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会場:コーエー本社
2007年6月21日に代表取締役社長兼COOに就任してからは、さすがに対外的な活動は激減したが、昨年9月にはCEDEC2007で基調講演を務め、今年3月14日に東京神田で開催されるオンラインゲーム&コミュニティカンファレンス(OGC2008)でも基調講演を務める予定となっている。講演タイトルは「オンラインゲーム CROSS BORDER」。松原氏としては久々のオンラインゲームをテーマにした講演となりそうである。 松原氏の社長として目に見える形での大きな取り組みとしては、昨年11月の中期経営計画の発表がある。今回は、この中期経営計画を土台に、その真意、理由を問う形でインタビューを行なった。対象はオンラインゲーム事業からコーエーのエンターテインメント事業全般に広域化したが、いつもと変わらぬ明瞭な語り口で、新作タイトルのプロデュースならぬ“コーエーのプロデュース”の手法を語っていただいた。
なお、恒例のことながらロングインタビューとなったため前後編に分けてお届けする。前編では代表取締役社長就任の経緯と、中期計画の柱となっている海外事業、そして注目される高性能据え置き機(PS3、Xbox 360)の今後の方針について。後編では、WiiとPS2という2大普及機に対する戦略、携帯型ゲーム機や携帯電話、そしてオンラインゲームなど残りの分野について話を伺っている。 ■ オンラインゲーム担当執行役員から代表取締役社長就任までの経緯
松原健二氏: 創業者の2人から突然お話をいただきました。この背景にはコーエーがここ数年の間、成長しようとしていながらも伸び悩んでいたことが挙げられます。その上での経営判断だと思うのです。 お引き受けするからには自分の認識している考えが会社全体の目標と一致しているかどうかということと、それに対してどのような取り組みを考えているかをお話してからでなければなりません。社長に就任してから食い違いが出るようでは困りますので、そうした点でしっかりと話し合いをさせていただきました。 編: 松原さんはソフトウェア4部部長時代、スケジュールと予算をがっちり握って肝心のゲーム作りはディレクターに任せるような、欧米式スタイルのプロデューサーでしたよね。そうしたスタンスを今後は、会社全体という大きな場に移して進めていかれると考えてよろしいのでしょうか。 松原氏: それは社長業でも共通すると思います。私はゲーム作りから上がってきているわけではなく、もの作りという形でのマネージメントプロデュースを他の業界でやってきました。細かいディレクションに関する部分はスタッフに聞きながらやってきました。そういう点で他の業界の良いところと悪いところを踏まえた上で要所要所で議論しながら進めるやり方でした。会社の経営はもちろん細かい現場を知らなければならないところもあるのですが、中期計画は昨年度から見て5年後なので、この方向に進めていきましょうということをきっちり出して、そのためにはこうした方が良い、ということをみんなで考えて実行していきたいですね。 編: 昨年1月の時点では、オンラインゲーム担当の執行役員として「既に4本抱えていてパンパンだよ」とおっしゃっていました。社長に就任されてさらに忙しくなったのでしょうか。 松原氏: 一番変わったのは生活が規則正しくなったことです。しかしスケジュールは詰まっていて、自分が自由に使える時間は今のところほとんどありませんね、これから少し余裕が持てれば思います。 編: 松原さんはゲーマーでもありますが、社長に就任されてからどのようなゲームをされましたか。 松原氏: 12月以降は「WiiFit」をやっていますね。あれは得意不得意が明確に出ますが、私はスキー系がぜんぜんダメなんですよね。リアルのスキーは好きなのですが。ジャンプもあるし、スラロームもあるのですが、両方とも家族では下手なほう(笑)。フラフープは割りといけますね。 編: いわゆるコア向けのタイトルは? 松原氏: 冬休みは「アサシンクリード」をやっていました。開発はUBISoftさんのモントリオールスタジオですよね。カナダで作っているということで、我々もカナダにスタジオを持っているので興味を持ちました。グラフィックスがいいな、こういう作りなのだなと。まだ、最後まではやれていないのですが、複雑なシステムだなと感心しながらやっています。 編: 社長に就任されてから半年が経ちますが、この間は何に注力されていたのでしょうか? 