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会場:大手町サンケイプラザ
本イベントは、ゲーム業界関係者の中でも特に開発の中心に関わる人々にフォーカスした専門的なセミナーで、一見、エンドユーザーには無関係なものにも見えるが、実際のところ、開発ツールやミドルウェアの善し悪しは消費者の手に届く製品クオリティに直結する重要なポイントだ。 ほぼすべてのゲーム開発は、開発期間とクオリティとのせめぎ合いである。ユーザーニーズが高度化・多様化し、よりクオリティの高いゲームが求められるなかで、効率的な開発ツールの存在は益々重要なものになっている。良質なツールやミドルウェアが存在すれば開発期間は短縮され、ゲーム内容を洗練する余地が大きくなり、結果としてエンドユーザーの手に素晴らしいゲームが届くという寸法である。
そんな前提にたち、ここでは、本セミナー「GTMF 2008」で紹介された中から、ゲーム開発期間を短縮し、ユーザーの利益に直結しそうなツールやミドルウェアをチョイスしてご紹介してみたい。
■ ゲームのローディング時間を効率的に短縮し、快適なゲーム環境を支援
これはDVD-ROMやBlu-rayといった光学メディアからデータを読み出す方式のゲーム機にはつきものの問題で、かつてのゲーム機と比べると容量は10倍にもなったのに、読み取り速度は4~5倍にしかなっていないため、と語るのは、映像・音声を専門とする国内のミドルウェア開発会社、株式会社CRIミドルウェアの押見正雄氏だ。 「データの圧縮」にフォーカスしたこのセッションでは、最新の主力プロダクトとして「ファイルマジック PRO」が紹介された。この製品は、ゲームデータのローディング時間を短縮するために必要なノウハウを一極集中的にまとめあげた開発ツールで、データ圧縮・解凍から実行時のデータ使用傾向分析、そしてROM上のデータ配置までの作業をエレガントに自動化するものである。 押見氏は、ゲームを構成する全データを見ると、動画や音声といったデータはもちろん圧縮状態で格納されているが、モデルデータやテクスチャなどは案外圧縮されずに格納されていることが多いと、10年以上ミドルウェア企業としてゲーム開発現場を見てきた立場から実情を紹介する。ゲームデータがなぜ圧縮されずに格納されているかというと、「圧縮してみないとサイズがわからないし、逆に大きくなることもある」、「展開するためにバッファが必要で、メモリを余分に使ってしまう」といった障害があるなどの事情によるようだ。 CRIが開発会社向けに提供してきた「ファイルマジック」(旧版)の機能はまさにそこで、ゲームデータを圧縮して格納したものを、プログラマが通常のファイルロードと同じ感覚で扱えるようにするものだ。展開するためのバッファは「自己エリア展開」と呼ばれる方法で余分なメモリを必要としないため、ゲーム機につきもののメモリレイアウト問題を意識せずに圧縮ファイルを扱える仕組みだ。 そして最新の「ファイルマジック PRO」では、さらに「ロード時間の短縮」にフォーカスした機能として、記録メディアのリード(読み取り)、シーク(走査)の特性に配慮したデータレイアウトを自動的に構築する。ゲームのあるステージで使われるデータを自動的に連続で並べて記録し、ロード時のシークタイムを最小化するというのが基本だ。
データ配置は、汎用OS用の「デフラグ」ツールのように、ゲームの実行時にデータロードの傾向を分析し、自動でレイアウトするため、開発時間の短縮に大きく寄与する。頻繁に使われるデータは記録メディア上の余り領域に複製しておき、1回のシークでまとめ読みができるようにする「デュプリケート」機能もついているという念の入れようである。 実際に展示されたグラフィカルなデモでは、ランダムに配置したデータと、「ファイルマジック PRO」を使ってレイアウトしたデータの読み取り速度で3倍の差がついていたため、その効果はかなりのものがあるようだ。また、圧縮も含めたこの技術は、光学メディアだけでなく、Wiiウェアのようなシリコンメディアにも効果的であるという。
製品機能を解説する押見氏が、「ゲームとの関係が多様化するにつれて、ユーザーがいちどにプレイする時間が短くなっています。5時間プレイする間に1分のロードなら無視できますが、10分プレイする間に1分のロードではやる気をなくしてしまいますよね」と表現していたのが印象的である。 プレイアビリティに直結するロード時間をいかに短くするか。いろいろな方法があるだろうが、一般にゲーム制作の最終工程で行なわれることの多いデータレイアウト作業を手動でやる限り、開発スケジュールが押していればおざなりにされてしまう可能性も高い。それを自動化してくれるツールがミドルウェア企業から広く提供されることは、結果的にユーザーの快適さにつながっていきそうだ。
