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会場:国立新美術館
入場料:無料
「エンターテインメント部門受賞者シンポジウム-1」は、エンターテインメント部門主査を務める水口哲也氏を司会に、大賞受賞作品「Wii Sports」の太田敬三氏、優秀賞「MONSTER HUNTER PORTABLE 2nd」の辻本良三氏、優秀賞「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」の小島秀夫氏が出席。会場には一般の人も詰め掛けており、4人の話に真摯に耳を傾けていた。
続いて、来場者に向けてあらためて「Wii Sports」の概要を説明。試作段階でコケシのようなキャラクタがテニスをプレイしている映像と、その発展の過程が紹介された。まずはコケシのように丸い頭部と胴体だけだったものが「これでは味気ないから」とリアルな手足を生やしたもの、プレーヤーの表情をテクスチャとして貼り付けたもの、全員がマリオなど既存の個性を持ったものなど、さまざまなキャラクタを当てはめていったという。だが、このとき「マリオのように個性を持つキャラクタまでいくと、自分ではなく“そのキャラクタが遊んでいる”」となり、それだと試作時に感じた“良い体感性”を損なうもので、そのためシンプルな形状に自分の顔デザインがついているくらいがいいとの結論に至り「似顔絵チャンネル」の開発が進むことになったと説明する。 「自分が遊んでいる感じを大切にし、ひとつのソフトだけにとどまる機能ではなく、Wiiシステムの機能として似顔絵チャンネルを独立させたことはとてもよかった。そして『Wii Sports』も、Wiiシステムのなかにあってこそ完成する。ちなみに、プレーヤーキャラクタだけでなく、試合に登場するCPUキャラクタもすべて似顔絵チャンネルで作られている」という太田氏。なお、昨年末に発売された『Wii Fit』のジョギングで、プレーヤーを先導するキャラクタにも「Wii Sports」のキャラクタが登場するという。気になる人は、改めて確認してみると面白いのではないだろうか。 ここで太田氏は、Wiiのインターフェイスが「ただ変えただけではない“遊んでいる人の気持ちに応える”もの」であることをあらためて説明。ゴルフ、テニス、ボーリングなどなど、弱く打ったら弱く、曲げたいと思ったら曲げられる、気持ちのよいリアクションがかえってくるなど“ハードとソフトがお互いに必要としている関係”にこそ、本作の重要なポイントが隠されているという。 Wiiプロジェクトの挑戦のひとつに「リビングに置かれたとき、そばを横切っている家族を引き込めないか」という課題があり、それに対してゲームソフトができることは「初めての人でも遊べる簡潔さは、ひとつの大きなポイント。そのため『Wii Sports』は、各スポーツの楽しさを最低限残しつつ、テニスならサービスの失敗がない、野球なら捕球動作がないなど、削れるところは削れるよう努力した」という。これらは制作期間の短縮にも寄与したといい「ルールの簡略化とは異なるが」と前置きしつつ、ゴルフの収録9コースが、ファミコンのゴルフゲームのレイアウトをベースにしたものであることを対比で説明。ただし簡単にすることばかり考えていたのではなく、プレイしていてスキルアップを感じられるよう、ボールにスピンをかけるなどちょっと難しいテレビゲームならではの遊びもできるよう配慮したという。
「本作はスポーツを題材にしたひとつのソフトだが、実際にはWiiという大きなプロジェクトの一部。そこに我々がもっともこめた想いは、昔から任天堂のなかにある“ゲーム機のまわりにたくさんの笑顔を作りたい”ということ。今回の賞をいただけたことは『Wii Sports』よりも“Wiiプロジェクト”が認められたということに大きな手ごたえを感じている」という太田氏は、授賞式でも話された「流れにのれた」ことにあらためて言及。ソフトの開発チーム単体ではなく、ハード、WiiチャンネルのようなOSシステム、ソフトをプロモーションするチーム。「みんなで作りましたという奇麗事でなく、素直な想い。贈賞理由を見たときに、これは的確な評価をしていただけたなぁ。文化庁メディア芸術祭は、ちょっと違うぞ、と。ボクの心のなかにあったものを、本当にそのまま褒めていただけた。それが嬉しかった」という。
当初は据え置き機メインだったが、口コミだけでは「みんなでプレイしたら楽しい」というのが伝わりづらいことから「ポータブルシリーズ」に着眼。これにより「多人数の楽しさ」を体験するための敷居を下げることに成功。開発中、チェック時にひとつの部屋に集まるとき、すでにチェックを忘れるほど単純に遊んでしまっている状況で、それがうまく表現できた」といい、前述の口コミ効果についても「面白いと思ってくださった方々が、実際に画面を見せながらゲームの口コミを広げていただく環境になった。実物を見せながら説明することほど効果的なものはないというか。かなり多くの方にプレイしていただけるようになった」という。実際、筆者が請け負うレビュー記事の大半も、仕事抜きで「コレ凄く面白いから!」といったマニア特有の“押し売り気質”に等しい口コミの延長線上にあったりするので、これには相当な説得力がある。 受賞作の2ndは「携帯機だからこそ、しないといけない」シリーズ作品として、プレイ環境を強く意識。