|
会場:アルカディア市ヶ谷
セミナーの方向性は完全にビジネス寄りで、講演者はDCIPO副主任兼III団長の何文雄氏を筆頭に、Softstar、TWP、XPEC、INTERSERVといった台湾大手の総経理クラスが勢揃いする。文字通り“全権”を持つ幹部が来日することもあって、参加者も大手から中小メーカーまで揃っており、このセミナーを通じて実際にビジネスアライアンスを結んだメーカーも多いようだ。ちなみに過去3回のセミナーでの“成績”は、何文雄氏によれば2億台湾ドル(約6億5000万円)にものぼるという。 今回のセミナー「中華圏におけるゲーム市場の現状と今後」は、要するに来たるべき中国市場極大化時代に備えて、中国市場にすでに十分な足場を保持する我々と組んで「バスに乗り遅れないようにしましょう」という内容のセミナーで、オンラインゲーム、カジュアルゲーム、コンソールゲームとアプローチは各社ごとに少しずつ異なるが、最終的には自社のPRに収束していくのが特徴である。 そもそも、台湾メーカーが日本メーカーに向けて中国ゲーム市場を語るというセミナーのあり方からしてユニークだが、この背景には、もともと台湾メーカーが、中国市場へのゲートウェイの役割を担うことを重要なビジネスとして考えていることに加え、すでに台湾ゲーム市場を開拓しつくされてしまったという危機感を抱いていることが挙げられる。 数年前までは、メインはあくまで台湾市場であり、中国市場は追加オプション的な位置づけに過ぎなかったが、今回は、中国市場への展開が大前提になっており、中にはXPECのように、すでにワールドワイドを視野に入れ、積極的に活動しているメーカーもいるなど、台湾メーカーの海外戦略の変容ぶりが印象的だった。
■ XPEC独自の中国進出慎重論に注目
今回も冒頭から「中国ゲーム市場は果たして本当に大きいのか」と切り出し、ワールドワイドのゲーム市場に強い証券会社Wedbush Morgen Securitiesの2004年度のデータを引き合いに出しながら、日本、北米、ヨーロッパに比べ、いかに中国が小さい市場であるかを紹介。確かに最新のデータである2004年度の数字だと、中国市場は、日本市場の1/10、北米市場、ヨーロッパ市場のそれぞれ1/16に過ぎない。 仮にこのまま予測通りに50%前後の成長を維持したとしても、2007年時点で日本のわずか1/5にしかならない。しかも、この日本のデータは、近年巨大な市場に成長しつつあり、今後も有望であるPCオンラインゲームやモバイルゲームのデータは含んでいない。一方、中国に関しては中国市場といいつつ実質的に沿岸部を指しており、内陸にまだまだ巨大な潜在需要が眠るという見解もある。いずれにしても、ひとつ気づかされたのは、中国市場の客単価は予想以上に低く、そのため仮にユーザーが爆発的に伸びても、売り上げは正比例しないということだ。許氏の見解は示唆に富んでおり、本質を抉っていて極めて興味深い。 許氏は続けて、多くの参加者が気にしている中国政府が突如として打ち出した政策「グリーンゲーム」についても言及。「グリーンゲーム」は、ゲームの長時間プレイが子供に悪影響を及ぼすことを防ぐために、1日当たりのプレイ時間を3時間と定め、それ以上のプレイは結果に反映されないような仕組みをすべてのオンラインゲームに強制させるという前代未聞の施策。これは来年1月に中国全土での施行が確定しており、それまでにシステムを実装しないゲームは、運営許諾を取り消されてしまう。中国で展開するすべてのメーカーは、この問題について頭をかかえており、朝令暮改となることを期待する向きもあるようだ。 許氏は、発表当日の新聞を手に経緯を紹介。さすがに中国政府に対する直接の批判は避けたが、「すべてのゲームは教育上好ましいものでなければならない」という当局側の考え方を披露し、結論として「政策による影響が大きく、市場予測が難しい」ことを紹介。中華圏の関係者から、こうした生々しいネガティブな話を聞くことはなかなかできないが、実はXPECは「グリーンゲーム」完全対応のオンラインゲーム「Blue Cat」を開発しており、このあたりの抜け目のなさは一種の凄みすら感じさせる。これが台湾風ということなのだろう。 XPECの中国戦略については、XPECの世界戦略とリンクしており、これもおもしろかった。XPECは、最終的には次世代機が中国市場にも根付くという独自の判断をしており、その自社戦略に沿って、現在世界中のゲームメーカーと手を結び、自社開発力と、自社ブランドを養いつつ、最終的には完全自社開発のコンシューマタイトルを中国市場に展開することを考えているようだ。 XPECが次世代機に傾注する理由として、次世代機がいずれも標準でネットワークに対応すること、それからオンラインゲームに付随するトラブルである不正行為に対するセキュリティが高いことを挙げた。許氏は、中華圏市場でPCオンラインゲームが爆発的に伸びた理由として、海賊版に対する懸念がなかったためというクールな見解を示している。しかし、やはりチート対策に関しては、未だに抜本的な対策が見つかっていないことを認識しており、それゆえの次世代機という捉え方をしているようだ。次世代機をPCに変わるオンラインゲームの新たなプラットフォームに見立てるという考え方は、当たり前のようで新しい。いずれにしても台湾メーカーとしては珍しく、長期プランで戦略を立てていることを伺わせる。 許氏は、講演の最後に「遊」という漢字を取り上げた。しんにょう部分に着目し、台湾では「歩く」ことを意味し、これが中国ではさんずいを使うため「およぐ」になるという。許氏は、「我々から見て日本のゲームメーカーは空を飛ぶような存在だ」と持ち上げ、「その日本が、陸の台湾と水の中国と手を結べば、怖いものなしじゃないか」とコメント。「一緒に中国に行きましょう」と結んで、大きな拍手を受けた。 セミナー修了後の懇親会で、「グリーンゲーム」への対応について意見を聞いてみたが、現在運営中のタイトルにどのような対策を施すのかといった具体的な話は何も聞けなかった。XPECの許CEOも、「若い子は自制心がないので、一定の規制をかけて健康的な生活を送らせるという考え方は理解できるが、今回のやり方が一番有効なのかどうかは考える必要があるのではないか。開発側の影響も大きいが、3時間規制を逆手にとって、それに則したジャンル、遊び方のゲームも今後考えていく必要があるだろう」と発言するに止めた。各メーカーは当然の事ながら内心では強い拒否反応があり、政治行動により、現状維持の解決に力を注いでいるという印象を受けた。「グリーンゲーム」がそのまま施行されれば、中国ゲーム市場に激震が走ることが予想される。来年1月が注目されるところだ。
DCIPOの何団長には、中国政府の国産ゲームを奨励し、海外ゲームの規制を強めていくといういわゆる「中国民族ゲーム政策」について意見を伺ってみたが、「中国には開発力が不足している。最終的には我々台湾や韓国、そして日本といったメーカーの力が必要になってくるだろう」と、それほど深刻には捉えていないようだった。中国ゲーム市場は、何と言っても政府当局の影響力が絶大で、かつ反応がやや過剰であることがネックになっている。メーカーとしてはそれゆえになかなか本腰が入れられないのが現状だが、メディアの人間としてまだまだ目が離せない市場であることは間違いない。今後とも注目していきたいところだ。 (2005年9月15日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|