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★ピックアップ アーケード★

ワールドクラブ チャンピオンフットボール
インターコンチネンタルクラブス 2006-2007

連載【SIDE-A&B 第3回】

  • ジャンル:スポーツ(サッカーゲーム)
  • 発売元:セガ
  • 操作デバイス:カード移動、戦術ボタン×5、データ表示ボタン、キープレーヤーボタン、シュートボタン、キーパーボタン
  • 構成:サテライト席8席(4サテライト版は4席)+メインモニター、ALLNet対応
  • 料金:1プレイ300円、2プレイ500円、スターターパック1,000円
  • 稼動日:稼動中

【ゲームの内容】

 欧州6カ国、アルゼンチン、ブラジルのトップチームと所属選手が実名で登場するサッカーゲーム。ジョイスティックなどで選手を直接操作するのではなく、フィールド上に“実在する選手のカード”を配置して、それを動かしたり、戦術ボタンで指示を与えながらプレイする。練習と試合を繰り返しながらチーム経験を積み重ねていき、チームを強化してカップ戦での勝利を狙う。試合後には選手カードが1枚排出される。



 SIDE-AとB合同記事となる連載3回は、自分のチームや相手のチームの攻防に影響を与える“とある事象”について紹介しよう。それはチームの戦力(好不調の波)が、試合ごと、時間ごとにある程度リアルタイムに変化していくというものだ。

 この事象について、筆者の石井と北村は「WCCF EC 2004-2005」バージョン以前からすでに気づいていた。そして、どのようにその好不調の波が変動するのかも、基本的な仕組みは理解していた。だが過去のWCCFシリーズでは、それが決定的な要因となるほど大きなものではなかったため、あえて伏せていたという過去がある。ちなみに筆者らは、この事象がプレーヤーに曲解され、補正、当たりサテなどの都市伝説を生んだと考えている。

 しかし「WCCF IC 2006-2007」シーズンにおいては、これが無視できないほど大きく働くようになった。そこで今回は、この好不調の波を生み出す事象についてくわしく説明したいと思う。ただし以降に述べることは、あくまで石井と北村の個人的見解である。その虚実については、個々に判断してもらいたい。

 念のため、誤解を招かないように前置きしておくと、WCCFシリーズに「試合の勝敗をダイレクトに左右するようなフラグやシステム、それに類するプログラムは存在しない」というのが開発チームの公式見解で、筆者らもそれを支持している。今回の記事は、AIプログラムの推論機能が諸条件で組み合わさることにより生まれた“ある程度の法則性をともなった力のゆらぎ”を解説するものと解釈していただきたい。

※注 …… 本記事の内容は、あくまでも筆者自身がプレイして感じたことに基づいて記述しているものです。状況やカードなどさまざまな要因により、記事どおりにすべてが機能するわけではないことを、あらかじめお断りしておきます。


【SIDE-B】

■ 試合の大半を左右する「風向きシステム」とは?

 WCCFをプレイしていて、同じ相手に楽に勝ったり、あっさり大差で負けたりすることを不思議に思ったことはないだろうか。なぜこのようなことが起こるのか。それは本作において、自分のチームの調子が大幅に変動するからである。チームの能力が最大限に発揮される調子の良い試合もあるし、まったくどうしようもないパフォーマンスのときもある。その調子の波は、試合単位でも起こるし、試合の中でも秒単位で変動していく。ちなみにこの調子の波はチーム全体に反映されるものであり、原則的に選手個々の調子とは関係しない。

   チーム全体の好不調の波についてのシステムを、筆者らは「風向きシステム(これは便宜上“システム”と筆者らが勝手に名づけているだけで、システムとして実装されたものではないことを明記しておく)」と呼んでいる。自分のチームが有利なときは「追い風が吹いている」、自分のチームが不利なときは「向かい風が吹いている」と呼ぶとわかりやすいからである。

 ちなみに最高の追い風が吹いているときは、シュートボタンさえちゃんと押せばほぼ勝てるという状況。逆に向かい風、いわゆる逆風が吹いているときは、どんなに凄いチームでも得点するどころか、失点は免れないというレベルである。ではこのような変化は、ゲーム進行にどのような形で現れるのだろうか。その事象と、風向き具合の判定材料を紹介しよう。


