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会場:韓国国際展示場(KINTEX)
入場料:4,000ウォン(前売り2,000ウォン) KGC2008では韓国や欧米のゲーム開発者の他、株式会社ゲームリパブリックの岡本吉起氏や、バンダイナムコゲームスの金久保哲也氏など日本のゲーム開発者も登壇している。ゲーム制作や、プログラム、ビジネスなどテーマも多岐にわたっており、ブースによっては韓国語だけでなく、英語や日本語の同時通訳も行なわれている。 本稿ではNCSoft開発本部長兼「Blade&Soul」プロデューサーJames Bae氏のキーノートスピーチを紹介したい。Bae氏は「リネージュII」のプロデューサーを務め、Play NCの開発責任者、そして現在はNCSoftの開発本部長であり、新作の「Blade & Soul」を手がけている。韓国MMORPGを牽引する人物である。 今回、Bae氏は「Creating Different Gaming Experience」というタイトルで、韓国のゲーム開発者の立場から、テーマを持って開発することの意味や、「リネージュII」開発での反省点などを語った。
■ 見た目だけを変えるのではない、「プレーヤーの体験」を与えるためのゲーム作りとは
Bae氏は、「私は“新しいもの”を語る自信がない。私は新しいものを生み出したのではないからだ。本当の最初を作った、という人は存在するが、それ以外ではゲームというものは“循環”していると思う。以前あったものが再評価されたり、進化の過程で切り捨てられた可能性が再び注目されていくことがあるからだ」と語った。 新しく発売されるゲームをプレイしても、多くの人は「これは以前にやったことがある」と思う人が多いのではないだろうか、そしてそういうテーマやストーリーが同じものが続くと人は飽きてしまう、とBae氏は語る。現在展開するゲームにもそういった傾向はあり、MMORPGにアクション性を取り入れたりはしているが、同じジャンル、同じシステム、同じストーリーのゲームも多いという。 こういった動きの中、まず各社が違うもの、として真っ先に取り上げるのが「ビジュアルコンセプト」だ、とBae氏は指摘する。Bae氏は例として、「アフリカ」を取り上げてシミュレートしてみる。一般的な中世ファンタジー世界の武器やアイテム、魔法使いの呪文や、背景なども変えてみる。付け焼き刃的な、外側だけを変える変更である。 同じような“変換”は実際起きているとBae氏は語る。風景を中国式に変え、魔法を“気”にして、レベルを段に変える。いわゆる「武侠もの」を題材にしたMMORPGだ。ビジュアルコンセプトを変えることで、「武侠もの」を狙うゲームは出てきたが、それはゲーム性が変わったわけではない。見た目は変わっても、ゲーム性やゲームシステム、何よりも、ゲームを通じてユーザーに何を語りかけたいか、という制作者の主張が変わらないからだ。「そんな方法論で作られるゲームは、結局従来とまったく変わらないゲームになってしまうと思う」とBae氏は語った。 時代を変え、テーマを変えるというのは、グラフィックコンセプトを変えるだけでは成立しない。考えなくてはいけないのは、選んだテーマでゲームはどう変わるのかだ。その問いは、「プレーヤーにどんな経験を与えたいか」という欲求から本来生まれるものだ。「ここを考えず、ただ真似をするだけでゲームを出せば悪い結果しか残らない」とBae氏は語った。 「韓国のみなさんは、テコンドーを学んでいる人が多いと思う。テコンドーには礼儀や作法に独自のものがある。中国の拳法では、流派によってそれぞれ決まりが異なる。これらを題材にしたとき、きちんとその違いをゲームシステムで表現しなくてはならない。例えば、ファンタジー世界のヒーラーにあたる役割は、中国の拳法家にはいない。題材によってゲームシステムが異なる」。 「武侠ものの主人公は、鎧をつけていないか、依存していない。鎧に比重を置くファンタジーMMORPGとは全く違う価値観だ。また、武侠で活躍する主人公の多くは、軍人ではなく民間人でその理由でも鎧は着ない。キャラクタの成長を“服装”で現わすMMORPGとここもぶつかる価値観だ。アイテム、服装、育成システム全てを考えなくてはいけない」とBae氏は語った。 さらにBae氏は、「武侠」をテーマにしたエンターテイメントの作品は、恨みや復讐など、個人レベルの情念がテーマになる作品が多いこと、肉親や、血縁の繋がりを語る場合も多いことを指摘する。「武侠ものはここに魅力があるのに、MMORPGでは世界を救うとか、領土の奪い合いなど、全く違うことをしなくてはならない。
「武侠ものをゲームにするには、従来のシステムに囚われない、ストーリーを語ることができるシステムが必要になるはず。ゲームを変えようとエッセンスを選んだ場合、そのエッセンスが必要とするゲームシステムは本当は何なのかに悩まなくてはいけないと思う」とBae氏は語った。
■ コンセプト・ゲーム性を明確に打ち出すすためには少人数で作るプロトタイプこそ必要
