまでたどり着いた敵の戦車隊は、都市に向けて発砲。都市はたちまち爆炎に包まれた。

 ライト氏は、ここでカメラをズームアウトさせた。すると、惑星がまるごと画面内に収まるほどになり、この星に存在する人類は2種類どころかもっといることがわかった。 惑星のビジュアルは適度にデフォルメ化され、この状態でもそれぞれ個々に活動している様子がリアルタイムで映し出されている。ライト氏は「いろいろ考えています」と呟くようにコメントしてデモを終えると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。進化論シミュレータがいつのまにかプラネット規模のウォーストラテジーに変貌してしまうなど、誰が予想できただろうか。


■ “UFO”というユニークなアプローチによるオリジナルストーリーの提案

 ライト氏は、「SPORE」のゲームデザインについて、Tidepool(顕微鏡世界)、Evolution(進化論)、Tribal(集落)、City(都市)、Civilization(文明)の5段階に分解。それぞれ「Pacman」、「Diablo」、「Populous」、「SimCity」、「Civilization」を対象に出し、これらをすべて統合したゲームが「SPORE」であると説明した。

 さらにライト氏はストーリーに対する考え方も披露。ライト氏によればストーリーとは、「おもしろい経験の副作用として位置づけられるべきであり、必ずしも必須ではない」とし、スティーブンソンの「宝島」を引き合いに、ライト氏の考えるストーリーとは、フィルタリングプロセスであり、また因果関係の強調として用い、ユーザーに対する容易なコミュニケーション手段のひとつに過ぎないと、あくまで副次的なものであることを強調した。

 その実証として、再び「SPORE」のデモがスタートした。大喝采を受けたライト氏は「SPORE」に存在する乗り物として、陸上、水中、空中と最後に“UFO”の4つを紹介した。「SPORE」におけるUFOは、バクテリアから文明を築き上げたプレーヤーに対するご褒美として無限大のパワーが与えられており、神の力を持つことになるという。

 ライト氏は具体的な例として、まず、既存惑星の生命体をアブダクト(誘拐)し、他の星に入植させるケースを紹介。UFOは宇宙からある惑星へズームインし、カブトムシのような生命体をビーム光線でキャプチャーしてから大気圏外に一気に飛び出した。今度は惑星がすべて見えるところでストップせずにさらにズームアウトした。すると画面内には、宇宙の中に太陽のような大きな恒星と、複数の惑星で構成された星系が映し出された。惑星の公転の半径やスピード(周期)、軌跡もそれぞれ異なっており、そのまま学校の授業としても活用できそうなほどの精巧さだ。

 ここでライト氏は、惑星のひとつをクリックし、一気に降下した。その衛星はまるで月のような情景で、大気や水も確認できない。試しに先ほどキャプチャーした生命体を地表においてみると、まもなく爆発して死に絶えてしまい、「ここには大気がない」とわかり切ったことコメントして、場内の笑いを誘った。

 そこでライト氏は、地表に複数のビームを撃ち込んで火山を発生させ、大気を作り出した。次にすぐ入植できるようにスペースコロニーも設置。衛星はしばらくすると雲が発生し、大気が生まれ、そして陸地が緑で満たされた。まるで月面版「もののけ姫」のような情景である。驚きの連続といっていい。

 続いてライト氏は、星系からさらにズームアウト。ついに星雲レベルまで拡大し、画面は無数の恒星が輝く広大な宇宙空間で満たされた。ここでライト氏は「宇宙を感じてほしい」とコメントし、実在の惑星名をいくつか挙げ、「他の生命体(要するに宇宙人である)を確認するために音を聞いて調べることもできる」と紹介。SETIプロジェクト(地球外知性探査計画)そのままの内容である。


■ 銀河全域を大きなサンドボックスに見立てた「SPORE」

 こうなってくると「SPORE」はMMOタイプのオンラインゲームではないかと思えてくるが、ライト氏は「『SPORE』はオンラインゲームではない。インターネット上にアップロードされた他のユーザーのデータをダウンロードすることで、他の星系に生命体が生まれる」と構想の一端を語った。要するに宇宙レベルの内容は、ユーザーに任せるというプランである。

 ライト氏はその具体的な例も紹介した。星系のひとつをクリックして降下すると、そこには大きな太陽と惑星がひとつだけのシンプルな星系が映し出された。惑星に降下すると、そこには蜘蛛のような容姿をした別の生命体が文明を築いていた。UFOを近づけ、音波らしきものを使ってコミュニケーションを図ろうとしたが、都市から猛烈な勢いでレーザー光線による攻撃を受けてしまう。ライト氏は一端UFOを大気圏外に避難させ、惑星に対して立て続けに2本のビームを撃ち込んだ。しばらくすると画面いっぱいに爆発が起こり、惑星が完全に消滅してしまった。まさに神の力である。

 ライト氏はここでデモを終え、最終的な「SPORE」の全容の解説に入った。宇宙に至るまでの5段階の過程は「Goal-Oriented Game(クリア優先型のゲーム)」と位置づけ、UFO取得後の6段階目の「Space」は、侵略、探索、誘拐、外交、育成、支援などをエレメントとした宇宙レベルの壮大なサンドボックスだとした。「何十億光年の世界を舞台に、シミュレーションのダイナミックな体験をしてほしい」と抱負を語った。

 最後にライト氏はカメラを惑星から星系、星雲とどんどんズームアウトし、最終的に銀河を真上から見たような大星雲を映し出した。その上に「SPORE」という文字が浮かび、下にはEAのコピーライトが確認できる。「このアイデアを思いついたとき、誰にも理解して貰えなかったが、自分自身にこのゲームが作れると信じ込ませた」とゲームアーテキクトとしての苦しみを覗かせたあと、「このゲームに関してはE3まで何も喋ることができない。以上です。ありがとうございました」と締めくくると、参加者全員が総立ちとなり、割れんばかりの拍手が長時間にわたって続けられた。今年どころかGDC史上最高と思えるほどに素晴らしいセッションだった。

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/

(2005年3月13日)

[Reported by 中村聖司]


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