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会場:南部労政会館
■ 多様化しながら成長を続ける韓国ゲーム市場に異変あり
韓国は、オンラインゲーム大国であると同時に、世界を代表するリアルマネートレード大国としても知られている。韓国においてオンラインゲームとリアルマネートレードは、オンラインゲーム市場全体の成長を支える両輪として機能しており、メーカーも表向き禁止を謳いながら、その実、人気のバロメーターとして黙認状態にある。そうしてつかず離れずの関係を維持しながら今日まで来ている。リアルマネートレードを非とする視点から見れば、韓国オンラインゲーム市場の暗部という見方もできるし、逆に是とすれば、韓国オンラインゲームの強さの源泉という見方もできる。ともあれ、韓国ではオンラインゲームとリアルマネートレードは切っても切り離せない存在なのである。 セミナーの内容は、韓国ゲーム市場の定点観測人のひとりとして、ある程度予想していたつもりだったが、最初から予想を覆すデータが提示されて驚いた。オンラインゲーム単体では前年比20%ほどの成長を見せていたが、ゲーム市場全体では15%も低下していたのだ。 韓国ゲーム産業振興院の資料によれば、2006年の韓国ゲーム市場は、2005年の86,700億ウォン(約1兆400億円)に対して、74,000億ウォン(約8,800億円)と前年比で約15%も低下していた。ここでいう韓国ゲーム市場とは、過半数を占めるオンラインゲームを筆頭に、携帯ゲーム、PCゲーム、コンソールゲーム、ゲームセンターまでを含む、ゲーム産業全体の売り上げを示している。 この数字は、日本のゲーム市場の6,258億円(2006年、エンターブレイン発表)を上回ってしまっているが、日本でいうところのアミューズメント市場やパチンコ/レジャー市場の一部まで含めており、日本にはこれと同じ枠組みでの市場データは存在しないものの、仮に算定するなら数十兆円程度までふくれあがる。 話を戻すと、韓国の2006年のゲーム市場が15%も低下した理由としてムン氏は、2005年に一斉摘発を受けた「成人ゲーム場」の影響を挙げた。この2005年の一斉検挙の余波として、後述する2007年5月に施行されたゲーム産業振興法の発令という形に結びつき、最終的にはRMTの法規制へと繋がっていくことになる。 韓国のオンラインゲーム市場の規模は、1兆9,000億ウォン(約2,375億円)で、RMT市場は1兆億ウォン(約1,250億円)。これに対して日本は、市場規模は約1,015億円(オンラインゲームフォーラム「オンラインゲーム市場統計調査報告書2007」)、RMT市場規模は150億円程度と見られている。いかに韓国で市場規模と比して、RMT市場が大きいかがわかる。 ちなみに、“世界のRMT工場”とされる中国では、ゲーム市場規模が78億元(約1,164億円)に対して、RMT市場は146億元(約2,179億円)と完全に逆転してしまっている。もちろん、この全額が中国で流通しているわけではなく、過半数以上は海外に流れている。最大のお得意先は韓国で、韓国はRMTビジネスに関して、すでに無視できない規模の“貿易赤字”を抱えていることになる。 続いてムン氏は、韓国ではRMTのことを“アイテムゴレ”と呼び、オンラインゲーム市場の急成長の原動力として初期の段階からRMTの存在があったことを報告した。最初はユーザー間の直接取引からスタートしたが、構造的に詐欺行為が避けられないことから、2001年には早くもアイテムやRMTの仲介を行なうRMT取引代行サイトが誕生し、現在も130社あまりがRMTビジネスを行なっているという。 韓国オンラインゲームユーザーを対象にしたユーザーアンケートによれば、2人に1人の割合でRMTの利用経験があり、約7割のユーザーがRMTを「良い」としている。RMTの利用頻度は年に1~2回とそれほど多くはないが、1回の利用金額は約半数が3万ウォン(約3,600円)以上と、“まとめ買い”的な利用法が大半を占めている。このアンケートでは金額の上限が不明確だが、アイテム課金制のMMORPGでひと月に数万円つぎ込むケースが少なくないことを考えると、比較的節度のある利用に留まっていることがわかる。 利用形態の過半数を占めるRMT取引代行業者は、仲介手数料による収益が中心で、最近ではメディアとしての広告料で手数料を取らない例も増えてきているという。利用者は売り手、買い手に加え、株のように相場を見定めて、仮想通貨余りのタイミングで投資し、足りなくなったら市場に流すというファンド的な動きも出てきているという。このあたりはいかにも“RMT先進国”ならではのエピソードである。