■ プロトタイピングに大活躍する欧州生まれの統合ゲーム開発環境「Virtools」
良いゲームとは良いゲーム性を持つ作品という見方をすれば、ゲーム開発中に繰り返すトライアンドエラーはとても大事な工程だ。ゲームの本質を表現するルール、操作性、アクション、演出など、試作段階で広範囲に実際に試す(プロトタイピング)ことができれば、洗練されたゲーム仕様を最終製品に導入することができるからである。
このためプロトタイピングは効率よく進めたい。しかし、プロトタイプ版とゲームの最終製品版が本質的にひとつのプロジェクトである場合(よくある話だ)、ゲームが完成に近づくほどプロジェクトが大規模になり、変更をかけて別の仕様をテストすることが容易ならざる仕事になってくる。したがって、特定のゲーム要素だけを素早く構築して試すことのできる仕組みがあれば、この工程は大幅に改善されるはずだ。これがまさに「Virtools」の活躍する分野である。
この環境には「Havok」物理エンジンを統合しているため、物理処理ベースの環境を構築することもできる。基本的なオブジェクトの振る舞いは「ダイアグラムエディタ」のGUI上に配置する回路部品の形でライブラリが用意されているため、「入力方向に応じて車が走行する」といったありがちな挙動は1行のスクリプトも書かず、「ビヘイビア(振る舞い)」パーツをマウスで配置していくだけで実現可能だ。
またオブジェクト間の相互作用も定義することができ、「ゲームの特定のシーン」を素早く再現する上で有用な機能が充実している。特殊な動きが必要なら専用スクリプトで多少のコーディングが必要になるが、プログラマ以外でも扱いやすく、学習が容易なものとされている。まさにプロトタイピングにぴったりのツールと言えよう。
「Virtools」は基本的に「非プログラマ」による使用を前提としたツールであるだけに、ゲームデザイナー御用達の道具として試作用に使われることが多いようだ。このため、三徳商事の佐々木良彦氏による解説は主にプロトタイピング用途の紹介が中心となったが、もちろん、このツールを使って最終的な製品を構築することも可能である。大規模開発には必要となるモジュール化による分散開発のサポートも充実しており、実例としてUBISoftやJoWoodといった有名スタジオが最終製品版の作成に「Virtools」を用いた例もある。 プロトタイピング用途としては国内メーカーも含め多くの採用実績がすでにあり、現状では広く知られてはいないものの、その存在感はなかなかのものがあるようだ。このプレゼンテーションでは、よいゲームを実現する上でのプロトタイピングの重要性を重ねて強調していたし、まさにその通りだと思う。「Virtools」は、そんなゲーム開発の現実に即した開発ツールである。
■ 国内発のグラフィックスエンジン、シリコンスタジオ「DAIKOKU」、「YEBISU」
その中で今回、多くの時間を使って紹介されたのが、シリコンスタジオ内製の、つまり国産のグラフィックスエンジンである、「DAIKOKU」と「YEBIS」だ。 まず、「DAIKOKU」はシェーダー世代のモデル描画を効率的におこなうための「高機能固定パイプライン」である。「固定」というのが最大の特徴で、本来柔軟性を持つ存在であるはずのシェーダープログラムから、その柔軟性を敢えて犠牲にし、そのかわりによく使うシェーダー機能を片っ端からパッケージ化したというのがコンセプトだ。 どういうことかというと、通常、シェーダーを使ったグラフィックプログラミングには専門のプログラマの手が必要になる。グラフィックデザイナーが映像表現上の要求をし、それをプログラマが実装して、ゲームに載せるという形だ。ところが実際のところ、一般に使われているシェーダー技法はノーマルマップや環境マップ、フレネル効果など、ありがちなものが多い。そこに注目して、よく使われるシェーディングはあらかじめビルトインしておき、グラフィックデザイナーだけである程度の作業をできるようにしてしまおうというのが「DAIKOKU」なのだ。
その結果、「なんでも作れる」というような柔軟性は犠牲になってしまっているが、「近年のシェーダーのフィーチャーをほぼ網羅」するほど表現技法を片っ端から部品として用意しているため、よほど特殊な表現がしたいのでないかぎり、障害にはならない。それよりも、ゲーム開発者がレンダリングパイプラインを即座に構成でき、極めて負荷の低い開発が可能というのがウリになるようだ。
