インタビュー
「新生FFXIV」プロデューサー吉田直樹氏インタビュー(前編)
いよいよスタートするPS4版、その設計思想と醍醐味を深掘りする!
(2014/2/20 12:00)
- 2月22日 βテスト開始予定
- 4月14日 正式サービス開始
- 価格:
- 3,394円(PS4通常版)
- 10,584円(コレクターズエディション、パッケージ)
- 5,452円(コレクターズエディション、ダウンロード)
- 2,365円(デジタルアップグレード)
いよいよ2月22日、すなわち日本でのプレイステーション 4の発売に合わせてβテストがスタートする「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」。2013年8月27日のWindows版、プレイステーション 3版に続いて2度目、「旧FFXIV」から数えると実に3度目のローンチとなる。
ゲームファンの中には、これを機にMMORPGにちょっとチャレンジしてみようかという新規ユーザーもいれば、PS3版、あるいはWindows版からのアップグレードを狙っている既存ユーザーもいるだろう。いずれにしてもPS4ローンチで「新生FFXIV」が楽しめるのは日本発売のみというわけで、日本のゲームファンはぜひこの祭りに参加したいところだ。
今回のPS4版に関しては、本誌でも様々なレポートでその魅力をお伝えしているので詳しい内容はそちらを参照していただきたいが、改めて3つのフレーズでまとめると、Windows版同等のグラフィックス/表示解像度でゲームが楽しめること、PlayStation Vitaを使ったリモート接続でゲームが楽しめること、PS4のシェア機能を使って簡単に動画配信ができること。この3つがPS4の大きな特徴となる。ゲームそのものはまったく同じで、サーバーも共通なので、自分の環境に合ったプラットフォームを選びたいところだ。
今回は、PS4版βテスト開始記念ということで、「新生FFXIV」プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏にインタビューを行なった。インタビュー前編ではPS4版と、今後のPS3版のサポート等について質問し、インタビュー後編では、パッチ2.1や2.2、そして個人的に気になっているジョブバランスやバトルバランスについて質問している。
PS4への最適化によって更なる美しさを実現! フレームレートは最大60に強化
――今回試遊させていただいたPS4版ですが、完成度はどのくらいですか?
吉田氏:もう約90%までは出来ていると思います。
――残り10%は何ですか?
吉田氏:PS4のレギュレーションへの対応です。今回、プレゼンテーションで、PC版をベースにしながらPS4版を開発/最適化しましたというお話をしましたが、例えばキャラクターに掛かっているシェーダーの1つ1つを、PS4のパイプラインに合うように再コーディングして移植しているので、単なるベタ移植ではありません。なので1つ1つ、皮をむき直してまた移植という作業をしています。全体の作業はほぼ終わっているのですが、それによって出ているバグがいくつかあるので、その修正をしていたりします。
――開発で苦労した部分は何かありますか?
吉田氏:うーん……実は思い当たらなくて(笑)
――それは意外ですね、結構スムーズにいったわけですか?
吉田氏:描画やクライアントシステム担当に怒られるかもしれないですが、PS4への対応は早かったですよ。実際、開発が総掛かりになったのは去年の10月くらいですから。
――つまり、「FFXIV 新生エオルゼア」の正式サービス以降ですか。
吉田氏:はい。もちろんその前から準備はしていました。ただ、それは描画ができたという段階で、あとは実際のPS4開発キットの到着待ちでした。32bitのPC版に対して、PS4は64bitなので、64bitに対応するところから始めて、単純に描画して動かしてみるところまでいって、意外と何もしなくても動いたねというところから、1つずつパイプラインに合わせて最適化をしていったという形です。うん、やはり早かったですよ。
――「FFXIV」を64bit対応したことで具体的なメリットは何かありましたか?
吉田氏:というより、OSやパイプラインの考え方が32bitではなく64bitなので、対応しなければソフトが動きません。ただ効率よくメモリが使えたり、CPUやGPUの性能が増えるという意味では、後は今後DX11対応していく上でも64bitは絶対に必須です。今回PC版の方も64bit化してしまったので、今後のDX11対応など、もっと楽に開発が進められるようになると思います。
――PS4版の設計思想をお伺いします。PS3版は本体の性能限界を超えたギリギリのチューンを目指したと。一方、PC版はグローバル向けのフルスペックのMMOだと。これらに対してPS4は何を目指したのですか?
