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6月13日開催予定(福岡) 6月17日開催予定(大阪)
会場:大手町サンケイプラザ(東京会場)
「GTMF」は、ゲーム産業関連の協会や団体、プラットフォーマーが主催単位ではなく、ゲーム作りの土台となるツールやミドルウェアを開発・販売するミドルウェアメーカー5社が主体となって開催するゲーム開発者向けのセミナー。プロが主体となって実施するセミナーだけに、中身も完全にプロフェッショナル向けで、極めて専門的で、密度の濃い内容が提示される。 自薦他薦の公募によって決定されるGDCやCEDECと比較すると、メーカー主催のイベントらしくメーカーの新製品あるいは既存製品の新機能の紹介に力点が置かれているのが最大の特徴だが、国内のゲーム制作シーンになじみの深い大手ミドルウェアメーカーが名を連ねているだけでなく、ソニー・コンピュータエンタテインメントやマイクロソフトといったプラットフォーマーも協賛しており、セッションの充実度は高い。 その人気を裏付けるかのように「GTMF」は年々規模を拡大し、入場者数も毎年増え続けている。ゲーム開発者向けのセミナーとしては、開発者の間ですっかり定着した印象を受ける。本稿では取り急ぎ、セミナー全体の模様と、高い注目を集めたプラットフォーマーのセッションを中心にお伝えしていきたい。個々のセッションについては別途お伝えしていくつもりだ。
■ PS3にソニーのスマイルシャッターを採用。ニーズとシーズから見たソニーのボトムアップ的取り組み
セッション講師を務めたSCEIソフトウェアプラットフォーム開発担当シニアバイスプレジデントの豊禎治氏は、「ニーズとシーズ」という表現で、SCEIのPS3を中核としたこれまでとこれからの取り組みを紹介した。 ニーズは、端的にユーザーニーズと言い換えられる。新しい体験や美しいグラフィックス、体験の共有、開発コストの軽減などが常に新しいゲームには求められている。これに対してシーズは、“今そこにある技術”をどうゲームビジネスに役立てる、ユーザーの潜在的なニーズを掘り起こせるかという、メーカー側の都合の話になる。ニーズとシーズはレイヤーの違う話であり、もともとかみ合わない性質があるが、両者のズレが大きいとビジネスとして失敗する。メーカーには両者をすりあわせる努力が必要とされるわけだ。 豊氏は、シーズのサンプルとして、HD化、大容量化、ユーザーインターフェイス、プロシージャル、ネットによる共有を挙げた。HD化、大容量化は、言うまでもなくPS3の大きな強みであり、ユーザーインターフェイスについては、ニンテンドーDSのタッチパネルやWiiのWiiリモコンについて触れながら、「SCEにはPlaystation Eyeがあり、カメラは究極のインターフェイスだと思っている」と自画自賛した。 Playstation Eyeを用いたPS2向けのゲームソフト「EYETOY」シリーズは、日本では苦戦したが、SCEでは今後さらに一歩進化を進め、ソニーのサイバーショットシリーズを中心に搭載されている顔認識技術「スマイルシャッター」をPS3に採用しているという。もともとはソニーのエンターテインメントロボット「AIBO」が飼い主を認識するために開発された技術だが、Cell駆動によってその検知スピードを高速化させ、PS3内のフォトアプリケーションなどで実装しているという。 さらに、PLAYSTATION EYEのヘッドトラッキング技術を、ゲームパッドの操作にプラスオンして、追加インターフェイスのひとつとして、幅広いゲームに対応させていくことも検討しているという。PCゲームの分野では、NaturalPointの「TrackIR」などで、すでに実用化されているが、PS3でも、ドライビング中に顔を左に向けると、左側の車窓が眺められる時代が来るのかもしれない。 4つ目の「プロシージャル」は、ゲーム内の各種アセットや無数のディテールの動きなどを、自動生成しようという試みだ。欧米では、ハードウェアレベル、ソフトウェアレベルの両側面から、数年前から本格的に研究開発が進められている分野だが、SCEグループもプロシージャルによるコンテンツ自動生成の分野に本格的に乗り出すことになる。 この分野へ参入を決めた技術的な裏付けとなっているのが、今年のGDCで発表されたSCEEが開発しているゲームエンジン「Phyre Engine」と、SCEEとSCEIが共同開発している物理シミュレーションエンジン「Physics Effects」の存在だ。 いずれもCellへの最適化が必須とされるプレイステーション 3の開発環境において、中でも対応が難しいとされるSPU(Synergistic Processor Unit)への最適化を謳っている。これまでは、Cellへの対応そのものがPS3参入の一種のハードルとなっていたわけだが、そのハードルを一気に下げる効果が期待できるだけでなく、現場レベルでのCellへの最適化のプロセスを省けるため、結果的に開発費を抑える効果が期待できる。その上でさらに、SCEが開発を進めたプロシージャル技術を活用して、よりディテールにこだわったゲーム開発が容易になるというわけだ。 「Phyre Engine」は非常に奥の深い戦略的なゲームエンジンとなっており、PS3のライセンシーなら、自由に採用、改良することができる。