|
台湾のコンシューマーゲーム市場は、2008年に任天堂が展開を始めたことで、ようやく3社が正式に出揃った。“正式に”というのは、それ以前から日本などからの並行輸入品が入っており、ニンテンドーDSなどで遊んでいるユーザーは以前から存在していた。現在はきちんとサポートを受けられる正規品を入手できる状況になった、ということだ。 ハードウェアは揃ったが、ソフトがいきなり全て中文版になるわけではない。先行しているソニー・コンピュータエンタテインメントとマイクロソフトも、ファーストパーティ製は中文にローカライズしているが、その他は大半が日本語版や英語版のままで発売されている。他にもゲーム市場の中心がPCゲームだということもあり、日本のショップやユーザーとは何かと様子が異なる。
今回は台北でコンシューマーゲームを扱うショップを中心に、アミューズメント施設やネットカフェなど、ゲーム関連施設を訪問した。弊誌では昨年のレポート、一昨年のレポートも掲載しているが、この1年間で状況が変わった部分も多かった。改めて、台湾ゲーム関連ショップ事情の最新レポートをお届けしたい。
■ 新たなビルが完成し、内外ともに生まれ変わった「光華商場」
ゲームショップは主に2階と3階にあり、大小あわせると10店舗以上ある。これらのゲームショップを見て真っ先に感じたのは、違法コピー品のゲームソフトがなくなったこと。台湾で正規に流通するソフトを素直に売る店がほとんどで、一部に並行輸入品が置かれている程度だ。建物内が綺麗で明るくなったことと合わせて、非常に健全な雰囲気になっている。 しかしよく見ると、そうでもないものもまだ存在している。一番目立ったのが、一部ゲームショップにある「維修」という文字だ。素直に読めば「ゲーム機を修理します」ということなのだが、そもそもゲーム機はショップでの修理が認められていない。では何をするかというと、コピーソフトを動かすために本体を改造するのである。ソフトはインターネットを使うなど入手経路が変わっているようだ。 本体に手を入れるものでは、ニンテンドーDS Liteの外殻をまるごと交換してしまうという面白いサービスを行なっているショップがあった。クリアイエローやゴールドなど見慣れないカラーも扱っており、価格は1,800台湾ドル(約5,400円)。当然ながらこれも本体改造に当たるため、正規の保障は受けられなくなる。 他にはPCゲームを壁一面に並べた店や、狭い店内がほぼ全てLogitech製品という店、ゲームパッドを山のように扱う店などもあった。ゲーム以外ではやはりPCパーツやデジカメなどを扱うショップが多い。特にASUSを始めとした台湾メーカーの製品は、日本よりもかなり安い値段で購入できるものが多かった。 光華商場は以前から「台湾の秋葉原」と紹介されることが多いが、光華數位新天地に移ってからも、その傾向は変わらない。中にはアニメ関連の商品を扱う店もちらほらあり、さらには以前はなかったアダルト商品を扱う店が堂々と出店していた。客層が変わってきた“今風の秋葉原”のイメージにも当てはめられそうな変化だ。
また光華商場の近くにある地下街「光華国際電子広場」にも行ってみた。こちらも光華商場と同じように小さな店が並ぶ場所で、昨年はコピーソフトのメッカともいうべき酷い状態だった。しかし現在は大半の店がシャッターを下ろしており、ごく一部がひっそりと営業している程度で、コピー品の販売業者は完全に駆逐されていた。ただその一部の店では、改造ファームウェアを入れたPSPや、PSPの液晶やアナログスティックなどの部品を販売していたりと、まだアンダーグラウンドな雰囲気を残している。
■ “座って遊ぶ”文化は一時休眠?「台北地下街」
陳列されている商品を見ると、機種別のソフトの偏りが少ないのが目に付いた。どの店を覗いても、プレイステーション 3、PSP、Xbox 360、Wii、ニンテンドーDSのソフトを、それぞれほぼ同じだけのスペースに分けて置いている。台湾におけるハードの主導権争いは、まだまだこれからが勝負といった様子が感じられる。 台北地下街のゲームショップといえば、店頭に集まってゲーム機を持ち寄り、座って遊んでいるユーザーの姿が印象的だった。ところが今回は、1店の店先に十数人いた程度で、他では全く見かけなかった。何か指導が入ったのか、あるいは単純に遊ぶゲームがないのか、理由ははっきりしない。 ただ店頭の試遊台には、多くのユーザーが集まっていた。今回訪れた際には、「ストリートファイターIV」と「真・三國無双5」のいずれかを店頭に出している店がほとんどで、そのどれにも多数のユーザーが集まっていた。特に「ストリートファイターIV」では、大技が決まるたびに雄たけびを上げるほど熱狂している人もいた。試遊ではなく、本気で遊びに来ているところは、日本とは少々雰囲気が異なる。もしかすると座って遊んでいたユーザーも、この輪に加わっているのかもしれない。
日本とは違う混沌とした雰囲気を期待して行くと、ショップそのものはさほど日本と違わない印象で、肩透かしを食らったような気分になる。ただ、これは台湾の市場が成熟し、クリーンな環境で各社が争える状況がやってきた証拠とも言えるだろう。
■ 凄まじい活気のアーケードゲーム!「萬年商業大楼」
