【特別企画】
第4回全国高校eスポーツ選手権、「フォートナイト」部門決勝大会レポート
初代王者はプロ顔負けのテクニックを魅せた全日制の公立高校 大阪吹田高校
2021年12月20日 09:57
- 【全国高校eスポーツ選手権 「フォートナイト」部門】
- 12月19日オンライン開催
全国の高校生たちが日本一の称号をめぐって戦う国内最大級のeスポーツ大会、「全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会が今年も始まった。第4回大会となる今大会は、昨年同様、全国高等学校eスポーツ連盟と毎日新聞社主催のもと、文部科学省の後援を受けて開催される。今大会では新たに「フォートナイト」部門が新設され、決勝大会には予選を勝ち抜いた40チーム80名の選手が参加した。
「フォートナイト」は徐々に狭まるマップの中で生き残りをかけて戦うバトルロイヤルゲームで、世界中を席巻するバトロワブームの火付け役になった人気タイトルであり、日本の高校生の間でも非常に高い知名度を誇る。今大会は1チーム2名で戦われるデュオの形式が採用されており、他の種目に比べて参加のハードルが低いことも相まって、全国から261校447ものチームが参戦した。予選からハイレベルな戦いが続いていたが、それを勝ち抜いて決勝に進出した40チームはプロ顔負けの実力者たちと言って良いだろう。
大会を見守るのは毎度おなじみ、キャスターのOooDa氏と岸大河氏だ。また解説員として元プロゲーマーのShiras氏、アナリストとしてSCARZの「フォートナイト」部門マネージャーを務めるKilluA氏と、競技シーンをよく知る2名が登壇し、オンライン配信には豪華な顔ぶれが揃った。「全国高校eスポーツ選手権」初のフォートナイト大会ということで、優勝の価値は他のタイトルとも比べ物にならない。選手たちも相当な思い入れと練習を経て本大会に臨んでいるだろうが、全国447チームの頂点に立ち高校生日本一の称号を手にするのは、どのチームになるのだろうか。
慣れない新マップが選手たちを苦しめる
本大会はデュオのサーキット形式で争われ、生存順位やキル数に応じて毎試合各チームにポイントが付与される。試合は全5ゲームの長期戦で、第5ゲーム終了時のポイント差で最終順位が決まるルールとなっている。以下のポイント表を見ても分かる通り、ビクトリーロイヤル10ポイントに対してキルは1ポイントという配分になっているため、安定して高い順位を維持するには積極的な交戦が求められてくる。
また本大会の特筆すべきなのは、12月7日に実装されたばかりのチャプター3が採用されているという点だ。2019年10月から続いていたチャプター2がつい先日終了し、新たに配信されたチャプター3ではマップ、武器、アイテムなど環境が大きく刷新されている。配信から2週間も経たないチャプター3は未だプレシーズンの状態であり、メタの研究は始まったばかりで誰も正攻法を持っていない。この新しく不安定な環境に高校生たちがどこまで対応できるのかが勝敗を大きく分ける要素になるだろう。
チャプター3では武器の性能が大幅に変更されており、アサルトライフルとサブマシンガンのDPSが非常に優秀なことから、中近距離での戦闘が頻発することが予想される。反対に長距離武器は前シーズンまでと比べてトーンダウンされているため、激戦区から距離を取って戦う戦法ではストームサージ圏外まで与ダメージを稼ぐのが難しくなっている。また新たに「スパイダーマンのウェブシューター」というアイテムやスライディングという新アクションも追加されており、プレイヤーの機動力が格段に向上しているのも新チャプターの特徴だ。