具体例としては、ゲーム中、村のなかを眺めながら歩いて目的地までいってもらいたいが、そこは携帯機である以上“時間の短縮”が必要とされるためショートカットを用意。通勤通学の途中に遊べるクエストも、達成感のサイクルを少し早く設定するなど、さまざまな配慮がなされているという。 シリーズとは直接関係ないと前置きしつつも、辻本氏には本作で「ゲーム自体を色々なところで遊ぶ。これを一般化させたい」という想いがあったという。本作についてのゲームイベントを多数開催したのもその一環で、街中でPSPを持ってプレイしている人を見かけるようになり、とても嬉しく感じているという。 主査で司会の水口氏も「本作はある意味、PSPの通信機能、画面のキレイさなどを押し上げる、牽引する良いソフトであったというのが評価基準の一番高いところ。普通、通信というと“離れた人たち同士”だが、これはどちらかというと隣のソファに座っている兄弟や友達同士でワイワイいいながら協力しつつ楽しさを感じる。今まであったようでない。『ポケモン』が築いてきた牙城を、少し新しい形で崩しにかかったといえると思う。新しい提案」と解説する。
開発チームの規模は、約50人程度。全員が一丸となり「同じ場所で集まってワイワイやる楽しさ」を共有しながら開発を進め、その感覚や思惑がエンドユーザーと一致したことが、本シリーズの成功につながっているといっても過言ではない。「『MONSTER HUNTER PORTABLE 2nd』は、これまで他の人と線でつないでいたものが、ADHOC通信機能で線がなくなった瞬間、新しい企画やインスピレーションが沸いて羽ばたいていくというか。今年の優秀賞を飾る、評価に値する1本」という水口氏のコメントは、決して大仰ではない。それは、本作を堪能しているユーザーが一番実感しておられるのではないだろうか。
MSX2やファミコンなどでリリースされ、長い歴史を持つシリーズ。PS3「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」では、ついにシリーズの完結を迎える。「ほんっとうに、完結するんですか?(笑)」という水口氏に「そうですね。『METAL GEAR SOLID サーガ』というのは完結する」と小島氏。このあたりはシリーズのファンとっては非常に気になる言い回しだろうが、いずれにせよ最新作が大きな“節目”もしくは“区切り”となることは間違いなさそうだ。 リリースとプラットフォームの変遷をプレゼン資料で説明していく小島氏。従来型のゲームが「登場する敵はすべて敵で、出現と同時に即やっつける」に対し、本シリーズは「敵が視聴覚で反応する」点が同時期の作品群と大きく異なる。ここで敵に発見されないよう接近し倒すという後々の「潜入=ステルスアクション」の基本が確立され、それにともない主人公スネークの潜入ポイント(小島氏のいう“かくれんぼ”)も、かれこれ20年間で大きく変わっていく。初代のアラスカの核兵器施設、「2」のタンカーと洋上プラントと、初期プラットフォームでは床、天井などのコリジョンに負荷がかかりすぎることから、建物など人工物にしか潜入できなかったが、「3」では計算が非常に難しい自然環境にチャレンジ。「4」に至っては場所を越えて「世界中の“戦場”という環境」に潜入していくことになる。 戦場という環境への潜入が、これまでとどう異なるのか。小島氏は、赤と青というふたつの勢力が戦っているところにスネークが介入する例をあげて、あえて介入せず両勢力が共倒れになったところで潜入、どちらかに加担、あるいは両軍をまとめて相手にし全滅させるといった手段の多様化があげられると説明。すべてが敵ではないが、あえてそうしてもいい。初代~3までとは、入り口の時点で大きく異なるといっていいだろう。 本シリーズの作品的なテーマとして、一番大きなものは「反戦反核」であると小島氏は明言する。戦争をテーマにする以上避けては通れないといい、その下に一貫したサブテーマとして「次の世代に残すもの」があるという。初代の「遺伝子(GENE)」、2作目における「文化的な遺伝子(MEME)」、3作目での「尺度としての時代(SCENE)」、そして4作目では「感情や魂など、残せないもの(SENCE)」と、これまでと180度異なるテーマが掲げられている。
トレーラー上映後、水口氏に「ゲームを飛び越えて、映画の世界などあらゆるところから常にオファーがあると思うんです。ゲームが題材となってハリウッド映画になり、その逆もある。そういうなかで、具体的な話や野望は?」といった質問がなげかけられると、小島氏は「そういうお話をかなりいただくんですけど『METAL GEAR SOLID』というタイトルに関しては、ボクはゲームに最適な話、演出を優先して作っているので、これを映画化するときにボクが監督や脚本を担当することはまったく考えていない。映画は作りたいと思っているけど、作るなら映画というフォーマットに最適なストーリー、世界観といったものにするべき。ボクのなかで『METAL GEAR SOLID』は、やはりゲームでしかないというか。ゲームで表現できることをやっている」と言い切る。