松原氏: 経営体制が変わったことで、人が変わっただけではなくどういう形で経営をやっていくのか、社員や周りの人にきちっと示すことを考えていました。昨年11月にそれを中期計画という形で社内外に発表させていただきました。 「世界一のコンテンツプロバイダーになる」というビジョンに対して、我々は何をもって喜びを味わえるのか、お客さんや自分にたちにも、ということで、自分たちの進みたい方向性と組み合わせて作りました。 編: 国内外問わず、頻繁に現場視察を行なわれていると伺いました。実際にコーエーのビジネスを観察されて、コーエーという会社をどのように評価されていますか。 松原氏: 一言で言うと、まじめな会社です(笑)。良い面悪い面両方あるのですよ。良い面ではきちっと仕事ができる、自分に対して責任を持てる、クオリティの高い人達がそろっています。そういう点では中期計画などを実現できる能力のある人は揃っていると言えます。数的にはもっと増やさなければなりませんが、能力的には現時点でそういう人がたくさんいます。 一方で、まじめというのはややもすると変化に対して保守的受身的な要素を持っている部分があります。もちろんそうではない人もたくさんいますが。ゲーム業界はゲーム以外の部分も含めて環境が激しく変わっているという風に捉えていて、その中でどう成長していくかというある意味の緊張感と、その中でどうするのかという前向きな気持ちが必要なのです。そこに対して考えて自分で納得してから足を踏み出すタイプが多いのです。良い面を伸ばし悪いところは改めたいです。 編: 昨年はコンテンツレベルで見ると、あらゆるプラットフォームに精力的にコンテンツを投入し、オンラインゲーム以外のオンラインコンテンツにも取り組むなど、コーエーらしいチャレンジが見られました。この点、社長としてはどのように評価していますか。 松原氏: 創業のときから、新しいことにチャレンジして、そこで自分たちのオリジナリティを出して、お客さんに喜んでいただいてビジネスに繋げていっています。オンライン事業でもそうですし、高性能の据え置き機に関してもかなりの投資をしました。新し物好きな雰囲気は漂っていると思います。 編: それをふまえた上で、現時点での自社の開発力や技術力、時代に対する適応力をどのように見ていますか。 松原氏: 我々が得意とする分野に限定すれば、すでに世界で競争できるレベルの開発力があると思います。しかし、世界水準で見たときには、まだ開発のライン数が十分でないと感じています。ですから、今後ある程度人を増やして、お客さんに楽しんでいただけるような開発ラインを揃えていかなければならないと思うのです。
今コーエーが持っている資産は高いクオリティのものだと思っています。しかしそこだけではあまりに保守的で閉じてしまう。「Wii Fit」やDSが流行っているのは、お客様のニーズが多様化しているからです。そのニーズに応えていくという使命感を社内に浸透していかなければならない。そうした取り組みはまだこれからだと思います。 ■ 松原社長が推進する海外シフト戦略の真意について
松原氏: コーエーは決してM&Aをやらないというスタンスではないのです。会社にとってプラスがあるのであれば考えてもいい。しかし現時点では社内的にきちっとビジョンを見せて、会社の中での動きを着実なものにしていく方が重要だと考えています。外の動きにフタをしているわけではありませんが。 編: 業務提携を考える前に、まずは社内固めということでしょうか。 松原氏: 提携にもいろいろなレベルはあります。昨年はバンダイナムコゲームスさんと提携して発売した「ガンダム無双」がありますよね。それに近い提携に関しては、まだお話できるものはありませんが、いろいろなご相談は常日頃からしています。 編: 社内の取り組みとして対外的に目立つのは、開発子会社に対するオペレーションの強化であったり、増資ですが、これは何を意味しているのでしょうか。 松原氏: 開発子会社が世界中にいくつかあります。CG制作中心の北京・天津・リトアニア、それからシンガポールとカナダに独立の開発スタジオをおいています。やはり世界レベルで見るとユーザーの嗜好を1つにカテゴライズするのは難しい。日本で作ったものを世界中に売っていくことを目指していますけれども、カナダは北米の感性で欧米を対象としたゲームを作っていく。それは日本人よりも現地にあった感性がなじむのではないでしょうか。つい先月も行ってきましたが、来期からまた新しいタイトルを作ります。 編: カナダへの投資は時代の流れとしてわかりやすく、ある種必然だとも思いますが、中国に対する大幅な増資とシンガポールの開発体制の維持は何を意味しているのでしょうか? 