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会場:昭和女子大学
そうした切り口から今回注目したいのが、最終日の午前中に行なわれたセッション「ネオロマンスシリーズ ~女性向け恋愛ゲームとメディアミックス展開~」である。もともと日本固有のゲームジャンルである「恋愛シミュレーションゲーム」の中でも、さらにニッチな「女性向け」の分野。その本舗的な存在が、ヒストリカルゲーム、オンラインゲーム大手のコーエーである。女性向け恋愛ゲームを特に「ネオロマンス」シリーズと呼んで、4つのラインナップを同時並行して走らせており、コーエーの知られざるもうひとつの顔となっている。 この「ネオロマ」シリーズは、詳しくは後述するが、既存のゲームとはまったくと言っていいほどビジネススキームが異なるため、我々ゲームメディアの人間でも縁の薄い存在であるというだけでなく、コーエー社内でもビジネスを理解している人間は少数に留まるという、あたかも“コーエーの忍者部隊”のような存在なのだ。 今回のCEDECでは、コーエーの秘密兵器ともいえる「ネオロマ」シリーズが秘密のヴェールを脱いだ。会場には、女性開発者が過半数近くを占める中、会場後部ではコーエー代表取締役社長の松原健二氏や、同シリーズを統括するソフトウェア第3部部長の藤重和博氏らが見守る中、実に驚くべき事実が次々に披露された。
■ 「ネオロマ」シリーズとは何か? 「アンジェリーク」は女性向け「信長の野望」だった!?
個人的に「ネオロマ」シリーズで知りたかった点は、大別して3つある。まず1点目は、「ネオロマ」シリーズとは何を指しているのか、2点目は誰が遊んでいるのか、3点目は同シリーズの成功の原動力となっているメディアミックス展開はゲーム本編にどのような相互作用をもたらしているのか、である。今回のセッションではまさにこの3点が綺麗に語られた。 松涛氏は落ち着いた口調で、まず「ネオロマ」シリーズとは何かという基本的な部分を、各ラインナップの説明を交えながら解説していった。 「ネオロマ」シリーズとは、コーエーが制作している女性向けゲームタイトル全般を指すブランドネームであり、定義づけとしては「女性がワクワクドキドキできて、夢があるもの」(松涛氏)となる。具体的なラインナップとしては「アンジェリーク」シリーズ、「ネオアンジェリーク」シリーズ、「遙かなる時空の中で」シリーズ、「黄金のコルダ」シリーズの4フランチャイズで構成されている。 それぞれゲームジャンルから、舞台/時代設定、登場人物などは異なるものの、プレーヤーはその世界で重要なロールを担うヒロインであり、周囲を取り巻く男性たちとの恋愛が楽しめるという共通項があり、各タイトルの併遊率は実に7割を超えるという。つまり、何か1タイトルだけを楽しむという遊び方ではなく、まさに「ネオロマ」シリーズを楽しむという遊び方が一般的になっているというわけだ。 各タイトルの紹介の中で、ひとつ意外な発見だったのは、「ネオロマ」シリーズは、最初から恋愛ゲームを意図したものでなく、実は女性向けの「信長の野望」というアプローチからプロジェクトがスタートしていたことだ。1994年に誕生した初代「ネオロマ」作品である「アンジェリーク」は、松涛氏いわく、「『信長の野望』の“開墾”や“治水”をジュリアス、シリアスといった人の名前に置き換えたもの」と説明。14年目にして初めて明かされる衝撃的なエピソードではないだろうか。
エンディングも、恋愛ゲームの定番である“恋愛エンディング”ではなく、“女王エンディング”が存在した。ところが発売当時話題になったのは、9人の守護聖と恋に落ちる恋愛エンディングだったという。それ以降、「アンジェリーク」シリーズと、その後にスタートする「ネオロマ」シリーズは、明確に恋愛アドベンチャーゲーム/シミュレーションゲームとして開発されていくことになる。
■ 安定成長の要因は、キャラクタの一新と継承の両アプローチの採用
アンケートは、GAMECITYで行なわれたもので、大多数が女性となっている。まず、ユーザーの年齢分布は、14、5歳ぐらいを基点に急激に山が伸び始め、22、23歳を頂点に、50歳ぐらいまでのゆるやかなスロープができている。20代前半、30代前半、30代後半に3つの山があるのが特徴だ。 松涛氏はこの山について、30代後半は、「アンジェリーク」発売時(1994年)に20代前半だった層、30代前半は、同様に「遙かなる時空の中で」発売時(2000年)に20代前半だった層だとし、「新シリーズの投入時期のメインターゲット層が定着した」と解説した。 次に「ゲーム購入の決めては何か」というアンケートの結果が披露された。1位は予想通りキャラクタ。ストーリー、グラフィックス、ジャンルといった項目を突き放す過半数の支持を集めている。ちなみにこのキャラクタは、いわゆるキャラクタ性とはまったく別種のもので、“恋愛対象となる男性の魅力の高さ”というほどの意味になるだろうか。 