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会場:昭和女子大学
CEDEC初日の9日は、コーエー代表取締役社長松原健二氏が、今年3月に就任したCESA副会長兼技術委員会委員長の立場から基調講演「CEDECの10年、これからの10年」を行なったほか、CEDEC10周年を記念して「CEDEC10周年記念パネル」なども開催された。本稿では、CEDECの概要と共に、取り急ぎ初日の模様をお伝えしたい。
■ 松原CESA技術委員長「CEDECを進化させるのは皆さんです」
会場は東京大学からふたたび昭和女子大学に戻った。経済産業省との共催体制、国際デジタルゲーム学会(DiGRA)の併催、コフェスタの一環という枠組みからも解かれ、昨年の誰がどのようにリーダーシップを取っているのかよくわからない、一種の“喧噪”から解放され、平穏を取り戻したといった印象だ。 今年は10周年という大きな節目と共に、大きな変革の年を迎えることになった。CEDECはこれまでCESA人材育成委員会にぶら下がる形で存在していたが、今回からはCEDECを今年3月に設立された技術委員会の公式イベントとして位置づけられた。委員長にはCESA副会長の松原健二氏(コーエー代表取締役社長)が就任し、委員会の下部組織として存在するCEDECアドバイザリーボードによって運営されることとなった。 CEDEC 2008は、松原新体制のもので実施される初のCEDECということになったが、その効果は早くも現われていた。大きな変化としては、やはりなんといっても日本を代表するゲームクリエイターである宮本茂氏(任天堂代表取締役専務 情報開発本部長)がCEDECに初参加し、3日目の基調講演を務めるところだ。 世界最大規模のゲームカンファレンスGDCでの宮本氏の熱狂的な人気ぶりを知る松原氏は、コーエーの社長になるずいぶん前から「日本で宮本さんに講演して欲しい」と熱っぽく語っていた。そこで今回、CEDECのトップとして、CEDECアドバイザリーボードの了解を取り付け、自ら説得のために京都に赴いたという。松原氏の行動力は、日本のゲーム産業界に大きな変革をもたらす可能性を期待させてくれる。 それから、Jamil Moledina(GDC Exective Director)やTim Sweeney(Epic Games創設者、Unreal Engine設計者)、Jason Spangler(EA BioWare)など、トップクラスの海外のクリエイター/識者をCEDECに招待し、日本の開発者に通訳付きで聴講できる環境を整えたことだ。松原氏は「優秀なCEDECアドバイザリーボードのおかげ」と謙遜するが、これもまた大きな変化だろう。 そしてゲーム開発技術を表彰する「CEDEC AWARDS」も今年からスタートさせた。同じくCESAが主導する「日本ゲーム大賞」とは、投票者がCEDEC受講者、つまり開発者が選ぶ賞となっているところが大きな違いとなっている。今年は1回目ということもあり、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズから、MTフレームワークまで、新旧の日本が世界に誇るゲームテクノロジーが集結している。発表および表彰は明日9月10日に行なわれる予定だ。 また、細かい変化としては、聴講するセッションを事前に選択せずに済むようになり、聴講したいセッションを自由にいくつでも見ることができるようになった。それから、一般会員の受講料が値下げされ(レギュラーパス5万円→4万円、デイリーパス2万円→1.5万円)、CESA非会員でもさらに参加しやすくなった。 ちなみに受講料については、値下げされる前の値段でも、GDCと比較すると半値以下の格段に安い値段に抑えられている。この背景には、もともと日本のゲーム産業界に、ゲーム開発者向けのカンファレンスに開発者を出席させるという文化が根付いていないためか、ここ数年、CEDEC本体の規模の拡大とは裏腹に、参加者数が伸び悩んでいるためだ。GDC開催中は街がゲームクリエイターまみれになるのとは対照的で、この点ではCEDECはまだまだ追いついていない。 CESAの戦略としては、まずは価格的なハードルを最小に抑えてCEDECの参加者数を増やし、その後、文化として根付いた段階で、徐々に値上げしながら、あらゆる要素をGDC水準まで引き上げていくという考え方なのだろう。現状では、受講料は安い反面、弁当もなく、昼食を取るためには会場の外に出なければならない。また、関東圏以外を拠点とするデベロッパーは増え続けているにも関わらず、ツアーガイドや宿泊の紹介もない。受講者のホスピタリティと、受講料頼りのビジネスモデルのバランスをどうするかという問題は、CEDECのここ数年の大きなジレンマとなっている。今後CEDECを10年継続させる上で、どのような決断を下していくのかが注目されるところである。 松原氏は、こうした疑問に対して、先手を打つように、基調講演で受講者に語りかけた「CEDECを進化させるのは皆さんです」。真意については「言葉通り。この一言を言いたかった。私は前座。後に続く素晴らしい講演者のセッションを聞いて、よく学んでいってほしい」と語ってくれた。 松原氏は、技術委員会の今後の課題として、「ゲーム開発技術ロードマップ」の作成、アカデミックとの連携による研究支援、最新ゲーム開発技術紹介の3つを上げた。具体的な活動スケジュールについては、CEDECアドバイザリーボードの各スタッフの多忙を理由に今後調整していく予定として即答を避けたが、何らかの形で定期的な情報のアウトプットを行なっていきたいとしている。 松原氏の基調講演は、CEDECを取り巻く環境とその変化の報告に終始し、内容的にはコーエーのコの字もでないような寂しい内容だったが、CESA技術委員会委員長として、開発者に対する今後10年を見据えた提言を行なったという点では、基調講演らしい基調講演だったと言えるかもしれない。 さて、明日10日はカプコン稲船敬二氏の基調講演、明後日11日には任天堂宮本茂氏の基調講演がそれぞれ予定されている。なお、宮本氏の基調講演はメディアの取材が禁止されているため、その内容をお伝えすることができないのが残念だが、GAME Watchではより多く、より濃密なCEDECレポートをお届けしていく予定なので、どうぞご期待いただきたい。
□CESAのホームページ (2008年9月9日) [Reported by 中村聖司]
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