【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

CEDEC2007現地レポート

コーエー松原社長、コーエーの次期事業戦略を社長として初披露
事業ポートフォリオによる開発とグローバルを意識した多作化に注力

9月26日~9月28日開催

会場:東京大学



 「CEDEC2007」2日目の9月27日は、コーエー代表取締役社長COOの松原健二氏の基調講演「コーエーの目指すエンターテインメントサービス戦略について」が行なわれた。松原氏は、執行役員時代からCEDECの常連講師のひとりとして、国内の開発者にも馴染み深い存在だが、今年は2007年6月に就任したコーエー代表取締役社長としての立場から、コーエーの次期戦略を披露し、日本のゲームメーカーが取るべき道筋を示してくれた。松原氏は、こうしたパブリックな場所で、自社戦略を語るのは今回が初めてと言うこともあり、前日同様、多くの開発者が集まった。


■ 松原氏「2006年のコーエーは残念ながら負け組」。ゲーム市場を取り巻く環境の変化に注目

笑顔で挨拶を行なうコーエー代表取締役社長松原健二氏。CEDECの常連講師として、今年も元気な姿を見せてくれた
コーエーの人気フランチャイズの一覧。累計1,500万本以上の販売実績を誇る「真・三國無双」シリーズと、自身が育てたオンラインゲームがビジネスの両輪となっている
2006年度の家庭用ゲーム機の販売本数は9位。任天堂とポケモン、スクウェア・エニックスやセガが好調。コーエーは「負け組」だったというかなり厳しい評価を下した
 松原氏は、「ここにいる人たちは(私のことを)ご存じだと思いますが」と話を切り出し、2007年6月に社長に就任するまでは、5年に渡ってオンラインゲームの開発に携わってきており、経営企画担当者としては若輩であり、会社の戦略を説明するのもこれが初めての機会だと自己紹介した。余談として、社長就任後は生活パターンが代わったため、とりあえず、食欲の維持と健康管理に気を配るようになったようだ。

 松原氏は、まず初めにコーエーの紹介から行なった。国内800名、海外400名。海外には営業子会社と開発子会社が5社ずつ存在する。人気フランチャイズは「信長の野望」(累計800万本)、「三國志」(累計300万本)、「真・三國無双」(累計1,500万本)、松原氏が立ち上げた事業として、4つのオンラインゲームの運営も行なっている。ビジョンは「世界No.1のエンターテインメントコンテンツプロバイダーになること」。ユーザー向けへのスローガンは、努力の結晶の提供をイメージした「ついにできたを」。

 2006年の売り上げの規模では国内9位に位置する。プラットフォーマーや大手ゲームメーカーに次ぐ順位となる。2005年比では-27.9%で、1位の任天堂や2位のスクウェア・エニックスのように100%以上の増加を示しているメーカーを引き合いに、「2006年は勝ち負けがハッキリしてきた。コーエーは残念ながら負け組」と、コーエーの立ち位置を率直な表現で報告した。

 次に松原氏は、視点をワールドワイドに移し、まずハードウェアの普及台数をデータで紹介。今年からメインストリーム市場が次世代機に移っているものの「まだ1,000万台すら超えていない」と厳しい見方を示し、その上で、ニンテンドーDSが約3,300万台、PSPが約2,300万台と大きな市場に成長しつつあり、また、依然として1億台を超えるプレイステーション2がトップシェアを占めるという現状を報告。

 続いてソフトウェアでは、Wii、ニンテンドーDSで任天堂が圧倒的な強さを見せている一方で、プレイステーション 3はサードパーティー製のタイトルが続々とトップ10入りを果たしており、「その意味では非常にひらかれたプラットフォーム」と評価。コーエーも「ガンダム無双」と「BLADESTORM」の2本がトップ10入りを果たしているが、2位の「ガンダム無双」ですら30万本に届かない厳しい現状が報告された。

 これらのデータから松原氏は、「次世代機はまだまだ過渡期」と結論づけ、「今後数年はプラットフォームの多様化が進みながら、変化が続いていく」という予測を示した。さらに松原氏は、市場の動向について「プレイステーション 2だけで済む時代が終わったのは確か、シェアの推移がどうなるかはもう少し時間がかかるだろう。結論はまだ見えない」と慎重に言葉を選びながらコメントし、群雄割拠の時代の到来を示した。

【2006年度ハード、ソフト販売数】
ハード、ソフトともに、国内では任天堂の独壇場となってしまっているが、プレイステーション 3は最初からサードパーティーが牽引している。これを松原氏は「ひらかれたプラットフォーム」と評価