吉田氏:今回、スタッフには(PS4の性能を)使い切ってねという話をしました。PS3は押し込みの理屈で、どうしても箱(ハード)が小さいものに対して、非常に大きいもの(ゲーム)を押し込まなければなりませんでした。すべてを入れられるわけではないので優先順位を付けて、これは絶対に100%のサイズで、ここは70%に落としていいだろう……などですね。メモリを考えると、同時に開けるUIの数が絶対的に違うとか、どうしても排他制御しなくてはいけないところがあるのです。よくスクエニは昔からハードの成熟期に性能限界を追求したゲームを作りますよね。「ベイグラントストーリー」とかもそうでしたし、「ファイナルファンタジーXII」もそうですよね。「こんなの出されたらもう作れないわ」という、PS3版は割とそれに近く、限界までやりきった感じでした。
今回のPS4というハードに関しては、やはりハード設計にマーク・サーニー氏がいたのは大きかったですね。PS4の設計の根幹から関わっていらしたので、設計の段階からコンタクトをとって、ウチのCTOの橋本(善久氏、「新生FFXIV」テクニカルディレクター)も含めて、ディスカッションを何度もさせていただきました。例えばメモリについて「とてもじゃないけれどこんなメモリじゃ足りないよ」という話を、こちらからもさせていただいたり、HDDのサイズはここまでは欲しいとか……。当然マークさんは、我々とSCEの中間で、作り手のわがままはわかるけれど、コストも考えなくてはいけないというところで大変だったと思います。
僕らは作る側としてPS3もPS4も良く見ていた上に、幸いずっとWindowsでもゲームを作ってきたので、結果的に対応は早かったのです。PS3だけを触っていた人だと結構苦労すると思いますし、逆にWindowsだけを触っていた人だと、それはそれでコンソールに落とすという考え方で苦労はするのかなと。
ウチは両方やっていたので、対応がもの凄く早かったし、ソニーさんならではのパイプラインに慣れているところもあるので、最適化のコツも掴みやすかったようです。やはりハードの限界を引き出すためには、何作も作っていかなければいけない、ということは確かです。ですが、「新生FFXIV」の場合、ローンチタイトルにしては、隅から隅まで綺麗に使えているのではないかなと思います。ぜひβでお確かめ下さい。
――PS3の時は、ローンチ直後のタイミングでは、例えばライブラリがないとか、SDKの機能が足りないとか、サードパーティーに対して厳しい状況があり、それでタイトルが揃わなかったということもありましたが、今回はそういうことは全くなかったのですか?
吉田氏:まず、一般的なPS4タイトルを開発するためのライブラリに関しては結構揃っています。ただ、僕らが作っているのはMMORPGだったので、ネットワークコンポーネントまわりのSDKは、どうしても特注になった部分はあります。SCEさん的にも、どうしてもオーソドックスなスタンドアローン用のSDKを先に用意するのが普通ですし。
それでもPS3版の流れのままSCEJAさんとは、かなり早くからやりとりさせていただいて、本当に助かりました。「PS4の本体発売日からβテストするなら、このくらいの日程にSDKが貰えないと無理ですよ?」とか(笑)。
SCEJAの方々とはPS3版から含めて、丸2年近く毎週定例の会議を持たせていただいて、僕がプロモーション系だったり、無料の移行サービスなんかを担当しつつ、開発はその後ろで先方のテクノロジストとガリガリに作業してきました。本当に頼もしい、ある意味同じプロジェクトの同士みたいでした。感謝しています。
――PS4版を実機で見て最初に感じたのは、自然な発色でバシッと綺麗に絵が出てるなということです。これは絵作りに関するデータそのものはPC版と完全に同じなんですか?
吉田氏:シェーダーは厳密にいうと少し違いますし、処理だけで見たらPS4のほうが上だと思います。PCはグラフィックスボードの特性、グラフィックスチップの特性、AMDさんとNVIDIAさんのドライバの思想で発色の仕方が違うじゃないですか。片方だけに集中して最適化してしまうと、特定のドライバで動かないとかこっちでおかしくなるとかあるから、カツカツにはいけないわけです。それに対してPS4はハードウェアが固定で、追い込んだ最適化がし易いのです。同じ処理系、例えば表面反射系、いわゆる水に浸かっているとか、後はハレーションなど、その辺りは計算数値的にはPC版よりもPS4版の方が上です。さらに最適化しているので。
――(モニターを指して)こういう街路の何気ないシーンも凄く綺麗に見えますよね。
吉田氏:そうですね。後はやはり家庭用テレビだと、メーカーさんによって発色が相当違うので、皆さんのお家で見るとまたガラッと違って見えるのではないでしょうか。シャープさんとか、ソニーさんで、やはりバックライトもかなり違いますしね。
――本音を言うと「新生FFXIV」推奨テレビも指定したいくらいですか?
