|
会場:コーエー本社
■ 普及機、携帯電話ビジネスについて。Wiiは「任天堂以外の分野を攻める」
松原氏: 12月に北米にいきましたが、ショップにいくとWiiがどこでも売り切れていて、入荷する金曜日や土曜日は朝から行列になるほどの人気なんですね。北米では価格的に戦略的にハイパフォーマンスなものと明確に分けられているので、普及型の据え置き機は大きく成長する市場だと思います。 編: 日本でも欧米でも世界中で大人気のWiiですが、今後コーエーさんはWiiに対してどのように向き合い、どのようなビジネスを展開していこうと考えていますか? 松原氏: まずは「戦国無双 KATANA」、「ジーワンジョッキー Wii」、「オプーナ」を発売しました。今後目指すものはWiiの特徴を活かしたゲーム性の高いタイトルです。「Wiiスポーツ」や、「はじめてのWii」みたいなパーティーゲームは任天堂さんが揃えていらっしゃるので、それ以外の分野ですよね。Wiiというプラットフォームにおいては、新しいユーザーさんの層を意識しつつ、ある程度ゲームらしいゲームが中心になってくるのではないでしょうか。 編: 内部的な投資のウェイトとしては、普及機に対するものが一番高くなると考えていいですか? 松原氏: いえ、バランスをとっていきます。コーエーはPSというイメージをもたれるかもしれませんが、結構並んでいますよ。今は正確な数字を出して予算を作っているところですが、高性能型、普及型、携帯型ゲーム機、モバイルオンラインで均等に近いですね。 編: 携帯型ゲーム機に関しては、4つのセグメントの中でもっとも消極的な印象を持っています。 松原氏: PSPは「モンスターハンターポータブル」が出てくるまでは私たちの作品がサードパーティーでは一番売れていたのではないかなと思います。ただ、昨年一昨年で見ますと、戦略的に高性能機のほうにシフトしていました。もちろん、PSPは来期きっちりと新作タイトルを入れていますので、ご期待ください。 編: 日本のハードの売り上げを見ますと、PSPとDSが首位争いを繰り広げています。据え置き機よりむしろ元気なくらいです。つまり、日本では携帯ゲーム機が圧倒的に売れているわけですが、この現状への対応をもう少し具体的に教えてください。 松原氏: DS、PSPは新作を投入していく比率が今までに比べると高くなると思います。もちろん、携帯型ゲーム機に特化した新型ゲームを準備しています。 編: アジアを定期的に回っていますが、「モンスターハンター」シリーズの人気は本当に凄いですよね。PSPを持って、日本語版をみんなで遊んでいます。 松原氏: PSPは「モンスターハンター」が開拓した市場が大きいと思います。PSPでのああいう楽しみ方は定着したと思いますので、そういう要素を入れたゲームを出していきたいです。 編: 携帯電話向けの取り組みはいかがですか? 松原氏: 2007年は携帯電話向けの新作として「三國志タクティクス」を出しました。これはリアルタイムで通信対戦も可能なタイトルです。元々コーエーは5年前に「信長の野望」と「三國志」の携帯版を出しています。歴史シミュレーションではない対戦ゲームです。アプリではなくWebで対戦するというので、最大24人で対戦できます。当時はそもそもiアプリがない時代でしたから、Webベースでゲームができるのが少なくて、何万人単位でユーザーがいて、評価も高かったです。 「信長の野望」は大名プレイで、「三國志」は武将プレイ。あの頃パケット定額制のサービスがなくて、プレイすればするほどパケット代がかかるので、ユーザーさんからよくおしかりを受けました。今は新作も視野に入れながら移植も行なっていきます。既存のタイトルでまだまだ携帯電話に移植できていないものがあるのです。今年1月に「真・三國無双」をようやく携帯で出しました。おかげさまでかなりの人にプレイしていただいています。 編: もともと社内にモバイルをしっかりやろうという意識があるわけですね。 松原氏: そうですね。まだまだ新しいタイトルをどんどん投入できると思います。 編: モバイルゲームのアジアや欧米への展開についてはいかがでしょうか? 松原氏: 良い質問ですね(笑)。ずっとやっているのですが、まだ実を結んでいません。難しいですよ。1つの理由は機種の多さです。携帯電話は日本ではiモードが出て、auさんもSoftbankさんもがんばっていただいたので高性能化が一気に進みました。ただし日本はハードウェア的に見ても市場的に見ても携帯電話に関してはちょっと独自です。市場シェアを見てもわかるのですが、世界的にみれば圧倒的にNOKIAさんですよね。ただ、日本市場ではそうなっていない。ハードのシェアや性能という点がハードルになっています。 ビジネスの違いもあります。日本は月額いくらというビジネスが多いのですが、海外はほとんど従量制で1回にいくらというビジネスモデルを採用しているものが多いですね 。中国、韓国、台湾でサービスを提供していますが、今後はさらにタイトルラインナップを増やし、強化していきたいと考えています。