■ 状況の有利不利を、フィールド上の事象で判定する

 風向きが追い風か向かい風かは、フィールド上のあらゆる要素が反映する。それだけ風向きというものは大きく左右するのだ。

 まずシュート関連から説明しよう。風向きが追い風のときはペナルティエリアの外からのシュートが決まりやすくなり、角度のないシュートもあっさり決まる。余裕でキャッチされるはずのシュートも、なぜかはじいてコーナーキックに持ち込めることが多い。逆に向かい風の場合はシュートが入りにくくなり、絶好の位置で打っても正面であっさりキャッチされる。つまりシュートの飛ぶ方向そのものが、風向きに左右されるのである。

 つぎはドリブル突破関連について説明する。追い風のときは、相手ディフェンスが存在しないかのように、するするとDFを突破していく。逆に向かい風のときは、自チームのFWが相手DFに近づくようにドリブルして取られてしまう。

 また向かい風のとき相手チームがボールを持っていると、次のような事象が見られることがある。その事象を、筆者は制空圏(見えない円)と呼んでいる。

 制空圏とはいったい何か。それは武術の達人が備えるという、何者も立ち入ることのできない「必殺の間合い」のようなもの。向かい風のときにボールを奪おうとすると、ボールを持った相手選手の周囲に見えない制空圏が発生し、その中に入れなくなってしまう。DFが相手選手に接触できず、その周りをクルクルと回ってしまうのだ。意識して見れば、きっとその「見えないはずの円」が見えてくることだろう。

 そのほかにも、パスやルーズボールなど、さまざまな事象で風向きは判定できる。追い風のときは、決定的なアーリークロスやスルーパスが一発で通る。向かい風のときは、跳ね返したボールはことごとく相手チームの選手の前に落ちる。せっかく奪い返したボールをゴール前で二度、三度と取り返されるなら、最高の向かい風が吹いていると判定できる。

 さて、この向かい風、追い風の変動は、試合中にリアルタイムに変化する場合と、試合単位で変化する場合がある。このふたつに分けて説明していこう。

シュートの精度そのものが、風向きに大きく左右される。逆風のときはなかなかゴールできないので、粘り強く泥臭く、波状攻撃でゴールを狙おう ボールを持った相手選手の周りを、円を描くように動くDFを見てしまったら逆風と判定できる。この制空圏は、複数DFで連続してチェックに行けば消える ゴール前で、奪ったボールをすぐに取り返されるのが逆風時の失点パターン。カウンター点灯やKP戦術で、すぐにロングボールを蹴らせる対処法がある



■ 長いスパンで見た風向き ~試合単位での有利、不利の流れ

 試合単位での風向きとは、その試合全体がどちらのチームに有利、不利になるかという判定である。つまり試合が始まる前から、風向きを想定できるということだ。

 試合単位での風向きの変動は、チームのキックオフ時の風向きと密接に関係している。追い風時の試合なら、キックオフの瞬間から追い風が吹いていると思ってよい。キックオフ後は、試合展開によって風向きは変化していく。

 試合単位での風向きは、おもに勝率と練習の休憩で判断される。つまり直近の試合で負け続けていて、練習を休んで試合をすれば風向きは追い風になりやすい。ただし通算勝率が非常に高く、レギュラーリーグ一部で優勝に近づいていた場合などは、多少負けても簡単に追い風とはならない。対人戦ならもちろん、相手チームの風向きも関係してくるので絶対とはいえない。

 逆に向かい風になるには、練習で選手を追い込みながら連勝を続ければよい。こうすればてきめんに向かい風となり、苦戦は免れないだろう。

 ちなみにこの事象を利用すれば、レギュラーリーグ一部での戦いを有利に進めることが可能だ。フレンドリーマッチでハードな練習をして試合に負け、練習を休んでレギュラーリーグに入る。そうすればレギュラーリーグ一部の戦い方がかなり楽になるはずだ。カップ戦では負けるわけにはいかないが、大事な試合の前には休息を取ることをお奨めする。

キックオフ時の風向きは、試合単位での風向きに影響される。五分五分でスターとするわけではないので、早めの風向き判定が重要になる 休むとすぐに逆風がおさまるとは限らない。しかし休んだ直後の2~3試合は、チームの戦力が確実にアップする フレンドリーマッチは獲得賞金にそれほど影響しないので、勝敗にこだわらないという考え方もある。無理に勝たないほうが、公式戦で有利になることも?