吉田氏:個人的には黒がハッキリ出る某社のTVが好きですが、個人の好みですので伏せ字で(笑)。
――先ほどPS4版で真タイタン戦をプレイしたときに、エフェクト周りがさらに綺麗になったなという印象を受けたのですが、TVで出して見てるところも影響してるんでしょうか。
吉田氏:素材は変わっていません。ただシェーダーが確かに違うので、くっきり見える場合はあるのではないでしょうか。PCのモニターの発色は長時間見て、長時間仕事をしても疲れないという設定が多いです。ただ、家庭用のテレビは、家電量販店の軒先で最も映えるように作られています。周囲がかなり明るくても、バックライトが強いために、かなりくっきりと絵を出すことができます。40インチクラスのPCのモニターはなかなか買えないですが、今は家庭だと40インチクラスのテレビは普通です。ぜひこの感動を家庭用TVの大画面で味わっていただきたいですね。
――PS4版はPCモニターではなくぜひテレビでやって欲しいと?
吉田氏:僕はそうですね。家庭用ゲームでいよいよここまで来たのか、というところは是非味わって欲しいですね。
――なるほど。色味の出方もPS4の方が鮮やかに出ている感じですね。
吉田氏:それは元々、このくらい細かく作っているものが、バックライトの発色と、解像度のきめ細かさでさらに綺麗に見えているんだと思います。僕らは4Kのデモもやっていますが、あれもリソースは変えていないですし、色味の設定をいじっているわけではありません。
――PS4版では、キャラクターの表示数が圧倒的になったというお話ですが、これはPC版と同じだけ表示できるということですか?
吉田氏:はい。PCと同じです。
――例えばそのほかに遠景も綺麗になりましたが、これもPCと同じ?
吉田氏:同じです。
――ライティングのシャドウなんかも、シェーダーが変わったことでちょっと見え方が違うけれど、基本は同じ?
吉田氏:同じです。アセットは何ひとつ変えていないので。
――そして常時ぬるぬるの快適描画も魅力です。以前インタビューで質問した際、PS4版のフレームレートは30固定というお話でしたが、最終仕様はどうなったのですか?
吉田氏:一応僕の指示では「できる限り30は切るな」、「60固定じゃなくても良い」という指示をしています。通常、特にストレスが掛かっていないシーンでは、60フレーム出ていると思います。
――PS4版のフレームレートは30固定ではなく、60まで出るようになったのですか?
吉田氏:はい。ですので速いところは60出ていると思います。
――30固定ではなく、下限30というのは大きな方向転換ですね。
吉田氏:そうですね。さすがにオーディンF.A.T.E.のように数百人でかつバトルエフェクト山盛り……という場合は、もう少し低下すると思いますが。
――60フレーム表示で、なおかつグラフィックスはPC版の最高設定水準ですか?
吉田氏:影とストリーミングの処理に多少差があったはずですが、おそらく見てもわからないのではないかと思います。最高水準ぐらいなんだ、と思っていただければ良いと思います。
――PC版にはいわゆる“胸揺れ”がありますが、そちらもPC版と同じ仕様が入っているわけですか。
吉田氏:もちろんそのまま入ります。ちなみに、まだ最終調整中ですが、パッチ2.16に入る“水濡れ”はPS3にも入れます。
――水濡れが発生するとどのような感じになるのですか?
吉田氏:基本的にはテクスチャーの上にもう1枚ビットマップを貼って……なんというか、よくアニメ的な表現で水の中に入ってあがると、ベースの色が暗くなっている、基本あれだと思っていただければ良いです。濡れた範囲はきっちり色が変わります。計算しているので、例えば雨でいきなり全身が濡れるわけではなくて、濡れた範囲だけじわっと。
――プレート系の装備だとぬめぬめした感じになるのですか?
吉田氏:ちょっと光沢が変わったりはしますね。ちなみにこの水濡れはキャラクターだけじゃないのですよ。この前のプロデューサーレターLIVEで、ちょっとうちのBG制作やっているスタッフが拗ねてて(笑)。「プレーヤーはみんなキャラに注目してるけど、BGもかなり広範囲に濡れるんだけどなぁ」って。
――広範囲というと例えばどういったものが濡れるのですか?