しかしなんといっても一番響くのはマップの変更だろう。選手たちも大会に向けて沢山の準備をしてきているだろうが、2週間足らずで完全新マップに慣れることは難しく、序盤の動きなどが定まっていない可能性が高い。序盤で十分に態勢を整えられずに終盤に突入してしまうチームが増えるため、戦略性よりも個人技の方が重要になってくるだろう。また新マップでは移動の難易度も格段に上がる。慣れ親しんだマップであればストームの収縮に合わせて移動ルートを計算し、残りの建材などと相談しながらプランを練ることができるが、新しいマップだと思うように移動ができず、思うように安置に向かえない可能性があるため、試合は波乱の展開になることが予想される。
第1ゲームが始まると、緊張もあってか、選手たちの動きは周りのチームを伺うかのようなゆっくりとした立ち上がりだった。しかしひとたびマップの収縮が始まると、慣れないマップでの移動のせいで予期せずに敵と鉢合わせてしまうチームが多く、序盤から体力や建材を多く消費してしまっているチームが目立った。反対に、このような状況でも無理に交戦せず、ウェブシューターなどを駆使して上手く逃げられていたチームが有利な状況を作っていた。
そして試合を大きく動かしたのは終盤の移動ストームだった。残りプレイヤー数50名程度の段階で安置がマップ中央の湖の上に設定され、プレイヤーたちは建材で足場を築きながらの移動を余儀なくされる。ローグラウンドで身を潜めていたプレイヤーたちは水面スレスレに足場を置きながら移動しなければいけないため、足場を崩されたら水中に落とされるというリスクの中戦わなければならない。反対にハイグラウンドを確保できたチームは一気に有利になるため、ここでの位置関係が第1ゲームのカギとなった。
プレイヤーたちが慣れないマップの移動に四苦八苦する中、ハイグラウンドを取ったチームはS高校「スバッシュ」だった。彼らは序盤に潤沢な建材とアイテムを蓄えており、隙をみて互いにアイテムを渡し合うなどして連携も十分に取れていた。また建築係と攻撃係の役割分担もしっかりとできていたため、ローグラウンドからの牽制にも上手く対応できており、その後の安置でも安定してハイグラウンドを維持していた。盤石な立ち回りから、第1ゲームは「スバッシュ」が2人生存でビクロイを決めた。
しかし注目すべきは、「スバッシュ」が得点数では1位ではなかったという点だ。「スバッシュ」はハイグラウンドの維持を優先したこともあって撃破数が伸びず、反対に積極的に撃破を狙っていたルネサンス高校「ハイグラマスター」が総得点14で1位に躍り出た。また、撃破数最多の9ポイントを稼いだルネサンス大阪高校「サボテン」が4位につけていることからも、撃破数の重要性が分かるだろう。このフォーマットではビクロイを狙っているだけでは上位をキープできないというわけだ。
吹田高校の快進撃! 他校は彼らをとめることはできるのか!?
今大会には優勝候補と目されるチームがいくつかある。高校生大会「STAGE:0」2021年大会の優勝チームであるルネサンス高校 新宿代々木キャンパス「ハイグラマスター」をはじめ、同大会3位のルネサンス大阪高校「ミニデカポ中毒者」などがその一部だが、中でも注目を集めていたのは吹田高校「あいうえお」だ。このチームは過去に公式大会「FNCS Grandfinal」で準優勝を収めた経験のあるプロ級の実力者Otome選手が率いるチームで、予選から圧倒的な個人技で他のチームを蹴散らしていた。また吹田高校は「全国高校eスポーツ選手権」では珍しい全日制の公立高校であることもあり、「あいうえお」の活躍に期待がかかる。
「あいうえお」の強みはなんといってもOtome選手の個人技で、卓越したエイム力が支える対面能力は大会一といっても過言ではない。ツーマンセルが崩れてしまっているチームや武器が整っていないチームを見つけるとすかさず襲い掛かる獰猛なプレイスタイルが特徴であり、そのため第1ゲームのように序盤で撃破されてしまうこともあるが、調子がいいともりもりとキルを量産していく。