■ “古巣”のオンラインビジネスはどうなるのか? 新「GAMECITY」は海外展開も視野に
松原氏: 中期計画にポータルビジネスに売り上げがあるということは、推察の通り、ポータルビジネスをやるという宣言です(笑)。ただ、新しいGAMECITYの具体的な構想はまだお話しできる段階ではありません。オンラインやモバイルは、PCとモバイルの両方のプラットフォームをサポートするサービスが多いです。 その中で、ポータルという名前がつくのなら、とにかく多くのお客さんに来ていただいて、お客さんに繰り返し訪れてもらえるようなサービスを提供する。その中で、一部のお客様にプレミアム的なサービスを提供してお金をいただき、あとは広告のモデルやアフィリエイトを持ってくるというビジネスモデルが勝ち残っていますよね。この形が見えてきたとすると、これを我々の中でどのように取り入れていくかということだけなのです。 編: 大前提として今の形のGAMECITYはそのまま存続するのでしょうか。 松原氏: 名前はGAMECITYのとおりですが、サービス内容については一新するぐらいの意気込みで考えています。 編: GAMECITYは、ユーザー登録やBBSへの参加、追加コンテンツのダウンロードなど、オフラインゲームのポータルから始まりましたよね。現在のGAMECITYは、その延長線上にあるわけですが、新サービスにおいてもこの路線は引き継ぐのですか? あるいは例えばカプコンさんの「ダレットワールド」のようにまったく新しいサービスを始めるのでしょうか? 松原氏: 発展形なので前者に近いと思いますが、ダレットワールドさんは注目してみているのですよね。ああいう形なのかどうかはまだなんとも言えません。ただ、ひとつ言えるのは、お客さんが毎日のようにそこに来たいというものを提供する。それをどう提供するかが勝負だと思うのです。 編: それはGAMECITYの中で、エンターテインメントそのものも提供していくということですか? 松原氏: そのようにしていくべきではないでしょうか。たとえばモバゲーさんは無料でゲームができる。だから人が集まる。コミュニティサービスがあるから来るわけでは無いですよね。ミクシィさんがコミュニティで成功して、1人勝ちしています。同じようなサービスを展開する会社も出ていますが、大きな差がついてしまっているのが現状です。差別化はもちろんですが、重要なのはスピードです。差別化ばかりに気をとられて参入が遅くなると、負けてしまう。 大体多くのインターネットのモバイルビジネス系というのはちょっとの差を先にいったら勝ちという定石がある。例えば検索エンジンは一人勝ちですよね。ロボット型のエンジンというのは'90年代に出てきたときにはone of themだったわけです。それが1人勝ちになっていったのは検索スピードが優れていた等の理由があるからです。1つが勝ってしまうとどんどんその人に集中していきますよね。我々がその世界でナンバーワンにならなければならない。 編: 既存のGAMECITYを受け継ぐということはやはりWebブラウザベースになるのですよね。ブラウザベースのエンターテインメントサービスというと、非常にバラエティに富んでおり、無限のポテンシャルがありますが、どのあたりを狙っていくのでしょうか? 松原氏: まず、私はエンターテインメントの枠内においてはWebブラウザでなくても良いと思います。無料で提供する形でのアプリがあってもいいかもしれない。ただ、Webブラウザベースというのはユーザーの使いやすさから言うと重要ですよね。 編: 時期はいつくらいを期待して良いのでしょうか? 松原氏: まだですね。そんなに時間かけたくはありませんが。早いうちに方向性は見せたいです。日本で当然最初にはやりますけれども、ワールドワイドに営業拠点をもっていますので海外展開もしていきたいです。
■ メインのオンラインゲームビジネスは今後どうなるのか? 「気を抜くなといっています」
松原氏: 「戦国無双2 猛将伝」は、Xbox Liveでダウンロード販売をやらせていただきます。今のところケースバイケースですね。自社でGAMECITYも持っていますので、できればGAMECITYでやりたいというのは当然あります。今後はPLAYSTATION NetworkやXbox Live、Wiiウェアと上手に強調していきたいですね。 海外においては、デモを積極的に展開しました。それはマーケティングデータの提供が非常に役に立つからです。体験版のダウンロードがいくつあったとか、1日あたりどうなったとか。全体のユーザー数、総ダウンロード数、といったデータを我々のところに提供してくれるので、彼らが持っているネットワークの機能の中で、我々がどういうコンテンツを提供していけばいいかということがわかります。