吉田氏:地面などです。だから、かなりBGは苦労してデータを仕込んでいるわけです。ものすごい範囲じゃないですか。なのにみんなキャラばかり言われるので、ちょっと可愛そう(苦笑)。ただ、「濡れる」ことと「透ける」ことは違いますので、プレーヤーの皆さん、過度な期待をしすぎな気はします……。
――水濡れはPS3にも適用するということですが、そもそもPS3版は性能限界ギリギリまでチューニングしたとおっしゃっていましたが、なぜさらにPS3でグラフィックス表現の向上が可能になったのですか?
吉田氏:今日プレゼンでお話した通り、「ファイナルファンタジー」シリーズの最新作としてグラフィックスを徹底的にこだわっていますという話は以前からしていて、同ジャンルで絶対に最高水準を確立できていると思います。つまり、2.0をリリースしたタイミングで十分僕は最高品質だと言える状態だったと考えています。ただ、時間さえかければ、達成できていく細かい処理もあり、それが今回搭載された表現になります。
――今後、グラフィックスに関してどのようなチャレンジをしてみたいと考えていますか?
吉田氏:この先はもうDirectX11対応しかないでしょうね。
――表現としては雪が積もったりとか?
吉田氏:そうですね。でも雪が積もるのはどちらかというとBGなのですよ。足跡をくっつけるとかは全然簡単なのですが、実際ある程度積もっていって、さらに雪が増えるみたいなのは、仮想レイヤーで雪の層を仕込んでいっているので、描画というよりはBGのコストの問題なのです。遊べないとおもしろくないですしね……。
――それは今後もPS3でもできるし、期待していて欲しいと?
吉田氏:うーん、どうですかね。そうなってくると、完全に描画じゃなくてメモリを食うので、BGレイヤーだと結構苦しいかもしれないですね。
――グラフィックスに関するチャレンジというのは今後も続けていくと?
吉田氏:はい。続けていくと思います。まあリフレクションの精度などPS4の方がPCよりも上という部分もありますので、ご興味のある方はご注目下さい。
――現状、「新生FFXIV」にも、オブジェクトに対するキャラクターのアクションには簡易物理が適用されていますが、今後もっと大胆に物理をゲームに適用していくつもりはありますか?
吉田氏:僕は今のところMMORPGに極端な物理は必要ないと思っています。これは(物理を取り入れたMMORPGである)「EverQuest Next(EQN)」を否定したいわけではなくて、あれは新しい遊びだとは思いますし、チャレンジとしては素晴らしい上に、僕も触ってみたいとは思います。ただ、やはり常に思うのが、本当に面白くて、しかもギリギリのバランスのコンテンツを、たくさんスピーディーにアップデートできるのかという、そこが命題になってしまって。物理全開だと、相当難しいだろうなあ、と。
これは僕の能力の限界なのかもしれないですが、物理が絡んでくると、もう僕には仕様を切ることが難しくなりすぎます。計算しないと答えが出せないし、ロジックだけでなく、ロジック+計算というさらにバランス要因が複雑化します。スタンドアローンで徹底した世界を1つ作りこんで終わり、というなら力業でなんとかなると思うのですが、物理は本当にどう跳ねるかわからないですし、ちょっと計算を変えると全コンテンツの計算方法が変わってしまいます。そう考えたときにやはりコストとリターンが合わずに、かえって足を引っ張っちゃうのが怖いのです。「KNACK」のように、物理がすべてのゲームだったら全然アリだと思うのですが、これだけ莫大なフィールドに本当にやるの? というところが、僕の能力の範囲を超えています。インパクトは強いと思うのですが……。
――なるほど。今後いきなりゲームに物理が導入されましたということは、なさそうですね。
吉田氏:少なくとも「FFXIV」はそうですね。もしやるのだったら、髪がもっと綺麗に揺れるようになるとか。どちらかというと骨の数で制限がかかってしまいますが、ローブのはためきとか、それこそ背中に長いマントをつけて刺さらずに物理で綺麗にうねうね動くという方向に行った方が、僕らはいいのかなと思っています。
――そういう物理の使い方はありかなという感じですか。
吉田氏:かなり先かもしれませんが、完全にないとは言いません。