■ 試合の中での風向き変動 ~絶え間ない変動が接戦を演出する

 つぎは、試合中の風向きの変動について説明しよう。実際の試合において、この風向きは勝敗に直結するので侮れないポイントになる。

 もっとも大きく風向きを変動させる要因は、得点、失点である。風向きが互角のときに得点を取ると向かい風になり、失点すると追い風が吹く。得点をしたあと、すぐさま取り返されることが多いのはこれが理由だ。さらに点差がつくほど、負けているチームの追い風は強くなっていく。基本的に接戦になるように、風向き調整がおこなわれていると考えてよい(ただし試合単位での逆風が厳しい場合には、3点以上取られないと風向きが互角にならない場合もある)。

 これらのことを考えると、最初に得点したほうが絶対有利なように思える。しかしリードされた状態から追いつく得点は、チームの士気を高める効果がある。また時間が経過し、ハーフが終了に近づくにつれ風向きは少しずつ変化していく(向かい風だったチームも得点しやすくなる)。

 ポイントとなるのは、前後半40分前後の時間帯での得点だ。この時間帯に得点すれば、直後の相手有利な時間帯をやりすごすことができる。現実のサッカー同様に、最後の時間帯での得点は非常に重要な意味を持つのである。

得点をした直後に、相手に猛攻をかけられるのはリアルのサッカーと同様だ。この流れを理解し、KP戦術などで対処したい 得点が引き離されるほど、追い風は強くなる。しかしあまり離されると、追いつく時間が足りない。無駄な失点はやはり避けたいところだ 勝負を分けるのは、40分前後の得点。逆に言えば、始まったばかりの失点でさほど落ち込むことはないということだ



■ 逆風の打開策 ~KP戦術を風向きによって切り替える

 試合中の風向きが得点により変わるなら、原理がわかったところでプレーヤーにできることは何もないように思えるかもしれない。プレーヤーは風向きによって支配され、遊ばされているだけなのだろうか。

 確かに風向きに逆らって試合を進めるのは難しい。しかしそこであきらめていてはゲーム負け組決定。そんなことでは何も打開できないし、ゲームを楽しむことはできない。しかし考えていけば、打てる手があるのだ。

 基本的な打開策は、攻撃、守備のKP戦術切り替えである。現バージョンはフォーメーション以上に、KP戦術の違いがゲームスタイルを決める。KP戦術を使って、風向きに対応したチームスタイルを選んでいくとよい。

 具体的には、風向きが互角か有利なときは攻撃的なKP戦術を選ぶ。また得点した直後など、あきらかに逆風が吹いているときは守備のKP戦術のまま時間を稼ぐ。こうして風向きを考えながらリアルタイムにKP戦術を切り替えていこう。もちろん、最大の逆風が吹いているときは守備のKP戦術を使ったからといって、簡単に守れるものではない。2回、3回と波状攻撃をかけられ、なすすべもなくゴールされることも多いかもしれない。それでも、風向きを考えずに漫然とプレイするより、はるかに勝率は上がることだろう。

 ちなみに筆者は、逆風のときのために「アンチコンビネーション」、「アンチファンタジスタ」、「バイタルエリアブロック」、「ペナルティエリアブロック」、「リトリート」などをGK、DFに仕込んである。これらの守備的なKP戦術は、逆風のときにプレーヤーの切り札となってくれるはずだ。

向かい風、追い風のときは思い切って攻撃的なKP戦術で戦おう。風向きの良いときに点を奪えないと勝率は上がらない 向かい風のときは、一発のスルーパスで失点しやすい。これを防ぐには、アンチコンビネーション、アンチファンタジスタが役立つ



■ あらゆる要素に絡む「風向きシステム」

 筆者らがこの時期に「風向きシステム」について紹介した真意は、今後の攻略がすべてこの「風向きシステム」を抜きには語れないからである(編注:合同記事はSIDE-B:第2回前にいただいておりましたが、回数的に収まりが悪いため「ファンタジーア」攻略記事を先に掲載いたしました)。