■ RMTに絡む犯罪行為を法律で規制。600万ウォン以上の売り上げに対しても課税を開始
一般紙でも報じられた例では、「リネージュ」で22万件にものぼる偽アカウントが不正使用されていた事件や、サーバーハッキングやトロイの木馬系ウィルスによる個人情報の流出、高機能なマクロツールやスピードハック機能、BOTの利用によるゲーム内の経済活動の自動化などが紹介された。 これらは、アカウントを盗んでキャラクタの資産を身ぐるみ剥いで現金化するという個人レベルの単純な犯罪行為に留まらず、いずれも組織的な活動行為が一部表面化したものだ。この部分は若干日本と韓国で仕組みが異なるので一部補足しておくと、韓国では国民ひとりひとりに国民番号が振られており、オンラインゲームの登録には必ず必要になる。韓国人がRMT活動を行なう場合は、複数のアカウントを使い分けることが一般的であるため、自分の国民番号に加えて、親兄弟や友人の番号を使うケースが多いと言うが、いわゆるゴールドファーミングと呼ばれる大規模なRMT活動ではそれではとても間に合わない。こうした大規模なRMT活動は、人件費の安い中国に外注に出すケースが多いが、中国人は当然国民番号は持っていないため、彼らにアカウントを付与するためには大量の国民番号を獲得する必要性がある。ここに個人情報を盗む大きな動機があるわけだ。 韓国政府は、こうしたオンラインゲームにおけるRMT活動が犯罪の温床になっている状況を受けて、2006年、矢継ぎ早に法案を可決し、2007年5月16日より、RMT行為に絡んだ不正行為を法律で規制する手段に出た。この法律は「ゲーム産業振興法」と呼ばれ、前述したように事の発端は「成人ゲーム場」の賭博行為に対する明確な法規制を行なうための法律として策定されたが、RMTの問題が国会でも大きく取り上げられるに及んで、明確に法律で規制する運びとなった。 「ゲーム産業振興法」の大きなポイントは、RMT活動そのものは規制していないところだ。規制しているのは、不正なゲームアカウントやBOT(自動制御プログラム)、海外IP、他人名義のアカウントといったイレギュラーな手段や方法でのRMT活動であり、ゲーム内データを売って現金を得るというRMT行為そのものは、その是非を丸ごと運営側に判断を委ねている。 そればかりか、韓国では7月1日より、RMT活動による売り上げに対する課税がスタートしている。対象となるのは6カ月で600万ウォン(約72万円)以上の売り上げ。600万ウォンから1,200万ウォン(約144万円)までは、RMT取引代行サイトが申告の代行を行ない、1,200万ウォン以上は「個人事業者」扱いとなり、個人事業主として登録後に税金の申告を行なう義務が発生する。RMT取引代行サイトでは、早くも個人事業者の登録を代行するサービスもスタートしているという。RMTそのものの善悪の判定は先送りにして、不法行為に繋がる行動を規制する。こちらもまた韓国ならではの素早い対応といえる。 ムン氏は、韓国政府の最終的な意向としては、やはりRMTを禁止するという流れに動いていくだろうという観測を述べた。しかし、1,250億円ほどの巨大な市場を潰してしまうのは“もったいない”ため、完全に健全な方法がないかどうか水面下で模索を続けている段階だという。 また、最後に、現在150億円ほどと見られる日本のRMT市場については、今後も成長を続け、最終的には韓国と同様に、法で規制される存在になるのではないかという観測が示された。しかし、日本では仮想世界の担い手である運営元が、ゲームメーカーとしてのポリシーからRMTを明確に禁止し、処罰対象にしていることから、韓国と同じ歴史を辿るとは思えないが、今後も「今そこにある危機」として注意と警戒が必要な存在であることは間違いなさそうだ。
なお、今回、韓国オンラインゲーム市場を取り巻く一事象としてRMTを取り上げたが、弊誌のスタンスはRMTは明確に禁止の立場であるということを改めて付記しておきたい。
□アジアITビジネス研究会のホームページ (2007年9月12日) [Reported by 中村聖司]
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