2018年11月2日 07:00
馬を走らせ荒野を疾走する。人との出会いに緊張しながら、金儲けのチャンスを探す。獣を狩り、皮を剥ぎ、馬の背に積んでキャンプに戻る……この荒野で、無法の西部でいかに生きていくかを1つ1つ学んでいく、その行為そのものがたまらなく楽しい、それが「レッド・デッド・リデンプション2(以下、「RDR2」)」というゲームである。
西部開拓時代は、現代から見れば遙かに野蛮で、危険に満ちた世界である。周りの人は信用できず、自分もまた人から疑いの目と警戒の銃口を向けられる。そして主人公アーサーを含めた、ダッチギャング団は時代に押し流され消えゆく存在である。本作はその「現代にはない過ぎ去った時代」を丁寧に、そして高い密度で表現している。プレーヤーはこの時代に生きたギャングになりきることができ、そして時代によって消されていく悲哀を“実感”できる。
「RDR2」は、楽しくて、面白くて、そして哀しいゲームだ。一方で、その高い自由度故に「何をしていいのかわからない」と困惑してしまう人もいるかもしれない。現代とは異なる過酷な価値観に気持ちが入らない人もいるかもしれない。しかし、“無法の西部”を生きる「RDR2」は、これまでの作品でなしえなかった没入感、歴史への理解、無法者として生きる独特の高揚感を味合わせてくれる。ゲームはこういう世界を、こういう体験を表現できるのだ。その凄さを実感できる作品である。
「RDR2」はすでに発売されている。そのため、本稿ではストーリーにも触れていく。「ネタバレはいやだ」という人は、プレイしてから読んでもらいたい。本作のストーリー、システム、世界観など様々なポイントを語り、その魅力を掘り下げていきたい。
時代に抗い、やがて押し流されていく西部の男達を描くドラマ
物語は1899年、“西部開拓時代の終わり”から始まる。主人公・アーサーは魅力的なリーダー・ダッチ率いるダッチギャングの主要メンバーの1人。物語冒頭はダッチギャングのとんでもない窮乏から始まる。ダッチギャングは今にも死にそうな状態で荒れ狂う吹雪の中、さまよっているのだ。重傷の男や、女子供を連れてギャング団はさまよう。そしてうち捨てられた開拓民の家に逃げ込み、一時の安息を得たのだ。
ダッチ達は西部の街ブラック・ウォーターで手ひどい失敗をやらかした。政府の走狗となった賞金稼ぎが結成した警備会社「ピンカートン探偵社」に追い立てられ、追っ手をまくために雪山に逃げてきたのだ。持っていた大部分の金はブラックウォーターに隠したものの、取りには行けない。仲間の何人かは殺され、つかまった者もいる。八方塞がりの状況だが、ダッチは諦めていない。ダッチは「今まで通りのやり方」で金を稼ぎ、その生き方を貫き通そうとしている。しかし、アーサーは言葉にできない大きな不安を感じていた……。
雪山から下りたダッチ・ギャング団は林の中に隠れるようにキャンプを作り、再起のための資金集めをメンバーに命じる。アーサーはダッチの片腕として、積極的に金を集めるために、西部へ馬を進めていく……チュートリアルであるチャプター1を終えると、プレーヤーの前に広大な地域が提示される。
「RDR2」は広大なアメリカ西部、中部地域を舞台としたオープンワールドゲームだ。そのマップの広さはロックスター・ゲームス史上最大、「Grand Theft Auto V」すら越えるマップが用意されている。ただ広いだけでなく、その自然描写、地形描写は驚くべきもので、本当に世界を旅しているような気持ちにさせる。開拓時代のアメリカは人口密度は低い。開拓民の民家に出会うことすら少なく、ギャングのキャンプに近い所は小さな街バレンタインがあるだけだ。
マップは最初は大部分が空白となっている。マップに描かれているストーリーミッションのスタート地点に向かうことで物語は進んでいくが、それらを後回しにして、地域を探索してもいい。何をしても、どう進めても自由、というこの「投げっぱなし感」は、前作である「レッド・デッド・リデンプション」や「GTAV」以上であり、プレーヤーによっては迷う人もいるかもしれない。
