【アーケード ミニ特集】「O.R.B.S.」を作った男たち(part2) |
(上)プロトタイプが出来上がるまでに描かれたイラストの一部。これはイスを引くバージョンで、プレーヤー横はカーテンのようなもので遮光するスタイル。 (中)スクリーンが稼動するタイプ案。 (下)スクリーン自体が稼動するプラン |
渡辺 小林さんの方からとりあえずの仕様をもらって、スクリーン前に半球があって、どこから投影してイスの高さが、とか、全体的な高さの指定があって、その中で「じゃあ乗り降りはどうするのか」っていうことと、そこをクリアする中で、「何かいいアイデアはないかしら?」という感じで、いろいろとスケッチを描いたんですが……。
最初は「後ろについたてだけ立てておけば横が開いててもいいかな?」って思ってたんですよ。そうすると、案外光が入ってくるんで「全部囲っちゃえば?」っていう話になって……。「でも囲ったらどうやって乗り降りすんのよ?」となって(笑)。
指田 アイキャッチとしては、最低限必要な部分だけで相当なインパクトはあるからね(笑)。
渡辺 そうですね。半球の所は半球のまんま。一番看板になるんじゃないかっていうのはあったから、普通の筐体に付いている看板はついてないんですよ。……だけどこれ汎用なんですよね?
指田 だからショウに出展するということと、「スターブレード」を入れてプレゼンするということで最後の最後で色とか……NASAのシュミレーターみたいな感じで……僕の方が「こうしろ(笑)、この色ならいける」って決めた部分があって(笑)。
渡辺 その時もう、ショウに出展するということだったから……僕も「ショウにはベストの状態で出したいよね」って思ってたんですよ。僕は違う部署にいて、まあ建物も全然離れてるんで、中のソフトウェアのイメージが中途半端にしか掴めなかったんです。だから色に関しては指田さんにお願いしちゃってそれを採用しようっていう(笑)。
指田 そうだったのね(笑)。だからそういう意味では、今回の筐体のイメージってのは、だいぶ「SBOB」というソフトに特化したイメージにはなってます。
--最初見た時に、そうなのかなって思ってたんですよ。
指田 そうとらえて頂ければOKなんですけど(笑)。それが狙いなんで、だから製品化されるとなれば、その辺をイチからちょっと練り直さないといけないと……形状も含めて、ちょっとゴツすぎるもんで。
渡辺 そうですね。汎用ということで、あんまりイメージのない線を選んで作ってたんですけど。いろいろガチガチにする必要もないなと。出展時に一番時代にあった感じがいいなと(笑)。できればちょっと先取りぐらいで。だいぶ先取りでもいいんだろうけど、まあその辺はさじ加減ですけど、量産する時は当然変更されるということで(笑)。僕がその時も担当出来たらいいんですけど。
指田 ちょっとメタな視点で言っちゃえば、「UGSFの訓練施設にきっとこんなものがいくつも並んでるのかな」みたいなイメージ……っていうのはありました。だから、普通クールグレーの濃い色とか、あまり使わないんですけども、白もちょっと微妙にアイボリーが入ってたりとか……そういったリアリスティックな感じで統一してますね。
--ショウでは効果ありましたよね。かなり目立ってました。
指田 狭いロケーション……見る位置が必ず何10cmっていう場所と違って、ショウってやっぱり遠くから見て「わー! なんだあれ?」っていう視覚効果に関しても考えることは違いますから。
渡辺 ……そうですね(笑)
指田 考えてなかったな?(笑)
渡辺 いや、「(O.R.B.S.の)ロゴを大きく描く」って聞いた時びっくりしたんですけど、すぐ理由はわかりました。筐体の形をデザインする時点では、まだ中に入るソフトの方が決まってなかったんですよ。コンセプトっていうよりは、ほとんど形状的に追い詰められてこの形になってるというところもあって、飾りや段差にも中にいろいろ骨が入ってたり、理由があってこの形になってるんです。
今までにないものなんで、最初から飾りをつけていくとなんだかわかんなくなっちゃうような気がしたんで、なるべくラインを削ぎ落としたというのはありますね。本当にプロトタイプのつもりで作ったんですよ。
小林 でもシンプルな機能美がありますよ。今回のデザインには。
渡辺 それはありがたいことです。
● 球形スクリーンならではの苦労も……
「SBOBP」の画面。実際にスクリーンに写し出される時は、スコアなどは視界の外にいってしまう。球体スクリーンの中心から、円周上にシールドゲージが配置されているのが新しい |
※画像は4対3のTV画面用に補正したもので、実際に画面上に投影されるものとは異なります |
小林 大きさはこちらから「スクリーンは1.5mで、レンズの位置はここで……」といった細かなオファーを出して……。渡辺さんにいくつかデザインスケッチを出してもらって……「基本的にイスで蓋をしましょうか」という話になった時点でデザイン的に決まった感じですよね?
