【特別企画】

あの“フォートナイト下手くそおじさん”も出没 波乱続出だった第5回全国高校eスポーツ選手権「フォートナイト」部門決勝大会レポート

【全国高校eスポーツ選手権:「フォートナイト」部門決勝大会】

1月29日オンライン開催

 1月29日、今回で5度目の開催となる「全国高校eスポーツ選手権」の「フォートナイト」部門決勝大会がオンラインで行なわれた。文部科学省の後援を受け、毎日新聞社と全国高等学校eスポーツ連盟が主催する本大会は、全国の高校生を対象にした大規模なeスポーツ大会であり、「フォートナイト」、「リーグ・オブ・レジェンド」、「ロケットリーグ」の3タイトルが種目に選出されている。今大会の「フォートナイト」部門には全国各地から427ものチームが参加し、今回の決勝大会に進出できる上位40チームを決めるべく、9月から予選が実施されていた。

【第5回全国高校eスポーツ選手権】

 種目となっている「フォートナイト」は、孤島に集められたプレーヤーたちが徐々に狭まるマップの中で最後のひとりになるまで生存をかけて戦うバトルロワイヤル形式のゲームだ。昨今では様々なアニメ作品やアーティストとコラボするなどして、若者の間でひとつのカルチャーとしての地位を確立しており、その影響力は全世界に及ぶと言っても過言ではないだろう。昨年11月には世界大会「FNCS Invitational」が米国で開催され、賞金総額100万ドルをめぐってハイレベルな戦いが繰り広げられた。これ以外にも世界各地で多数の大会が開催されており、活発なeスポーツシーンを持つタイトルと言える。加えて最近ではその暴力表現の少なさから教育現場との親和性も評価を受けているゲームであり、まさに今大会にピッタリのタイトルといったところだ。

 大会配信の司会はeスポーツキャスターの岸大河氏が務め、実況解説はそれぞれ大和周平氏とPols氏が、そしてアナリストはShiras氏が担当し、公式大会顔負けの豪華な顔ぶれがそろった。またチャット欄には某芸能人が運営するYouTubeチャンネル「フォートナイト下手くそおじさん」も出没しており、観客たちもチャット上で大いに盛り上がりを見せていた。年を追うごとに選手の層が厚くなり戦いのレベルが上がっている「全国高校eスポーツ選手権」だが、今大会の優勝はどの高校となるのか。

岸大河氏(左)Shiras氏(右)
大和周平氏(左)Pols氏(右)

ハイレベルな面子が揃う今大会、プロ選手を擁するチームも

 今回の大会では80人40チームのデュオ形式で試合が行なわれ、全5試合を終えた時点で一番保持ポイントが高かったチームが優勝となるルールが採用されている。ポイントはまず、ビクトリーロイヤルで10ポイント、2位〜5位で7ポイントといったように、生存順位に応じて各試合ごとに付与される。これに加え、敵を撃破するごとにも1ポイント付与されるため、ただ単に生存率を上げるだけでなく、積極的に敵を攻撃することも求められてくる。

ポイント表

 「フォートナイト」は昨年12月に新たなチャプターが始まり、収録武器やマップが一新されたばかりなので、まだ攻略の進んでいないこの環境にどれだけ適応できているかどうかも勝負のポイントとなってくるだろう。特に注目なのは「ショックウェーブハンマー」という特殊武器だ。これは周りの建築物を壊しながら自分を大きく跳ね上がらせることができるため「フォートナイト」の肝であるハイグラウンド(高所)の取り合いで有効に使うことができるが、同時に上空で大きな隙を晒してしまうこともあるため使用には技術が求められる。

ショックウェーブハンマーでのジャンプ

 試合が始まるとまず存在感を放ったのがN高等学校のチーム「ざじぽり」だ。N高等学校は本大会の上位常連校の筆頭であり、OBにはプロ選手となった方もいるほど、毎年優秀な選手を多く輩出している。昨今では「フォートナイト」選手の養成にも力を入れているらしく、eスポーツ部の中で強化選手に選ばれた生徒たちはコーチから特別な指導を受けて日々練習しているとのことだ。「ざじぽり」の両名ももちろん強化選手で、8月に開催された高校生eスポーツ大会「STAGE:0」でも決勝大会に進出していることからも、彼らの実力の高さが伺える。

 「ざじぽり」は2年生のPolicy選手と1年生のZazi選手からなるチームで、リーダーのPolicy選手は前回大会で決勝5位という成績を残した実力者だ。昨年は惜しくも届かなかった優勝の座を狙うべく、相方を変えて再び本大会に挑戦している。そして相方のZazi選手は高校1年生ながらプロチームALBA E-sportsに所属し公式大会「FNCS」でも活躍する大物ルーキーで、なんと「フォートナイト」は小学生のころからプレイしているという。長年のプレイによって磨き続けたその実力は、高校1年生とは思えないほどの強さを漂わせていた。