松涛氏はこの理由について、多数の男性が主人公に想いを寄せる環境下で、主人公の行動によって恋愛対象の男性と親しくなり、意中の男性と結ばれることで「その男性に強い想い入れができる」という明快な三段論法で説明した。「なるほど」と唸らざるを得ない説明である。 キャラクタが第一というユーザーニーズは把握できた。それでは、この有用なデータをどうビジネスに活かすか? 選択肢は2つ。シリーズ新作に同じキャラクタを継承させるか、すべてのキャラクタを一新させるか。いずれもキャラクタを重視したが上の決断である。 会場でどちらが良いと思うか、挙手で即席のアンケートを採ったところ、結果は「すべてのキャラクタを一新させる」のほうが多いという結果となった。実際のアンケート結果は断然「同じキャラクタを継承させる」であり、「すべてのキャラクタを一新させる」とはほぼダブルスコアの差をつけていた。これは、意中の人がいるかいないかの違いと言っていいだろう。 おもしろかったのが、その後に出された結果である。アンケートでキャラクタ継承を希望するユーザーが多いことを受けて、実際にシリーズ新作でキャラクタを継承させた「アンジェリーク」は、シリーズを重ねるたびに出荷本数を落としていた。一方、新作のたびにキャラクタを一新した「遙かなる時空の中で」は、出荷本数を維持していた。 キャラクタを継承したから売り上げが落ちた、一新したから維持できたと結論付けるにはややデータ不足の印象が否めないが、松涛氏は、先ほどの年齢分布を再び示し、「キャラクタを一新することで、メインターゲットの20代前半の層を取り込むことができたことを強調した。逆に言うと、「アンジェリーク」シリーズは、ファンを大事にするあまり、大事なメインターゲットを取り切れておらず、結果として全体の売り上げは落ち込んでしまったことがわかる。メインをしっかり取ることが大事だと言うことがわかる貴重なデータだ。 なお、キャラクタを一新させた「遙か」シリーズにおいても、いきなりドラスティックに変えるのではなく、外見や髪色、性格、属性、声などを少しずつ変化させ、シリーズが進むにつれて振り幅を大きくしたという。 さて、キャラクタは一新させた方が、ビジネス的に有利な側面があることはデータで明らかになった。それでは、キャラクタ継承を望むコアなファンは切り捨てるのか? これに対し、松涛氏は、「派生新作」で対応すると回答した。 「派生新作」とは、コンピレーション、外伝など様々な呼称で呼ばれているが、ナンバリングとは外れた横への進化である。松涛氏が担当した「遙かなる時空の中で3」では「十六夜記(いざよいき)」、「運命の迷宮(うんめいのらびりんす)」2本の「派生新作」がリリースされている。 びっくりしたのは、その装着率だ。本編に対して、2本の派生新作の装着率は実に8割にも達している。いわゆる拡張キットの装着率は、本編に対して3割というのが目安となっていることを考えると、信じられないほど高い数字だ。「ネオロマ」シリーズがいかにユーザーの心を掴んでいるか、また、女性ユーザーの一種の激しさのようなものを実感させてくれるデータといえる。
■ メディアミックス展開はゲーム本編の購入意欲を高める効果あり
その全体像については、松涛氏は「担当していないのでわからない」と回答を避けたが、ゲーム本編より遙かに大きな規模でビジネスが旋回していることを伺わせる。 それでは「ネオロマ」シリーズの本丸は、メディアミックスになのかというと、「あくまでゲームが基点。メディアミックス展開を行なうことで、45~65%のユーザーのゲームの購入意欲が向上する」と報告した。個々の展開がビジネス的に成功しているかどうかは別として、ゲームへの波及効果という点ではあらゆる行為が有効に働くという見方ができるようだ。 気になる「ネオロマ」シリーズの累計出荷本数は、実数は伏せられたが、1994年の開始当初と比べて4倍に成長していることが報告された。恋愛シミュレーションゲームは、世代交代の問題があり、なかなかロングランになりにくいが、ブランドとしてしっかり根付かせ、かつ成長させているところは立派だ。 今後の課題としては、組織の肥大化に伴い、各フランチャイズが独自にメディアミックス展開を行なうようになり、展開にバラバラ感が出るようになったため、今後は、開発部門とメディア部門を横断的に見て、コンテンツ管理を行なう「IPプロデューサー」を置くことなどが明かされた。 講演終了後いくつか質問を重ねてみた。まず、今後のメインプラットフォームについては、「女性は保守的な人が多いので、選定には他のコーエータイトル以上に慎重になる必要がある」という回答だった。オンラインゲームの総本山である第3部への異動したことに関連して、オンラインへの展開については、「個人的にはプレイしているし、興味もあるが、事業としてはまだ何も決まっていない」ということだった。ゲーム業界にはまだまだ未知の領域が多いことを実感させられた収穫の多いセッションだった。
□CESAのホームページ (2008年9月11日) [Reported by 中村聖司]
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