渡辺 そうですね。さんざんスケッチを描いていたんですが、ひょろっと描いてそれになった気がする……(笑)。7月中ぐらいから始めて……9月の終わりぐらいですね。でも、完成期日が決まっていたんで。
小林 実は、最初は2001年2月のAOUショーに間に合わせようということで動いていたんですよね。
渡辺 筐体は結構できあがっていたんですよ。
指田 中身はそこから作ってたから(笑)。
小林 人の確保に手間取りまして……ソフトのほうは難航しましたね。
渡辺 大変でしたよね……。
指田 作ったことないからね……。誰もああいうレイアウトの画面は。
渡辺 どうなるかわからなかったんですよ。点数とかどこに表示されるか心配だった。
指田 相当苦労して……結局「ゲーム中は点数見ないで、後でわかってもらえばいいや」ってわざとゲームの妨げにならない端っこに持っていった感じです。平面上で考えても、実装してみると真横になるから、「デザインどうやったらいいんだ?」となって。だから、目線の中心を軸にして、円周状にエレメントを配置していくというというような考え方じゃないと……。縦横の軸で考えていくとできない。
そんなわけで表示系は苦労しましたし、全体の絵作りとしても、相当マシンパワーにムリをさせて表示しているので、このご時勢ノンテクスチャーで、ああいう形で出展して、「えっ」と言われる方もいるんですけれど、パワー分配としてああせざるを得なかった、というのもあります。しかし、逆にそのあたりを味にしていきたいと。どういう表現で落ち着くか、というところでだいぶ苦労しました。地球だけは象徴的に置きたいんでテクスチャを張ろうとか……。
--表示系だと、横に配置されるものなんかは大変だったんじゃないかと。
指田 大変でしたね。結局表示系統もパーツを全部バラバラに分割した形でプログラマに渡して実装してもらって、位置を微調整してやっと見られる。アイデア出しをして表示されるまでの時間がかかりました。だからやってみてダメだった、というと直すにもすごく時間がかかって。そういうところが苦労しましたね。
渡辺 アイデアが浮かんで見られるようになるのに時間がかかるのはキツイですね。
指田 そう、きつい。でもだいたい、基本の画面を作ったらあとは頭の中でイメージしながらバーッと作業するという感じです。
--いろいろゴチャっと配置できないし、プレイしてると正面に集中してしまうし……。
指田 情報量が多すぎると目で追えないんですよね。だからどこにパワーを割くか、という部分もあって。実は結構横のほうでは凝った演出してるんですけど、結局誰も見ない、という(笑)。そのあたりは余裕ができたら見てもらえばいいかなと。3次元で動かしたとき、最初はインジケーターとか照準とかも、人間の目では視界の外に出ちゃうと追えないんですよね。自分の手の動きに対してどこに照準が行っているかすらわからなくなっちゃう。
照準をどう目立たせるかというのもとても大変で、今はネガポジ反転処理してるんですが、三角のおにぎりみたいなマークが4つあって、これは自機のコンディション表示しているんですが、「そこから集中線を引いてわかってもらおうか」とかいろいろ試してみました。何かを付加する形にすると思った以上に情報量が多くなってうっとおしいんですよ。これは今まであまり味あわなかった苦労です。
いわゆるゲームが好きな人はある程度文法的な部分はわかるんですけど、そうでない人がガーッとコントローラ動かしちゃうと照準がピュッと上とか横に行っちゃって、わからないうちにゲームオーバー。なるべく基本的な部分をわかってもらうための努力という、今まで努力しなくてよかったところが結構ありましたね。
--本業もやりながら……。どっちが本業だというのもあるでしょうが(笑)
指田 当然どっちも本業です(笑)。200%がんばりましたからね。ホントに。
● 「スターブレード」に対する思い入れ
--製品化されたとしたら、ナムコさんがタイトルを作るとしたらやはり「スターブレード」ですか?