これらオンラインゲーム創生期に生まれた作品に比べ、現在の作品は要素が限られていることをBae氏は指摘する。発売当時は全てが斬新だった。しかし今はその斬新さは失われている。また、例に出したゲームも、実際のプレーヤー同士の諍いや、問題などが生まれて、自由は規制されることになった。「エバークエスト」の後継作といわれる「World of Warcraft」もレイドができる人数は減らされているという。 従来のシステムを受け継ぎつつゲームは開発されているが、実際の所、最初期で提示された可能性を閉じるような形になっている。そしてコンテンツは複雑化し、より面白さを感じにくい大きなものになってしまっている。「色々不満を言ってきましたが、これを解消するにはどうすればいいでしょうか」Bae氏は会場を見回し、語った。 「市場は厳しく、私自身もこれだ、という新しいものを提示はできません。しかし、小さな提案はできます」として、Bae氏が挙げたのが“違うゲームを作る”ということだ。グラフィックスが単純な作りやすいシンプルなゲームを作り、そこにコンセプトを盛り込む。グラフィックスを3Dにしただけでも膨大な作業量になってしまう。作業量とゲームの面白さはイコールではない。 「エバークエスト」と「World of Warcraft」を比べると、インターフェイスや呪文などよりシンプルになっている。車のデザイナーを例に取るとわかりやすいですが、自動車のデザイナーはむやみやたらに車に角やしっぽをつけたりはしません。何が必要か、何と何を融合させて削っていけるか、それを考えて行かなくてはいけない。 従来のシステムに新要素を盛り込む事は非常に難しい。まず何をしたいかをきちんと決め、それに合わせて作業量、よりフォーカスしていくことを考える。インターフェイスに関しては、ショートカットキーを12個など、キーボート全部を使うことがゲームの面白さに絶対に必要なのか。 ニンテンドーDSやWiiだけでなく、ワンボタンで凝ったアクションが楽しめるアクションシーンを作ったり、コンシューマメーカーにはさまざまなアイデアがある。多くはそのメーカーがパイオニアではなく、従来の技術を見直し、そしてゲーム性に組み合わせた工夫と試行錯誤によって生まれたものでないか、とBae氏は語る。 「リネージュ」の物を置いてトラップが作動するシステムがあるが、同時に作動させてトラップをかわすテクニックをプレーヤーが生み出した。「ヘイロー」でも手榴弾を工夫して戦うなど、ユーザーは開発者の想像を超えた遊び方をする。 ゲームの要素を抽出し、自由度を持たせつつ、ユーザー自身の創意工夫を発揮させる。この問題の1つの回答例として、Bae氏自身は、「GTA4」や「Sims3」などの“Sand Box(箱庭)”ゲームだと思う、と語った。世界を綿密に作り上げ、リアルな世界を演出した後、その世界に入ったプレーヤーに対して様々なオブジェクトやミッションを“投げつける”。 開発が厳格に決めた順番ではなく、プレーヤーが自分のペースと思った方向性で様々なことに取り組むことができる。Bae氏は、「今後、韓国のMMORPG開発者が影響を受けるためにプレイしなくてはいけないゲームは箱庭型ゲームだ。難易度は高いが、私は箱庭型ゲームこそがMMORPGが数年来に行かなくてはいけない道ではないかと思っている」とBae氏は語った。 ここからまとめもかねて、Bae氏は「リネージュII」の開発時を振り返った。「リネージュII」の開発は、途中で数回世界各地の発表会用のバージョンを出さなくてはいけないきついものだったというが、その中で大きな間違いを2つ犯したという。1つが、「プロトタイプを作ることに時間がとれなかったこと」だ。プロトタイプ制作時に、“できなかったこと”がたくさんあったという。 そのできなかったことを後から盛り込んだのだが、後からの追加要素は煩雑な結果になってしまった。また、開発初期はチームも小さく、開発費を抑えられたが、ゲームができてからは修正作業が膨大になり、効果は少なかった。2つ目のミスは、プロダクション期間にクローズドβテストとオープンβテストを短期間に行なってしまったこと。テストをしながら開発と運営を進めるのは今考えてもまずかった、とBae氏は語った。 「結論から言えば、プロトタイプの制作期間は正式サービスまでの全行程の50% 取らなくてはならない、ということを学びました。人数が少ない、プロトタイプの時にたくさんテストをして、明確なゲーム性を生み出すことが大事です。プロトタイプの開発をきちんとしておかないと、結局は開発の遅延を生み出します」。 Bae氏は最後に「ゲームは民主的に作るのではなく、少数の重要な人の決定による独善的な体勢で作られます。交渉の結果物ではなく、明確なテーマを持って制作されるものだと思っています」と語った。
Bae氏の講演は、後半が急ぎ気味になってしまったが、見た目のみを変えて同じようなゲームを出す、というのはコンセプトと、そして何よりも「プレーヤーにどんな経験を与えたいか」という欲求がないからだ、という言葉には考えさせられた。韓国産MMORPGに限らないが、制作者が何のためにそのゲームを作りたいかわからない作品、というのは残念ながら数多く存在している。 その上で、初期MMORPGの可能性から、どのようなゲームを生み出していくか、このアプローチの1つとしてBae氏が「箱庭型ゲーム」を提示した点にも興味がひかれる。韓国MMORPG開発者のトップが、現状への苦言と、目指すべき開発体制を語った今回のキーノートスピーチは開発者達にどのような影響を与えるだろうか。
一方で、やはりBae氏が開発する「Blade & Soul」の情報が出なかったことは残念だった。「Blade & Soul」は韓国で7月にメディア発表会は行なわれたものの、会場でも出展されていない。「Blade & Soul」は武侠MMORPGということで、Bae氏が熱く武侠ものへの想いを語ったのも納得がいく。今回のキーノートスピーチがどのように活かされているのか、気になるところである。
□G-Star 2008のホームページ (2008年11月13日) [Reported by 勝田哲也]
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