コメディアンBJ Foxの脱サラゲームブログ
連載第8弾
「レッド・デッド・リデンプション2」は文明の進化に逆らう無法者と業界の流れに逆らうメーカーの縮図だね
2018年11月6日 07:00
僕がMCとして参加している東京都内の英語スタンダップコメディのライブが週3、4回もある。そんなに多くあると知るとみんな驚くかもしれないけれど、在日外国人も観光客も、そして海外経験が豊富な英語可能な日本人も増えているから、これからライブも回数も増えて行くと思う。
客さんとコメディアンの中で1番人気なライブは、月2回、六本木のクラフトビールバーで行なわなれるショーだ。このショーの特徴とは、新ネタと時事ネタしかできないルールがあり、MCの僕は事前にコメディアンたちにネタを準備して来るように指示しておく。先週は、「ハロウィン」と「障害者雇用水増し問題」のネタが多かったんだ。お客さんにとっては、毎回、新ネタが披露されるから新鮮で、コメディアンが新しいネタに挑戦していることが理解しているので、笑ってくれる基準を相当下げてくれる。ミスがあったり、ネタが滑ったりしても少し多めに見てくれる。本当に盛り上がるライブだから、来てね!
なんでコメディの話から始めたかというと、自由度の高さがオープンワールドゲームに似通ったところがあるから。短時間で複数のネタを準備しておかないといけない制約は、逆にテーマを指定されるのがありがたいものらしい。考えてみれば、何のネタでもいいという制限なし、妥協なし、という自由度はいいものだけど、逆に選択肢が多すぎて何をネタにすればいいか難しいんだということが改めてわかった。本当にそうだよ。何でもできる状態は逆に怖いものだ。
時間的にも予算的にも制限がないならば、あなたはどうする? バリ島なんかに住んで毎日リラックスと、簡単に対応してしまいそうかもしれないが、深く考えると意外となかなか誠実な答えが出ない質問だよね。
外から見れば、ロックスター・ゲームスは、そういう状況に恵まれれているように見えるだろう。セールス的にも評価的にも最高のゲームを連発してきたおかげで、時間的にも予算的にも制限がなく、好きなゲームを開発できる。特に「グランドセフトオートV」の記録更新的な成功と、今なお盛んに続いている「GTAオンライン」があったため、別に新しいゲームを出さなくてもいいぐらいの成功を収めている。
時間的にも予算的にも制限がないという好き放題な状況ならば、ロックスターはどうする? 何を開発する? その答えは、世界で1番ペースがゆっくりなアクションゲームだった。世界で1番空っぽのオープンワールドを開発してきた! ゲームコンバットシステムが毎年にさらにスムーズへ進化して行く中で、わざとらしく不器用な銃撃システムを提供してきた! その答えは「レッド・デッド・リデンプション2」だ。
僕が言うと皮肉っぽく聞こえるかもしれないけど、明確にしたいのは「レッド・デッド・リデンプション2」を最高に満喫しているということだ。まだまだプレイ途中で、25時間ほどプレイした程度では、推測でストーリーの数割ほど進んだところで、世界の1番ペースが遅いアクションゲームを思い存分に楽しんでいる。
ゲームの最初のシーンから、一気に引き込まれる。最近のゲームのチュートリアルは、ストーリーに織り交ぜる形で導入するケースが増えている。チュートリアルだとバレないように巧みにシステムに入り込んでいて、同じロックスターの「GTAV」も銀行強盗からスタートしただろう。「RDR2」はアクションどころか、重い足取りの雪山のシーンから始まる。本格のゲームがアンロックされるまで、3時間もかかる。これは記録的に長いチュートリアルだ。
このあたりはわざとらしく業界のトレンドの流れに逆らおうとしているようにも見える、さすがロックスター。最近プレイしてコラムでも取り上げたオープンワールドゲーム「マーベル スパイダーマン」とは正反対だ。
「マーベル スパイダーマン」はコンバットはやや難しかったが、操作自体は磨かれていて、簡単なボタンのコンビネーションだけで、ウェッブ操作がすぐにできる。ガジェットもどんどんアンロックして、アップグレードもでき、どんどん遊びやすくなっていった。
でも「RDR2」の場合は、“リアリティ”という名目で、銃の種類によっては撃つアクションだけではなく撃鉄を起こすアクションもわざわざボタンを押す必要がある。銃撃がやりやすくなったどころか、さらに遊びにくくなっている。ゲームによくある、便利な無限に武器・ガジェットを持てるようなシステムもなく、馬から離れるときは馬の鞍からわざわざ武器をちゃんと引き取る必要がある。
その上で行なう狩りはとてもリアルだ。まずは、弓を忘れずに馬から取る。今回の獲物は鹿だ。弓で倒してから、皮を剥ぎ取り、肉を背負って馬に載せる。そして売るには街の外れにある肉屋まで行かないといけない。途中に何か巻き込まれてしまわないように注意しないと、たちまち時間が経過して肉が腐ってしまう。しかも大きな動物の死骸は1体だけに限られている。「無限」に感じられるのは、マップだけだ。