指田 もちろん、「O.R.B.S.」は汎用が前提ですから、いくつか他のタイトルで検討してみる必要性があるとは思いますが。思い入れとしては、ナムコのオリジナルのSFシリーズかつ脈々と10年間歴史が続いているオリジナルとして「スターブレード」は大切にしたいと思いますね。そういう正統としての提案としてはこれでしょうね。宇宙空間ってのは男の子の憧れですからね(笑)。わかりやすい形として。そういうものも提案していきたい。
あとはこれにちゃんと対応した形で車ゲームを作ってみたい、というのもありますね。
小林 やってみたいですね。絶対「いいっ!」って言わせる自信がありますよ。実際、例えば初代「リッジレーサー」を入れてもたぶん新鮮な驚きがあると思うんですよ。
指田 いってみれば、たぶんランクとして1つ上のレベルのものなんで、全然違う土俵ですよね。同じコンセプトで言えば、うちの場合は今までは「ドライバーズアイ」が限界だったんですよね。3画面で視界の端にかかる部分まで画像を生成して、没入感を感じさせたい、というのはシミュレータとしては大事な部分なんで。今回の「O.R.B.S.」も目標とするべきところは同じだし。
小林 ここ2年ぐらいですよ。こういった形で映像生成とか、画像技術が追いついてきたのは。それまではやりたくてもできなかった。
渡辺 風景ものをちょっとやってみたい気がしますね。これで。
--「プロップサイクル※2」とかいいですよね。空を飛ぶってのはいいなと思うんですけれども。空を飛んで下を見てみたい。
渡辺 ゲームでしかできないですものね。あれ。
指田 すごくリアルにあの浮遊感覚を感じられると思う。180度あれば、全部の視界を収めているに近いんで。人間の視界の周辺って視力でいうと0.1ぐらいですけれど、あるとないとでは違う。そのあたりを基準に体の平衡を保っていたりとか。そのへんをだましてしまえば、感覚としては現実っぽい。脳味噌だまされちゃうというか。
※2 「プロップサイクル」……'96年に稼動開始した人力飛行機械「ラペロプター」で空を飛び、赤い玉を時間内にすべて破壊すればOKという全4ステージのアクションゲーム。ペダルを漕ぐと風にあおられ、独特の浮遊感が楽しい作品。
● 「O.R.B.S.」の次のハードル
--製品化するにあたって、この筐体はどうなっていくんでしょうか?
渡辺 とにかく設計変更は必要でしょうね。今回、ショウ会場などに実際に運搬してみて、分解とか組み立てをしてみて問題点も見えてきているんで、それを解決する方法を盛り込んでいかなければならないですし。もちろん安く作るということで、製作方法やそれぞれの部品についてコストの見直しもやらなければならない。実際に出すとしたら、「今回割愛しているけれどココが大事だったんだ」という部分を見直してみたいですね。
指田 通常の汎用コンソレット筐体のIDを見てもらえればわかると思いますが、基本的に存在感があって、それでいて何にでも対応できるようなデザインなんですよね。そういう方向性でデザインを煮詰めていく必要性はあると思います。後は営業していく上でプレーヤー以外の人へのアピールの部分は考えていかなければなりません。外付けのモニタを置けるようにするってのも簡単にはいかないし。結局乗ってもらわないことには魅力が伝わらないですから。
渡辺 手軽に乗れるように、とは思っているんですけれど……。いかんせん光学的な問題とか……遮光をしないとコントラストが出ないという問題があるので、それを解決すればアクセスしやすくなると思うんですが……。密閉されている、というところで気持ちがいい人もいるだろうし。重要視しているところではあるんですけれどね。
指田 密閉されている、ということ自体が日常ではあまりありえないですから。テーマパークのアミューズメント施設のように常にオペレータが付けばいいんですが、ゲームセンターでは不可能なので。
--このプロジェクトに携わってみて、読者の方々や他の業務用ソフト開発会社の方々になにかメッセージなどありますか?
指田 他の会社の方でも、オファーしていたければこちらとしては大歓迎ですよね。皆で盛り上げていきたいという思いはありますね。いかがでしょうか? ということで(笑)。
(C)NAMCO
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□関連情報
【11月9日】第39回AMショーに参考出展されたナムコ大型汎用筐体「O.R.B.S.」の謎を追え!!(第2回)
「O.R.B.S.」を作った男たち【part1:基礎理論・企画編】
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011109/orbs.htm
【11月2日】第39回AMショーに参考出展されたナムコ大型汎用筐体「O.R.B.S.」の謎を追え!!(第1回)
百聞は一見にしかず。これが「O.R.B.S.」だ!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011102/orbs.htm
【9月20日】「第39回アミューズメントマシンショー」ブースレポート(ナムコ編)
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010920/jmr2.htm
(2001年11月16日)
[Reported by 佐伯憲司]
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