プラットフォーマーが持っているネットワークユーザーやお客さんとリンクするときは組むことはあると思います。ただ、全面的にそれに頼るというのはないと思います。 編: ちなみに、追加機能やマップ、アイテムやアバターなどの有料コンテンツの販売には消極的ですが、これは何か理由があるのですか? 松原氏: 決して消極的ではないのですが、オンラインゲームの売上に占める割合からすると、まだまだなのは事実です。オンラインゲームを運営している側からすると、「信長の野望 Online」で年間10億超の売上があります。アイテム販売ではありませんし、ビジネスモデルとしてはパッケージに近いものがありますが、それに比べると現在のダウンロードコンテンツの市場はそれほど大きいわけではないです。 「真・三國無双 Online」は基本プレイ無料の従量制に変えたので、あれは社内的に1つの大きな変化でした。今後、GAMECITYのポータルサービスの中でもそういったことを検討していかなければならないなと思います。 編: しかし、高性能据え置き機の分野、特に海外では、オンライン対戦はあって当然の機能で、その後の有料の追加コンテンツのダウンロードも当たり前です。もはや“ケースバイケース”の時期ではないと思うのですが? 松原氏: そうですね。欧米向けのコンテンツの中では十分に考えています。日本のユーザーは実のところPLAYSTATION NetworkやXbox Liveの利用率が欧米に比べると盛んではない。そもそも台数が違いますよね。体験版も海外のダウンロードの方が多いです。それが多少影響している部分もありますよね。 編: それでは今後はコーエーさんから、海外市場も意識した、オンラインプレイに標準対応したタイトル、追加コンテンツの有料ダウンロードが可能なタイトルがどんどん出てくると考えてよろしいのでしょうか? 松原氏: お客さんがそういう方向に向かっているのは間違いないことだと思います。 編: それでは今後出るであろう「無双」シリーズの最新作は、そうしたオンラインサービスは、当然キャッチアップしているという風に理解して良いですか? 松原氏: だと良いですね(笑)。「無双」のオンライン対応という意味では、「真・三國無双」でもPvPもできますが、どちらかというと協力プレイもしくは速く倒した方が勝ちというのが「無双」のゲームシステムに合っている。何度も聞かれたのですが、一騎当千でユーザーが1,000人集まったとき、1人のユーザーが残りの999人を倒すのかといえばそれは無理だと思います。それをして楽しいのかと。1,000回に1回しか自分が戦う番が回ってこないわけですから(笑)。 編: ええ、ですので、「真・三國無双」の協力プレイがオンライン上のユーザーとできたら楽しいですよね。この「CO-OP」という要素の重要度は、年々高まりつつあります。 松原氏: それは高性能機向けだけではなく、PSPでもやっていきます。たとえば、今度の「無双OROCHI」でもアドホックに対応した協力プレイが入っています。これまでオンラインゲームというものが強力にあった分だけ、コンソールのオンライン機能があまり目立たなかったのです。今は意識して作っています。 編: さて、古巣のオンラインゲーム事業に関しては、天津やシンガポールが今後も開発を継続していくことを発表しました。これは5本目の新作オンラインゲームだと見ていいですか? 松原氏: まずは4本目の「三國志 Online」をビジネスとして成功させたい。話はそれからですね。 編: 当然、次の形は考えていると? 松原氏: もちろん、さまざまな形で考えています。MMOなのかそうでないのか。オンラインの要素は、シンガポールや天津で作れば当然入ると思うのです。それがどういう形で入るかは、お話できるタイミングできちんとご説明いたします。 編: 社長としてすべての事業に注力されるわけですが、やはりオンラインゲーム事業は気になりますか? 松原氏: 気になりますね(笑)。自分がよく知っているというのもありますよね。ついつい他のに比べて突っ込みやすいし、実際突っ込んじゃってますね。 編: 最近ではどういう突っ込みをしましたか。プロデューサーレベルの発言をしてしまいますか? 松原氏: それはもう普通にやってます。いろいろな企画があがってくるなかで、「昔こういうことを自分でもやったから、あれに比べて効果あるの?」っていうのが自分で言えてしまう。自然と突っ込みは厳しくなります。 編: ソフトウェア第4部としては、よりによってやりづらい人が社長になったなというところもありそうですね(笑)。 松原氏: みんな思っているのではないですか。知っているだけにやりづらいなと(笑)。まじめな話をすると、オンラインチームには特に気を抜くなといっています。それは何故かというとすでに安定しているビジネスだからです。