太田氏は、PCに触り始めた頃「Mega Demo」のようなものばかり作っていたという。任天堂入社直後は「なんでわかってくれないんだろう?」と尖っていた時期もあったが、14年くらい経った今では「サラリーマンクリエイターを素直に楽しめている。ボクにとってうれしいことは、芸術的であったり、かつ商業的成功っていうものも含まれている。バランスで悩むことはないですね。商業的に成功すれば、それだけたくさんの人から反応が返ってくる。芸術的なことっていうのは、会社のなかにいるとたしかに行動はしにくいけど、それに対する考え方もだんだん変わってきて、個性的なものを社内で軌道にのせるために『どうやったら人に伝えられるんだろう』という“伝え方”の部分まで含めて創作活動になってきている」とコメント。 辻本氏は「ゲームには発売日がある。タイミングによって、その作品自体がどれくらいの方々に見ていただけるか、触っていただけるか変わってくる可能性がある。もちろん制作には時間がかかるが、まずは両方が満足できるようなやり方を探してみる。それに対して、どれだけ尖ったものを入れていけるか」と答えたが、水口氏の「時間的に厳しいから削ってしまおうか、みたいなことはあったのか?」という問いには、「ん~、さほどない……といっておきます(笑)。だいたい、やりたいことは詰め込んだかなというふうには思っています」という。 小島氏は「ゲームはインタラクティブなんで、人を扱う。ボクはサービス業と呼んでいます。ただ、乗れない車を作って『これは車だ』というのもアートですけど、ボクらの仕事はそうではない。ゲームのなかで見た風景、音、台詞には作家性が出て当然なんで、ある種の文化ということがいえると思います。商業的な成功云々は、やはりプロジェクトは成功して欲しいのと同時に、ひとりでも多くの人に遊んで欲しいというのがあります。やっぱり売れて欲しいというのは常にある。ボクは小説や映画に元気をもらって生きてきた人間なんですけど、自分が一生忘れない大切にしたいものを作って生きたいというのがある。かつてもらってきたものを、ゲームというメディアでもう一回やってみたいと思って作ってきた。商業的には成功して欲しいけど、心のなかでは『スター・ウォーズ』ではなく『ブレードランナー』みたいに、将来死ぬときに『あのゲーム面白かったなぁ、あのゲームに感謝して死ねる』というか。そこまでいけるかはわかりませんけど、一生のなかに残るようなものが作りたい。『スター・ウォーズ』のファンの方がきいたら怒るかもしれませんけど、『ブレードランナー』は公開当時全然ダメだったんで……(笑)」とコメント。 これからのゲーム産業、先頭を走っていくクリエイター陣が10年、20年後をどうリードしていきたいか? というテーマについて太田氏は「基本、ボクは楽観的な人間なんであまり考えたことがなかった。考えてみると、開発環境を含めた技術の進歩によって、プロとアマの差がなくなっていくと思う。ますます競争も激しくなっていくと思うけど、たとえば更地、森、どちらに目立つ家を建てるのも、そうは変わらないんじゃないかって。ただ、自分は組織に属していますので、その強みは活かして。作品単体で終わるのではなく、全体の流れを含めて個人ではできない組織ならではの力を発揮していくこと、サラリーマンクリエイターとして芸術的、商業的成功を同時に視野に入れて。大作は我々のほうが有利だと思うんですけど、コンパクトな作品でも『あぁ、これがプロの作品だ』と思われるようなものを作れたら」という。 辻本氏は「常に新しい驚きを提供していかないとダメっていうのは、もちろんあります。ただ、時代によって驚き、新しいものは変わっている可能性がある。ゲームって、制作を始めたら数カ月で作れるものじゃない。たとえば1~3年になります。3年後に驚いてもらわないといけないものを作る、というか。その時点で新しいものを作らないといけない。常に“今”ではなく、その作品が完成したとき周りも含めて想像しながら制作していく必要はあると思います」とコメント。 小島氏は「21年やってますけど、本当は飽き性なんです。なぜ飽きないかというと、技術、時代とともに前に進めるというのがある。そう考えると、インタラクティブなメディアのゲームっていうのは、センサー、学問とか新しいものを吸収して広がっていくのかなぁと。アートではないと言いました。創造芸術に近い表現になっていくのかなと思います。アナログの時代は、色々な分野、テクノロジが融合しなかったんですけど、デジタルの魔法は水と油がまざったりするので、今後は色々なものが一緒になって、また違うものができてきくるのではないかと展望しています。文化の話では、インターネットでハイブリッドが進んでいくのかもしれませんけど、そんななかでやはり日本、ヨーロッパなど固有の文化を伝えていくのも、やっぱり最終的にはゲームになっていくのかなと。ゲームという媒体が急成長していくなかで、そこで色々な意見や作家性を発表したり、文化を見たりするのもゲームでできればなぁと思います」とコメント。
「文化庁メディア芸術祭」では、既報のとおりさまざまな催しが行なわれている。こうしたシンポジウムなども例年開催されているため、興味がある人はホームページのイベント情報などをこまめにチェックして、ぜひとも会場まで足を運んでいただきたい。
□「文化庁メディア芸術祭」のホームページ (2008年2月12日) [Reported by 豊臣和孝]
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