またここの5階は、大規模なアミューズメント施設になっている。そもそも台湾ではアーケードゲームが規制されているため、この店は認可を受けた希少な存在といえる。ちなみにキッズ向けのカードゲーム筐体はあちこちで見られるが、これはゲーム機ではなく“カード販売機”という扱いで規制の網を潜り抜けているのだという。 店内に入ると、ものすごい数の客に圧倒された。日本ではアーケードゲームが下火になりつつあるということもあるが、それにしても日本では見られないほど店内は活気にあふれていた。筐体も各種かなりの数が揃っていて、しかもほとんどのゲームがプレイ中の状態だった。規制が厳しいこともあって、アーケードゲームそのものが最先端の遊びの1つとしてとらえられている、という印象を受けた。 入っているゲームは大半が日本製。「BLAZBLUE」、「DrumManiaV5」、「湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE3 DX」といった日本でも稼動して間もないアーケードゲームも入っている。これらは日本語版がそのまま動いているが、「太鼓の達人11 亜州版」のようにローカライズされたものもある(ただし、隣には日本最新版の「12」も置かれていた)。 ゲームをするには、硬貨を投入するのではなく、まずメダルに交換する必要がある。メダルは100台湾ドル(約300円)で20枚。プレイ料金は新しいゲームは1プレイ4枚、古いものは3枚といったところ。4枚であれば1プレイ約60円となる計算が、台湾の生活水準から考えると150円程度の感覚で、順当な価格設定といえる。 ただ「三国志大戦2」だけは別で、10台湾ドルを6枚(約180円)入れるとプレイできた。これもカードが排出されるので、カード販売機扱いとして動かしているのかもしれない。 なおゲームはネットワーク通信対戦にも対応し、台湾のみならず香港、シンガポール、上海の4地域をまたいだバトルも実現されていた。
人気のジャンルはないかと見てみたところ、前述のとおりどのゲームにまんべんなく人がついていたので、極端な偏りは感じられない。比較的人が集まっていたのは音楽ゲームで、ビジュアル的にも目を引く「jubeat」には人だかりができていた。また「キング・オブ・ファイターズ」シリーズは人気が根強く、いくつかのバージョンが並べてあった。
■ 悪いイメージの払拭を模索する台湾ネットカフェ
店内はちょっと綺麗な喫茶店にPCを置いたという感じ。日本のネットカフェでは、パーティションで仕切った席が多かったり、背の高いマンガの本棚が置いてあることが多いが、ここはマンガもごく僅かにある程度で、開放的な空間になっている。あくまでPCゲームを遊ぶための店で、友達と連れ立って来てもらおうという仕組みだ。 店の奥はガラス張りのコーナーがある。元々は喫煙席という扱いだったが、現在は屋内での喫煙が法律で禁止されたため、全面禁煙となっている。客は20台前後の若い男性がほとんどだが、入り浸っているという印象ではなく、カジュアルに遊んでいるという印象が強かった。ただヘッドフォンは席に用意されておらず、ゲームの音は液晶モニタの内蔵スピーカーから直接出力していたため、神経質な人は隣の音が気になるかもしれない。 このAZTECについてさらに調べてみたところ、「青少年育楽中心(Young party)」という台北市の公的施設の9階に、2008年11月から「台北電子競技館」という店舗を出店しているのがわかった。早速そちらも覗いてみることに。 台北電子競技館は、基本的には通常のネットカフェとして運営されており、料金や割引のシステムもAZTEC忠孝店と同様。しかし店内はかなり広々としており、外光も入るようにしていてかなり明るい。またフロアの中央には円形のステージが用意されており、4つの席にはそれぞれ42インチの中継モニタがセットされている。「電子競技館」という名前のとおり、ゲーム大会を開くことも意識したレイアウトだ。 同店の詳細について、プロジェクトマネージャーを務める陳建宇氏にお話を伺った。この店の最大の目的は、ネットカフェの悪いイメージを払拭することだという。台湾ではネットカフェに対し、閉鎖的な空間に若者が集まることから、不良のたまり場といった認識が広まりつつあるという。日本でいう、昔のゲームセンターのような感覚なのだろう。 ネットカフェ事業者のAZTECとしては、そういう状況は好ましくない。青少年育楽中心には、アミューズメント機器を置いたスペースや映画館などがあり、家族で楽しめる場所でもある。AZTECとしてはここに出店することで、家族でも安心して遊べるようなネットカフェを提供したいという狙いがあるようだ。事実、取材した日にも、小学校に入るかどうかの女の子を連れた家族が、横並びの席に座って遊んでいた。
とはいえ、ここもれっきとした店舗なので、営利目的で営業している。IntelとASUSをスポンサーに招くことで、最新スペックのPCを用意。また週末には店内のスペースを利用したゲームイベントも頻繁に開催しているという。今後はこういった綺麗な環境のネットカフェを、台中や高雄にも展開したいとしている。
■ クリーンな環境へ急進する台湾ゲーム市場 ゲームショップ、アーケード、ネットカフェと一通りのゲーム関連店舗を回った感想は、「予想よりずっと綺麗」というものだ。半導体関連企業が多く、各国のゲームが流入するという環境から、コピーの問題が蔓延し、それがゲームに対しての悪い印象を強くするのではないかと思っていた。 しかし今年の台湾は、とにかく明るく、クリーンな印象が強かった。それでいて、ゲームに対するユーザーの熱気は衰えることがなく、極めて健全な方向に進化していると感じられる。もちろん健全化したのは表層だけで、よりアンダーグラウンドなところには潜んでいるのかもしれないが、それでも「コピー品は堂々と売買するものではない」という意識が明確になったというだけでも大きな進展といえるだろう。ハードホルダーの地道な活動が、ようやくショップやユーザーからも理解を得られ始めたのだと実感した。
正規流通のゲームが売れるとなれば、自分でゲームを作ろうというクリエイターも出てくるはずだ。昨年はSCE Taiwanが、クリエイターを育成するプログラムを発表している。これらの動きに乗って、今後、台湾ゲーム業界にとってポジティブなスパイラルが生まれることを期待したい。
(2009年2月17日) [Reported by 石田賀津男]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c)2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|