 どんな優秀な戦法でも、風向きが逆風なら成功しない。また強い追い風のときだけドリブルでごぼう抜きしたり、ゴールに直結するクロス、スルーパスが出せてもそれは意味がない。まったくもって「壊れKP戦術」などではないのだ。優れた戦術は、トータルで見てチームに役立つ戦術であり、また強いチームとはトータル勝率が高いチームといえるだろう。決して目先にこだわってはいけない。全体を見て判断していこう。

 逆に言えば、勝率の高いチームと戦ったからといって、必ずしも絶対に勝てないとは限らない。対人戦なら、相手チームが逆風になっている可能性もある。そうなれば十分に勝つチャンスは出てくるはずだ


■ 風向きに逆らって勝つことこそ醍醐味

 今回は今後の攻略でも各所で引用されるであろう、「風向きシステム」について紹介した。サッカーとは、リアルの世界でも思わぬ結果を起こすもの。WCCFの「風向きシステム」は、そんなサッカーの流動性、混沌性を表現しているものかもしれない。

 だが筆者らはこの「風向きシステム」を、勝敗の言い訳に使ってもらいたくはない。確かに風向きの違いは、容易に埋めがたい戦力差を双方のチームに及ぼす。しかしそれが言い訳になってしまっては、補正や当たりサテといった都市伝説と、結局は変わらないと考える。

 むしろ風向きを正確に判断し、それを逆利用するくらいに、プレーヤーにしたたかになってもらいたいと思うものである。



【SIDE-A】

■ SIDE-A的“補足”コラム

 今回の記事が合同形式なのは、石井氏と筆者で大筋で見解が一致しているからだ。基本部分については石井氏にまとめていただいたため、筆者は考察部分を補足するにとどめたい。また、繰り返しになるが「風向きシステム」は記事中で便宜上つけた名称であり、実際にプログラムとして存在するものではない(詳しくはSIDE-A末尾を参照)ことを、あらかじめお断りしておく。


■ 「WCCF 2001-2002」 ~シンプルゆえに顕在化しなかった“流れ”~

 セリエAを舞台にしたシリーズ初代「WCCF 2001-2002」の連載記事は、他に類を見ない独特のゲームモデルと魅力をお伝えすべく、石井氏と相談したうえで、まず最初に「チームの成長過程」をメインに取り上げることにした。

 BEと突出した能力を持つスペシャルカードを組み合わせた「キラクローズ」という、当時「どのゲーセンもこんなのばっかり」というステレオタイプのチームを対立軸に置くことで、スターターから立ち上げたチームの進展を少しずつ解説していくといった体裁をとらせていただいた。

 このとき筆者は、(ゲームにのめりこんでいたこともあるが)連載でキラクローズを担当する一方、プライベートで全チームのICカードを作成し、仕事が終わると同時にゲームセンターに直行していた。今考えても尋常ではないプレイ量で、ノーマルとスペシャルカードが揃うまでアッという間だったように記憶している。取材時のプレイで圧倒的な強さを発揮するキラクローズだが、現実のサッカーは最高の選手をそろえただけで勝てるようなものではない。元々アンチ巨人体質だったせいもあるが「選手の質だけが決定的要素なのか?」、「監督たるプレーヤーが意図した組織的な動きや戦術をゲームに反映させられないか?」、「選手それぞれの動きの違い、個性は?」、「コンバートは機能するか?」、「ゲームシステムに穴はないのか?」など、ゲーセンの片隅で色々なことを試していた。各チーム最低でも100試合以上。任期終了まで、体感レベルで納得いくまで徹底的にやる。こうすることで、どれだけ筆者が無能でも、キラクローズ的な遊び方しかやらない人よりは物事を正確に伝えられると考えたからだ。

 選手の能力パラメータが、ゲーム内にどのように反映されているか。もしかしたら、身長や体重などもきちんと反映させられているのかもしれない。全チーム以外にも、6つあるパラメータにそれぞれ特化させたチーム、能力評価の著しく低い選手だけで構成されたチームなど、色々な事柄を試していくうち、「WCCF 2002-2003」あたりから特定の条件下で“一時的なパワーバランスの底上げ”を感じるようになった。それが今回説明した“風向きシステム”だ。