■ コーエーの採るエンターテインメントサービス戦略。共通開発基盤の整備を急ぐ

事業ポートフォリオを再定義し、投資配分とその成果を明確化させるのが狙い。同時に共通開発基盤にもてこ入れを行ない、マルチプラットフォーム対応と、開発コストの圧縮を進める
メディアミックス展開もアピール。多くのユーザーを獲得している「ネオロマンス」シリーズを軸により積極的な展開を行なうとのことだが、「TVアニメは難しい」と慎重な構えを見せた
 本題であるコーエーのエンターテインメント戦略の紹介では、「事業ポートフォリオに基づく開発」、「コンテンツ・エクスパンション」、「グローバル展開」の3つを提示した。

 「事業ポートフォリオに基づく開発」は、分野別に投資配分を行ない、投資に明確な目標を持たせた上で、将来を見据えた成長戦略を描くという考え方だ。具体的には、挑戦、収益、改革という3つの分野を設定し、あらゆる事業をいずれかにカテゴライズし、全体でバランスを取るというものだ。挑戦は、主に次世代機をターゲットにした新規事業のチャレンジ、収益は「真・三國無双BB」シリーズ等のドル箱製品の新作の提供、改革は既存シリーズのバージョンアップや拡張パック的な展開を指す。

 また、挑戦の一環として挙げたマルチプラットフォーム対応に関しては、ワールドワイド規模で見た場合、北米はXbox 360、日本はWiiといった具合にハード分布に地域差があるため、この差を埋めるためにはマルチプラットフォーム展開が最適解であるという認識から、異なるアーキテクチャへの対応とマルチプラットフォームを同時開発できる環境の整備の必要性を訴えた。

 ちなみに次世代機に関して、必ず話題に上る開発費の高騰について松原氏は、9月24日に日経新聞で掲載された新旧プラットフォームで開発費が20倍も違うという記事を引き合いに出しながら、「本当に20倍も違うのか?」と切り出し、自社タイトルの新旧プラットフォームの開発工程数の違いをグラフにして見せながら「実際には2倍もいっていない。工数を上がらないように作ろうと思えば作れる」とし、次世代機だから必ずしも開発費が高騰するわけではないとした。

 そうした開発工数を減らすわかりやすい方法として松原氏は、ゲームエンジンを取り上げた。コーエーは、2006年にEpic Gamesとライセンス契約を交わし、現在PS3向けに開発している「Fatal Inertia」にUnreal Engine 3.0を採用している経緯がある。松原氏は、ゲームエンジンが果たすべき役割として、グラフィックスやAI、物理などを含んだランタイムとしての機能、マルチプラットフォーム向けの開発環境の整備、開発工程の短縮化の3つを挙げた。その上で松原氏は、こうしたゲームエンジンは北米、欧州では取り入れられやすい環境が整えられていることを報告。「負けちゃいられないな」とつぶやき、コーエー社内でも早急に共通開発基盤の整備を進める考えであることを明らかにした。

 「コンテンツ・エキスパンション」は耳慣れない表現だが、1ソースマルチユース戦略とメディアミックス戦略を組み合わせたような複合的なゲームメディア戦略だ。有名ブランドとの協業では「ガンダム無双」を例に「機動戦士ガンダム」と「無双エンジン」のコラボレーションを取り上げた。

 また、メディアミックスでは、女性向けのブランドである「ネオロマンス」シリーズを取り上げ、パシフィコ横浜で定期的に実施されている「ネオロマンス」ライブコンサートにおける女性ファンの熱心さを興奮混じりに語った。松原氏は、現在、コーエーの全事業を直接視察してるというが、ユーザーのほとんどが女性であり、それでいて万単位のチケットがすぐ完売し、イベント当日、駅から会場に近づくにつれてコスプレイヤーの数が増えてくるという、オンラインゲーム事業とはまったく別種の世界にカルチャーショックを受けたようだ。

 それほど人気であるならオンラインゲーム化されてもおかしくないように思えるが、松原氏によれば「ネオロマンス」シリーズの魅力は、自分と自分を守る男性達「八葉」との一対多の関係性の妙にあるため、オンラインゲームにはまったく向いていないという。また、「ネオロマンス」シリーズの海外展開については、ゲームパッケージ単体で売っても意味はなく、あくまでコミック、CD、OVA、イベント等をワンセットで提供する必要があるという。