過去はかなりの投資をしましたが、最近は優等生ビジネスになってきていますので、気を抜かないようにやっていきたい。そういう点でも今後もますます厳しく見ることになるかもしれません。 編: オンラインゲーム事業に関しては、中期計画で他の分野に比べるとかなり控えめな数字を出されていますが、それほどの成長は見込んでいないということなのでしょうか? 松原氏: いえ、オンラインゲーム自身の市場の伸びは確実に伸びてきていると思うのですが、オンラインゲームがパッケージゲームと異なるのは、開発を継続する必要がありますよね。拡張版を出してサービスを続けながら、いかに新しい市場をとっていくかが重要となりますので、割と固めの数字を出しているつもりなのです。まだ満足しているわけではありません。
■ 2008年のコーエーの事業戦略。「地域もプラットフォームも全方位」
松原氏: 昨年11月に発表した中期計画を1年フルに実行するのは2008年が初めてです。5年間の計画のうちの2年目なのですが、中期計画の基礎固めができるのがこの2年目です。いろいろな形で基礎固めをしていくのですが、基本方針としては、ユーザーさんとプラットフォームの多様化への対応と、グローバル展開です。特に多様化に耐える力をつけなければならない。基礎固めができた後は作っているタイトルがどのようにお客さんに楽しんでいただけるかです。きっちり社内の体制を固めるのが2008年の目標です。 編: 実際には、内部の基礎固めだけではビジネスになりません。継続的にユーザーさんに対するアウトプットを出し、かつ評価されなければいけませんよね。2008年のアウトプットとしてはどのようなものを期待していいのでしょうか? 松原氏: 先ほど言った4つの分類からすると、昨年は高性能向きが多かったかもしれない。逆に普及機や携帯ゲーム機が若干弱かった。今年はバランスよくいきます。中期計画の中でも事業ポートフォリオのバランスを目標に掲げています。 ですから、基礎固めというのは高性能機向けばかりではなくて、普及機や携帯ゲーム機向けも含んでいます。分散して手を広げすぎて手がつけられないのも困りますが、1つに集中するのもリスクがあるわけです。バランスの問題ですね。コーエーからはいろいろなコンテンツが出てくるなとお客さんに感じていただければいいですね。 編: 文字通りの全方位戦略ということになりそうですね。 松原氏: はい。これまでもそうでしたが、今後はさらに地域もプラットフォームも全方位で攻めていきます。 編: 中期計画の主役となるのは、やはり売上規模的に、高性能機向け、普及機向けのパッケージビジネスがメインとなると考えてよいのでしょうか? 松原氏: 中期計画においてはそうですね。そのほかにオンライン/モバイル、メディアライツがあり、それぞれ3対1対1の割合になりますが、やはり5分の3を占めるのはソフトウェアパッケージなので、そこのビジネスは大きいということです。 編: メディアライツ事業は、依然として「遙かなる時空の中で」の人気が非常に高いですよね。アジアを回っていても「遙か」ファンの多さがわかる。日本でやっているような大きなコンサートやプライズものの販売を、アジアで本格展開することはないのでしょうか? 松原氏: 台湾では前にイベントをやりましたが、思ったほどの結果は出せませんでした。良い点悪い点を学んだので1つの課題ですね。日本では、先日役者さんを起用したステージにチャレンジしましたが、非常に好評でした。まだまだできる要素があって、それなりに大きいビジネスにはなっています。ただし、海外のリアルイベントは非常に難しいビジネスだと思います。リアルイベントや舞台というものはその国の事情等々があるので、どういう形で海外展開するのか考えなければなりませんね。 編: 最後にユーザーさんに向けて一言お願いします。 松原氏: GAME Watchの取材を受けるのは久々なのでいつになく緊張してしまいました(笑)。コーエーのゲームを楽しく遊んでいるユーザーさんがいていただけるのは大変我々にとって励みになっています。お客さんに支えていただいて私たちはここまでの成長を遂げました。 2007年6月からコーエーの社長を務めることになって、まだまだ力が足りていないのですが、最近は「お客さんに良いコンテンツを届けましょう」、「楽しんでいただきましょう」、「お客様の生活を豊かにしましょう」という3つのスローガンを社内で掲げています。これを実現できる環境を、海外含めて会社の中で整えていきます。お客さまは今後の成長を是非見守っていただいて、コーエーのコンテンツを楽しんでいただければと思います。 編: 私も期待しています。ありがとうございました。
「戦国無双2 猛将伝」
「遙かなる時空の中で4」
□コーエーのホームページ (2008年3月12日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|