 初代WCCFは、まさに「原型」といっていいほどシンプルで(ここは石井氏との間で今でも口論になるのだが)よほど酷い能力設定でもない限りは、放り込みさえ成功すれば大半が決まるクロスからのダイレクトシュートなど、色々な意味でシンプルな作りに“力のゆらぎ”を強く意識することはなかった。


■ 「WCCF 2002-2003」以降 ~ボリュームの肥大化と内容の多様化による“必然”~

 だが「WCCF 2002-2003」以降、選手カードが増えたこと、さらにはゲーム内容の多様化などが積み重なり、選手カード間のデジタルな能力ヒエラルキーが拡散し続けた。シリーズを重ねるごとに使用可能な選手カードが増えるため、頂点と底辺でバランスを取ることは難しくなる。ゆえに、試合を決定付ける要素が選手能力に偏ると、それは本当に一方的なものになり、さりとてスポイルしたなら「どんな選手を使っても大差ない」となってしまう。このあたり、開発チームは本当に難しい作業をこなし続けていると感心させられる。お世辞ぬきに、アーケードゲームでここまでやれる会社は、恐らくセガをおいて他にないだろう。

 「WCCF EC 2004-2005」で、本シリーズに登場するクラブは各リーグの上位選抜となる。これは能力パラメータの設定とゲームバランスを大きく破綻させないという意味で正統なアプローチだ。各リーグのレベル差をふまえても、ビッグクラブとプロビンチアのエレベータークラブほど地力が違うといったことは少なくなる。ただ、ビッグクラブには当然“傑出した能力を誇るエース”が存在するため「このまま続けていったら、恐らく高い能力を持った選手カードのインフレが起こるんだろうなぁ」とは感じていた。

 使用可能な選手カードの数が膨大になったこと、さらにはトップリーグの上位選抜。このバージョンから、バランス調整のボリュームゾーンが上にシフトしたことは想像に難くない。実際、このバージョンをプレイして最初に感じたのはそこだし、第1回記事の末尾にもそう書いた。一定レベル以上の能力がないと、まともに機能させることは難しい。前後半90分の試合を約7分(最新作は約5分)というダイジェストで表現するゲームシステム上、試合を決定付ける要素を“選手能力”に集中させると、プレイそのものがとても味気なくなる。我々が風向きシステムと呼ぶ“力のゆらぎ”は、こうした状況で試合の流れに“適度な振幅”を与えるため、開発チームがAIプログラムをブラッシュアップさせていく過程で自然にそうなっていったものと推察される。

 “力のゆらぎ”を物凄く簡単に説明すると「点の取り合い」を演出するものと考えるのが(乱暴だが)一番手っ取り早い。WCCFシリーズは選手の動きがすべてAIで制御されているため、後塵を拝した側の「個々の選手」が逆転を意識する推論ルールが積み重なり、それがひとまとまりとなって試合全体の流れに影響を与える。「WCCF 2002-2003」では選手カード間のデジタルな能力差を曖昧にする“緩衝材”としての役割も果たしていたようだが「WCCF EC 2004-2005」以降はバランス調整のボリュームゾーンからはずれた選手カードはその恩恵(?)にほとんどあずかれていない。当初筆者と石井氏は、レースゲームになぞらえ“ブースト”と表現していた。“風向き”と表現が変わったのは、これが試合単体ではなく「どうも単一の局面だけではなく、全体の流れにもそうしたフシがあるのでは?」と見解が一致しはじめた頃だ。

 過去シリーズも含めると選手カードの総数は相当な数になるが、それでも一通り揃い次第各チームのICを作成し、可能な限り早い段階で多くの選手カードの雑感を得るべくプレイを重ねる。揃わないうちは「ゲームバランスの目安になる選手カード」を中心に、各ICカードの任期終了まで全体や局面を含めた“印象”をまとめて整理する。「見るとやるでは大違い」ではないが、使われるだけでなく、使ってみることで実感がわくこともあるし、逆もまたしかり。点を取ったり取られたりという印象に残りがちな部分にとらわれることなく“客観性”を強く意識して、薄皮を1枚ずつ重ねるように“体験”を積み上げて全体像を形作っていく。ただ体験するだけでなく、その選手カードがどうやったら最大限の力を発揮するかといった試行錯誤も大切な工程だ。

 そうした積み重ねが、一定の状況下で生じる“法則性をともなった力のゆらぎ”を感じ取らせた。そして、水面下で静かに“うねり”を作っていたものが、最新バージョン「WCCF IC 2006-2007」で一気に表面化する。