またその相方であるちょうなん選手もかなりの実力者で、危険を顧みないOtome選手の突撃にしっかりと付いて行っては、射線のカバーや壁の編集などで巧みにOtome選手をサポートしていた。2人は同じクラスの同級生ということで、eスポーツ部のない学校でありながら「フォートナイト」という共通の趣味から知り合った仲だという。そういった背景もあってか、無鉄砲なプレイスタイルに見えて連携はバッチリであり、攻守ともに優れたチームであるといえよう。
そんな「あいうえお」がその実力を遺憾なく発揮したのが第2ゲームだった。この試合ではOtome選手が今シーズン最強武器との呼び声が高いミシックのMKセブンを手にしており、その性能を最大限に発揮して序盤からキルを稼いでいた。そして残り人数50人を切った終盤戦、「あいうえお」はジャンプパッドを利用して一気にハイグラウンドを確保しに高所へとアプローチをかける。そして先にハイグラウンドを確保していた瀧野北高校との戦闘をチリペッパーを駆使して見事制すると、建材を多く残してのハイグラウンド制覇に成功し、圧倒的有利の状況を作り上げた。
その後他のチームがウェブシューターなどを駆使して何度か「あいうえお」に挑んでアプローチをかけてきたものの、「あいうえお」は決して不意を突かれることなくこれらを捌き、キルを稼ぎ続けた。最後には生き残った佐藤学園ヒューマンキャンパス高校「よるC戦隊」と2対2の状況になるが、やはり地の利を手にした「あいうえお」は強く、健闘した「よるC戦隊」も敢え無く撃沈してしまう。第2ゲームは「あいうえお」がビクロイを決め、さらには撃破数を13ポイントも稼いでおり、他のチームに圧倒的な差をつけて「あいうえお」が一気に一位に舞い出る結果となった。
続く第3ゲームでも「あいうえお」は大健闘した。ビクロイこそ逃したものの撃破数10ポイントを稼ぎ合計15ポイントを獲得、一位の座をさらに盤石なものとした。第3ゲームは第1ゲーム同様安置に恵まれず、マップ南東の水上エリアでの泥仕合が続いたが、「あいうえお」はそんな中でハイグラウンドにこだわることなく、ローグラウンドで移動に気を取られて隙ができた敵チームに奇襲でキルを稼ぐ戦法を採用し、撃破されるまでの間に大量のポイントを獲得した。このように戦況を見て戦い方を変えられる点、ビクロイに固執していない点もこのチームの強さだろう。
第3ゲーム終了時の総合順位は以下の通り。他の追随を許さない撃破数の多さから「あいうえお」が2位に11点もの点差を付けて1位に君臨している。残るは2ゲームのみで、この差をまくるのは決して容易ではないが、果たして「あいうえお」を止めることができるチームは現れるのか。
最後まで分からなかった第4、第5ゲーム
第3ゲームを終えて、このまま「あいうえお」の独走状態で幕を閉じるのではないかと思われたが、続く第4ゲームで波乱が起きる。残り人数70人の序盤戦、「あいうえお」はS高校「スバッシュ」からの攻撃を受け、激しい戦闘の末ちょうなん選手が撃破されてしまうのだ。上位を争う「スバッシュ」としては、優勝のため何としても「あいうえお」を止めたいという想いからの攻撃だっただろうが、これが功を奏したかたちとなり、命からがら逃げ伸びたOtome選手もその後すぐカメラ外で撃破されてしまう。これでなんと第4ゲームの「あいうえお」は無得点ということになった。
他のチームはこの機会に少しでもポイントを伸ばしたいわけだが、そんな想いからか第4ゲームの終盤戦はローグラウンドの混戦模様となった。どのチームにもハイグラウンドを確保して安定してビクロイを狙う選択肢もあっただろうが、撃破数を伸ばさなければ「あいうえお」に届かないため、ほとんどのチームが地上に留まって銃撃戦を繰り広げる展開になった。そんな泥沼の展開を最も上手く切り抜けていたと思われるのがルネサンス大阪高校「ミニデカポ中毒者」だ。
「ミニデカポ中毒者」の2人はビクロイこそないものの、第1ゲームから順調にポイントを重ねているチームで、ショットガンやサブマシンガンを携えてローグラウンドを地道に行くプレイスタイルを貫き通している。メンバーが2人とも三年生ということで、今大会が最初で最後の出場、優勝にかける想いは人一倍大きいチームだ。安置への移動に気を取られているチームを近くに見つけると、階下から床を壊して奇襲をかけ、るでぃやでぇ選手がすかさずショットガンで仕留める。そんなプレイスタイルで撃破数を稼ぎ、第4ゲームだけでも彼らは9ポイントもの撃破を獲得した。