また、すべてソースコードの形で提供され、豊富なサンプルプログラムと、実動するゲームテンプレートも付属する。さらに、GDCでも話題になったが、PC版の開発も可能となっている。 「PC上でプロトタイプを走らせたいというメーカーの要望に応えただけ」というが、その最終的な目的は明快だ。PC版が作れるということは、PCゲームと非常に親和性が高いXbox 360のゲームも作れるということになる。現時点ではリーガルの部分で、「Phyre Engine」によるXbox 360タイトルの開発は許容していないというが、SCEの狙いは、ゲーム開発シーンにおけるSCEテクノロジーの浸透を進め、サードパーティーのマルチプラットフォーム戦略の中心にPS3があるという風景だ。「Phyre Engine」の日本での導入はまさにこれからとのことだが、数年後、ゲーム開発シーンに「Phyre Engine」がどのような位置づけにあるのか、非常に楽しみだ。
最後の「ネットによる共有」は、5月15日に「まいにちいっしょ」に導入された、「録画 & YouTubeアップロード機能」のことを指している。エンドユーザーによる動画アップロードは、コンテンツの著作権の解釈が未解決だが、豊氏は、動画コミュニティという新しい遊び方の提供であり、口コミ的なプロモーションが期待できると、極めてポジティブな見解を示した。もちろん、今後、SCEのタイトルでYouTubeアップロード機能を搭載するという話ではないが、プラットフォーマー自らが積極的に、ゲーム動画を“動画コンテンツコミュニティ”と捉え、その普及を積極推進する姿勢に、時代の変化を感じさせてくれた。
■ マイクロソフトは「XNA Game Studio 3.0」を発表。「ZUNE」対応は何を意味しているのか?
講師を務めたマイクロソフト ホーム&エンターテイメント事業本部XNAグループXNAコミュニティリードプログラムマネージャの徳留和人氏は、それらを踏まえた上で、今年のGDCのMicrosoftの基調講演でアナウンスされたXNAの「ZUNE」への対応を、エンドユーザーレベルまで落とし込んだXNA Game Studio 3.0を発表した。 XNA Game Studioは、エンドユーザーに対してWindowsとXbox 360の開発環境を提供するというゲーム史上画期的なサービスで、在野のゲームクリエイターのほか、ゲームクリエイターを目指す学生など、特にアカデミックの分野で幅広く支持されている。 1.0では、ベーシックな開発環境を提供し、2007年末にリリースされた2.0では、オンラインゲームに必要なライブラリが提供された。今回発表された3.0のキーフィーチャーは、Visual Studio 2008のサポートと、Microsoftのポータブルメディアプレーヤーの「ZUNE」への対応だ。現在α版が公開されており、夏頃にβ版を予定。正式版は“年の瀬”頃になるという。また、XNA Game Studioは、今後も年に1回のペースで、アップデートを続けていく方針であることも明らかにされた。 さて、肝心の「ZUNE」は日本では未発売で、現時点では今後の発売予定も立っていない。しかし、徳留氏は、「ZUNE」には現在1.0と2.0があり、その両方をXNA Game Studio 3.0でサポートすることや、表示解像度や使用可能なメモリ量などを紹介した。その後、XNA Game Studio 3.0のデモンストレーションとして「ZUNE」の実機デモを披露し、ファミリーコンピュータレベルの2Dエンターテインメントを「ZUNE」上で表現できることを実証した。 おそらく来場者のほとんど全員がクエスチョンマークを頭に想い浮かべたはずだ。そもそもXNA Game Studio自体がエンドユーザー向けのソリューションであり、なおかつその新要素が、日本未発売の携帯型ハードウェアのサポートであり、PCやXbox 360との繋ぎ込みもなく、あくまで「ZUNE」単体の対応となれば、その情報に価値を見いだすのは至難だからだ。 徳留氏は、会場内の空気を敏感に読み取り、苦笑いしながら「マイクロソフトは、Windowsという名の下のサービスを、できる限りXNAでカバーしていく努力を続けていく」と謎かけを行なった。結局、セッション中は、その答えは明示されなかったのだが、徳留氏が言わんとするマイクロソフトの戦略は、「『ZUNE』の次はWindows Mobileなどの他のWindowsファミリーにもXNAを対応させていくので、.net Frameworkの開発環境の整備は無駄になりませんよ」ということだろう。 トップダウンの決定事項をワールドワイドで粛々と進めていくマイクロソフトの戦略は、果たしてゲームビジネスに合っているのか、そもそも日本市場に合っているのかという疑問を抱かざるを得なかったが、ソニーグループのシーズを活かしてボトムアップ的な発想で攻めるSCEと、あくまでグループの一事業としてトップダウンで戦略を決めるマイクロソフトの対比は、極めてユニークに映った。今年はどちらに軍配が上がるのか、注視したい。
□「Game Tools & Middleware Forum 2008」のページ (2008年6月4日) [Reported by 中村聖司]
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