■ 「WCCF IC 2006-2007」 ~KP戦術への不安を“風向き”で包み込む~

 別に意地悪や嫌味で指摘するのではないが、現在稼働している「WCCF IC 2006-2007」と、同社プライベートショーなどで公開された仕様には、若干の違いがある。一番大きいのはネットワーク対戦(非実装)だが、それ以外にも細かい変更点が多々ある。

 これらは、単純に開発が難航したことに起因する。当初の稼働予定が大幅にずれこみ今年6月になったのは周知の事実で、スケジュールのズレがさまざまな工程に影響をおよぼしたことは想像に難くない。そのなかには、当然「キープレイヤー戦術(KP戦術)」のバランス調整も含まれる。

 ネットワーク対戦が間に合わなくなった時点で、KP戦術はシリーズ最新作“最大の注目点”になる。当然「これやってりゃOK」といったKP戦術が存在したら、それだけでプレーヤーにそっぽを向かれかねない。新カードだけ延々と掘り続けてくれるのはカード目当ての転売屋くらいで、それにしてもゲーム本編がしっかりできていなければシーンの崩壊は瞬時に訪れる。KP戦術ごとに明確な特色を出し、なおかつ大きな破綻を生じさせない。KP戦術のバリエーションは相当な数にのぼり、選手カードの能力バランスとも密接にからんでくる。しかも今回は、ソフトだけではなく筐体まで刷新される。開発チームは、相当頭を悩ませたはずだ。

 当初発表した仕様を完全に消化せず稼働させたということは、いわば“見切り発車”も同然。はたして、バランス調整に納得いくだけの工数が費やされただろうか? それは外側から見ている我々にはわからない。だが、それらを判断する大きなヒントに、KP戦術以上に決定的な場面を形作る“力のゆらぎ”がある。

 推察だが、恐らく開発チームは、見切り発車までにKP戦術の“不安”を解消できなかったのではないか。もしKP戦術のバランス調整に大きな問題がないと確信できていたなら、試合を決定付ける要素としてそれなりの比重が置かれていたはずだ。だが実際には、世間で人気のKP戦術「アーリークロス」でさえ、逆風のときは滅多に入らない。クロス一発が得点につながるため印象に残りやすく、ゆえに「コレ最強!」などと勘違いして延々と固執するプレーヤーが後を絶たないが、実際シュートに持ち込んで得点できたシチュエーションを冷静にふりかえれば、どちらの影響が大きかったかは容易に判別がつくはずだ。

 裏を返せば、バランス調整次第で屈強なFWとアーリークロスで相手チームを一方的に粉砕できるゲームができあがった可能性もあったということ(ダイジェスト形式のサッカーゲームで単純な放り込みが常時一定以上の効果を発揮すると、それはもう洒落にならない)。目玉となるKP戦術の効果と、そのサジ加減。強すぎればプレーヤーの大半がそれに集中し、効果がなければ誰も使わない。ある程度KP戦術の効果を実感させながらゲームバランスを大きく破綻させないためには、どうすればいいか。

 もっともシンプルで効果的な回答が、恐らく“力のゆらぎ”で囲いを作ることだったのではないか。稼働後、KP戦術に多少のバランス難があったとしても“風向き”のほうが影響が大きいよう設定しておけば、KP戦術によるゲームバランスの崩壊という最悪の状況は避けられる。風向きはどちらか一方を常に有利にするものではなく、その時々の状況によって振り子のように揺れ動く。ある意味「サッカーの不条理」をうまく表現しているともいえる。


■ AIが生み出す“力のゆらぎ”~試合時間の短縮が裏目に~

 だが、幸か不幸か。今作は練習などのチームマネージメントにも比重を置いたため、試合時間が従来の約7分から約5分程度に短縮されたことが“力のゆらぎ”から生じるさまざまな事象を乱暴なものにしてしまった。追い風からのアーリークロスやキックオフから単独突破でゴール陥落など“一方的で強引”としかいいようがない事象の数々。

