【特別企画】

eスポーツ教育の最前線! 全国の高校生たちの取り組みを紹介

「第2回 eスポーツ国際教育サミット 2021」レポート

【第2回 eスポーツ国際教育サミット 2021】

11月14日オンライン開催

 「eスポーツ」と「教育」、この二者を結び付けて考えることができる人はまだ少ないかもしれないが、昨今の教育現場ではこの両者の親和性の高さに注目が集まっている。西欧諸国の学校では部活動やアクティブラーニングといったかたちで、続々とeスポーツが教育に取り入れられており、その動きは日本にまで及んでいる。「全国高校生eスポーツ選手権」をはじめとする高校生向けのeスポーツ大会の数も増えており、eスポーツ部を設ける学校も非常に多くなっている。

 そんなeスポーツ教育の普及に努めるパイオニア的な団体が北米教育eスポーツ連盟(以下NASEF)だ。NASEFは2017年にアメリカで発足されたNPOで、学校や教員に対してセミナーを開催したり、生徒むけのeスポーツイベントを開催するなどしてeスポーツ教育の可能性を開拓してきた。昨年11月にはその日本本部である「NASEF JAPAN」も設立され、彼らのイニシアチブのもと、今の日本の教育現場にはどんどんとeスポーツが導入されている。

 今回開催された「第2回 eスポーツ国際教育サミット 2021」はそんなNASEF JAPAN主催のセミナーで、全国の高校でどのような取り組みが行われ、eスポーツが教育に活かされているのか、それらが実例とともに発表された。NASEF JAPANのこれまでの活動の成果、そしてこれからに向けての課題を紹介する。

松原昭博NASEF JAPAN代表

生徒たちから様々なアイデアが生まれた「eスポーツ・クリエイティブチャレンジ」

 NASEF JAPANは、eスポーツ教育は決してプロゲーマーを育成するためのものではない、という点を度々強調している。NASEF JAPANにとってeスポーツはあくまでも一つの教育ツールであり、より具体的に言えば、eスポーツは生徒たちの自主性やリーダーシップ、コミュニケーション能力などを養うのに効果的なツールである、とNASEF JAPANは主張している。

 そのため、これまでにもNASEF JAPANは、競技大会以外でのかたちで生徒たちがeスポーツに関わる方法を模索してきた。例えば北米NASEFは米国国防省と協力し「NASEF FARMCRAFT」というイベントを開催した実績がある。こちらはサンドボックスゲーム「Minecraft」を活用した学生向けのコンテストで、ゲーム内でいかに効率的で美しい農場を作れるかを競う、クリエイティビティを重視したイベントだ。生徒たちはゲーム内で農場を作る過程で、創造性を発揮するだけでなく、SDGsなどについても学ぶことができるとのこと。

FARMCRAFT概要

 「League of Legends」等の競技ゲーム大会も開催する意義は充分にあるが、こうした大会の問題点は、結果を残すことへのハードルの高さにある。やはりゲーム未経験者が経験者に勝利することは難しいし、現在ではeスポーツ専門コースをもつ学校も台頭してきているため、全日制の学校で一からメンバー集めと練習をして大会で結果を残すのは容易ではないのが現状だ。それに対して「FARMCRAFT」のようなイベントは、生徒の自主性やクリエイティビティが存分に発揮されるため、競技大会で結果を残しにくいような生徒も活躍しやすいというわけだ。

 そんな「FARMCRAFT」に追従するような形で今回、NASEF JAPAN初の競技大会以外のイベント、「eスポーツ・クリエイティブチャレンジ」(以下ECC)が国内の高校生向けに開催された。ECCはNASEF JAPANの新しい取り組みで、「eスポーツを使って社会問題を解決できるのか」という課題に対し、生徒のグループがアイデアを発案しプレゼンテーションを行うコンテストとなっている。実際にゲームをプレイするのとはまた違う関わり方でeスポーツと向き合い、生徒たちの問題解決能力の向上を図ろうとするイベントだ。

ECC概要

 ECCにエントリーしたのは全3校で、北海道から星槎国際高等学校、徳島から阿南工業高等専門学校、茨城から水戸啓明高等学校がアイデアを持ち寄って参加した。どのグループも地方の過疎化や地元のPRなど、現実的な社会問題を取り上げて、それらをeスポーツを活用することでどのように解決できるかをプレゼンした。

 その中でも優秀賞を獲得したのは水戸啓明高等学校のプロジェクト名「グッコメ」だった。「グッコメ」は、オンラインゲームやSNSを利用する際にしばしば遭遇する誹謗中傷コメントに焦点を当て、どうすれば利用者を心無いコメントから守れるのか、というテーマで発表を行った。彼らは複数の人気オンラインゲームタイトルを検討し、その中から「Pokemon UNITE」のフェアプレイポイントに着目し、このアイデアにたどり着いたという。

水戸啓明高等学校の面々

 彼らのアイデアとは、誹謗中傷コメントに対してキックや通報といった手段で対処するのではなく、良いコメント、つまりグッドコメントをした利用者に対して報酬を与えようというものだ。良いコメントをすることでゲーム内通貨やオンラインショップでのセール券を獲得できる仕組みを整備すれば、自ずと誹謗中傷もなくなるのではないか、というアイデアである。