マップに関しても「マーベル スパイダーマン」と「RDR2」は対照的だ。「スパイダーマン」の場合、必ず、いつでもどこでも何かがある。ミニミッション、コレクタブル、地面に置いての犯罪シーン。どれも赤マークか、空に上がっているネオンで「次はここだよ」とばかりに位置を明確している。本当に遊びやすい。5、10秒でスウィングスウィングで次のアクションへ進める。
「RDR2」は違う。マップはそこまで親切じゃない。壮大かつガラガラ。プレーヤーが次のアクションを発見するよりも逆にその壮大のスペースを探索している最中に次のアクションがプレーヤーを発見してくる感じだ。
スタートのトーンが真面目だったが、間も無くロックスターらしい馬鹿馬鹿しさも出てくる。ギャングのメンバーと一緒に飲みに行くミッションは、プレイしていて、さすがだと思った。そこから、多様性かつユーモア満載の出会いがどんどん現われてきて、オープンワールドだからだけではなく、トーンにも「GTA」のDNAも感じてきた。
アレコレ書いたけど僕は相当このゲームを楽しんでいる。この世界に吸い込まれているように感じる。できればずっと長く遊び続けたいけど、寝る直前、10分でもやっちゃう! 短時間のプレイでも楽しい。「次はここだよ」と指示してくれないが、その10分で何かを発見するから。それとも何かに発見されるから、という言い方の方がベターだね。
ここまでトレンドを無視して独自のゲームを作れるメーカーはないだろう。逆に言えば、ここまでトレンドを無視して独自のゲームを作れる余裕を持つメーカーもないとも言えるだろう。実際、そこまで余裕を持っていても、こういうゲームを作るところはないと思う。
映画に例えるならば、去年の「ブレードランナー2049」に近いと思う。特にマーベルの映画もそうだが、最近のSF・アクション映画はあまりにも決まりかったフォーマットとなっている。アクション満載。ペースが早い。もともと子供向けなキャラクターの割に、実際世界の問題に間接的に触れているシリアスなストーリー。そのテンションを緩くするユーモラスな主人公。このような材料を全て揃えば、ヒット映画が作れる、と考えられている節がある。「ブレードランナー2049」は、スロー。セリフ少なめ。最後のアクションも非常に控えめ。が、僕には、凄く印象に残った。風潮に逆らおうとしている大胆さがあるからこそ素晴らしい映画だと感じた。
「RDR」と映画の話すると、やっぱり「シネマティックモード」を挙げなければならないと思う。パッドを長押しすることで、カメラを後ろへ引いて、画面の上下が黒くマスクされ、まるで映画を見ているかのような演出が楽しめる。「GTAIV」からこの機能が搭載されてきたが、もう今回は最高だ。綺麗なスクリーンショットも撮りやすくなってきたので、筆者がありがたい。
ところで前作「レッド・デッド・リデンプション」が発売となった2010年には、僕はロックスターのロンドンオフィスで仕事していた。発売前にファンタジーやSFや犯罪社会がほとんどの市場に、西部劇のゲームを出すんだ? 需要がどこにあるんだ? 「GTAIV」の次にユーザーが西部劇のゲームなんて期待していないのでは? という声が多かったし、開発メンバーではない僕は、開発を信頼するしかなかった。当時は本当にトレンドに逆らったゲームだったが、結果はご存じの通り、PS3時代の1番広く深く印象を残したゲームのひとつになった。ある意味で「GTAV」よりも愛されているかもしれない。「RDR2」は続編だから、「RDR」ほど革新的なゲームではないが、間違いなく続編の枠組みを外れた良い意味でまたみんなの期待に逆らおうとしていると思う。
上記に書いたように、まだまだプレイ途中だ。オープンワールドをなんとなく把握しており、ストーリーの第二幕にこれから引っ張られそうなところ。この体験を満喫している。たまに少しシステムに対する不満も正直あるんだけど、2010年のロックスター社員の僕の心がまだ残り、開発を信頼している。あとは新しいことに挑戦していると理解しているので、時事的新ネタお笑いライブのお客さんと同じくたまに大目に見てあげよう。今までになかったモノを体験させてくれているから。
そのストーリーのエンドやどういう意外な展開が備えているのか楽しみにしている。「RDR」の続編だから、なんかあるだろう。ギャングリーダーのダッチの企画は今までは確かに大胆だったが、大胆の枠を超えて危なくかつクレージーになりつつある。最後まで信用できるかな?
最後に、ちょっと待って。文明の進歩に逆らおうとしている、大胆な企画をどんどん出していくギャングのリーダーって……ゲームデザインの進歩に逆らおうとしている、大胆なゲームをどんどん出している……。ロックスターとダッチには重大な共通点があるのではないか? 気のせいかな?
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