そして全てが決する第5ゲームが始まった。ストームはマップ南側の砂漠地帯を中心に収縮をはじめ、それぞれが積極的に戦闘を仕掛けていく中で、序盤から多くのチームが撃破されていた印象だ。試合が動いたのは残り人数40人弱となった終盤戦、ルネサンス豊田高校「SN」が建材を大量に使って強行的にハイグラウンドを確保しようとしたところ、そこに「あいうえお」がジャンプパッドを使って強襲をしかけた。「あいうえお」はやはり対面が段違いに強く、攻撃を受けた「SN」はせっかく築き上げた高地を敢え無く手放すはめになってしまい、結果として「あいうえお」がハイグラウンドを手にする展開となった。
「あいうえお」は生存順位さえよければ撃破を稼がなくても優勝を狙えるポジションにいるため、彼らをハイグラウンドにのさばらせておくわけにはいかない。そこで「あいうえお」に果敢にも立ち向かっていったのが「ミニデカポ中毒者」だった。「あいうえお」の床を壊して一気にローグラウンドまで引きずり込み、激しい銃撃戦に持ち込むと、なんとるでぃやでぇ選手がOtome選手の撃破に成功。その後ちょうなん選手がるでぃやでぇ選手を倒すが、体力が削れていたちょうなん選手はそのままストームのダメージでダウンし、「あいうえお」は撃破ポイント3、生存ポイント5を手にして比較的低得点のまま第5ゲームを終える。
しかしその後ひとり残された「ミニデカポ中毒者」nosh_jp選手もあっさり撃破されてしまい、試合はますます分からなくなった。最後まで生き残ったのは「よるC戦隊」とルネサンス高校「200ダメージポンプ」の2チーム。お互いに建材のないジリ貧の戦いの中、「200ダメージポンプ」respect Reetolol選手が華麗なエイミングで「よるC戦隊」の2人を下し、第5ゲームは「200ダメージポンプ」のビクトリーロイヤルに幕を閉じた。「200ダメージポンプ」は第4ゲームでもビクロイを決めているチームであり、総合結果は集計結果が出るまで誰にも分からないような状態だ。
最後まで波乱が続いた今大会だったが、集計の結果「あいうえお」が総得点49ポイントで優勝という結果となった。終盤ではマークされているため動きづらそうにしていた彼らだったが、やはり第2・第3ゲームでの貯金が生きたということだろう。しかし驚くべきはその点差だ。2位との点差は一時11点差まで開いていたのにも関わらず、最終結果では2位の「ミニデカポ中毒者」は総得点48ポイント、3位の「200ダメージポンプ」は総得点47ポイントと、それぞれが1点差まで縮まっている。生存順位が少しでも違っていれば、少しでも撃破数が違っていれば、全く違う結果になっていたかもしれない、それくらい本大会の決勝は拮抗した戦いだったといえよう。
優勝した「あいうえお」のOtome選手はインタビューで「全日制の学校に通いながらeスポーツに打ち込むのは大変なこともあったが、担任の先生の理解なども得られてここまでこれた。優勝できて最高」と語り、その喜びを表した。また「あいうえお」の2人はまだ高校2年生ということで、もし来年も大会が開催されるのであれば是非2連覇を狙いたいと、強気な意気込みを語った。これからの彼らの活躍には要注目だ。
初開催となった「全国高校eスポーツ選手権」フォートナイト部門だが、本大会にはトーナメントで争われる他の部門にはない独特の面白さがあったように思う。それぞれのチームが独自の戦略でビクロイを目指し、最後の最後まで誰が勝つかわからない緊張感の中、高校生たちの雄姿を沢山目にすることができた。また来年も同じような大会が開催されること、そして高校生のフォートナイトシーンが益々成長していくことを願うばかりである。