ハイグラウンドから射撃するPolicy選手

 「ざじぽり」の強みはなんといっても立ち回りの安定感だ。彼らは第1試合から第5試合までの間で全チームの中で唯一2度ビクトリーロイヤルを獲得し、また得点順位でも唯一全試合で10位以内にランクインしていた。撃破数は必ずしも高くないが、ストームの目が狭まってくる中盤戦において身を隠すのがうまく、新マップを熟知していることがよくわかる立ち回りを見せていた。また、ひとりが撃破されてしまった後のソロの生存率も卓越しており、窮地に立たされた時にうまく「ショックウェーブハンマー」を使って状況を打開するなど、アドリブ力も非常に高かった印象だ。

 彼らの立ち回りの巧さがよく表れていたのが第4試合の終盤戦、安置が山岳地帯に設定され地上がかなりの混戦になっているところ、「ざじぽり」の2人はこれを上手く抜け出し、序盤にため込んだ資材を持ってハイグラウンドを確保した。そこからは地上からハンマーのジャンプで届かない高度を維持し続けながら、自力で登ってくるプレーヤーがいればこれを迅速に処理して資材をリフレッシュし、盤石な態勢で最終フェイズまで生き残る。途中Zazi選手が落下してしまった場面もあったが、ハンマーの衝撃波でジャンプしながら敵を撃破するような芸当も見せ、最後までハイグラウンドを守ってビクトリーロイヤルを決めていた。

Zazi選手ビクロイの瞬間

 そんな「ざじぽり」とは対極のプレイスタイルを持っていたのがヒューマンキャンパス高等学校のチーム「人」だ。2年生のLYNX選手と3年生のChiffon選手からなるこのチームは、安定感こそないがずば抜けた攻撃力を誇り、第1試合では撃破数7、第5試合では驚異の撃破数12をたたき出すなどし、大会を荒し回っていた。序盤から怖気づくことなく接近戦をしかける好戦的な姿勢と、巧みなエイム力から繰り出されるサブマシンガンやショットガンの攻撃力が相まって、装備不足の状態で戦いを挑まれたチームはことごとく「人」の餌食となっていた。

 このチームは昨年の「STAGE:0」において準優勝の成績を残している大注目株で、LYNX選手にいたっては昨年の「全国高校eスポーツ選手権」にも出場し最終4位という結果を残している実力のあるプレーヤーだ。しかしどちらの大会でもいま一歩優勝には届かず、特にChiffon選手は決勝唯一の3年生であり今回が最後の大会になるため、チームとしてどうしても優勝を目指したい。彼らのアグレッシブなプレイスタイルは、大会に懸ける2人の前のめりな想いが反映されたものだったのかもしれない。

 そんな「人」のプレイで特に印象的だったのは第5試合の序盤、まだ多くのチームが資材集めに勤しんでいる中、彼らは早速周りのプレーヤーにアタックをしかけはじめ、遠くに無防備な敵チームがいることを確認すると一気にハンマーを2本消費して急接近、Chiffon選手が上空からのショットガン射撃でひとりを撃破すると、すかさずLYNX選手が援護射撃でもうひとりを撃破しており、まるでモンタージュ動画のような華麗な連携で一気に2撃破を獲得していた。

ハンマーから敵を倒すChiffon選手

上位チームが次々と脱落していった波乱の最終戦

 「ざじぽり」や「人」をはじめ、多くの実績がある選手を擁するチームがいる中、優勝に輝くチームはどこになるのかと、最終第5試合終盤になってくるとYouTubeのチャット欄にも緊張が走り始める。ちなみに第4試合終了時点での総合順位は以下の表の通りで、「ざじぽり」が2位以下に圧倒的な点差をつけて1位に君臨しているのがわかる。しかしここで終わらないのが「フォートナイト」の面白いところだ。後がないとわかれば下位のチームは積極的に上位のチームに攻撃を仕掛けてくることになり、そこで上位チームが早期にキルされてしまえば点差がひっくり返ることもあり得る。

第4試合終了時点の順位表

 第4試合後の順位では3位に位置していたルネサンス高等学校のチーム「暗黒神ゴッドゼウス」や、5位に位置していたN高等学校のチーム「はるぷす」などは、この最終ゲームでいかに慎重に立ち回って順位を伸ばせるかが勝負所になるはずだったが、どちらも敵チームの攻撃にあって中盤までに撃破されてしまい、思うようにポイントが稼げなかった。4位に位置していた「人」はこの混戦模様を逆手にとって序盤中盤にキルを量産したが、これから生存順位を伸ばしていきたいというフェーズ7の時点でまずLYNX選手が移動ストームについていけずキルされてしまい、Chiffon選手もなんとかソロで粘ろうとするもその後すぐにキルされ、生存順位9位という結果になった。