松原氏: 中国は市場として大きいのです。コーエーは20年前から現地法人を設立しているので、中国市場に対する取り組みとしてはパイオニアです。投資というのは実際にはオフィスの拡張が大きいのですが、もちろんそれだけでなく、事業的に強化していこうという意図があります。今の中国の北京も天津も、従業員の数や比重としてもグループの中で重みが増す方向です。より組織を強化していく中で資本を増強しました。 編: しかし、中期計画の中で、アジア市場は5カ年計画で全リージョンで唯一マイナスの数字を出していました。中国市場は大きいと捉えるのであれば、他のリージョンと同様にプラス200~300%の数字でもおかしくない。-14%のマイナス成長となる理由を教えてください。 松原氏: そこは突っ込まれやすいところですね(笑)。正確な額はお伝えできませんが、昨年の額は「真・三國無双Online」の契約金の割合が大きかったのです。契約金とオペレーションの金額をミックスしたのですが、中期計画のファイナルはオペレーションのお金だけの数字なのです。そういう点ではかなりの成長を遂げているのです。 編: なるほど、中期計画では、各のリージョンごとにそれぞれ100%以上の成長を狙っていますが、アジア市場も、実態でいうと100%以上の成長を狙っているわけですか。 松原氏: そのとおりです。欧米については売上高で3倍ですが、アジア市場はそれと同じかそれ以上を狙っています。 編: アジアに対する売り上げの内訳は、まだオンラインゲームが中心ですか? 松原氏: 割合的にはオンラインやモバイルが今後伸びると思いますが、正直韓国や台湾でのパッケージゲームの売り上げは現在でもそんなに小さくないのです。 編: 中国でもCCNECと提携してパッケージゲームを売っていますよね。実はアジアでもパッケージビジネスが成立し始めているというわけですか? 松原氏: パッケージビジネスは、中国ではまだ始めたばかりなので、あまり大きな額にはなっていないですが、海賊版の取り締りが進むことで成長するだろうと考えています。ただし、現時点での売り上げの本数はそんなに多くないし、1本あたりの単価もそれほど高くない。それに比べると他のアジア地域、特に台湾の営業オフィスで見ている香港、台湾、マカオの売上げは好調です。台湾だけで人口2,000万人で、韓国が4,000万人ですよね。人数では倍なのですが売り上げから見ると台湾は韓国よりも大きいくらいです。 編: なるほど、私はてっきり現在の台湾や韓国へのシフトを緩めて中国市場へ注力し、その余力で東南アジアを開拓していくというシナリオを描いていましたが、そうではなく、アジア全体を底上げしていきたいと。 松原氏: そうです。伸び率とポテンシャルからすると13億人の中国はすごいですよね。これから中国は1人1人の可処分所得が伸びていく。それと共に元が高くなってくると2重で効きますよね。今後も中国の比率というのはどんどん高くなると思います。 編: かつて松原さんがセミナーで懸念を示されていた、中国市場の許認可制度面での曖昧さはクリアになっているのでしょうか。 松原氏: まだ残っているのではないかと思います。中国におけるインターネットのビジネスの許認可は、プロセス的には改善されてきていると思うのですが、日本やその他の地域と比べて、そもそも許認可というシステムが存在しているという違いは大きいと思うのです。日本でしたら別にドメインとってサーバー立てるのは勝手ですよね。しかしそれに中国には許認可が必要なのです。その時点で違いますよね。 編: 昨年「真・三國無双 Online」は、基本プレイ無料のアイテム課金制に変わりアジアで親和性の高いコンテンツになりました。ローンチの時にアジア同時展開を目標に掲げられましたが、まだ展開に時間がかかっている印象を受けます。
松原氏: そうですね。パートナーさんと話し合ってどんどんやりたいのですが、結果的に多少時間が掛かっています。先月中国でようやくプレクローズドベータテストをやったのですが、それが最初です。契約を済ませたのが1年前で、それからいろいろお話をする中で、ゲームシステムの機能や要望があって、それを作っているのも時間が掛かった要因ですし、ローカライズも去年の契約のところで100%終わっていたわけではありません。ただ、致命的に遅れているとは思っていません。現地のビジネス状況や、要望を可能な限り取り入れてからサービスを始めたいので、その辺でお話をしています。 ■ ゲーム市場を4つのカテゴリに分類。高性能据え置き機は海外市場を狙う