……しかし、それがいいのだ。正直最初は不安だらけだ。道の先に何があるかわからないし、まだ馬の操作は独特で、慣れない場合は事故を起こしかねない。不用意に銃を抜いてしまうこともしばしば。なんだかわからず犯罪を通報され、賞金稼ぎに追われてしまうこともあるだろう。だが、そういった様々な体験がプレーヤーを「西部の男」に育てていく、この世界で生きる“掟”を学んでいくのだ。徐々にこのゲームのルールを覚えながらストーリーを進めていく。
賞金首を追っても良い、道行く人の金品を奪うのも、逆に高潔なガンマンを目指すのも良い。盗品商人に奪った馬車や貴重品を売って金集めに奔走したって良い。もちろんストーリーを積極的に進めるのもありだ。「RDR2」は“オープンワールドとはどんなことができるか?”というテーマをとことんまで突き詰めた作品だ。宝探し、荒野の殺人犯追跡や伝説のガンマンの足跡を追うなど、序盤からサブミッションも多く用意されている。
そういった「何でもあり」な状況の中で、アーサーを縛っていくのが賞金稼ぎのシステムである。例えばギャングに襲われたり、向こうから襲われた場合でも、返り討ちにし、死体をあさっているところを他の人に見られてしまうと通報されてしまうのだ。目撃者は一目散に逃げるので、彼らを止めるのは至難の業だ。そして通報されると賞金を掛けられる。賞金稼ぎは昼も夜もなくアーサーを追い詰め撃退したところを見られてしまうと賞金が跳ね上がってしまう。
これを止めるにはまず目撃者に警戒し、死体のそばに長時間留まらないこと、街中でケンカを売られても逃げること。目撃された場合は……速やかに始末してしまうのも手だ。賞金を掛けられてしまった場合、駅などの郵便配達を通じて懸賞金を自分で払うことで解除される。最初は訳もわからず賞金を掛けられ、賞金稼ぎに追いかけられ、大きな恐怖に囚われてしまうだろう。「RDR2」ではこの賞金システムの恐怖に直面することになる。
そしてこの賞金システムこそが西部から無法者を放逐した元凶だというのを痛感するのだ。賞金稼ぎという無法者を使って無法者同士を争わせるシステムは、ギャング達を減らし、そして残ったギャング達はいずれ政府の兵隊達に根絶やしにされていく。無法の西部に“法”が持ち込まれ、ギャング達の自由な活動ができない世界がやってくる。プレーヤーはまず、賞金稼ぎに追われてその“歴史的事実”を知ることとなるのだろう。
このように書くと本作を過酷なだけ、きついだけのゲームという印象を与えるかもしれない。もちろんそうではない。ギャングメンバー達はそれぞれキャラが立っているし、ストーリーはロックスター・ゲームスの作品らしくハチャメチャで派手だ。その濃いストーリーを幹に、どこまでもやり込めるオープンワールド要素が詰まっているのである。プレイをしていてその世界観に酔い、プレイを中断しているときに「ああ、西部に帰りたいなあ」と思わせる、どっぷり楽しめるゲームなのである。冒険、探検の楽しさがここにある。ぜひ「RDR2」に飛び込んできて欲しい。
オープンワールド西部劇、釣りに狩りに馬車泥棒、列車強盗まで何でも学べ!
ストーリーは「RDR2」での“生き方”の基礎を学ぶ大事な要素となっている。ギャングの皆から様々な技術を学ぶことでその行動がアンロックでき、その後はその行動で資金稼ぎができるのだ。
まず最初に学ぶのが「狩り」。「RDR2」では「イーグルアイ」という能力を使うと獲物の足跡を追いかけることができる。後を追いかけ、物陰から獲物を撃つことで狩りができる。シカや七面鳥は目立つ上に数が多く、序盤から簡単に狩れる獲物だ。狩った動物は皮を剥いだり、そのまま馬に積んで持ち帰ることができる。皮はできるだけ傷が小さいことが望ましく、弓を使ったり、小口径の銃を使い、そして頭を狙うことで良質の毛皮がとれるようになる。
狩りは「RDR2」で生活の糧を得る事の基本となる。アーサーは食事をしなければ基礎体力が減ってしまう。万全の体制にしておくためには食事をしておきたい。イーグルアイはフィールドに自生している薬草を見つけるにも有効だ。また、建物の中などでも開けることができる金庫や、拾えるアイテムなどをピックアップできるので便利だ。
釣りはストーリーを進めることでアンロックされる。筆者は序盤で狩りの楽しさに夢中になってしまった一方で、釣りができないのをもの足りなく感じていたが、ストーリーを進めることで可能となった。ストーリーを進めると状況が変わってしまうため、サブミッションを取りこぼしてしまったり、イベントを見落とすという恐れもあって、つい何かできないか探し回ってしまうが、ここはバランスを見て進めたいところだ。