考え方としては「DAIKOKU」に似ており、膨大に実装されているエフェクトから必要な物を取捨選択して構成するという、こちらもお手軽に実装が可能なコンセプトをとる。各エフェクト技法はかなりスケーラブルな調整ができ、非HDR環境でも動作する疑似表現から、HDRバッファを使用する「ほんもののHDR」まで、詳細な知識なく、「簡単なパラメータ調整だけでも充分な効果」を得ることができる。 リアルタイムデモで見た映像は、画面上のバーやボタンを操作するたびに次々に映像が変化していった。そのクオリティも非常に高い。その「DAIKOKU」、「YEBIS」は別々に使うことも可能で、例えば「DAIKOKU」だけを使ってカスタマイズし、各デベロッパーのシーンエンジンに組み込むこともできる。実際にそのような形でゲームを開発しているスタジオもあるとのことだ。
というわけで、「DAIKOKU」と「YEBIS」は、無限の拡張性を誇る一般のグラフィックスエンジンとは、明らかに異なるマーケットゾーンを直撃するミドルウェアなのである。とにかく時間と労力の掛かるグラフィックスプログラミングに、必要充分な機能をなるべく簡単に使えるようパッケージ化したこの製品群は、1プロダクト単位で完結するパッケージソフトの開発に非常に向いていそうだ。
■ ニンテンドーDSの開発現場で大活躍する国産2Dオーサリングツール「SpriteStudio」
株式会社ウェブテクノロジからのプレゼンテーションで紹介された「SpriteStudio」は、そんな2Dベースのゲーム開発現場で重宝されているツールだという。このツールはいわゆるスプライトベースのアニメーション作成に特化したアプリケーションで、プログラマの手を借りずに、2Dスプライトを使ったアニメーションからシーンの演出まで、軽快な操作性で実現するものだ。
井出氏が2Dグラフィックツールに求めていたのは、アニメーション制御を手軽に行なう方法だったという。1枚1枚の絵を作り出すために必要なツールについては優秀なアプリケーションが多数あり非常に恵まれた状況にあるが、一方で、複数の絵を構成しアニメーションさせたり、ひとつの演出シーンを作り出す作業にはどうしてもプログラマの出動が必要となってきたため、なかなか効率のよい開発ができなかったのだそうだ。 そこで「SpriteStudio」である。このツールは、いわば2Dスプライトにおける「Adobe AfterEffect」のようなもの。画像を編集する機能ではなく、画像の一部を切り抜いてシーンに配置したり、画像を切り替えてアニメーションさせる。また、タイムライン上にキーフレームを設置して、キーフレーム間で位置や角度、大きさなどを変えてアニメーションさせるための機能に特化したものだ。 井出氏が実演を行なったのは「ビックリマン大辞典」での、カードコレクションを次々に見せていくシーンだ。このシーンでは複数のカードが次々にスクロールしていき、周辺の装飾(『第1弾!』などの書き文字)がズームしてアニメーションする。こういった挙動をいちいちプログラマが作るのは少々骨だし、できたものを変更しにくいが、「SpriteStudio」を使えばタイムライン上にキーフレームを打ってマウスで状態を編集するだけで、なめらかなアニメーションができてしまう。2Dシーン作成向きの相当強力なツールなのである。
井出氏は、この機能のおかげで、製品の開発が非常にスムーズに進んだと正直に告白した。プログラマの手を煩わせずにコンテンツを作り出せていけるので、2重の意味で効率的に作業を進めることができるようである。また、DSでは2Dスプライトを使った演出が主流といえるほど多方面で使われているため、「SpriteStudio」を他のプロダクトでも使いたいという要望は強く、新バージョン「SpriteStudio Ver.2」への期待も高いようだ。 ゲーム開発では、個々の作業効率が向上することによって、結果的にコンテンツ全体のクオリティが上がるということが往々にしてある。基本的な開発がスケジュールどおりに進めば、十分な時間をクオリティの洗練に振り向けられるためだ。
今回のフォーラム「GTMF 2008」で公開された中だけでも、3D開発においては前述の「Virtools」がプロトタイピング用途としてあり、2D開発においては最後に紹介した「SpriteStudio」がありと、適材適所で優れたツールが存在することが、面白いゲームが生まれるインフラとなるわけである。一般ユーザーの読者の皆さんも、いつも触れているゲームを「作る側」の視点で眺めてみてはいかがだろうか。プレイするだけとは違った意味での面白さが見えるかもしれない。
□Game Tools & Middleware Forum 2008のホームページ (2008年6月5日) [Reported by 佐藤カフジ]
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