松原氏: まず、私の捉え方として、現時点でのプラットフォームは、高性能な据え置きと、普及型の据え置きと、携帯型ゲーム機と、携帯電話と大きく4つに分けていいのではないかと考えています。まず、高性能な据え置き型はPS3とXbox 360です。以前は特定のハードウェア向けに発売していたものが、いまではどこもマルチプラットフォーム展開になっています。 普及型の据え置きは、WiiとPS2です。Wiiは現在世界中ですごく売れていますが、一方、PS2は世界ですでに1億台普及しています。この市場もある程度のシフトはあっても現時点でも生きている。携帯型はニンテンドーDSが売れていますが、PSPもがんばっていますよね。最後に携帯電話です。大きくわけるとその4つになると思います。やはりこの2、3年の任天堂さんの売り上げの示す通り、普及型や携帯型の市場が爆発的に伸びていると思うのです。 日本が、北米や欧州と大きく変わってしまったのは高性能の据え置きですね。日本ではまだ200万台市場にもなっていない。北米は1,000万台超えているし、欧州もそれに近いものがある。EAさんも先日発表していましたが、おそらく北米は高性能な据え置きが2,000万台を超えてきて欧州も1,500万台を超えてくると予測しています。ざっと北米と欧州で3,500万台市場になりますよね。 一方、日本ではPS3の発売から1年が経ち、Xbox 360の発売からも2年が経っていますがまだ200万台に満たない。当社が発売した「真・三國無双5」は、日本の高性能据え置き機市場の中ではもっとも売れたほうだとは思いますが、それでも40万本超です。我々としては過去のシリーズは100万本売れたのにと思うわけです。国内市場が高性能据え置き機で十分な広がりを見せるにはまだ至っていないです。もちろんこれからも伸びていくのでしょうが、そのスピードがまだ見えない。 編: それでは、据え置き機に関しては、国内市場はPS2とWiiに注力し、海外市場はPS3とXbox 360になるのでしょうか。 松原氏: 市場の大きさからするとそうなりますよね。ただ、国内の高性能据え置き機に目を向けないわけではないのです。今後、確実に伸びてくると思いますし、我々の国内市場での売り上げの割合は大きいですので。むしろ、今後力を入れていかなければならないのは、海外の高性能据え置き機です。海外で売れるタイトルを作っていかなければならない。 編: その高性能の据え置き機に関してですが、昨年海外市場では、「Call of Duty 4」や「Halo 3」、「BIOSHOCK」など大作が数多く登場しました。それぞれあらゆる点で非常にクオリティが高い。それに対して日本が、こうした海外タイトルと同列で戦うだけのテクノロジーをキャッチアップできているのかというと、そうではない印象を受けます。コーエーさんでは技術的なキャッチアップ体制はどの程度整っているのでしょうか? 松原氏: そうしたグラフィックスのゲームを作ろうと思えば作れる能力は持っていると思います。しかし欧米で売れるようなグラフィックスやゲーム性を含めた高度なゲーム内容を持ったタイトルはコーエーには今まで経験がない。たとえばFPSを作った経験はないわけです。そういった意味ではチャレンジですよね。 北米のユーザーが好んでやるタイトルは日本のユーザーとは異なります。逆に日本のサードパーティーで、欧米でビッグヒットになっているのはそんなに多くないのです。我々は日本市場が大きかったので、北米や欧州を意識するといいながら、同時に日本も認識していたのです。もっと欧米志向というか、欧米で売れるタイトルをいかに作っていくかが大きな課題だと思います。 編: ちなみにスクウェア・エニックスさんはホワイトエンジン(現「Crystal Tools」)、カプコンさんはMTフレームワークと題した自社製の次世代機向けの開発フレームワークの研究開発を進め、実装事例も出てきています。コーエーさんはそういった取り組みは行なっているのですか? 松原氏: 弊社でも開発フレームワークに取り組んでいます。コードネームは社外に公開していませんが、マルチプラットフォーム対応であれ、CGのハイエンドのクオリティを出すライブラリであれ、開発環境であれ、高い目標を設定しています。 弊社でも「ブレイドストーム百年戦争」から始まって「真・三國無双5」の同時リリースという形で、マルチプラットフォーム展開できるライブラリは揃いました。その上で開発をしていけばさらにスムーズに展開できます。ただ、ゲームそのものを北米向けにするというのはやはり難しい。ある具体的なタイトルでそういうのは培っていくべきだと思うのです。