|
会場:東京大学
■ 「検証版はさんざんな内容だった」。開発現場の模索感が伝わる制作工程を披露
藤重氏は、今年4月にソフトウェア4部の部長に就任したばかりであり、4部での仕事のほとんどは「真・三國無双BB」の開発ディレクションで占められている。それゆえにセッションの内容も「真・三國無双BB」の紹介に多くの時間が割かれた。自己紹介により、藤重氏のキャリアが初めて公開されたが、'93年コーエー入社。R&D部門のサウンド担当プログラマを皮切りに、ゲーム開発部署に移ってからは、「信長の野望」シリーズ、「三國志」シリーズ、「決戦 III」などの開発を担当。「信長の野望 烈風伝」ではリードプログラマを務めている。 「真・三國無双BB」は、2006年5月にテクニカルテスト、同年9月にプレオープン、11月にYahoo! BB限定の正式サービス開始、2007年5月にISP開放という流れになる。正式発表は2004年9月で、発表から正式サービスまでに2年あまりの時間が掛かっている。 「真・三國無双BB」については、今年3月に開催されたAsia Online Game Conference(AOGC)で、当時運営を担当していたELEVEN-UPの栗原哲氏から、内部統計データを使用して従量課金の実態が報告された。今回の藤重氏の講演はいわばそれの続きで、今度は開発側の内部統計データを使用して、「真・三國無双BB」の特異性がレポートされた。 プロジェクトの発端は、コーエーを代表する人気フランチャイズである「真・三國無双」シリーズの「一騎当千の爽快感をオンラインで再現しよう」というセッションタイトル通りのもので、ビジネス的な成功より、技術的チャレンジに重きが置かれ、松原社長が推進する事業ポートフォリオにおける「挑戦」に該当するプロジェクトだ。 「真・三國無双BB」のゲームデザインの方針として、まず「“無双”らしさの追求」という原寸大移植を筆頭に、シリーズの醍醐味である「1人で劣勢をひっくり返せること」、そして「簡単な操作性」の3つを挙げた。藤重氏は中でも「簡単な操作性は重要」とし、「真・三國無双」がユーザーに支持された理由には、10年前の格闘ゲームの操作性が複雑化してユーザーが離れ、その受け皿として同作が機能した背景があるという。 次にゲームの組み立て方について、開発当初は「対戦型」と「協力型」の2つのアプローチがあり、社内では「協力型のほうが作りやすいのではないか」という意見が多かったという。しかし、藤重氏は、「協力の方が作りやすいのはわかっていたが、協力型で開発してしまうと、もう対戦型への対応ができなくなる」として、この意見を一蹴。あえて困難な毎秒60フレームの対戦型のゲームデザインを選択した。 ゲームシステムは、当時としては珍しかったMMO+MOを採用。街をMMO空間として開放し、ビジュアルロビーとして機能させ、バトルの部分を最大4対4のインスタンスエリアとした。ネットワークシステムに関しては、当時提携関係にあったソフトバンクBBから協力を受けて、一緒に全国を対象にレーテンシーのデータを取りながら検証を進めていったという。この結果、サーバーを全国に分散させれば、数フレーム程度の遅延でデータが届くことがわかったという。ただし、ゲームとして成立させるために、遅延は「3フレームまで」と設定。次に実際にゲームになるかどうか、検証版(プロトタイプ)を作って試してみることにしたという。 検証版の基本仕様は、1対1と無数のNPCというミニマムのゲームを作り、通信システムは同期型でサーバークライアント型を採用。アクションゲームで同期型を目指していたのも驚いたが、結果は予想通り、「さんざんな内容だった」という。そこで、サーバークライアント型は、ログ計測とチート防止のために維持しつつ、非同期で改めて作りなおすことに。 その後は、再検証版、プロトタイプと、比較的スムーズに行き、藤重氏によれば「実はいろんな過程があった」ということだが、社内の評価でも上々の結果が得られ、無事テクニカルテストにこぎ着けることに成功したということだ。