 トータルのプレイ時間は変えられない以上、チームマネージメント時間が増えれば試合時間が減るのは必然。これまでは自然に見えていた(悪くいえばごまかしがきいていた)ものが一転、約5分という枠に強引に押し込まれたことで、突飛な展開がより印象に残りやすいものになってしまった。さらに厳しいのは、AIプログラムの全面刷新でCPU戦の難易度が上昇したことだ。良くも悪くも、本シリーズの顧客層は「勝てば何でもいい」というタイプが圧倒的多数を占める。前作まで気持ちよく勝たせてくれたCPUチームの反撃に、一様に面食らったであろう彼らの希望は“歯ごたえのあるCPUチーム”などではないだろう。

 念のため。力のゆらぎと選手カードの能力差について触れておくと、対人戦に限っていえば能力ヒエラルキーを無効にするほどの影響は感じられない。プロビンチア級の編成で延々とプレイして感じるのは「WCCF EC 2005-2006」と同等以上の圧力の違い。むしろ、リードしたところで“逆風”によりこれまで以上にあっさりと守備網が崩壊する光景は、虚しさを倍増させている感すらある。約5分に短縮された試合時間が攻防の要点をマッチアップに集約させ、選手カードの能力差がより際立つ結果となったのもあっさり感を助長している。守備のKP戦術(それも、相手チームに対して効果的なものが存在していた場合のみ)を駆使して、やっと以前のシリーズ程度に計算が成り立つといった程度で、バランス調整のボリュームゾーンを外れた選手カードとトップクラスの能力差は“過去シリーズ以上にシビア”というのが筆者の偽らざる実感だ。

 最後にフォローするわけではないが、前述のとおり筆者らは開発チームの公式見解を支持している。「勝ち負けなんて最初から決まってる」、「○×をすると勝ちフラグが立つ」、「当たりサテ」、果ては「当たりIC」などと公言する人がいまだに後を絶たないなか、あえて“力のゆらぎ”について説明したのは「受身に回ってただ漠然とプレイするのではなく、すべてを前向きに咀嚼してWCCFシリーズ最新作を楽しんで欲しい」という願いからだ。

 補正やフラグ云々に対する開発チームの本音は「そんなので済むなら、どんなに楽か」といったところだろう。刻々と変化する状況やプレーヤーの入力操作から推論を導きだし、次々と反映させていくAIプログラムは、そんなに簡単な代物ではない。ただ、AIプログラムに“クセ”があった場合……たとえ制作者側が意図していなくても、本来ファジイであるべき事柄に対して法則性を持たせてしまう可能性は多分にある。筆者と石井氏は、それについて一定以上の体験データとある程度の推論が成り立ったがゆえ、記事にまとめさせていただいたわけだ。

 風向きの利用は、悪く言えば「プログラマが意図しない遊び方」なのかもしれない。だが、AIプログラムの推論機能を逆手にとって、プレーヤー側から能動的に働きかけることで“試合の流れ=力のゆらぎ”を見切ったかのような采配(操作)ができるというのは、サッカーゲームの楽しみ方としては間違っていないと(少なくとも筆者は)思う。もし同意してくださる読者諸氏がおられたら、ぜひ“力のゆらぎ”を意識しつつプレイしていただきたい。

※次回【SIDE-A:第4回】掲載は11月7日の予定です。


(C)SEGA
The game is made by Sega in association with Panini.

□セガのホームページ
http://sega.jp/
□「WORLD CLUB Champion Football」のページ
http://www.wccf.jp/
□関連情報
【10月17日】ピックアップ アーケード「WCCF IC 2006-2007」【SIDE-B 第2回】
http://watch.impress.co.jp/docs/20081017/wccf.htm
【10月3日】ピックアップ アーケード「WCCF IC 2006-2007」【SIDE-A 第2回】
http://watch.impress.co.jp/docs/20081003/wccf.htm
【9月19日】ピックアップ アーケード「WCCF IC 2006-2007【SIDE-B 第1回】
http://watch.impress.co.jp/docs/20080905/wccf.htm
【9月12日】ピックアップ アーケード「WCCF IC 2006-2007【SIDE-A 第1回】
http://watch.impress.co.jp/docs/20080905/wccf.htm
【6月19日】セガ、シリーズ初のフルモデルチェンジ版。AC「WCCF IC 2006-2007」稼動開始
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080619/wccf.htm

(2008年10月24日)

[Reported by 石井ぜんじ/北村孝和]



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