そういう北米向けのタイトルを今仕込んでいますが、それが見えてくれば、我々が使っている自社エンジンの中で北米向けの要素というのがわかると思います。 編: それは欧米で通用する水準のタイトルを準備しているのでしょうか。 松原氏: それを狙っています。欧米で売れるタイトルを用意していかないと、現在の高性能据え置き機向けでは、十分な売上や利益が上げられない。これまでは「真・三國無双」をPS2で作れば100万本売れました。それよりも高いコストで高性能据え置き機の新作タイトルを作ります。日本でそれを出しても現状40万本なのです。コストが上がっていても売り上げが半分以下というのでは、良いとは誰も言えませんよね。一方、欧米を見ればすでに250万本とか売れているタイトルがあるわけです。この市場で良いタイトルを作れば我々も200万本以上売ることができるという話です。 編: 北米や欧州は、実地で見る限りでは日本に比べてゲーム産業が格別に大きい印象はないですよね。しかし数字で見ると、日本を遙かに上回る勢いで順調に成長を遂げている。これはなぜだと思いますか? 松原氏: 特にヨーロッパはまだまだゲーム機に対する歴史が浅いです。ゲームをプレイしたことのない人口がまだまだいて広いですから、未開拓なエリアがあると思うのです。例えば昨年ドイツに行きましたが、まだPCゲームコーナーが大きなスペースを確保しており、家庭用ゲーム機にとってはまだまだ開拓できる市場であることを実感しました。アメリカやイギリスは家庭用ゲーム機がかなり普及していますが、それでも日本より高性能据え置き機のへのシフトの広がり早い。エンターテインメントを享受する層が厚いのでしょうね。 日本も一時期ハイビジョンテレビが普及しないから売れないのだといわれてきました。しかし2、3年前はそうだったかもしれませんが、今は大分値段がさがりました。その障壁が下がってきたのは世界共通だと思いますが、アメリカや欧州では高性能の伸びる土壌ができてきたのが日本との違いです。日本はどちらかというと普及型や携帯の方にシフトしているような気がします。 編: 日本人はすでに十分な楽しみを得てしまった。だから高性能機に手が伸びないと?
松原氏: いえいえ、コンテンツを作っている我々としてはそんなこと少しも思っていません。いくらでも面白いものを提供すればいくらでもお客さんは来ていただけると思います。 ■ 「ゲーム全体のハイデフ化」の課題にコーエーはどう取り組むのか?
松原氏: 私もそれは思います。「アサシンクリード」では、人にぶつかった際のよけ方など、日本のゲームにはなかなか無いですよね。NPCの豊かな振る舞いは北米のゲームの1つの特徴だと思うのです。NPCの振る舞いを含めた要素はお客さんの好みだと思うのですが、我々のカナダのスタジオのスタッフも、高度なAIによるNPCのリアルな振る舞いが欧米の人間は好きだと言っています。 日本人はどちらかというと、ストーリー性であったりアクションの楽しさに重きを置く傾向があります。これまではそうした日本市場の趣向を重視して、開発に注力してきたと思うのです。 編: つまり、バランスさえ変えれば、現在の欧米水準のゲームを作ることは既に可能だと? 松原氏: 「できると思っている。結果はもう少し待ってください」という感じです。先ほど申したとおり人材的にも十分なものを持っています。お客さんがこういうニーズを持っているということをつかまえれば、きちっとゲームシステムやゲームのデザインを含めて対応できる能力はあると思います。 編: 松原さんは高性能据え置き機向けのハイデフ世代のデジタルエンターテインメントはどういったものが理想だと考えていますか。 松原氏: 2011年に地上波デジタルに切り替わった瞬間に全部ハイデフになる。ハイデフが普通になるわけです。アナログディスプレイと比較して非常に高性能になっていますが、それと同時に計算量やメモリも増えているわけです。それをどう活かしていくかというのは今までも同じ事を繰り返してきたのです。 ゲームで言うと、ドット絵から2D、3Dの時代になってきた。我々だってゲームが3Dになって「真・三國無双」のようなタイプのアクションゲームが出せるようになりました。ハイデフにしても革命的な変化ではなくて、ゲーム業界としては繰り返し行なわれてきた技術革新の1つだと思うのです。技術革新の中の1つがちょっと大きなギャップに見えているだけだと思います。確かに技術的には簡単ではないものもありますが、ネットワークであれ、モバイル系の通信であれ、オーディオであれいろいろな形で取り組んできた技術革新の1つです。 その中でどういうコンテンツができるかといえば、今までとは異なるコンテンツが出てきたし、そういう新しい楽しみ方は出ると思っています。