「グッコメ」参加メンバーは全員1年生だという

 また彼らのアイデアで興味深かったのが、グッドコメントをした利用者にお米を贈呈しようという提案だ。これは、ゲーマーの中には食生活が偏りがちな方も多いため、地元茨城のお米を食べて健康になってもらいたい、という想いから生まれた発想なのだとか。高校生らしいユーモアのある、しかし実現すれば素晴らしいアイデアだといえよう。

 発表を終えた水戸啓明高校の面々はマイクを向けられると、「自分たちの考えを文字に変換し、一つのプレゼンにまとめあげるのは難しかった。優秀賞を獲得できて、とても達成感がある」と語った。NASEF JAPANの狙い通り、eスポーツをゲーム外から見つめることによって、生徒たちにも学びがあったようだ。これからもこうしたECCの動向には注目したい。

 ECCの発表の他には、東京のクラーク記念国際高等学校の生徒たちが、彼ら主催の「中学生eスポーツ選手権」について発表した。クラーク記念国際高校といえば、高校生のeスポーツ大会では頻繁にその名を目にする常連校だが、生徒たちの中で、なぜ高校生大会はあるのに中学生大会はないのか、という疑問が生まれたという。この疑問から生まれたのが、「第1回中学生eスポーツ選手権」だ。

「中学生eスポーツ選手権」種目はフォートナイト

 生徒たちはただこのイベントを発案しただけでなく、実際に機材の設営や大会の運営にまで携わり、eスポーツ大会はどのような業務の上に成り立っているのかを学ぶことができたという。ライブ配信も本格的で、キャスターを招いてカンペなどで指示を出しながら進行するスタイルだったといい、生徒たちにとっては貴重な経験となったこと間違いないだろう。

大会の様子

 このように、eスポーツを題材としながらも、生徒たちが実際にゲームをプレイするのではなく、ゲームを用いたイベント運営やプレゼン発表を通じて、生徒たちのアクティブラーニングを促進しようとする動きが増えてきている。こうした取り組みもeスポーツ教育の新たな可能性の一つといっていいだろう。

先生たちの生の声、eスポーツ部創設の苦労とは

 セミナー後半では、NASEF JAPANのメンバーシップ加盟校による先生方の座談会が行われた。NASEF JAPANのメンバーシップとは、学校や教員向けに提供されているサービスで、加盟校は定期的なセミナーへの参加や、eスポーツ教育を行う上でのサポートを受けることができる。今や全国各地に加盟校をもつNASEF JAPANのメンバーシップだが、座談会には50名近い学校関係者が集い、eスポーツ教育について現場の目線から協議した。

メンバーシップ加盟校分布

 加盟校の多くは部活動にeスポーツを取り入れている。協議のテーマがeスポーツ部活動の良さになると、先生方は口をそろえてオンライン活動との親和性を指摘した。コロナ渦では中々対面での部活動が許可されず、活動を自粛せざるを得ない部活動も多いとのことだが、eスポーツはオンラインでも活動ができるため、コロナ渦でも絶えず活動を行うことができたという。人とのつながりが途絶えてしまいがちなコロナ渦にあっても、ゲームを通じて友人と活動できるというのは、精神的にも心強いだろう。

 また先生方の中には、やがてコロナが終息した際には合宿を行いたいと構想を練っている方もいた。最近では宿やホテルにeスポーツ施設が併設されている場合や、自治体がeスポーツ施設を所有している場合などが増えており、これらをうまく活用することでeスポーツ部内や学校間の交流が図れるのではないか、というアイデアも出た。高校生のころにeスポーツ部など無かった筆者からすれば、部活の仲間と泊まり込みでゲームに打ち込めるなど、夢のような提案である。

参加した先生方

 しかし当然ながらeスポーツ部も楽しいばかりではなく、部の創設と運営にはまだまだたくさんのハードルがあるのもまた現状なようだ。具体的には、資金面の問題や、教育委員会の理解を得ずらい点などが挙げられた。

 まず資金面だが、eスポーツ部を作るにはゲーミングパソコンが必要であり、10万円程度の部費では到底部員全員分の機材を揃えられないという問題がある。もちろん学校に既にパソコンが配備されている場合もあるが、常用のパソコンでは性能が足りなかったり、ゲームのサーバーにアクセスできないような設定になっていたりする場合もあるため、これは深刻な問題なようだ。またネット環境も必要なため、古い校舎の学校にとってはこれもハードルとなってくる。

 次に理解が得られないという点。部費を増やしてもらうためには教育委員会を説き伏せる必要があるわけだが、現状eスポーツ教育の浸透度は低く、eスポーツ部の意義深さを理解してもらえない場合も多いという。これらを解決するためには、eスポーツ部の顧問がしっかりと生徒たちに生活指導を行い、ゲームと学業を両立させることで、ゲームの悪いイメージを払拭沿ていく必要があるだろう。

 まだまだ課題は多いようだが、今回のセミナーを通して、確実にeスポーツ教育の可能性が広がっていると感じた。これからもNASEF JAPANを筆頭に、先生方、生徒たちで一丸となって、是非eスポーツ教育を次世代のスタンダードとするべく活動を続けてほしい。