【「本当に20倍のコストがかかるのか?」】
松原氏は、次世代機の開発費の高騰を取り上げ、「本当に20倍かかるのか?」と問題提起した上で、自社データを引き合いにしてこれを否定。重要なのは、開発工程を減らす社内の仕組み作りだとした


■ コーエーの目指すグローバル展開。現地パートナーと提携して欧米市場を獲りに行く

松原氏は、グローバル展開は、ゲームメーカーの成長戦略を考える上で、必要不可欠
海外開発拠点を活用して海外市場向けタイトルを増やしていく。今後も海外市場を意識したユニークなタイトルが生まれてきそうだ
 最後の戦略は「グローバル展開」。松原氏は、「コーエーのプレゼンスは残念ながら、北米欧州には届いていない」と率直に現状を報告。その理由は、Electronic ArtsやUbisoftといった世界大手に比べて、コンテンツラインナップが少なすぎて、ユーザーの目にとまらないからだという。しかし、海外の市場規模は単純計算で日本の4倍相当あり、これを獲ることが成長戦略のカギを握る。

 この劣勢を覆すコーエーの戦略として、まずは単純に国内外の開発拠点をフル活用して欧米向けのラインナップを増やしていく。「何を増やすのか」については言及されなかったが、“ノブンガ”と発音される「信長の野望」や、ほとんど知名度のない「三國志」ではなさそうで、カナダスタジオの「Fatal Inertia」のような欧米のテイストに合った次世代機向けゲームのラインナップを増やしていくということのようだ。

 また、今後、現地の直販体制の強化に加え、流通や販売を委託するパートナーメーカーとの提携を増やしていくという。この背景には、日本と欧米では“売れ方が違う”ことが挙げられる。最たるものとしては、商慣習の違いで、日本ではパッケージ製品は返品がないため、純粋な売り切り型のビジネスモデルが成立するが、欧米では売れなかったらメーカーが引き取る必要があり、数カ月後にはショップ側の判断で値段が一気に下げられてしまう。こうした商習慣の違いに対応するためには、現地展開に多くのノウハウを持つ現地パブリッシャーとの深い結びつきが必要不可欠というわけだ。

 直販体制の整備と並列して、パートナーを探すというアプローチは非常にユニークで、松原氏がオンラインゲームのアジア展開を通じて学んだ、現地パブリッシャーと組むメリットを欧米にも適用させるという考えだといえそうだ。主要展開地域については、「まずは北米」とし、社長就任後、早速ヨーロッパを視察した感想もふまえ、「ヨーロッパは想像以上に手強いが、市場は順調に伸びており、本格参入する価値はある」と、欧米の両方の市場に期待を寄せた。

 なお、今回は残念ながら得意分野であるオンライン戦略については言及しなかったが、デジタルダウンロードについては、旧タイトルの復刻やカジュアルゲームの制作より、体験版の制作に力を注いでいるという。実際、PS3版「BLADESTORM」では、体験版のダウンロード率が非常に好調で、パッケージ販売にも好影響を与えたという。また、松原氏はGAMECITY事業部長も兼務することから、オンラインゲームを含むコーエー主導型のオンラインサービスについても、「今後しっかり考えていく必要がある」と明言。現在4タイトルのオンラインゲームを提供しているGAMECITYに関しても、今後、改良の余地があることを伺わせてくれた。

 今回松原氏が提示した戦略は、特段目新しい部分はなく、平たく言えば「当たり前のことを当たり前にやる」ということにつきそうだが、就任1年目にして早くも共通基盤の整備を意識し、グローバル展開を打ち出したのは、いかにも松原氏らしい。図らずも、基本路線はスクウェア・エニックスに似通っており、今後の課題はいかにコーエーの独自色を打ち出し、それをセールスに結びつけていくかということになりそうだ。

【コーエーの2007年度ラインナップ】
松原氏はコーエーの具体的な取り組みとして2007年度の新作タイトルをムービーで紹介。今年Wiiへのタイトル供給を開始し、次世代機のすべてに対応。「三國志 Online」のみWindows PC。4つの主要ゲームプラットフォームのすべてにタイトルを供給していることになる

(C) 2007 KOEI Co., Ltd.

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2007」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□関連情報
【2007年9月26日】CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2007」を開催
セガ小口副社長「楽しい国、日本」。DiGRA併催で東京大学にて開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070926/cedec_01.htm
【2007年9月26日】セガ小口氏が基調講演、「『あそびをつくる』……その本質とは」
「欲求」から考える面白いゲームの作り方
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070926/ogu.htm

(2007年9月27日)

[Reported by 中村聖司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.