当然、我々も出したい。具体的にどういうコンテンツかというのは、実際作ってみてお客さんに評価していただくしかありません。技術革新の中の1つのステップである以上今後もまた繰り返すので、5、6年後にはまた次世代機や新世代機の話が出ていくのでしょうね。 編: 一方、消費者の視点からすると、一昔前のスーパーファミコンやPS2のように全ユーザー層をカバーする網羅性の高い普遍的なゲームプラットフォームというものが存在しなくなりました。これについてはどう考えますか? 松原氏: 我々にとってはチャンスではないかと思っています。お客さんにとってはそれだけたくさん買わなければならないのですが、それだけ楽しみは増えているとも言えます。家では据え置き機で、電車の中では携帯電話で遊びましょう、とすると非常に楽しさが多様化しますよね。それはコンテンツ業界全体から見ればチャンスだと思うのです。ここでメーカー側が1つのゲーム機だけに作っていると、お客さんのニーズについていけませんよね。 編: 消費者側からすると全部揃えるというのは物理的に、経済的にハードルが高い。どれか1つ、2つその程度になります。売り上げ分布を見ればその傾向は明らかで、バリエーションが広がった一方で、伸び悩むハードがある。結果として売り上げが分散してミリオンセラーが出にくいという産業構造になりつつあります。それでもやはりチャンスだと言えるのでしょうか? 松原氏: ゼロサムだったらそうですよね。しかし我々はゼロサムだとは思っていません。まだまだゲームを楽しむユーザー層というのは日本の中でもかなりポテンシャルがあると思っています。大体40歳に近い層までゲームをプレイした経験がありますが休眠層が多いです。50歳以上の方は「脳トレ」とかが流行っていますがシニア層はほとんどゲームのユーザー層ではありません。お年寄りはなかなか新しいものにチャレンジするのは難しいかもしれませんが、携帯電話は持っている人が増えています。おもしろいコンテンツでユーザーインターフェイスが良ければ、ゲームだって遊んでいただけるはずです。 編: 「プラットフォーム戦争」と言われて久しいですが、未来のプラットフォーム像はどうなっていると思いますか。 松原氏: 私はまだある程度広がると考えています。多様化するのではないでしょうか。今までのように1機種では済まなくなったかもしれませんが、私はこれとこれと。お客さんのスタイルによって変化してくると思います。 多様化したニーズを1つですべて満たすようなものがあるのかといえば、それはハードウェア的な制約で難しいと思います。据え置き機を外に持っていくことはできませんよね。多様化した流れはこれから発展することはあっても衰退することはないと思います。お客さんは1つそういうものを味わったわけです。 電車で座った瞬間にDSを開く女性が増えていますよね。数年前には無かったスタイルです。あれがまたなくなるのかなと言うとそうではないと思います。OLさんが「どうぶつの森」を楽しんだり、次の新しいゲームをやろうと広がると思うのです。他のメディアのコンテンツを見ても、例えばウォークマンでは最初テープだったのが延々と来て、今はハードディスクやiPodが出て、どこでもかしこでも音楽が聴けるようになりました。ああいうのを見ているとゲームだっていろいろなところで楽しみたいというのがあるのではないでしょうか。 編: しかし、ゲームは音楽のように1つのハードですべてのソースを再生できるわけではありませんよね。そこに難しさがあると思います。 松原氏: それは確かにそうですね。それはゲームのインタラクティブ性をもつエンターテインメントコンテンツの特徴でしょうね。映像や音楽のように単に再生すれば良いというメディアと、ゲームの持つメディアの違いだと思うのです。入出力が両方あるといった瞬間に入出力まで全部を共通化しなさいといったらプラットフォームとして差別化できないのです。
エンターテインメントはパッシブなものではないだけ、ハードウェアプラットフォーマーが自由度を持って競争するので、必然的にメインコンテンツにポータビリティがないものを共通化するとすれば、最終的に遊び方を決めるのはお客さんでしょうね。お客さんが絶対それを支持するなら1つのプラットフォームに集約されているわけですからね。
「真・三國無双5」
「ガンダム無双」
「アサシンクリード」
□コーエーのホームページ (2008年3月11日) [Reported by 中村聖司]
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