同作の場合、それでハッピーエンドではなく、正式サービス開始以降も、従量制の導入、ネットカフェシステムの構築、ISP開放、運営元変更と数々のドラマが待ち受けているが、その辺については、ポストモーテムとするにはまだ生々しすぎるためか、今回は語られなかった。これらについては、来年の講演に期待したい。
■ ユーザーは20代が中心、8割がソロプレイユーザーなど、衝撃の実態が披露
中でも興味深かったのが年齢層のデータだ。藤重氏は、「真・三國無双BB」と「真・三國無双4」、そしてオンラインゲーム白書からオンラインゲーム全体という3つの年齢層をグラフで見せた。このうち、もっとも年齢層が低いのは「真・三國無双4」で、15歳未満の山が一番大きく10代が過半数をしめる。逆に高いのはオンラインゲーム全体であり、30~34歳に大きな山がある。これらに対し、「真・三國無双BB」は両者にひっぱられるようにちょうど中間の20代後半に大きな山ができていた。「信長の野望 Online」や「大航海時代 Online」の年齢層も公開されたが、これらはきっちりオンラインゲーム全体の年齢層にかぶっている。 藤重氏は、このデータについて、「若年層がオンラインゲームをやるのは意外とハードルが高く、10代までは落とし込めなかった」と、ユーザーターゲットを10代に設定していたことを披露。「この辺をどうするかは今後考えていく必要がある」として、今後も「真・三國無双BB」のユーザー層を狙っていく考えを明らかにした。 もうひとつおもしろかったデータが、「真・三國無双BB」の対戦人数分布図。同作は特務(クエスト)等をこなす1人プレイから、最大8人までの対戦に対応している。予測では、ソロ(特務)、4人(2対2の練兵)、8人(4対4の争奪・激突)という3つの山ができるだろうと思われたが、実際には全セッション数の約8割がソロプレイという衝撃の結果が披露された。藤重氏は「無双BBはほとんどソロプレイになっている。以前はもっと寄っていた」と苦笑いしながら実態を報告した。 対戦を前提に設計されたゲームであるにもかかわらず、ソロプレイでしか遊ばれていない。こうした開発側と遊び手側の向き合い方の乖離を是正するために、まずはいまプレイしているユーザーを逃さないように、ソロプレイの満足度を上げる工夫を行ないながら、それと同時に、対戦へ誘導する仕組み作りを行なっているという。最近実装された自勢力内で4対4の戦いを実現する「演習」などはその一環だと言うことだ。 また、全24種類の武器の使用率や、マップの利用率なども公開された。武器については、鉄剣、双剣、直槍といったお馴染みの武器の人気が高く、なだらかな曲線を描いて、燕扇、幻杖、妖杖といったマニアックな武器に集束していっている。藤重氏によれば「こういうカーブを狙っていた」ということで、人気武将が持つ扱いやすい武器は初心者向けに設計し、使用率の低い武器は、エキスパート向けのやりこみ要素として残してあるという。なるほどと思わされるエピソードだ。 マップの利用率についても、平地、堅関、川島、要塞、山道といった主要マップが過半数を占め、それ以外はゆるやかなカーブを描いている。これについて藤重氏は、「せっかく開発費を投じてマップを作っているのだから、利用率は均等になるのがベスト」と、今後要調整の分野であることを報告した。
藤重氏はまとめとしてオンラインゲームはサービスしてからが本番であることを強調。ユーザーから意見を吸収しやすいシステムを整備しつつ、その上で、作品のユニークさ、市場における独自性を維持していくことが重要だとした。「真・三國無双BB」は、まだまだ現在進行形のタイトルだけに、藤重氏の発言にはたぶんに自己反省的な雰囲気も感じられたが、作品の今後の成長に期待したいところだ。
(C) 2007 KOEI Co., Ltd.
□CESAのホームページ (2007年9月28日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|