 こうなると「ざじぽり」がどこまで生存できるかが注目ポイントになってくる。「ざじぽり」は自分たちが狙われていることを十分に理解していて、これまで以上になるべく身を隠すようにして立ち回るも、フェーズ7の時点で混戦の中Policy選手が倒されてしまう。全く撃破数を稼げていない中で残されたZazi選手はなんとか生存ポイントを稼ごうとするが、相方がいない状態で思うように身動きがとれずローグラウンドに取り残されてしまう。フェーズ9になりストームがさらに狭まると、Zazi選手はなんとか建築物の下を通って移動できないかと模索するが、スライディングの後隙を狙われて撃破されてしまい、生存順位6位という結果になった。もう少し生き残って5位になっていれば7ポイントもらえたところだったので、痛恨のポイントロスだ。

Zazi選手被撃破の瞬間

 上位チームがことごとく撃破されていくなか、第5ゲームで圧倒的な存在感を放っていたのがルネサンス大阪高等学校のチーム「東海道中膝栗毛fn」だ。このチームは第1、第2試合こそ結果がふるわなかったものの、第3試合で撃破数4を獲得したあたりから徐々に調子をつけており、続く第4ゲームで生存7ポイントと撃破9ポイントを稼いで一気に上位に躍り出ている。

 ルネサンス高校も「全国高校eスポーツ選手権」の常連校のひとつだ。当校にはeスポーツ科が設置されており、在籍する生徒たちは日々学校内でeスポーツに触れながら勉学に励んでいる。「東海道中膝栗毛fn」はそんなルネサンス高校の2年生同士、しゅんてゃん選手とNorthFace選手からなるチームで、昨年9月に結成されたばかりだという。2人とも本大会の決勝に出場するのは初めてだが、本人たち曰く他のチームに負けないくらい仲が良いといううことで、第5試合ではそんな彼ら2人の連携がよく出ていたように思う。

耽々と身を潜めるNorthFace選手

 「東海道中膝栗毛fn」は第5試合、序盤中盤は比較的守りを重視した立ち回りを見せ、セカンドハイあたりの位置を守って着実に生存順位を上げていたが、フェーズ8から9に移行するころになると意を決したように敵チームに攻撃をはじめ、撃破数を稼ぎつつ一気に資材を消費して足場を築き、地上が混戦になっているのをスルスルと抜けてハイグラウンドを確立した。この決断が功を奏し、フェーズ9に入り3チーム6名が生存している段階になると「東海道中膝栗毛fn」だけが資材にも余裕をもってハイグラウンドを保持する格好となり、上から降り注ぐような攻撃でルネサンス高等学校のチーム「Kiraking」を華麗に撃破、そして最後に残ったクラーク記念国際高等学校のチーム「サブマを信じろ」との直接対決にも冷静なエイムで打ち勝ち、見事ビクトリーロイヤルに輝いた。

しゅんてゃん選手ビクロイの瞬間

 この第5試合のビクトリーロイヤルが決め手となり、第5回全国高校eスポーツ選手権「フォートナイト」部門は、これまで圧倒的だった「ざじぽり」を下し、「東海道中膝栗毛fn」の逆転優勝になった。準優勝となった「ざじぽり」の最終得点は51で、それに対して「東海道中膝栗毛fn」の最終得点は54だったので、優勝争いはかなりの僅差だったことがわかる。

 さらに最終3位となった「人」の最終得点は49とこれまた僅差で、上位チームの実力がいかに拮抗していたかがわかる結果となった。それぞれのチームが独自の戦術やプレイスタイルで挑んだこの大会だったが、やはりバトルロワイヤルという性質上、最後の最後までどこが勝つのかがわからないのが「フォートナイト」の面白いところだろう。

 優勝チームのしゅんてゃん選手は優勝インタビューに応じ、「めちゃくちゃ嬉しいです、勝った瞬間に叫びました」とその喜びを語った。勝因について聞かれると、「最終場面ではかなりのプレッシャーがありましたが、それでも思い切ってハイグラウンドをとりにいったのがよかったと思います」と語った。また、来年も同大会に出場したいかを問われると「同じチームでまた出場したいと思います。連覇するのは簡単ではないですが、また優勝を目指して戦いたいと思います」と意気込みを語ってくれた。優勝した「東海道中膝栗毛fn」には賞品としてGALLERIAからノートパソコン「XL7C-R36H」が贈られる。

インタビューに応じるしゅんてゃん選手

 こうして第5回全国高校eスポーツ選手権「フォートナイト」部門は幕を閉じた。最終戦での混戦具合を見てもわかる通り、学校単位でeスポーツ部活動に力を入れる高校が増える中、やはり本大会は年々レベルが高くなってきていると感じる。また今回大会では1年生の活躍が前回よりも多く見られたと感じた。高校生のスポーツというとどうしても上級生の活躍が取り上げられがちだが、年齢や体格に囚われないゲームだからこそ、誰にでも活躍の機会があるのがeスポーツの良さのひとつである。

 今後もこうして高校生たちの活躍の場となるためにも、「全国高校eスポーツ大会」をはじめ、ますます高校生eスポーツシーンが盛り上がっていくことを願うばかりだ。