釣りは川や湖、沼などの場所、釣りたい魚でエサが変わる。西部開拓時代にはすでにリールとルアーがあるというのは今回初めて知った。現実の釣りよりずっと手軽であり、状況に合わせれば色々な場所でのフィッシングが楽しめる。大きさも表示されるので、自分釣果を競うことも可能だろう。狩りと同じく、色々な場所で試したい要素だ。
お金を稼ぐのに有効な方法の1つとしては、「馬車泥棒」がある。盗品の馬車を受け入れてくれるところがあるので、そこに持っていけば良い。馬車は操作性がかなり難しく、道は平坦では無いのでかなり時間もかかるが、狩りよりずっと多くのお金を一気に得ることができる。ただ積極的にやろうとすると犯罪を目撃され手間もかかってしまう。馬車泥棒をうまく回して行くには「人気が少なく、かつ馬車が通るような場所」を見つけなくてはならないだろう。銀行の定期便など、こちらもヒントはストーリーミッションにある。
多くのお金が得られる方法の1つとして「列車強盗」がある。走っている列車や駅に止まっている列車に飛び乗り、乗客に銃を突きつけて金品を要求するのだ。駅までの距離を考えてやる必要があるし、賞金を掛けられるリスクもあるが、直接金品を強奪できるのでうまみも大きい。地図を見てポイントを考えたい犯罪である。
こういった要素の他、様々な“出会い”がプレーヤーを待っている。前作同様「RDR2」では道を歩いているだけで様々な「見知らぬ人」に遭遇する。困っている人もいれば、問答無用でこちらを襲う敵、なんだかわからない放浪者もいる。貴重な毛皮を運んでいるときに馬が潰れて怪我をしてしまった夫人が倒れていたら……毛皮を捨て、彼女を家に届けることを選ぶだろうか? そういった選択を迫られる場合もある。
もう1つ、「RDR2」では「煙」がキーワードだ。荒野に立ち上る煙はイベントの目印、近づくと様々なドラマが待っている。しかし荒野でいきなり人が近づいてきたら、警戒されるのは当然だ。撃ち合いに発展してしまうこともある。また敵対ギャングの集会を見つけてしまうことも……中には怪しげな儀式を見つけてしまうこともある。武器をきちんと用意して近づきたいところだ。
やりこみ欲を強く刺激する図鑑、チャレンジ、宝探しに伝説のガンマン!
「RDR2」は探索が本当に楽しい。マップは最初空白だ。アーサーが探索することでマップは詳細が描き加えられていく。アーサーにはスケッチの才能があり、特徴的な場所に行くとその場で様々なスケッチを行なう。「地図を埋める」というのはゲームの大きなパトスとなる。
「RDR2」の自然描写はとても豊かだ。北の山に行けば雪が降り積もり、南側には沼地がある。筆者は沼のフチでイノシシを追っているとき、不用意にワニを踏んづけ、食われてしまった。クマを見つけたら遠くから強力なライフルで狙うなど探索と狩りはほぼ同時に行なっている。
マップを探索していると「伝説の動物のテリトリー」に出くわす場合がある。伝説の動物は手強い存在だ。筆者はテリトリーに入ったときは強力なライフルと、近接用のショットガンを装備するようにしている。伝説の動物は得た素材で特別なアイテムを作ることができる。
獲物を狩ると「図鑑」が埋まっていく。様々な動物を狩っていきたくなる。また「チャレンジ」という要素がある。指定された素材や、行動をしていくことでクリアできるのだが、これが中々難しい。狩猟チャレンジのレベル2は「ウサギの最良の皮を集める」のだが、ウサギを傷を少なく狩るためには「小動物用の矢」が必要で、これは鳥を狩る事で得られる「風切り羽」が必要となる。このようにゲームのシステムをフルに活用し、経験を積んでいかなくてはチャレンジを進めていくのは難しい。気合いを入れて進めていきたいところだ。
他にも宝の地図から宝を探したり、伝説のガンマンを探す、化石を探すなど多彩なサブミッションがある。特に楽しかったのは伝説のガンマンのミッション。どのキャラクターも一癖も二癖もあり、ユニークな出会いが待っている。そして彼らの武器を入手できる可能性があるところも見逃せないところだ。
やりこみ、という意味では服や武器のカスタマイズも楽しい。お気に入りの武器を素材を変えることで色味を変え、彫刻を施すことで愛着がわく。衣装も非常に多彩だ。粗野なアーサーをあえて洒落者にするのも楽しいだろう。馬も種類にこだわったり、スタイルにこだわることでより思い入れが強くなりそうだ。
筆者はストーリーをあえて進めず、とにかくひたすら歩き回っていくプレイで「RDR2」を進めている。まだまだこの世界を探索し切れてないし、見ていないイベントだらけだ。これからもどんなことがあるか、楽しみにしながら世界を巡っていきたい。
個性的なギャングメンバー、だからこそ彼らの行く末が気になるストーリー
様々な遊びを、西部で生きる楽しさを提示してくれる「RDR2」だが、やはりその中でも最高なのがストーリーだ。ギャング団は雑多な人間の集まりだ。粗野な人間、野蛮な男、気取った態度が気に入らない老人、そして女達と多数の人間が身を寄せ合っている。社会に順応できなかった流れ者達が身を寄せ合っている、そういう世界である。
物語を進めていく中で、キャラクター像は掘り下げられていく。ダッチの相棒であるホセアは落ち着いた、その分説教くさい老人だ。本名は知らない“おじさん”、ネイティブアメリカンと黒人のハーフで鋭い観察眼を持つチャールズ、そしてマイカはただただ無茶苦茶な男だ。そして前作の主人公ジョンは、今作でも“家族”のエピソードが描かれる。息子であるジャック、妻のアビゲイルから距離を取るような行動を見せるのだ。ギャングが家庭を持てるのか、ジョンはその答えが出せないでいる。
雪山から出てきたダッチギャングはストーリーの中で楽しむ場面を見せる。特に囚われていた仲間・ショーンを助け出したときの祝いは格別だ。昔話を語る奴、楽器を弾き始める奴、ひたすら酒を飲む奴……その羽目を外した姿は、ギャング団が戦いに明け暮れるだけでなく、繋がった仲間であることをプレーヤーに実感させる。
ダッチとホゼアとアーサー、3人で釣りに行くエピソードでは、最古参であるギャングの2人のアーサーへの想いが垣間見える。「アーサーお前の針に魚が食いついたぞ」というセリフを、うるさいくらいに2人はアーサーに言うのだ。いくつになってもアーサーは彼らにとって子供であるのがわかる。帰路にダッチとホゼアは下品な昔の流行歌を歌う。しかしキャンプが近づいてくると歌をやめ、「俺達がこんなに楽しんだことは秘密だ」というのだ。皆の前で羽目を外せない、ダッチの皆への責任の重さも伝わってくる。
そしてプレーヤー自身は、ことあるごとに彼らがアウトローであることを知る。プレーヤーが「いい人プレイ」をして、最初の街バレンタインに受け入れられてきたかな、と思っても、ストーリーイベントで激しい銃撃戦を繰り広げて住人を恐怖のどん底に落としてしまう。ギャング団メンバーがアーサーに提案し、実行していく「金稼ぎ」は、列車強盗、ヒツジ泥棒、馬車泥棒など犯罪ばかりだ。
「奪う」ということで生きていく人々、現代の我々の価値観からすれば、彼らは悪の存在であり、やがて安定していくアメリカ社会において、排除される人間達であることを実感していくのだ。「西部劇の無法者達は消え去っていくしかない」。この事実は、プレーヤーに重くのしかかってくる。しかし、彼らがどうなっていくか、見守りたい。ギャング団への理解が深くなるほどに、プレーヤーはそう思っていくだろう。
本当に最高のゲームと言える「RDR2」だが、特に始めたばかりのプレーヤーを悩ませる点がある。操作のUIである。NPCのインタラクトが武器を構えるボランであり、もし武器を抜いていたら銃を突きつけてしまう。店員に話しかけようとして銃を撃つボタンを押すことも多いはずだ。オブジェクトの判定も甘い場合があるなど、全体的に操作がもっさりしている。
UIの複雑さもあって、このゲームが難しいと感じる人は多いと思う。もちろん慣れればかなり自然に行動できるようになるが、ストーリーやキャラクター、グラフィックスや世界観と比べ、システムやUIは明らかに他の要素に比べて弱い。“操作性”は本作の大きな弱点と言えるだろう。
とはいえ、「RDR2」が素晴らしいゲームであると言うことは、自信を持って言える。この楽しくて、エキサイティングで、面白く、そして哀しい「西部の男の物語」を多くの人にふれてもらいたい。他のゲームでは到達できない深いゲーム体験をもたらしてくれる作品だと思う。ぜひ手に取って、西部に旅立って欲しい。
©2018 Rockstar Games, Inc.